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第065話 優秀な仲間達

 精霊は、自分の世界で目を覚ました。


 数多の光が干渉し合い、満ちるエネルギーが輝きを放つ、心穏やかなる空間だ。


 先ほど見せられた悪夢を思い出し、精霊は体を小さくして震える。


 魔法と呼ばれるもので作られた壁に、意識とは関係なく己の体をぶつけた夢だった。


 人々の頭上を飛び越え、ただひたすらに前進する。出来ることはただ一つ、恐怖と拒絶を叫ぶ事だけ。


 漆黒の外套に身を包んだ男の、驚きのあまり目を見開いていた表情が、精霊の頭の奥にちらりと浮かぶ。


 あれは何だったのだろう、と精霊は首を傾げた。


 その答えは、すぐに解った。


 首に巻きつく禍々しい靄が、どこか別の次元に、精霊を連れ出そうとしているからだ。


 精霊は、引き寄せられる力に抗い、透明の手足を必死に振り回した。


 だが、そこにさえも靄はまとわりつき、あちら側へ連れ出そうとしている。


 ――自分をからめ取っているのは呪詛だ――


 精霊は直感的に気付いていた。


 精霊魔法を封じるため、森の魔女が編み出した呪術。それに類似する何かであると感じたのだ。


 他の精霊達が、引き留めてくれようと手を伸ばす。


 だが、呪詛による強引な力は、精霊を人族の住まう世界へと引きずり出した。


 精霊は、あまりの息苦しさに叫び声を発する。


 自由をこよなく愛する風の精霊が、見えない枷に縛られているのだ。更に、周囲を好まぬ魔力によって作り出された建造物に囲まれてもいるのだから。


 人族の争いの音は、風に乗って響き渡っている。


 精霊を呼び出した兵士が命令を下す。


 攻撃魔法が飛び交い、防御の魔法が行く手を遮る敵陣へ、ただただ進んで行けという命令を。


 精霊は思い出した。


 砕け散っては、呼び戻され続けていることを。


 意思など関係なく、精霊は前進する。敵の魔法を壊すため、敵の防御を崩すため。


 精霊は、助けを求めるかのように、悲鳴を上げる事しか出ないのだった。


***


「東門のカルバリ軍は、首都内部に後退しつつ、戦線の立て直しを図っているようだな。魔導師団は、どう動いているんだろうか」


 ウォーペアッザは、ゲージを操作しつつ、落ち着かぬ様子で言った。


 シャポー研究室には、いつもの顔ぶれであるミシルパやピョライン、それにムプイムが集まっていた。


「ダイヘンツ卿は、魔導師団を三部隊に分けて、戦線を押し広げようとするロボリ軍を牽制してますわね。魔法の効果が落とされてしまっている現状、進軍をどれだけ抑えられるか、わかりませんの」


 ミシルパも、ゲージを見ながら答えた。


 彼らは、シャポーの所に集まり、戦いの動向について話をしていたのだ。


 貴族であるミシルパには、より詳細な情報が入ってくるため、シャポー達は戦況を正確に把握することが出来ていた。


「しかししかし、精霊を突っ込ませてくるんだねぇ。戦争での精霊魔法ってそんな感じなんだっけ?」


「ぱぱぱぁ!」


 ピョラインが疑問を口にすると、ほのかが首を大きく横に振って否定した。


 書物から学んでいた知識を思い出し、ピョラインは「だよねぇ」と返す。


「精霊魔法、魔導師の魔法と、そんな変わらない。違いは、精霊の助力で、事象を発生させてる。単なる突撃は、おかしい」


「ぱぁ!」


 ムプイムの説明に、ほのかは首を大きく縦に振って肯定の意を示した。


「ですですね。そんな精霊魔法は、見たことが無いのですよ。悲鳴を上げる精霊さんなんて、聞いたこともないのです。精霊さんは、親しい友達として協力してくれる存在だって聞いているのですよ。とっても酷い扱いをされていると思うのです」


 シャポーは両拳を振って主張する。


 頭の上にいるほのかも、同じ動きで鼻息を荒くして「ぱぁ!ぱぁ!」と騒ぐのだった。


 精霊自らの意志で、自爆じみた行為を攻撃の手段として選ぶことはある。だが、それであっても風の刃などの事象を身に纏い、効果的に敵へぶつける為であって、己の存在を散らすだけの突撃とは全く異なるのだ。


「カルバリが後手に回らされているのは、その攻撃のせいでもあるらしい」


 ゲージを睨みつけていたいウォーペアッザが、大きなため息をついた。


「こちらの攻撃が、普通の威力で届くぞって敵に思わせるだけでも、違うんだろうけどねぇ」


 窓辺のソファーで肘をつき、ピョラインがぽつりと呟く。


「それくらいでしたらですね、皆さんできるのですけれど」


 シャポーが不思議そうな顔で返事をすると、全員の視線が集まった。


「練習していた精霊文字を組み込んだ術式による魔法は、精霊力の支配域を通常威力のまま通過できるのですよ。仲間が、広域の精霊魔法を使った場合を、想定している術式なのです。またですね、魔法を行使する際、建物の中にいることでですね、術式の構築を精霊力に邪魔される事なくできると思うのです。精霊さんは、建築魔法で作られた建物が苦手ですので、広域精霊魔法の影響を少なくできると考えられるのです」


 顎先に人差し指を当て、シャポーは天井に視線を向けながら思いついたことを解説した。ほのかも「ぱぁぁ」と仕草を真似て見せる。


 一瞬の沈黙が流れた後、シャポーとほのか以外の全員が、一斉に動き出して研究室の中が慌ただしくなった。


「魔導師団に援軍として合流するのも可能か?後退と、こちらの移動が重なりそうな場所を選定する」


 ウォーペアッザが、研究用の大きなゲージを丸机の上に置き、カルバリ首都の地図を表示させる。


 そして、戦略的要所として陣が設置されている場所に、手早く印をつけて行く。


「ゼーブ家の共闘権限で可能ですわね。わたくしは、ダイヘンツさんに建屋内から攻撃を試みるよう伝えますの!軍への連絡もしますわ」


 ミシルパは、連絡の文章を素早く作成し、各所宛に送信する。


「でしたら、でしたら。戦力としては、ミシルパちゃんとウォーさんに、北側へ合流をしてもらいましょうか。私とムプイムちゃんで、南ですかねぇ。シャポーちゃんとほのかちゃんには、魔導研究院に向かって来ている人達を、牽制してもらったら良いと思いますよ」


 ウォーペアッザの用意した地図を覗きこみつつ、ピョラインが、軍の状況を鑑みて戦力の配分を考えた。


「お腹空くと、戦えない。お菓子、食べておく」


 ムプイムは、置いてあった菓子を皆に手渡す。


 シャポーが「どもども」と受け取り、びっくりした顔のまま頬張る目の前で、優秀な仲間がカルバリの危機を救おうと動き始めたのであった。

次回投稿は12月22日(日曜日)の夜に予定しています。

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