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第048話 ベテラン治療師と凄い魔導師に詰められた精鋭魔導師

 シャポーが屋敷の外へ移動すると、魔導師団の増援に加え、教会の治療術師らが到着していた。


 レイロゲート家の広い前庭は、戦場もかくやという喧噪に包まれている。


 応急処置を受けていたダイヘンツが、シャポーの姿を見つけて、慌てた様子で駆け寄った。


「シャポーさん、ご無事でしたか」


「シャポーは何とも無しなのです」


 心配そうに見て来るダイヘンツに、シャポーは力こぶを作って返す。


 ダイヘンツは「何よりです」と呟くと、表情を真剣なものに変えた。


「それで、デガンは」


「デガンさんは捕まえまして、エルダジッタ部隊の方が見張ってくれているのですよ。捕縛縄をかけるのを、お手伝いさせてもらったのです」


 ダイヘンツが聞くと、シャポーも神妙な面持ちで答えるのだった。


「ザレデスに引き続き、デガンまで。感謝の言葉もありません。屋敷の地下などに、変異した使用人が残っているかもしれませんので、後は我々魔導師団が対処します」


 そう言ったダイヘンツは、ゲージを操作して魔導師団に指示を飛ばした。


「お手伝いすることがありましたら、しますのですけれども」


 二つの部隊として編制された魔導師団が、ダイヘンツの命令で動き始めるのを眺めながら、シャポーは言った。


「これ以上は滅相も無い。シャポーさんのことは、部下にきちんと送らせますので」


 ダイヘンツは、ゲージを持っていた手を横に振って、シャポーの申し出を断った。


 その時、話しをしている二人の方へ、治療師が走ってきた。ダイヘンツの姿が消えて焦ったのだろうか、彼女の両手には、治療用の道具が握られたままであった。


「隊長さん、処置の途中で抜けられては困ります。貴方が思っているよりも、貴方は重症なんですよ。応急処置が済みましたら、すぐに治療院へ行っていただかないと」


「現場の指揮がありますから。痛みを和らげてもらい、問題なく動けます。全て終わりましたら、治療院へ行きますので」


「何を言ってるんです。肋骨にひびが入っていて、内臓も軽くないダメージがみられるのですよ。それに、強い衝撃を全身に受けたのですから、脳の検査も必要なんですからね」


 ダイヘンツの答えに、ベテランであろう治療師は、一歩も譲らずに怒った様子で言い返した。


 治療師の言葉にある通り、ダイヘンツは、シャポーに駆け寄ってきてからずっと、あばらの辺りをさすっているのだ。


 シャポーの両目が、再び薄緑色の輝きを放つ。


「むむむ、ダイヘンツさんは無理をしているのですね。身体の至る所で、魔力の流れが悪くなっているのです。治療師さんが言うように、頭も(魔力の流れが)おかしいのですよ」


「魔導師のお嬢さんも言っている通りです。頭の異常は、軽く見る物じゃありません」


「ですです、どう見ても『頭がおかしい』みたいなのです」


 ぐいぐい詰め寄って来る二人に、ダイヘンツは(言いかた!言いかたぁ)と心の中で突っ込む。


「いやしかし、現場の指揮が、ですね……」


 一歩たじろぐダイヘンツに、シャポーと治療師も一歩詰めた。


「シャポーも一緒に行ってあげるので、治療院に行くのです!頭が心配ですので!」


「その手に持っているゲージから、引継ぎをしなさい。治療師として無理はさせられません!」


 ベテラン治療師と凄い魔導師の圧に、ダイヘンツは抗う術を持たなかった。


「……そうさせて、いただきます」


 シャポーとダイヘンツは、治療院行きの教会馬車へと歩を進めるのだった。


***


「――という感じだったのです」


 治療院の一室。ミシルパのベッドの横で、椅子に腰かけたシャポーが、レイロゲート屋敷での一連の出来事を説明していた。


 ベッドに座るミシルパの他に、ウォーペアッザの姿があった。


 ダイヘンツはと言えば、脳に特筆すべき異常こそなかったものの、全身打撲と数か所の骨折が見つかり、別室にて治療を受けている。内臓へのダメージも含め、彼は十分に重症だったのだ。


「俺の実家……グリアリス家で調べたんだが、正規ルートも非正規のルートも、東国との奴隷取引が突然無くなったらしい。それゆえに、実験素体を手に入れられなくなったレイロゲート家が、ぼろを出したって所か」


 壁に背を預けているウォーペアッザが、実家であるグリアリス家で調べた事柄と、レイロゲート家の動きを照らし合わせて言った。


「グリアリス家。労働人口の統計や管理の政策に明るいんでしたわね」


「大きな声じゃ言えないが、奴隷の非正規取引の監視にも関わっているんだ。この件に関して技研国カルバリの中では、どこよりも確度の高い情報を持ってるかもな」


 ミシルパの言葉に、ウォーペアッザは両肩をすくめる。


「とは言っても、レイロゲートの動きを掴み切れてはいなかったみたいだけどな。レイロゲート家の人の出入りに、不穏な部分があるとは見ていたようだが、確たる証拠は上がっていなかったらしい」


 ウォーペアッザの話を聞いて、ミシルパは「そうですのね」と呟いて考えを巡らせた。


「当家の情報網にも、レイロゲート家が実験用に使うための人を、非合法的に入手しているとの情報は入っていませんでしたの。それだけ用心深かったレイロゲートの当主であるザレデスが、あまりにも愚かな幕引きとなりましたわね」


「暴露されれば悪事は愚かしく見える、の典型なのかもな」


 三人の魔導師は、難しい表情を浮かべて唸るのだった。


 ザレデス・レイロゲートの悪事が表に出る引き金となったのは、人体実験を繰り返していた術式が完成したと誤認し、己に施術をしてしまった事だろう。それですらも、実験材料となる人体が裏のルートから入手出来なくなったのが、大きな要因であったとは言えるのだが。


「そういえば、ウォー。御実家とは距離を置いていたのではなくて?」


 ミシルパは、ウォーペアッザが貴族の肩書を捨てて、一魔導師として立身すると語っていたのを思い出した。


「まぁ、な。レイロゲートの件が、妙に引っかかったのもあったからな。伝手として情報をもらいに行っただけだから、俺としては問題ないさ。あまり役に立つ情報ではなかったけどな」


 ミシルパの問いに、ウォーペアッザは視線を合わせずに答えた。


「えっと、ご実家と距離を置いた理由なのですけれども、聞いても良いのでしょうか」


 シャポーは、ここぞとばかりに気になっていた質問を口にする。同じ研究室の仲間として、知っておいた方が良いのではと、心の片隅で考えていたのだ。


「あー、面白い話でもないぞ。貴族の家系ではよくある話だ」


 方眉を上げて一瞬悩んだウォーペアッザだったが、表情を緩めて話し始めるのだった。

次回投稿は8月25日(日曜日)の夜に予定しています。

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