第10話 切野蓮の理由
女の子が好きだ。
そりゃそうだ。僕は男で、一般的には女性を好きになるのが普通なのだから。
好き、という漢字は“女の子”と書くことから、女の子が好きなのはもう仕方のないことで、好きなのが女の子というのも仕方のないこと。
だからこそ、この世には僕の求める女の子がいるはずだと信じているし、その相手も僕を求める女の子で、趣味とか考えとか、要は相性がもう抜群で、きっと二度と離れられないそんな人がいると。
それはもう使いまわされた風に言えば、運命で、宿命で、天命なのだ。
そんな人を僕は『黄金の彼女』と名付けた。
世界のどこかに、自分とガチっとハマる完璧な女性。それはもう、きっと黄金色のオーラをまとっていて、一目でその人が『黄金の彼女』だと分かるような、そんな人がいるはず。
何を言っているか分からないけど、正直、僕もよく分かっていない。
それでもこの世の中にはいるはず。
そう思って、けどそんな人は現れず、もうそんなこともどうでもいいと諦めた。
そんな風にしていたら――死んでいた。
死んで、そして訳の分からない悪魔に脅されて、異世界転生させられそうになって、そこで見つけた。
一目惚れだった。
年齢は10代半ば。身長は150センチくらいで肩にかからないくらいの金色の髪が美しい。
少しダボついたブラウスに、下はショートパンツとショートブーツ。間に挟まる二―ソックスによる絶対領域が美しい。
とはいえ身長と胸部周りを比べれば、スタイル抜群とまではいかないだろう。
それでも、その顔に――何よりも瞳に、惹かれた。惹かれてしまった。
最初は襲われて怯えていた気弱な少女のそれにすぎなかった。
だが、何より自分を揺り動かしたのは、その後に見えた決意を秘めた瞳。
彼女は恐怖を乗り越え、一歩前に踏み出し、ただわずかな怯えを残しながらも鎧の集団を見据える彼女の瞳が。
怯えを悟られないようキュッと強く結んだ唇に、白く青ざめながらも興奮で少し赤みを帯びた頬が。
とても美しかったのだ。
こんな気持ち、初めてだった。
そりゃ人生30年。
生きていればいいなと思う女性がいたり、夢中になりそうな人がいたりもした。
けど、そのたびに僕とは合わなかった。
共に過ごす、そのことができなかった。
理由はいろいろあると思うけど、他人づきあいなんて一瞬の気の迷いで、結局は時間の無駄だと思ってしまったから。
だからこの出会いは理外の一事。
そして、彼女こそがと思う。
僕の探す『黄金の彼女』。きっとそうだ。髪の毛が金というだけじゃない。一目見たときから、もう、神々しいほどのオーラを、後光を背負っていた。そう見えた。
正直、自分の年齢の半分くらいの相手に懸想を抱くとは何事かと思う。
ロリコンなんてありえないと思ってたけど、もうそんな年代に入ってきている。
けど、理屈じゃない。
この思いは、この衝動は、理屈や計算では計りしえないもの。
だから動かずにはいられない。
彼女に危機が迫っているのを黙って見れいられない。
だけど遅かった。
彼女は斬られた。
斬られてなお、美しかった。
鮮血の女神は、大地に伏してなお、その神々しさと気高き横顔は何物にも汚されない。
うん、何言ってるんだ僕はって感じだ。
ただ、自分に死体愛好の趣味があるなんて思ってしまったから錯乱したのだろう。
いや、まだだ。
首を斬り飛ばされたわけでも、脳天から真っ二つに唐竹割りされたわけでも、心臓を貫かれたわけでもない。
即死でなければ、まだ間に合う。
駆けつけて敵を薙ぎ払い、医者に見せればまだ間に合う。はず。
だからおちょけるグリムを突き動かし(気になる子がいた発言はちょっと動揺した)、そして僕は飛び込む。
すべては彼女、『黄金の彼女』のために――――




