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「靴がないの」


 さて、ここに、この世の不幸を全て背負ったかのような絶望の顔をして、ぽろぽろと涙をこぼす義妹シルヴィアがいます。


 舞踏会に着て行くドレスは決まったようだが、それに合わせる靴がないらしい。試し履きした靴が床に散乱している。


 まあ、そんなにお洒落に明るくない私から見れば、特に合わないとも感じないのだけど、シルヴィアとしては、しっくり来ないようだ。

 王城での舞踏会なんて、二度とはない機会だ。完璧な装いで臨もうとする彼女の気持ちは、十分に理解する。


 私は一度自分の部屋に戻り、箪笥の奥を漁る。奥に隠し引き出しがあり、その中に鍵付きの小箱が入っている。

 私はその小箱を取り出し、別の場所に隠していた鍵を使って蓋を開け……その中の一部を取り出した後、小箱を元の場所に仕舞う。

 そして再びシルヴィアの元へ戻った。


「はい」


 私は手に握った「それ」をシルヴィアに差し出した。


「これは……?」


 シルヴィアが目を瞠る。私の手が握っているもの。それは数枚の紙幣だった。


「貴女の嫁入りのためのお金。ちょっと良い靴くらいは買えると思う」


 これは義父から預かっていたお金だ。曰く「シルヴィアに渡すと、すぐに使ってしまうから、お前が適切に管理し、然るべき時に渡してほしい」とのことだった。

 まあ、全部渡したら、全部使っちゃうので、今回渡すのは一部だけど。


「お義姉さま……!!」


 すごく感激した目で私を見るシルヴィア。そして彼女は決意の握り拳を作る。


「私、必ず王子様を虜にしてみせますわ。そして、そのあかつきには、お義姉さまにも良い縁談を探してあげますからね!」

「……いや、私のことはいいから、自分のことに専念してね」


 私がそう答えると、シルヴィアは喜び勇んで街へと出かけて行った。早速、彼女によく似合う靴を探しに行ったのだろう。





 雲一つない夜空に、まんまるなお月様がぽかりと浮かんでいる。

 とても月の綺麗な夜でした。


(舞踏会日和だなぁ)


 今日は舞踏会当日だ。

 シルヴィアは、彼女の持っていたドレスの中から、一番彼女自身に似合うものを着て、綺麗に髪を結って、いそいそとお城へと出かけて行った。

 なお、彼女が選んだ靴は、以前私が目を惹かれた、あのガラスを模した美しく華奢な靴だった。

 シルヴィアの装いは、己の美しさを自覚しているだけあって、よく考え抜かれ似合っていたと、素直にそう思う。王子様、とまではいかずとも、良い相手を見つけてくれますように、と星に願いを捧げてみる。


 ちなみに私は留守番だ。案内状は私にも届いていたけれど、病弱な母のいる家を空けるわけにはいかない。

 煌びやかな舞踏会に興味がなかったと言えば嘘になるけれど、何が何でも、というシルヴィアほどの情熱もなかったから、仕方ない。


 そんなことを考えながら、ぼんやりと窓から外を眺めていると。

 ぬっと人影が現れた。

 黒ずくめのフード姿で、見るからに怪しくて。


「……っ!?」


 驚きに息が詰まる。この辺は、そんなに治安の悪い地区ではないから、不審者がうろついていることは少ない。

 でも皆無ではないのでーー私は近くにあった箒を手に取った。

 ぶん殴って、相手を昏倒させた隙に逃げよう。……それが可能であれば、の話だけど。

 薪割りで多少は鍛えられた腕を見る。邪魔にならないように袖をまくり上げた。

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