表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/752

第15話 潜入

 馬にしがみつくこと10分ほど。


 幸い、教わった場所はバレていなかったようで、人っ子一人いなかった。

 というのも、城壁から数十メートル離れた林の中だったからだ。


 地下道。

 予想では昔の炭鉱みたいな感じで、整備された道にランタンが多くあって進みやすいものだと思った。


 が、現実は全く違う。

 地面はならされてないし、補強のための木材も思い出したようにあって天井を支えているだけ。

 もちろんランタンなんてないから真っ暗だし、何より小柄なこの体でも腰を低くしないと通れないくらい狭い。


 多分、精度は後回しにして超突貫で作ったのだろう。


 そんなわけで、暗い地下道を、手探りで恐る恐る進んだ先。

 天井に光が漏れている場所にたどり着いた。

 どうやらそこがゴールらしい。


 少し息苦しくなってきたから、かなりホッとした。

 何より真っ暗闇というのは恐ろしく、少しの光でも救いのように思えてしまうのだ。


 頭上にある板戸。それを外せばそこは大使館のはず。


「……んっ」


 押してみるが開かない。

 どうやら鍵でもあるのか。とはいえ鍵なんてないし、薄暗い中でそれを解除してる暇もない。


 だから力任せに押してやると、バキッと音がして、戸が上に持ち上がる。

 それを突き上げると、光が容赦なく降り注ぐ。


 目が慣れるのに数秒。

 見上げる天は、人工的な屋根を映していたのが分かる。

 どうやらどこか室内のようで、潜入に成功したようだ。


 だから考えてもいなかった。


 穴のふちに手をかけて、壁を蹴り上げて這い出した先で――


「ザウスの狗め! チェストぉ!」


 突如の叫びとともに、白銀の剣を切り降ろされるなんて!


「うぉぉ!」


 咄嗟に両手を上に。

 振り下ろされた剣。先ほどのように弾くほどのスペースはない。

 なら!


「う、受け止めた!?」


「真剣、白刃取り。なんてね」


 振り下ろされた剣をがっつりホールド。

 柳生やぎゅうも真っ青なほど、完璧に決まった。


 それよりどういうことだ。

 こんなところに敵がいるなんて。まさかすでに敵に占拠されて――


「ん?」


 敵の一撃を防いだことで室内を見渡す余裕ができた。

 そこは10畳くらいのそこまで広くはない室内。

 そこに30人ほどの男女がびっしりと入り込んでいて、そのどれもが兵士には見えない。

 というのも誰もが平服で、鎧などもなく、何より戦いができるような筋肉隆々のものが皆無だったからだ。


 何より自分に刃を向けてきた相手が、


「あ……ああ! これはイリス“様”!」


 などと驚きの声をあげて、振り下ろした剣を手放すと慌てて3歩後ろに下がってまさかの土下座する始末。


「申し訳ありません! 主家の方に刃を向けるなど、このような状況にあってもあってはならない不始末!」


「えっと、様?」


 とりあえず所在のなくなった剣をその場に置くと、びくっと男の体が震える。


「どうぞ、この命にて、今しがたの罪をお許しください。どうか、一思いに!」


「いやいや、そんなのいいから。えっと、ってことはここの人たちはみんな大使館の?」


「あ、はぁ。我々は大使館の職員ですが……。覚えておられませんか? 昨夜、イリス様に声をかけていただいたのですが」


 壁際にいた初老の男性がおずおずと答えてくれた。


 はい、身に覚えがありません。なぜなら昨夜に何が起こったかなんて、僕は知らないからね。

 なんてことを言ったら、色々と無用の混乱をまねくので曖昧に頷いて濁すことにする。


 それより理解した。

 ここに職員が集まっている、ということは彼らも脱出を図ろうとしたのだろう。


 そこへ脱出路から逆に入って来た間抜けが1人。彼らからすれば、そこから入ってくる味方はいない。

 なら敵。

 だから今、いまだに恐縮している男性は剣を取り、不意打ちを食らわせようとしたのだろう。


「てかいつまで土下座しているのさ。もういいよ。しょうがないことだったんだから」


「し、しかし……」


「しかしもお菓子もないから。いいから皆は脱出して。外に敵はいないからまだ間に合う」


 僕の言葉に、周囲からホッとしたような吐息が漏れる。


「し、しかし。なぜイリス様が? 確か若君らと城外に出ていたのでは?」


 先ほどの初老が問いかけてくる。

 そりゃそうだろう。城外にいた人間がわざわざ包囲されている危地に来るなんて想像もできないはず。


「それより叔父さん……トウヨとカミュの父親はどこに?」


「ご、ご主人様はエントランスで指揮を執っております。まさかイリス様……」


「分かった、ありがとう」


 場所が分かった。

 逃げ道もある。

 ならあとは子供でも分かる論理だ。


「すぐ戻る。だから先に外に出てて」


「し、しかし!」


「いいから!」


 ここで押し問答している時間がもったいない。

 外の状況は分からないのもあり、次の瞬間にここも戦場になる可能性だってある。


「イリス様!」


 だから返事も待たずに人々を押しのけてドアから廊下に出る。


 どっちだ。右か左。


 その時、右の方から破裂音した。


 銃声?


 そんなもの、テレビでしか聞いたことないけど、この状況でクラッカーも紙袋もないだろう。

 その音の方向へ向けて、走り出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ