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第026話 ねー

 飲み物が配膳され、シャポーのたどたどしい開会の挨拶が終わると、話題はムプイムへと向けられた。


 彼女の出身は商業王国ドートであり、豪商の血筋なのだと言う。だが、本家からは遠縁の扱いを受けていたため、商売に関わることが許されなかったムプイムにとって、魔導師になれた事は幸運であったようだ。


 ムプイムは、ドートの魔導師に師事できたことも、運があったのだと語るのだった。


「血縁なのでしたら、分家として商売の一部を任されることも多いと思うのですけれど?」


 ゼーブ家の商いを取り仕切る立場であるミシルパは、疑問を感じて呟いた。


「うん。めかけのだから」


「「「あー」」」


 察したシャポー以外の三人は同時に声を上げる。


 首を傾げてしまったシャポーに、ミシルパが「愛人の子という意味ですわ」と耳打ちした。


「ごめんなさい。わたくしとしたことが、気の回らない質問をしてしまいましたわ」


 先に「遠縁の扱い」と話された段階で気付くべきだったと、ミシルパは反省しつつ謝罪する。


「大丈夫。検定試験で良い成績だったから、家で地位向上してる」


 ムプイムは、一つも不快に感じていない様子で、ミシルパに親指を立てて見せた。


 クレタスにおいて、魔導師の存在は貴重とされている。インフラの研究など、重要な役割を担うからだ。


 商家であるムプイムの実家でも、身内から魔導師――しかも、カルバリの魔導研究院所属の者――が出たともなれば、同業他社から一目置かれることになるのだろう。


 魔導検定試験を好成績で通過したともなれば尚更である。


 そんなムプイムの言葉に、成績に人一倍のこだわりを持つウォーペアッザが興味を示した。


「成績順位も確認したのか?何位だったんだ?」


 魔導検定試験では、本人の希望によって、成績のみならず順位をも教えてもらうことが可能とされている。


「三位。がんばったから」


 ムプイムは指を三本立てて答えた。ミシルパとピョラインだけでなく、シャポーも感嘆の声を漏らした。


「五位までは僅差だったと聞いているんだ。となると、実力としては俺と同じくらいなんだな」


 感心した表情となって、ウォーペアッザは深く頷いていた。


「あら?普通は他の受験者の成績なんて教えてもらえないと思うのですけれど?」


 はたと気付いたミシルパが、ウォーペアッザに問う。


「詳細は教えてもらえなかったさ。でも、各行政や研究の機関には開示される情報なのだからと食い下がって聞いたら『二位から五位まで大した差は無かった。これ以上は教えられない』と言ってくれたんだ。一位は、まぁ、噂通りって事なんだろうな」


 ウォーペアッザは、言葉の最後に諦めたような呆れたような表情を作ると、シャポーをちらりと見て首を左右に振った。


 シャポーが異例の好成績だったというのは、魔導師界隈で知らぬ者が居ない程広まっている噂だ。


 ここ数日間、高レベルな研究に付き合わされていたウォーペアッザにとって、痛感させられた事実として記憶に新しい。短期間で、難解な術式や理論をどれだけ見せられたことか……


「ところで、聞いた本人は何位でしたの?」


「二位だったな」


 ミシルパの問いにウォーペアッザは二本の指を立てて答える。


「そうすると四位までが、ここに揃っちゃうんですね。私は四位だったんですよ」


 ウォーペアッザの順位を聞いて、ピョラインが嬉しそうに四本指を立てて言った。


 驚きの声が響く中、皆の視線は自然とミシルパに集まる。


「ですわよね。わたくしも言う流れですわよね」


 諦めたような小さなため息とともに、ミシルパは肩を落とした。


「順位とか確認してない人もいるんだから、言いたくないなら――」


「いえ、ゼーブ家当主として、己の事は知っておかねばなりませんので聞いていましてよ」


 ピョラインの気遣いを手で制し、ミシルパは肩をすくめて言葉を続ける。


「お恥ずかしいですけれど、わたくしは五番目でしてよ」


 ミシルパは、微妙な笑顔を浮かべるのだった。


「ぜんぜん恥ずかしくないのです!」


「おんや~、すごいですね。今期の検定試験上位の五名が集まっちゃってるなんて」


「恥ずかしくない。誇るべき」


 隣に座っていたシャポーは、ミシルパへと体の正面を向けて両拳を上下させながら言った。驚いた表情のピョラインの横で、ムプイムもシャポーのように両拳を握っていた。


「僅差だったんだからな。同程度の俺も恥ずかしい成績ということになるだろうが。変に卑下しなくてもいいと思うぞ」


 ウォーペアッザは、そっぽを向いたままぶつぶつと言った。


(あら?ウォーは、皮肉の一つも言ってくるかと思っていましたのに、意外でしたわね)


 何故だか可笑しくなり、ミシルパは心の中でくすりと笑うのだった。


 その時、ちょうど料理が運ばれてきて、個室の中に良い香りが充満する。


「ぱぁ~?」


 匂いに釣られたほのかが、シャポーのフードの中からのそりと這い出た。そして、シャポーの肩から腕へと滑るように移動し、机の上に器用に降り立つ。


 それを見ていたミシルパは、ほのかの為に頼んでおいた豆の盛り合わせを、すっと傍まで近づけてくれるのだった。


「精霊……様?」


 一連の流れを凝視していたムプイムが、ぽつりと漏らす。正面に座っているシャポーにだけ、聞き取れる程の小さな音量であった。


「そうなのです!ほのかちゃんは精霊さんで、シャポーのお友達なのですよ」


「ぱぁ!」


 シャポーが両手で示して紹介すると、ほのかは「よろしく」と言わんばかりにムプイムに向けて手を上げた。


 ほのかについて、使い魔だの何だのと言われなかったことで、シャポーは機嫌を良くして満面の笑顔を浮かべる。


「魔導師なのに、精霊と友達?」


「ですです」


「ぱぁぱぁ」


 きょとんとした顔で聞き返すムプイムに、シャポーとほのかは何度も頷いて返した。


わたくしも、ほのかさんとはお友達になりましてよ。ねー」


「ぱー」


 ぽかんとしたままのムプイムを余所に、ミシルパとほのかが笑顔を交わし合う。


「私とも友達なんだよ。ねー」


「ぱー」


 半開きの口のまま固まっているムプイムを置いてけぼりに、ほのかはピョラインとも頷き合った。


「ぱぁ!ぱぁ!」


 残りの一人であるウォーペアッザに対し、ほのかが「カモーン!」とでも言うかのように手で合図する。


「俺も、やるのか?」


「ぱぁ!」


 ウォーペアッザが「まじかよ」と難色を表すと、ほのかが機嫌を損ねて地団駄を踏むため、仕方なくウォーペアッザも「ねー」をやらされたのだった。

次回投稿は3月24日(日曜日)の夜に予定しています。

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