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第023話 親睦会の予定

 シャポー・ラーネポッポは、封筒を握りしめて悩んでいた。


 丸机は綺麗に片付けられており、実験用ゲージの一つも置かれていない。そこには、ほのかがシャポーを見上げ、ちょこりと座っているだけであった。


 握っている封筒の表には、大きく達筆な文字で『研究室の親睦会費』と書かれている。


「これは、どうしたものなのですかね」


「ぱぁ」


 シャポーが呟くと、ほのかは眉を八の字にして、よくわからないと言いたげに頭を左右に振った。


 朝食を共にしているいつもの女子会メンバーは、まだシャポー研究室に来ていない。


 ピョラインは、シャポーと一緒に日課である朝の体操を終えた後、身支度をしてくると言い残して二つ上の階にある自室へと戻っている。ミシルパが到着するまでには、まだ少しの間があるのだった。


「さっきピョラインちゃんに、聞きそびれてしまったのです」


「ぱぁぱぁ」


 ため息交じりに言うシャポーへ、ほのかは深く頷いて見せた。


「受け取った時、事務さんから教えてもらいましたので、この費用の使い道については理解できているのです。研究室のお仲間と、これからよろしくお願いしますの意味を込めて、文字通り親睦を深めるお食事会をする予算なのだそうです。楽しそうではあるのですけれども、シャポーには致命的とも呼べなくはない問題が存在しているのですよ」


「ぱぁ?」


 シャポーが手に力を込めて言うと、ほのかは首を傾げた。


 所属先の移動申請を受け付ける期間が終了したことで、親睦会費が各研究室に配られたのだ。


 本格的な研究が『スタートする前』に、研究員達の相互理解を深める場として、毎年度予算が組まれているのだとか。


 しかしながら、シャポー研究室においては、既にいくつかの実験を親睦会を待たずして完了させていたりするのだが。


「まず問題の第一番目ですね。シャポーは、カルバリでお食事会をするお店などを、全くもって知らないのです」


「ぱぁ!」


 人差し指を立てたシャポーに、ほのかは賛同の意を示す。


 カルバリに来てからというもの、シャポーは魔導研究院から一歩も外に出ていないのである。


「第二に、このような会を開いたりした経験が、全くもって無いのです」


「ぱぁぁ!」


 二本目の指を立て、シャポーは、ふんすと鼻息をはいた。ほのかも二本指を立てて真似をする。


「第三なのですけれども、研究院で行われる親睦会がどういうものなのか、全くもって見当がつかない点なのです」


「ぱ!」


 立てる指を三本に増やし、シャポーは「説明書が欲しい所なのです」と付け加える。ほのかも「それな」と言わんばかりの勢いで返事をした。


「はんわ~、ミシルパさんとピョラインちゃんに相談なのですよ~」


「ぱわわぁ~」


 丸机に突っ伏し、シャポーが頭をぐりぐり転がすと、ほのかも真似をしてごろごろと机上を転げまわる。ミシルパとピョラインは、そんな珍妙な現場に出くわすこととなった。


「ど、どうかなさったんですの?」


「朝の体操の続き……ってわけでは無いよね?」


 問いかける二人に、朝食の準備を始めながら、シャポーはあらましを説明するのだった。


わたくしの研究室でしたら、代表研究員である師の家に招かれの晩餐会でしてよ」


「ミシルパちゃんの所は、貴族出身の人ばかりだものね」


 ミシルパが、一例として自分の所属先での親睦会について説明すると、ピョラインが納得したように言う。


 三人と一精霊の囲む丸机には、温かな湯気をあげる作り立ての朝食が並べられていた。


「ピョラインさんの研究室は、どうなさいますの?」


「うちは、副代表が取りまとめ役になって、お店を予約して、自由参加の飲み会みたいにするらしいよ。代表研究員は、そういうのあまり好きじゃないらしくて、不参加らしいけどね」


 ピョラインの答えを聞きながら、ミシルパは野菜のスープを口に運んだ。


「ひひゃひゃん、ひほひほはほへふへ(皆さん、いろいろなのですね)」


 白米を頬張っていたシャポーが、頷きながら言う。


「ええ、研究室によって様々でしてよ。ですので、シャポーさんの好きなようになされば良いんじゃないかしら」


 頬に手をあてて言うミシルパの横で、ピョラインが肉料理にナイフを入れながら「だねぇ」と同意した。シャポーのもぐもぐ言葉を聞き慣れた二人は、問題なく会話を進めるのだった。


 シャポーは口の中にあった物を飲み込むと、しばらく視線を宙に漂わせる。


「んっとですね、せっかくですので、カルバリの美味しいお店とかに行ってみたいなと思うのです。ミシルパさんやピョラインちゃんも、一緒できたら楽しいのですけれども」


 顎に人差し指を当て、シャポーは方眉を上げる。


「幸いなことに魔導研究院に所属している者であれば、数名の参加が認められますのよ。これは、研究室の垣根を越えて、魔導の研鑽を推進する目的なのだそうですわ」


 ミシルパは、さも嬉しそうな表情で言った。


「『せっかく』のついでに同期会にしちゃうのはどうかな?私の研究室のお隣さんなんだけどさ、ムプイムって女の子が配属されてるんだよね。その子ってば、私達と同じ新人さんなんだって。寡黙だけれど、いい子だったよ」


 サラダをむしゃむしゃしつつ、ピョラインが提案する。


「あら、お会いしてみたいですわね」


「楽しそうなのです!」


「ぱぁぁ!」


 こうして、親睦会の予定は、ウォーペアッザの与り知らぬところで進んでゆくのであった。

次回投稿は3月3日(日曜日)の夜に予定しています。

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