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 昔むかし、ある所に、美しい娘がおりました。

 早くに母を亡くし、父と二人で暮らしていましたが、やがて父が再婚。新しい継母と義姉と共に暮らすことになりました。

 しかし、父が突然病に倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまいました。

 残された娘は、嗚呼、哀れ。

 継母と義姉にこき使われる、辛い日々が始まったのでした。


 美しい娘………灰かぶり姫は、灰で真っ黒な手を見つめては、さめざめと泣き暮らします。


「お父様。どうして貴方は、こんな横暴な継母と義姉の元に私を残して逝ってしまわれたのですか………」





 ………。

 ……………。


 聞こえよがしに何か言っているのは、私の義妹シルヴィアだ。


 いやいやいや。そもそも、うちは貧乏なんだから、私達が働かないと食べて行けないでしょう?


 暖炉の側で、自分の手をじっと見つめて、ぴくりとも動かない義妹を横目に、私は担いでいた薪を下ろす。


「重労働で身体中が痛いですわ……」


 いやいや、貴女。灰しか掻いてないでしょう?

 灰を掻くのが嫌なら、私の水汲みや薪割りと代わってくれませんかね?


 長距離移動や肉体労働は、か弱い私には絶対に無理って言うから、灰掻きを任せているんだけど。


「はぁ……」


 私はため息をつく。灰搔きはシルヴィアに任せた仕事だったけど、まだ全然途中で、このままじゃお湯も沸かせない。


 私は口元を布で覆い、シルヴィアの手から灰掻き棒を奪い取って暖炉の片付けを始める。舞い上がった灰などで、私もシルヴィアも煤だらけだ。

 シルヴィアは大層嫌そうな顔をしたけれど、汚れても水で洗えば落ちるでしょうに。……と思ってはっと気づく。

 今日は、どうしても私が水汲みに行く時間がなかったから、シルヴィアに任せていたんだった。


 貯水用の甕を除いてみれば、頼んでいた量の半分以下しか入っていない。


「……」


 一言も発さず、じっと甕を見下ろしている私を見て、シルヴィアが言い訳がましく口を開く。


「お姉さまは横暴ですわ。この甕いっぱい水を汲むなんて無理です」


 うん。でも、いつでも清潔にしておかないと、といって大量の水を使うのも貴女ですよね?


 さて、私の家も義父の家も、共に没落貴族である。貴族という称号を持っているだけで、暮らしは市井の人々と変わらない。

 ただ、義父には親から引き継いだ財産があり、そこそこお金を持っていたらしい。

 しかし妻が亡くなり、娘に家計の管理を任せていたら、あれよあれよという間に、なくなってしまっていたらしい。


 そういえばシルヴィアがこの家に来た時、なんか凄い高そうなドレスとか、たくさん持ってる人だなって感想を抱いたことを覚えている。


 しかしながら義父は真面目な人で、ちゃんと地道に働いて、私たちをしっかり養ってくれていた。……生きている間は。


 そんな父が亡くなれば、当然収入がなくなるわけで。

 ……ちなみに、私の母は病弱だ。いや、病弱というより虚弱体質というべきか。身の回りのことは自分でできるけれど、すぐに風邪をひいて寝込んでしまう。

 そんなわけだから、当面の生活費は私と義妹で捻出しなければならない。だから、ふと思いついて、


「貴女の高そうなドレス、売れない?」


と尋ねてみたら、


「父の形見を売れとおっしゃるのですか!? ひどい!!」


と私を非情だと責めてよよと泣くので、もう面倒になって……以来提案できなくなった。

 なお、シルヴィア曰く、


「このドレスを着た私を、きっと素敵な殿方が見初めてくれるわ」


とのことだ。

 その意見には賛成します。だから早く素敵な殿方を見つけて嫁に行ってくださいませんかね?

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