表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

 城下町へ行く道すがら、小さな店に寄ることになった。セインに促されて中に入る。そこは、どうやら衣服を売っているお店のようだった。

 並んでいる衣装は、おしゃれだけれど品がよく、気の利いたものばかりだ。


(高そう……)


 ちょっと尻込みして足を一歩引くと、セインが私の腰に手を添えて押し留める。柔らかな声で、


「貸衣装だから、そんなに値は張らないよ」


と告げた。……どうして私の考えていることが分かったのだろう。顔に出てたなら、すごく恥ずかしい。

 そんなことを考えている間にも、いつの間にか女性の店員さんが立っており、彼女はにこやかな笑みを浮かべて、


「いらっしゃいませ、アンナ様。今日は、私どもがお手伝いいたしますので、よろしくお願いいたします」


と告げ、


「では、こちらへ」


と続けた。どうやら既にセインとの間で段取りができているらしい。


 案内され、試着室に入ると、ハンガーに一着のドレスが掛けられていた。

 お城の舞踏会で来て行くような仰々しいものではなく、まさに城下町に繰り出すのに丁度良い感じのものだ。

 決して派手ではないけれど、ちょっとしたところに華やぎがあり、洗練されている。


 ……サイズがぴったりで、私の好みのデザインすぎるのが、なんだか怖い。たまたま?


 セインに得体の知れなさを感じそうになったけれど、すぐにさっきの人とは別の店員さんに呼ばれて、その考えは頭の外に立ち消えた。


「お化粧と御髪を整えますので、こちらへどうぞ」


 再び別室に連れて行かれる。

 磨き抜かれた大きな鏡の前に、座り心地の良さそうな皮張りの椅子。

 その椅子に腰掛けるよう誘われ、恐る恐る座ると、


「では、失礼いたします」


と声をかけられた。

 手際良く、しかし丁寧に動く店員さんの化粧筆が、私の頬を滑って行く。少しずつ、でも確実に私の顔が、ドレスに負けないくらいに彩られて行く。

 最後に髪も結われた。青い花を模した髪飾りが、とても可愛らしい。


「はい、これで終わりです。お疲れ様でした」


 その声と同時に、セインが最初の店員さんと共に部屋に入ってくる。

 そして私を見て、一瞬目を見開いた後、ほころぶような笑顔を浮かべた。店員さんの、


「とってもお似合いですよ」


という言葉に、


「そ、そうだな。本当に……綺麗だ」


と答えながら、彼は、少しそわそわした感じで首に手を当てる。そんなふうにセインが変に照れるから、私まで照れ臭くなってしまったのだった。





 城下町に足を踏み入れると、華やかで賑やかな街並みが広がっている。いや、流石に今まで一度も城下町を訪れた経験がないわけではない。ただ、今日は特別に新鮮に感じられた。


(おしゃれをしているからかしら)


 ふわふわと夢見心地で、地に足がついていない感覚。


 少しばかり結婚適齢期を逃しつつある私だけれど、それなりに可愛い格好をしてみたいとか、そんな憧れだって持っていた。でも、母と義妹の面倒を見て行くためには、お洒落にお金をかけることはできない。そんなふうに思って、諦めていた。


 けれど、こんな形で夢が叶うなんて。


 ちらと視線を上げてセインを見ると、ばっちり目が合った。……ずっと見られていたのかしら?

 二人揃って、慌てたように目を逸らす。なんだろう、すごく面映かったので、お店の商品なんかを見て気を逸らしてみたり。


 そんな中、通りの店先に並んでいた、透きとおった美しいガラスの靴に、ふと目を奪われた。

 照明の光によって複雑な光沢を生み出す、華奢な意匠のものだ。


 ただ、これが本物のガラスだと、万が一割れてしまった場合、足が血だらけという惨状を引き起こしてしまうだろう。だからこれは、ガラスに似せた特殊な加工をした、革のように伸縮性のある素材のようだった。


 一般の店に並んでいる品だから、ちょっと高めであるけれど、無理すれば買えないものでもない。

 私の視線に目ざとく気付いたセインに、


「履いてみたい?」


と聞かれ、少し考えて、首を横に振った。


「見るからに入りそうにないです」


 あの靴は随分と華奢だ。そして毎日、大地をしっかり踏み締めている私の足は、それなりにたくましいので、履くのは無理そうだ。たとえ、もし履けたとしても、踵が高すぎて、歩けないこと間違いない。ただ、こんな風にも思う。


「でも、とても可愛いから、見ていると楽しいです」

「そうか。たしかにインテリアとして飾るのも悪くないかもな」


 セインも同意して頷いてくれた。

 そんな何気ない会話を続けながら歩いていたが、ふと彼が、


「ここだ」


と言って、おもむろに足を止めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ