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第056話 行動が暗示するもの

前回、最後のウォーペアッザの台詞において、彼の感情が読み取りずらい文章となっていましたので、台詞を修正をいたしました。

「おんやまぁ~。もう練習はじめているんだねぇ」


 実技検証室に姿を現せたピョラインが、部屋の中央で魔法を試しているウォーペアッザを見て、感心するような声を上げた。


 一緒に来たムプイムは、シャポーの隣に腰を下ろすと「凄い量」と資料の山を眺めて呟く。


「午後から検証室が空いていたからさ、仮組していた術式の確認をしていたんだ」


 ウォーペアッザは、ピョラインとムプイムが来たので、魔法を中断して大机の方へと戻ることにした。


「最近は、どの研究室も資材不足で、研究が滞っちゃって、実際に術式を試すところまで行けていないみたいだもんねぇ」


 ピョラインは、手に持っていた荷物の中身を、大机の空きスペースに広げる。差し入れの、ちょっとしたお菓子と飲み物だ。


「疲れた脳には、甘いお菓子ってねぇ」と、ピョラインは一つ摘まんで自分の口に放り込む。


 ウォーペアッザも「助かる」と手を伸ばした。


 挨拶を交わしていたシャポーとムプイムも、菓子を口へと運んでもぐもぐしている。


「私の研究室は、シャポーちゃんの所が研究材料を融通してくれたおかげで、研究を停止せずに済んで大助かりだったけれどね。感謝感謝だよ~」


 普段から細い目を更に細め、ピョラインは嬉しそうに礼を伝えた。


「ウチも、助かった」


 ムプイムも手を上げて頭を下げた。


「感謝すべき相手はミシルパだな。東の君主制国家との貿易が、停止しそうだから研究に必要な資材を確保しておけって、早い段階で助言してくれたからな」


 ウォーペアッザの言葉に、シャポーも「れすれす」とお菓子を頬張ったまま頷いた。


 そして、口の中の物をごくりと飲み込んだシャポーは、首を伸ばして部屋の入り口の方へと視線を向ける。


「ミシルパさんは、今日も忙しいのですかね?」


 シャポーの声には、少しばかりの寂しさが含まれていた。


「商業王国ドートに任せきりにするのをやめて、カルバリも東国との外交窓口を作っているみたいだからねぇ。ゼーブ家ともなれば、その中心となる為政者に含まれちゃうのだろうし」


 ピョラインもちらりと入り口を見て、シャポーに答えるのだった。


「廊下で、たまたま会って、少し喋った。顔も声も、疲れてた。ご飯の時間、短いらしい」


 感情の起伏に乏しいムプイムですら、心配しているのがわかる声色だ。


「責任感が強すぎて、全て抱え込むところが有りそうだからな。研究室は休むとか、商会業務を身内か部下に一任するだとか、やってないんだろうな」


 ため息交じりにウォーペアッザが言うと、残る三人も「だろうね」と言わんばかりに大きく息をはく。


「ゲージで連絡はしてるのですけれど、思考空間への魔力保存や、精霊文字の勉強などなども、きちんとやってるって言っていたのですよ。寝る時間が取れているのか、心配になるのです」


 シャポーが付け加えると、ピョラインは「真面目すぎだねぇ」と苦笑いを浮かべるのだった。


「ったく、頑張りすぎないように言わないとダメだな」


 呆れ声を漏らしつつ、ウォーペアッザは椅子から立ち上がる。日課となりつつある、魔法の訓練を開始するためだ。


「うんうん、本当にだよ。今度、息抜きしなさいって意味も込めて夕飯に誘わないとねぇ」


 ピョラインも、ウォーペアッザの後に続いて実技検証室の真ん中へと歩き出す。


「また会えたら、全部抱えるなって、言おう。そうしよう」


 ムプイムは握り拳をつくって決意表明をすると、ゲージ片手に皆から離れた部屋の奥に移動した。


 残されたシャポーは、棒状の菓子を口にくわえると、仮説集の続きに目を落とす。


 この場の誰もが、語らずとも理解していた。


 ミシルパのような為政者が、日を追うごとに慌ただしくなっているのは、争いの火種が大きくなりつつあるのを暗に示しているのだ。

次回投稿は10月20日(日曜日)の夜に予定しています。

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