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第029話 各々の抱く違和感

(研究所を持つレイロゲート家としても、大手魔導商会を傘下にもつゼーブ家と、争いたくは無いだろうな。ましてや、相手が格上貴族ともなれば尚更か)


 ウォーペアッザは、そのように考えつつも(馬鹿そうな貴族だから、自家の立場にまで頭が回らない可能性もあるか?)と懸念を抱いていた。


 だが、彼の心配も杞憂に終わる。


「この場は、ゼーブ家のご当主と、エルダジッタ部隊の私が引き受ける事として、レイロゲートの方々には引いていただくでよろしいか?」


 ダイヘンツが落としどころを提案すると、デガンは渋々な表情ながらも乗って来たのだ。


「二度と、魔導師である俺の足にぶつかってこないよう、教育しておくんだな」


 言ったデガンは、舌打ちを残して立ち去ろうと背を向けた。


 歩き出そうとするデガンを、ウォーペアッザが「おい」と強く呼び止める。


「治療費もいらないだろう」


 ウォーペアッザの言葉に、デガンは振り向きもせず仲間の魔導師に金を返すよう指示を出した。


 去ってゆくデガンを追うように、警備隊の二人もその場を後にするのだった。


(やはり、警備隊の者も繋がっていた可能性が高そうだな。あの貴族が、ぶつかった娘の父親の逆上を執拗に煽っていたのを考えると、時を見計らって、警備隊に親子を捕らえさせようとしてたのか?金銭目的でもないだろうに……)


 ダイヘンツは振り返ると、トラブルに巻き込まれていた親子へと視線を向ける。


 シャポーとピョラインに慰められている女の子と、ウォーペアッザから奪われていた金を受け取り、何度もお礼を言っている父親の姿があった。どう見ても、一般の市民にしかみえない二人だ。


「ダイヘンツさん、とても良いタイミングで現れてくれましたわね。まるで、我々の様子をうかがっていたかのようでしてよ」


 思考を巡らせていたダイヘンツに、ミシルパが囁いた。


 ミシルパは、ダイヘンツの立場上、何かしら理由があるのだろうと気を使ったのだ。


「ミシルパさんにはお伝えしても問題ないでしょう。実は王から密命があり、シャポーさんを『見守って』いるのです」


「オストー王から?直々に?」


 聞き返すミシルパに、ダイヘンツは頷いて返した。


「教会からの要請さえなければ、シャポーさんは、先の内戦における英雄として国賓級の扱いをすべき人ですからね。せっかく魔導研究院に来ることを選んでもらえたのですから、オストー王も、彼女にカルバリを去ってほしくは無いのでしょう。シャポーさんの周りで妙なトラブルが起きぬよう、外出の際には目を光らせよとの密命を受けた次第です」


 ダイヘンツは、言い終わると同時に、小さなため息をつく。


「重い任務ですのね」


 ミシルパは、お気の毒様という気持ちをこめた目をダイヘンツに向けるのだった。


 かく言うミシルパも、シャポーがカルバリの魔導研究院に来たことで、影響を受けた者の一人だ。


 ミシルパとしては、シャポーと良好な友人関係を築いているだけなのだが、政府の立場からすれば「評すべき行為」に値するらしい。


 オストー王からの感謝状が、ミシルパ個人へと内々に贈られていた。そして、レイロゲート家を含めた大貴族とゼーブ家の間に、大きな階級の差がついているのにも、少なからず影響を与えているのだった。


 しかし、ミシルパは「シャポーさんとは純粋な友人関係でしてよ!」と怒りも露わに、その感謝状を「無粋」であるとして、丁重に送り返してしまったのだが。


「ダイヘンツさんは、国家の思惑に協力しないのかと思っていましたわ」


「私の場合は、シャポーさんをお連れした手前、といった所ですね。近寄る権力者を見張るには、良い立ち位置ではありますから」


 ミシルパとダイヘンツの視線の先では、話題にされているとも知らないシャポーが、帰ってゆく親子に手を振っていた。


「個人としての協力は惜しみませんわ」


「お言葉として有難く頂戴しておきます。ミシルパさんも、何かありましたら言ってください」


「ええ。そういたしますわ」


 二人が協定じみたものを結んでいると、親子を見送ったウォーペアッザが、ダイヘンツの所まで駆け寄った。


「ダイヘンツ卿。大変助かりました」


「グリアリス家のご長男殿でしたね。今後ともお見知りおきを」


 礼を言うウォーペアッザに、ダイヘンツが軽い会釈で返す。


 ウォーペアッザは、一瞬複雑な表情を浮かべて頬をかいた。


「家からは出ているので、家名はありません。今は、一魔導師としてウォーペアッザとだけ名乗っていますので」


「失礼しました。では、ウォーペアッザさんと呼ばせていただきます」


 ウォーペアッザが言うと、理由も問わずにダイヘンツは了承した。


(そういえば、ウォーは貴族の身分を捨てているとか言っていましたわね。ダイヘンツさんに対しても訂正するということは、系図からも抹消されているんですの?前は聞き流しましたけれど、少し気になりますわね)


 横で聞いていたミシルパは、方眉を上げてウォーペアッザとダイヘンツのやり取りを見るのだった。


 ピョラインとムプイムが、ダイヘンツとの挨拶を終えると、見回りがあるからという理由で彼は町の中に姿を消した。


「いんやぁ~。シャポーちゃんがエルダジッタの方と知り合いだなんて、流石って感じ。凄い人には、凄い知人ってことかねぇ」


 再び書店に向けて歩き始めると、ピョラインが感心しきった様子で言った。


「えへへ~。凄いだなんて、そんなことないのですよぉ」


 まんざらでもない笑顔でシャポーが答える。


「不思議な繋がり。やっぱり、変な子」


「変って、ひどいのです」


 ムプイムがからかう様に言うと、シャポーはぽかぽかと叩いて反論するのだった。


「ウォー?どうかしたんですの?」


 緩い空気の中、一人だけ難しい顔をしているウォーペアッザに気付き、ミシルパが問いかける。


「いや、ちょっとな」


 ウォーペアッザは大丈夫だと示すように手を振って返した。


(デガンて男、ダイヘンツさんに言われたからって、すんなり聞き分けすぎな気がするんだよな。逆に、家の立場を考えて身を引ける頭があるのに、親子に対して馬鹿すぎる絡み方をしていたとも言えないか?プライドだけは高そうだったから、もっとこう、しつこく『来る』かと思ったんだけどな)


 ウォーペアッザの胸には、もやりとする物が残っているのだった。

次回投稿は4月14日(日曜日)の夜に予定しています。

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