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第118話 異世界お悩み相談

 話がある。

 相手からそう振ってくれたのは上々だ。


 こちらから話を切り出せば、自然とへりくだる必要性が出てきてしまう。

 それは今回の話では致命的。だからなるだけ対等の立場でそれはしておきたい。


 ……まぁ、そもそもが頼みごとをしに来たのだから、こちらが下手したてに出るのは当然なのだけど。心構えの問題だ。


 とはいえどう切り出したものか。

 太守とインジュインを蹴落としたいから協力してほしい。そう直截的に言えるはずもない。


 なぜならおじさんたちとの関係が不明瞭だからだ。

 兄さんからはそんな話を聞いていないし、おじさんは最大のグーシィン派閥というからそんなことはないと思うが、もしおじさんがインジュインと密接な関係だったらそれだけでゲームオーバーだ。謀反の口実を見つけられて、インジュインに徹底的にやり込められるだろう。

 それを裏切りとは思わない。おじさんは数百人、いや家族を入れれば1千人単位の人生を預かっている人間だ。彼らのために、国のトップ2人に二股外交しても責められるものではない。


 もちろんその証拠はないし、これは最悪の場合で、そこまでとは考えていない。

 それでもこの場ですぐに切り出せない。その理由は、他の人たちだ。


 ここで働く数百人の鉱夫たち。

 彼らの中にインジュインの息がかかった人間がいないとは限らない。いや、間違いなくいるはず。


 なんて言ってもここはグーシィン派の最大勢力。政敵のインジュインがスパイを入れないはずがない。


 だからどのみち率直に切り出すのはNG。

 幸い、今回の事故があったおかげと言ってはなんだけど、向こうはかなり友好的になってくれているから、話しやすいのは確かだから愚痴をついでに、色々探ってみるのもありか。


「それがちょっと……ここでは言いづらくて」


「なぁに! 気にするな。ここにいるのは皆家族だ。遠慮なくドシドシ言ってくれい」


 うん、それが出来たら苦労はしない。この人の政治力はそこまでないだろうな。

 まぁこの状況で劣勢のグーシィン家に肩入れするんだから、それもそうか。


「じゃあ……実は学校のことで悩みがあって」


「学業の悩みかい? うぅむ、自慢じゃないがそこまで学業には自信がなくてだな」


「馬鹿だね、アンタ。そんなことなら家族に言えばいいだろう。それ以外のことさ」


「ああ、なるほど」


 おばさんに言われ納得するゴーンおじさん。


「そうなると……まさか恋愛か!? 確かにこれはカーヒルには言えねぇなぁ」


「うふふ、お父様。話は最後まで聞きなさいな。舌を引っこ抜きますわよ?」


「…………お前、娘がいじめる」


「アンタの教育が良くなかったんじゃない?」


「……うぅ、母さんもいじめる」


 仲いいなぁ。うちの家族みたいだ。


 さて、どう話すか。といってもぼかして言うしかないよな。


「えっと、実は友人関係のことで。こっちは仲良くしたいのに、あっちはどうも距離を取るというか、拒絶されるんですよね」


「うぅむ。そうか。よし、なら最強の仲良くなる方法を教えよう。殴り合え! お互いに拳で語り合うんだ。そうすりゃもう魂の友達よ! 特に河原がベストだな!」


「はいはい、脳みそまで筋肉でできてるアンタにはそれが最強でしょうけど。けどそれはしょうがないんじゃないかい? 人間だれしもすべてを手に入れられるわけじゃない。諦めるのも1つの生き方だよ?」


 なるほど、おばさんの言い方も真理だ。

 けどこれはそういった哲学的な問題じゃない。この国の未来という差し迫った現実的な問題だ。


 カタリアのことを話すか? 政敵の娘と仲良くしたいというのは不自然じゃないのか。いや、それはない。政敵だからこそ仲良くしたいというのは自然な発想。ならここは攻める。


「実はそれはカタリア・インジュイン。インジュイン家の人間でして」


「インジュイン……だとぉ?」


「あ……」


 ゴーンおじさんがすごい形相――口を思い切り引きつらせて、眉をぴくぴく、鼻の穴を大きく広げた状態でその言葉を口にする。

 それをおばさんが驚いた表情で口に手を当て、そして周囲の鉱夫たちは何かを感じ取ったのかそそくさと距離を取る。


 そしてそれは爆発した。


「ええい、何が軍部のインジュインだ! 偉そうに席でふんぞり返っているだけの愚か者が! あいつは昔からそうだ! くどくどと理論ばかりで頭でっかち!」


「昔から……?」


「お父様と、グーシィンの義父様、それとインジュインの御当主様はソフォス学園の同級生で、かつてより仲が悪かったらしいのですよ」


 そっとミリエラさんが教えてくれた。

 なるほど、昔馴染みってことか。世間は狭いなぁ。いや、どちらかというとこのおじさんがあの学校に通っていたっていう方が驚きか。


「まったく、あいつは分かっとらん! こちらからいくら労働環境の改善のために訴えかけたところで少しも耳を貸さん! カーヒルの方から話を遠そうにも、あいつがひっそりと握りつぶしているのは知っている! 安い賃金、危険な環境、休日もほぼなく働きづめ! さらに兵役や労役もあってどうやって暮らせと!? ええい、こうなったらインジュインに対して謀反じゃ! 今すぐ王都に攻め込――ごふっ!」


 バタン、と激しい音を立ててゴーンおじさんが机に突っ伏した。

 いきなり何が、と考えるまでもない。彼の左右には、お酒のビンを逆手にもった彼の妻と娘がいたのだから。


「あらあら、お父様。飲みすぎですわ。ですからそんな思ってもみない戯言たわごとを申すわけですわね?」


「はいはい、バカが1体通るよ。どいたどいた」


 この母娘……怖いよ。

 一歩間違えれば撲殺ものの所業を平然とやってのけ、にこにこ笑いながらその後始末をするとか。


「ごめんなさいね、イリスちゃん。お父様、ちょっと飲みすぎちゃったみたいで」


「は、はいぃ!」


 お願いだからビンを逆手に持ったまま聞かないでくれ。断ったら……と思ってしまう。


 結局、本題のところまで踏み込むことはできなかった。

 だが成果は上々だ。いや、これ以上ないだろう。


 こちらの真意は伏せたままで、おじさんの実情を知ることができたのだから。

 インジュインに対する紛れもない憎悪。すこしあおいでやるだけで、それは真っ赤な反逆の炎になるだろう。

 そしてその炎は、間違いなく作業員たちにも伝播する。


 いては事を仕損じる。

 ここはじっくりと関係を深め、インジュインに対する反逆を育てるのが得策だ。


 それだけでも収穫があった。そう感じられる1日だった。



切野蓮の残り寿命140日。

 ※軍神スキルの発動により、6日のマイナス。

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