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第008話 燃え上がるお嬢

「まさか、午前中の試験が中止となるなんて、思っても居ませんでしたわ」


 ため息交じりに言うと、ミシルパは上品に一口大にカットされているサンドウィッチを口へと運んだ。


「申し訳なかったのです。シャポーの魔法で皆さんの魔力を枯渇させてしまったせいなのです」


「シャポーさんが謝る必要は無いんですの。行使する術式の内容を聞いていた監督官が、シャポーさんの実力を軽く見ていたせいですわよ。監督官は会場に居る全員に指示すべきでしてよ。それさえあれば、体内魔力を保護することぐらい可能でしたのに」


「ぱぁ!」


 眉を八の字に曲げて謝罪するシャポーに、ミシルパは顎先をつんと上げて答える。ミシルパが監督官を非難すると、共感を示すようにほのかが声を上げた。


 三人が居るのは、前日にシャポーが見つけていた中庭の木陰だ。


 敷物を通して伝わる芝の柔らかさによって、シャポー達は快適な昼食時間を過ごせている。


 清々しいまでの青空は、試験の真っただ中でさえなければ、絶好のピクニック日和であったことだろう。


「それにしてもシャポーさん、珍しい魔法を試験本番に選択されたのですわね。残留魔力を吸収する魔法陣を、瞬時に展開する術式ですの?実技試験なのでもっと実力を測りやすい、炎や風などといった自然現象を発現させる術式で良かったのではと思いましてよ」


 ミシルパは人差し指を顎に当て首を捻る。


「高温の魔法を使おうと思っていたのです。魔力吸収の術式は準備………じゅん、び」


 口を滑らせそうになって、はっとした表情を浮かべたシャポーは、ミシルパから視線を泳がせた。


 思い出したのはダイヘンツとの約束だ。


 彼は言った、防護魔法陣の脆弱性を世に広めてしまうことに繋がるので、中央王都含む諸国の防護や防衛術式をアップデートするまで秘密にしてほしいと。


 彼は続けた、試験の混乱を避けるため、シャポーが試験用に使ったのが『魔力吸収に関する術式』だったことにしてほしいと。


 彼は頭を下げた、魔法陣に干渉したプロセスを、是非教えて頂きたいと。


「準備?」


 更に首を捻るミシルパに顔を覗きこまれ、シャポーは回想から現実へと引き戻された。


「じゅうんびいぃ、するのを忘れていた極高温の術式の代わりにですね、準備できていた魔力吸収の法陣を使う方がですね、珍しさも相まって監督官の目に留まるかなと思ったのです。そうなのですよ」


 シャポーは、必死に脳から絞り出した説明をする。


 何せ、ダイヘンツがシャポーを脅すかのごとく『クレタス全土の防衛政策にも関係してくる内容なので、くれぐれも秘密厳守でおねがいします』と釘を刺しもしたのだから。


「確かに、印象としては抜群でしてよ。シャポーさんてば、可愛らしい見た目に反して、策略家でもいらっしゃいますのね」


 ミシルパは、くすりと笑って返す。


「そうでもないのです」


 苦笑いで誤魔化しつつ、シャポーは新しくできたばかりの友人に嘘をつくこととなり、ちくりと胸が痛んでしまった。


(お友達を騙すというのは心苦しいものなのです。クレタスの防衛術式が更新されましたら、ミシルパさんに本当のことを言って謝らなければならないのですよ。ごめんなさいなのです)


 とは思いつつも、ダイヘンツとの約束を破らずに済んだことに、シャポーは安堵してもいるのだった。


「印象に残そうとしなくとも、シャポーさんの魔法の実力は本物ですの。効果を受けたわたくしが言うのだから、間違いありませんわ」


「はう。ミシルパさんにも魔力枯渇を起こさせてしまって、申し訳なかったのですよ」


 笑顔で言ってくるミシルパに、シャポーは頭を下げる。


「不意を突かれた。とは言え、対処できなかった私が悪いのですわ」


「そう言ってもらえて、ありがたいのです」


 ほっと息を吐くシャポーの横で、ミシルパは変わらぬ笑顔をたたえていた。


「さてさて、午後から試験が再開されるのですから、私は気を引き締め直さなければいけませんわね」


 両手で握り拳を作り、ミシルパは貴族のお嬢様らしからぬ素振りで、午後に向けての気合を入れた。


「体内魔力の方は大丈夫なのですか」


 そういえばと気になり、シャポーがミシルパに問う。


「ええ、午前中の残り時間、魔法省の職員の方から魔力回復の施術を受けましたし、お昼御飯も気持ちのいい場所でとれましたから」


「良かったのです」


 ミシルパの答えを聞き、シャポーは我が事にように安心した。


「まあ、シャポーさん『だけ』ではありますけれど、試験を終えていらっしゃるのですから『わたくし』の魔法を存分に見学して頂ければと思いましてよ。ね?」


「は、はいです。見せてもらうのです」


 所々の語気を強めて、謎の圧をかけて来るミシルパに、シャポーは気圧されつつ返事をする。


「ええ、ええ。是非とも私の実力も知っていただきたいですの」


 ミシルパはにこにこの笑顔をシャポーにぐいっと近付けた。


(えっと、先程からミシルパさんの顔が、固まった笑顔のままな気がするのです。これは『本心を隠す笑顔』ってやつなのではないでしょうか?シャポーが嘘をついたのに気付いて、怒ってしまったのかもしれません。でも問い詰めてこないのは、政治的ななんやかんやがあって、貴族のミシルパさんとしては、言及するのを我慢してるのかもしれないのですよ。政治って、怖いのです)


 深読みしてみたシャポーだが、結局のところ、ミシルパの高いプライドの問題であった。


 気絶させられてしまった不名誉を返上するため、ミシルパはシャポーに「凄い魔法」を見せつけようと燃え上がっているだけだった。

次回投稿は11月12日(日曜日)の夜に予定しています。

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