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第104話 戦後処理 その1

 結局、トント国との戦いは、国都に被害を及ぼしたものの、イース国の完全勝利に終わった。

 民間人や他国の人間の被害が最小限だったのは、初動対応と兵たちの動き、そして医療関係者たちのたまものと言えよう。


 そんなことで東門の修復を急ぐ中、凱旋祭のクライマックスは大いに盛り上がった。


 これでなんとか他国への面目も立ち、かつ国としての力も見せつけた。

 結果としては、七転八倒したものの、イース国の急成長を各国に見せつけることができたわけで。


 それが西地区のテロから始まる、トント国侵攻の結末だった。


 ――だが、それは他国への喧伝けんでんの1つでしかない。


 一応、表向きには西地区の騒ぎは屋台の小火ぼやによる火災、狼藉者の暴動とされ、即座に軍を出し鎮圧したと公表した。


 その中で、2つの問題点が発生した。


 まず1つ目。

 父さんの負傷は急病として処理されたからいいものの、太守たちを狙った襲撃者については隠し通せるものではなかった。目撃者も多数いたわけだし、他国の陰謀と考える人間は多いだろう。


 ただそれを逆手に取ったのはインジュインだった。


「――というわけで。つまり、俺様ことイグナウス家は代々このイース国を治める太守として――」


 政庁の前。

 襲撃のあった広場は、見渡す限りの群衆に囲まれている。


 その中央に僕はいた。観覧でも主催でもなく――表彰される当事者として。

 群衆の視線を集めるなんて慣れていないから、足はガクガク、歯はガチガチ、目はオドオド、体はブルブル震えるが、僕1人ではないのが救いだった。


 偉そうに訓示を垂れる太守に対するのは4人。

 1人は僕で、あと3人が、


「……ふん」


 得意そうに胸をふんぞり返らせているトルシュ兄さん。


「ったく、グーシィンの者と共に表彰されるなど、恥ずかしい。父上ももう少しそこら辺の配慮を……」


 などとぶつぶつ文句をつぶやいているカタリア。


 そして、


「やれやれ、こうも天光煌てんこうきらめく忌火のごとき天覧の仕儀しぎは望むものではないんだがな」


 中沢琴さんの4人だ。


 僕と兄さんは狼藉者の撃退および太守の命を救ったこと。

 カタリアは火事に対し陣頭指揮を取り、避難民の誘導と人命救助に当たったこと。

 そして琴さんは狼藉者の成敗と、その捕縛。さらに有志を募っての治安維持活動を行ったこと。

 そして最後に僕とカタリアによる敵軍勢の撃退と総大将の捕縛。


 それらを凱旋祭中に起きた事件を、軍人でない少年少女が解決したということで表彰されるのだ。


 正直、こういう場には慣れていない。というか表彰されたことなんて、小学生のころに作文コンクールですらなかったわけだから、まったくなじみがない。

 凱旋祭を平和裏に終わらせるためしょうがないとはいえ、正直言えば茶番劇に等しいこの行事は苦痛でしかなかった。


「えー、ではでは。俺様を守ってくれた天使たちに栄誉を授けよう!」


 長々とどうでもいい、自分の血統と有能さを自画自賛しまくったうえで、そんな自分を助け、国を救ったと大仰に持ち上げたうえで謝意を示す太守の言葉が終わり、ようやくメインの授与式に移った。


「カタリア・インジュイン、トルシュ・グーシィン、イリス・グーシィンの3名には俺様をかたどったイグナウス家の家紋入り勲章を授与する!」


 うわーいらねー。とは言わない。顔にも……多分、出してない。

 お金に困ったら質屋にでも入れるかと思っただけだ。


 ただ、次の1件だけは嬉しいことだった。


「コト・ナカザワには、改めてイース国の直臣となることを許し、国都の治安維持部隊『シンチョー組』の設立を認め、その部隊長に任命するものである! 感謝するがいいぞ!」


 そう、琴さんはイース国に召し抱えられる身分となって、この国の治安維持に当たるということになった。

 それは異国の者にも実績次第で表彰されることを表に示すというお題目はありながらも、何よりそれなりに友好関係を築いたと思った友人が表彰されるのが嬉しかった。


 長い式典からようやく解放されると、僕は琴さんに近づくと謝意を示した。


「おめでとう、琴さん。そしてありがとう。受け入れてくれて」


 受け入れて、というのはもちろんイース国に来てくれることだ。

 琴さんは今はサーカスの一員。それをイース国に、ということなのだから、要は引き抜きをしたということ。


 引き抜き。

 社会においても、ゲームにおいてもやる方はホクホクだが、やられた方はたまったものじゃない。

 せっかく仕事を覚えてようやくって時に、別の会社に行きますさようなら、なんて殺意が湧いても仕方ないだろう。

 本人にとっては確かなキャリアアップなのだろうけど、残された者にとっては辛いことだ。


「なに、ボクにしかできないことなら、それもまた運命さだめ。さあかすの皆には申し訳ないが、これもまた前世より定められた魂のカルマということで受け入れるさ」


「えっと……そう、なの?」


「それに鬱屈うっくつとの逢瀬おうせにいささか閉口へいこうしていたようだ。こないだの大立ち回りをして思ったよ。やはりボクは誰かを叩きのめしている方が性に合う」


 それはまた物騒な。

 まぁサーカスじゃあそれは叶わないだろうし。


 とにかくまた1人、歴史上の偉人が仲間に入ったのは頼もしい。

 ……関羽、張良、蘭陵王、小松姫と比べると層が薄い気もするけど。いや! そんなことは言わない、思ってもいない! 皆素晴らしい! くやしくなんかないし。


 そういえば小太郎、どうしてるかな。

 出発してそろそろ2週間が経つ。無事でいるだろうか。


 そんなことを思いつつ、もう1つの問題。

 それが、新たな敵の出現を予感させるものだった。

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