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第001話 お友達なのです

 シャポーは、中央王都の行政機関である魔導省へ向け、ずんずんと歩みを進めている。


 クレタスと呼ばれている広大な地域は、中央王都と五つの諸王国から成り立つ。


 人族の治めるそれら六つの王国において、魔導関連の上位機関として三本の指に数えられる内の一つが、現在シャポーの向かっている魔法省なのだった。


 魔法省と並び称されているのは、技研国カルバリにある『魔導研究院』と守衛国家セチュバーにある『魔導師団』という二つの組織であると、人族の間では認識されている。


「魔法省の建物にはですね、魔法を阻害するための多種多様な術式や魔法陣が設置されているのです。流石、魔導研究の三大組織の一角といった感じなのですよ」


「ぱぁ」


 頭の上にいるほのかへ、シャポーは魔法省についての説明をしながら歩いていた。


「魔導にかかわる法律の制定などもしてますので、情報防護という点においては、クレタス随一と評価がされているのです。ですので、魔導検定試験の不正行為とかも未然に防いじゃえますので、試験会場に選定されているのです」


「ぱぁぁ」


 本当に分かっているのかは不明であるが、ほのかは理解しているかのような相槌を返す。


「精霊であるほのかちゃんにとって、とっても居心地の悪い場所だと思うのですが、大丈夫か心配なのですよ」


「ぱぁ!」


 気遣うシャポーに、ほのかは自信満々で胸を叩いた。


「もしもですけれども、気分とか悪くなっちゃいましたら、シャポーのフードの中へ潜り込んで眠ててもらってもかまいませんので。シャポーのローブには快適魔法の素材が使われてますので、当たり前ですがフードの中も例外なく、外部からの魔法影響を抑える効果があるのです」


「ぱぱっぱぁ!」


 シャポーの話しに深く頷いて、ほのかは満足気な声で返事をする。


 その他にも、昼食のお弁当に何が入っているかだの、夜のご飯がとても楽しみだのと会話しているうちに、シャポーとほのかは魔法省建屋の前に到着するのだった。


「こっ、こっ、こっ、ここが試験会場、なのですけれども!」


 緊張に上ずった声で、シャポーは建物を見上げた。


「ぽっ、ぽっ、ぽ~」


 ほのかも口真似をして、シャポーと同じように上を向く。


 魔法省は、王城にほど近い区画に建てられている。重要な行政機関であるのだから当然であろう。


 七階建てと高さこそないものの、必要最低限の窓しか付いていない真っ白な壁面が、迫り来るような威圧感を醸し出していた。


「な、何度か来ていますし、みみ、見慣れたものなのです」


 強がりを言うシャポーの声は、先程と変わらず上ずったままだった。


 本人の口から「何度か」という言葉が出た通り、シャポーは試験を受けた経験の持ち主だ。


 五年分ほどにもなろうか、緊張のあまり座学では回答を入力する先を間違えてみたり、実技試験では術式を噛み噛みで失敗したり、面接においても相手の話が右から左へと抜けてしまったり、と散々な経験をシャポーは積み重ねて来ていた。


「ぱぱっぱぁ」


 ほのかが気合を入れるようにシャポーの額をぺしぺし叩くと、シャポーは過去にしてしまった失敗達の回想から我に返った。


「そうです!シャポーはここ最近で度胸を身に着けたのですから、恐れることは無いのでした。過度な緊張を感じたら、深呼吸するのが良いと尊敬する人から教わりましたので、実践あるのみなのですよ」


 言ったシャポーは、両手を天に向かって振り上げると、ゆっくり息を吐き出しながら腕を降ろすという、深い深い深呼吸を数度も繰り返す。


 当然の如くほのかも、シャポーの薄茶色い髪の上で仁王立ちになると、深呼吸のまねをした。


 シャポー同様、魔導検定試験を受験しに来ている者達が、魔法省の入り口前で深呼吸している魔導師少女と小人を、ちらちらと横目で確認しつつ通り過ぎて行く。


「準備万端、気持ちも整いましたので、出陣なのです」


「ぱぁぁ!」


 大股で歩き出す魔法少女の頭の上では、前方を指差した始原精霊が鬨の声を上げていた。


***


「えっと、要するに使い魔ってことで、いいんですよね」


「お友達なのです」


 すでに何度目かもわからなくなった問答が再び繰り返された。


 魔法省庁舎へと足を踏み入れたシャポーは、自分のゲージに受験資格保有者の文面を表示させ、試験会場へと向かうはずであった。


 だがしかし、受験者用ゲートで待ち構えていた管理員に、ほのかの姿を見咎められて、確認のためにと個室へ誘導されたのだ。


「その小人は、使い魔ということで、問題ありませんね」


「いえ、お友達なのです」


「ぱぁ!ぱぁ!」


 机を挟んで座る管理員の男は、頭を抱えたい気持ちでいっぱいだった。


(この子は、なんでこんなに頑固なの?「使い魔を伴う」って、座席証に記入させてもらいたいだけなんだけど。人型の使い魔は、別室で口頭確認しないといけない規則があるからやってるだけで「はい、使い魔です」の回答で終わるはずだったのに。小人型だからスルーしとけば良かったか?いや、しっかり確認したのかって後で上司に怒られるのは、自分だしなぁ)


 管理員は壁の時間計へと目をやる。試験開始まで、まだ時間に余裕があるので、職務を全うできてしまう自分が恨めしい。


 机の上には、獣皮で作られた手のひら大のカードが置かれていた。


 受験者の名前と、席の番号が大きく描かれており、下方に空白となった備考欄が設けられている。彼の仕事は、その備考欄に「使い魔を伴う:確認済み」という文言と管理員である自分の識別番号を魔力で刻み込むだけなのだが。


「保護者とかでしたら、別室にご案内しなければならないんですが、それでよろしいですか」


「ぱっぱっぱっぱっぱっ」


 管理員の言葉に、ほのかがぶんぶんと首を横に振って否定する。


(そりゃそうだよな。自然魔力を感じるから、精霊とか妖精の類なんだろうけども。従属化の術式を行使したんじゃないのかね。もしかしたら、この子の魔導の先生が、使い魔として与えたのかもしれないな。それなら「お友達」だって勘違いしてるのも、無くはないかも。とはいえ、ごく稀なケースだけど)


 管理員は額に手を当てて悩んでいた。ただ言質がとりたいだけなのだ。


「ここは『使い魔』として書いておきましょう。試験において不正利用が無ければ良いことですので」


「使い魔では、ないのですけれど」


「ぱぁぁ~」


 男の提案に、シャポーは納得していない表情で小首を傾げる。ほのかも真似をした声で、同じように小首を傾けた。


(リンクしてるじゃん。やっぱ使い魔で間違いないでしょ。外部から操作してる可能性は、建屋で遮断されてるから、無いと断言できるし。完全リンクの動きから見ても、操作者となる主はこの子しか居ないんだから。仮に試験会場で、カンニングとかしようものなら監督官にばれて失格になるから、やらないだろうし。そもそも、監督官にばれないように不正ができる実力の持ち主なら、逆に魔導師として問題ないって認定される裏ルールでの合格もあるんだし。まぁ、カンニングとか出来た人なんていないんだけど)


 管理員は「ふー」と長い息を吐くと、椅子の背もたれに体重を預けた。


「ではこうしましょう『使い魔のお友達を伴う』と記載させてもらいます。見る限り、外部との繋がりやらも感じられませんし、シャポーさんとの強い絆も見て取れますので。せっかく早めに来たんですから、席に着いて落ち着きたいでしょう?」


 諦めたかのような声で管理員は提案した。心の中で(お友達って何だよって、同僚が笑ってくるだろうなぁ。上司にも変な言葉付け足すなとか怒られそうだし。今だって、時間かけすぎだって思われてるだろうから)と、考えを巡らせるのだった。


「むー」


「ぷ~」


 シャポーとほのかは、同じような納得いかない表情で渋々頷いた。


(リンクしてるじゃん!使い魔じゃん!)


 管理員は内心で突っ込みつつ、獣皮製の座席番号札に手をかざす。


 男の手の平から微かな魔力が発生すると、シャポー用のカードで空欄となっていた備考欄に「使い魔のお友達を伴う:零九之八三」の記述が浮かび上がった。


「注意事項だけど、試験中は使い魔を他人の席に向かわせたりしないように。会話もだめだから、覚えておいてくださいね。監督官に見つかったら、罰則として今回の受験資格を失いますので」


 管理員は親切心から忠告しつつ、シャポーにカードを手渡す。


「でもですね、本当にお友達なのです。そこだけは信じてもらいたいのですよ」


「ぱぁぁぱぁぁぱぁぁ」


 魔導師少女と精霊少女が、同じジェスチャーで訴えているのを「はいはい、分かりました」と軽く受け流す管理員なのだった。

次回投稿は9月24日(日曜日)の夜に予定しています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 2桁の加減乗除しか出来無い連中がフィールズ賞の論文を評価するようなものだよね そしてそのことに試験する側も受ける側も気付いてないという
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