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第049話 言うならば『魔導馬鹿』

 グリアリス家の当主夫妻は、なかなか子供を授かれずにいた。


 中位の貴族に位置する家柄もあり、跡取りの問題は、グリアリス一門にとって大きな問題だ。子が出来ぬと聞きつけた縁者から、ちくりちくりと小言を言われることも多くなる。


 近しい親類の中には、グリアリス家の家名を我が物にと、算段を始めている者すら出ているとの噂まで流れる始末であった。


 事を憂えたグリアリス当主夫妻は、身寄りのない子供を養子として迎え入れる決断をする。


 その時、当主夫妻と養子縁組を結んだ子が、三歳になろうかというウォーペアッザだった。


 養子となる手続きが済んでからも、親類縁者からは反対の声が上がっていた。血の繋がりの無い者が、貴族の家の家長になることを看過できないのが理由である。


 だが、グリアリス当主夫妻は『未来ある子供の為に縁を結んだのだ』と、一族からの反発を跳ねのけた。


 当時のウォーペアッザは、優しく人格者でもある義理の両親に恩返しせねばと、幼いながらも心に誓うのであった。


 しかし、程なくしてグリアリス当主夫人が、子を授かることとなる。


 ウォーペアッザが四歳になろうかと言う時、弟ができることになったのだ。


 実の子が生まれても、ウォーペアッザの両親は、彼を長男としてきちんと育ててくれた。家督を継ぐのも、当然長男であるウォーペアッザだと考えているかのようであったという。


「弟も、養子と知ったうえで、兄である俺がグリアリス家を継ぐものだと思っているらしくてな。んで、正統な後継者がグリアリス当主になるべきと考えた俺が、魔導師として家を出たってわけさ。親類縁者も黙らせることができるしな」


 ウォーペアッザは、やれやれと言った風で首を横に振った。


「法の観点から言えば、ウォーが当主となっても、何ら文句を言われる筋合いはありませんけれどね」


「貴族社会に身を置く奴らが、笑顔で『はい、そうですね』って受け入れはしないだろうけどな。無駄に、親族関係から足を引っ張られても困る」


 ミシルパの言葉に、ウォーペアッザが半笑いで答える。ミシルパも「ですわね」と同じように首を横に振った。


 二人とも若い身ながら、貴族社会の暗い部分を見知っているのだろう。互いに、諦めたような表情をして肩をすくめあうのだった。


「政治的な、貴族的な『闇』が垣間見えているのです」


「ぱわわ~」


 シャポーが、未知なる世界を知った気分になって瞳を輝かせていると、やっと起き出してきたほのかが、シャポーの頭の上によじ登って眠たげな声を上げた。


「まぁ、情報を聴きに行ったら、両親と弟から『戻る気になったか』なんて言われたし。性格が良すぎて、中位貴族として心配にはなるんだがな」


 ふっと頬を緩めてウォーペアッザは言う。


 見せた事のない表情であったため、ミシルパとシャポーは(あら珍し)と顔を見合わせた。


 そんな、ゆるりとしかけた部屋の空気に、別の女性の声が割って入って来た。


「ウォー君の妙な負けず嫌いは、両親への恩返しの気持ちの表れ、と見ましたねぇ」


「でも、最近は、ちょっと穏やか」


 含み笑いも聞こえてきそうなピョラインとムプイムの声だった。


「お前ら、いつから聞いて……」


 ウォーペアッザの呻きに、二人は「生い立ちは全部」と答えた。


「幼少期に感じたという『恩義』ですわね。だから、検定試験の首席にも拘っていましたのね」


「はわ~義理人情のひとなのです」


「ぱわ~」


 なるほどと相槌を打つミシルパの隣で、シャポーとほのかは感嘆の声を上げるのであった。


「そうだよ。きちんと勉強させてもらったから、トップでなければと思ってたんだよ。んで『規格外』を相手にしているせいで、変に入っていた肩の力が抜けたってだけだ」


 ウォーペアッザは、方眉を上げた視線をシャポーに向けると、大きなため息とともに言った。


「規格外?」


 自覚の薄いシャポーは首を捻る。


「魔導の化け物?怪物?いや、言うならば『魔導馬鹿』か」


 ウォーペアッザが言うと、ミシルパとピョラインとムプイムが「確かに」と頷く。


「ひ、酷いのです」


 ショックを受けているシャポーの頭の上で、ほのかも「ぱぁ!」と賛同するかの声を上げるのだった。

次回投稿は9月1日(日曜日)の夜に予定しています。

今回は、話の区切りの関係で短めになってしまいました。

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