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第063話 凄いんだか、凄くないんだか

 カルバリ首都の東門が攻撃を受けたのは、シャポー達が魔装臼砲の運用方法について説明を聞いてから、たった二日後のことであった。


 その日、夜闇に乗じて、ロボリの軍が首都の近くにまで迫って来ていた。


 数日前より、カルバリ政府はロボリ軍の動向を掴むため、民間人を避難させて空となった首都近郊の宿場町に兵を配置している。兵士らには、決死の壁となってロボリ軍の行軍速度を落とす役目も言い渡されていた。


 仮に、ロボリの軍勢が兵士らの駐留している町を迂回しようものならば、その側面や背後を脅かす存在にもなるはずであった。


 だが、警戒の網にかかることなく、ロボリの軍はカルバリ首都に攻撃を仕掛けてきたのだ。


 カルバリの首都をぐるりと囲む長大な壁や門には、魔導術式による防衛機構が採用されている。技研国の名に恥じぬ通り、クレタス諸国でも最新の設備が使われているのである。


 簡単に手を出すことは叶わぬだろうと思われていたカルバリの防衛機構は、敵の接近だけではなく、門への先制攻撃をも許してしまったのであった。


「状況は、どうなっている」


 東門の防衛を任されている指揮官は、部屋に駆け込んで来た兵士に対し声を荒げる。


 彼らが居るのは、東門の防衛機能を統括する指令室であり、部屋に設置されている大小さまざまなゲージを何人もの士官が操作していた。


「魔装臼砲の水平射角内部に入り込まれており、現在は中短距離の防衛術式により応戦中。ただ……」


 防衛戦を直接目にしてきた兵士は、報告に詰まり苦い表情を浮かべる。


「ただ、何だ!?」


 指揮官が強い口調で促す。


「攻撃魔法の魔力減衰が著しく、ロボリ軍に効果的な損害を与えられておりません」


「なっ!?」


 兵士の言葉を聞き、指揮官は驚愕のあまり開いた口がふさがらなくなった。


「防衛の術式は、正常に作動中です。エネルギールートも問題ありません」


 ゲージを操作していた士官の女性が、振り向いて報告した。彼女の表情にも困惑の色が浮かんでいる。


「外的要因によるものか。阻害魔法の類かもしれん。魔導師団に伝え、状況の確認を」


 さすが指揮官といったところか、気持ちを早々に切りかえて指示を飛ばす。その矢先、各部隊との通信を担当している士官が声を上げる。


「魔導師団から連絡が入りました。精霊力によるフィールドが形成されている模様。攻撃魔法が相互干渉により拡散されているとのことです。空間魔法を試みているとのことですが、効果はでていないようです」


 士官が素早く読み上げると、指揮官は腕を組んで唸る。


 指令室が重苦しい空気になると同時に、強い衝撃と轟音が部屋全体を襲った。


「東門の修復機能が最大値にまで跳ね上がりました!防御能力低下」


 修復に関係する術式が作動しているということは、攻城兵器に匹敵する攻撃が直撃したのを意味していた。


「観測兵より連絡。目視できるほど具現化した精霊が、門に突撃しているとのこと。ひ、悲鳴のような、叫びを上げながら、衝突し……次々と、砕け散っている、ようです」


 読み上げている士官が言葉を濁してしまう程、観測兵からの報告は異様な内容であった。


 指令室に居る誰もが、背筋にぞわりとするものを感じる中、一段と激しさを増した衝撃が、部屋全体を揺らすのだった。


 その轟音は、カルバリの市街地を飛び越え、研究室にいるシャポーの所まで鳴り響いていた。


「ななな、何度も、ものすごい音が、遠くのほうから響いてくるのです」


 魔導研究院の入っているサーペン塔には、防音の施工がされている。にもかかわらず、大気全体を震わせるかの衝突音は、部屋の中にまで入り込んできていた。


 窓辺で外を見ながら、シャポーは胸の所で手を組んで、おろおろとした声で言う。頭の上のほのかも、同じポーズで「ぱぁぁ」と眉を八の字に曲げていた。


「東門で、戦闘が起きているな。この音は、大きな精霊が、門を打ち破ろうとして突っ込んできているらしい」


 丸テーブルでゲージを操作しながら、ウォーペアッザはシャポーに伝えた。


 彼が見ているのは、軍が情報を共有するために使用している場所だ。首都内での戦闘時に、研究院の魔導師も協力することになっているため、ウォーペアッザにも閲覧の許可が下りているのだった。


「ミシルパさんは、ロボリの人達が来ちゃうまで、まだ日にちが有ると言っていたのですけれど」


「隠匿の精霊魔法かなにかで、首都まで接近していたんだろうな。開戦前だって、ロボリ側と繋がっている谷に、軍を潜伏させていたんだろうって話だし、軍隊レベルで姿隠しの魔法が得意なのかもしれないな」


 シャポーの言葉に、ウォーペアッザは他に新たな情報は無いかと調べつつ返した。


「確かに、精霊魔法の腕が確かならありえるのです。中央王都奪還の際に、エルート族の皆さんは一個の軍勢を巧妙に隠して見せたのですよ。でもでも、放射されるエネルギーを観測することで、精霊魔法で作り出された映像と、自然の映像との距離差を求められますので、看破する方法は無くは無いのです。隠す対象の厚みがある分だけ、観測による誤差は生じてしまいますので」


「ん?んんん?」


 情報量の多さに、ウォーペアッザは表情を硬くしてシャポーに向き直る。


「シャポーは、隠匿の精霊魔法を見破れる、ってことか?」


 少しだけ頭の中を整理する間を置いてから、ウォーペアッザは疑問を投げかけた。


「熟練したエルート族の魔法でしたらですね、成功率は六割程度に落ちてしまうと思われるのですが、可能ではあるのです」


 シャポーは、相変わらず窓に顔をべたりとくっつけて、町のあちらこちらを眺めている。


 ウォーペアッザは「ふーん、そうか」と何気ない返事をしつつ(これは、簡単に出来ないやつだな)と理解するのだった。


 そして、しばらくシャポーの様子を観察してから、ウォーペアッザは聞いた。


「んで、シャポーは、さっきから窓に貼り付いて何を頑張ってるんだ?」


「ここは高い場所ですので、戦いの様子が少しでもわかるのかなと思いまして。でも、遠いせいか、全く見えないのですよ」


「ぱぁぱぁぁ」


 ウォーペアッザの質問に、シャポーとほのかは顔面を窓にぐりぐりと押し付けながら答えた。


「この研究室の窓からじゃ、東門は見えないぞ。方角が違うから」


「はぇ?そう言われると、確かに、そうなのでした。てへへ」


「ぱぁ?ぱぺぺ」


 ウォーペアッザに指摘されると、シャポーとほのかは照れ笑いを浮かべて、窓からようやっとはがれる。


(凄いんだか、凄くないんだか。時々心配になるんだが)


 助手の青年は、代表研究員のちょっと間の抜けたところに、ため息をついてしまうのだった。

次回投稿は12月8日(日曜日)の夜に予定しています。

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