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No5 風呂乃神


「我は風呂乃神である。お主風呂の掃除をせぬか」





「はいはい。幼女幼女」

仕事から帰ってきてすぐさま風呂に直行したのだが、何故かお風呂場に、くるぶしまで届く長く白いワンピースを着て、床に垂れているほど長く白い髪をした幼女が居た。双眸が黒であることから日本人のようだ。変な泥棒に入られたものだ。


「聞こえなかったのか? 風呂の掃除をしろと言っているのだ」

「はいはい。幼女幼女」

確かにここは古い一軒屋で、風呂場もそれなりに古く、かなりの汚れが見て取れる。

タイル張りの風呂場はカビが好き放題に生えて、確か空色のタイルだったはずだが、全く掃除していないことで、9割が黒ずんでいる。

全身が何とか見える大きさの鏡もひびも無数に入っており、すでに自身を写す役割はこなす事が出来ていない。

窓を開けるのには、トラックを手押しで運ぶぐらいの力が要る。――ごめん、これは言い過ぎだった。

そんな中に一人真っ白な服と髪の幼女。かなり場違いだ。


「お主!! 私を馬鹿にしているのか!?」

「ばーか。ばーか」

「ぐぬぬ……我は神様だ……ぞ? 怒らせていいと思っているのか……?」

「思ってない思ってない。それじゃあ邪魔だからどけ」

「そうか。それなら……なにぃぃ!? 邪魔!? どけ!? お主、我をなめているのか!?」

「分かったから。分かったって。また後で遊んであげますからねー」

「遊ばなくてもらわなくて結構だ!! いいから掃除をしろ!! 掃除を!!」

営業スマイルで頭を撫でてあげたのだが、振り払われた。

ちなみに自分は全裸で隠しもしていないのだが、何も言ってこない。


「掃除はまた今度しますからねー」

「う、うむ、そうか、ならいいだろう――って騙されるかッ!! いつかする。また今度する。ってのは言い訳の上等手段だ!!」

「おお、幼女賢いんだな。うーん――それじゃあ、風呂から上がったら掃除するよ」

「…………うむ、まぁいいだろう」

やっと納得した幼女をどかして、風呂に入る。


「あ〜極楽極楽……疲れが取れるわぁ〜。仕事終わりはやっぱ風呂だなぁ〜」

風呂に入るだけで、ネス達のようにHPが回復していく。――気がする。


「そうだろそうだろ。そんなに風呂が好きだとは我も嬉しいぞ」

「風呂が好きなんだなぁ〜」

「勿論だ。我は風呂乃神だからなっ!」

ふふん。と腰に手を当て、凹凸のない胸を張っていた。

その視線に気がついたのか、

「ん、何だお主。我を抱きたいのか?」

「そんな趣味ねーよ。逆にこっちが聞きたいわ。裸の男が風呂入っている様子を眺めてるなんて」

「ふむ、おかしなやつだな。風呂とは男女の営みの場所であり、今までの奴は襲い掛かってきたのに」

この幼女、どうやら危険物だ。不発弾は早く粗大ゴミ置き場へ捨てにいかなければならない。


「犯罪者達と暮らしていたんだなぁ。そっかそっかぁ〜、面倒なことになりそうだから、早く出て行ってくれなぁ〜」

「我は出ていかんぞ!! お主が風呂の掃除を終えるまではな!!」

「はいはい〜」

「――まぁよい、風呂上がるまで待っていてやろう」

横で直立不動で直視されていては、リラックスができない……。


「なぁ、お前さっきから風呂乃神とか言ってたけど、何かのアニメの影響か?」

「は? 我が風呂乃神だ。アニメとはなんだ?」

あらー、監禁洗脳でもされているのだろうか。そんな世界が日本にもあったとはびっくりだ。

仕方がない。風呂から上がったら、粗大ゴミ置き場に捨てるのは止めて、警察に捨てにいこう。


「風呂乃神はどんな神様なんだぁー?」

「風呂乃神は、風呂乃神だ」

当たり前だろ? 何聞いているんだ? というニュアンスで言われた。


「……風呂乃神のご利益は何があるんだ?」

「後利益か、ふーむ。考えたことなかったなぁ。綺麗な風呂に入れることじゃないか?」

微妙すぎる。神様のご利益とはとても思えない。しかし俺は大人だ。納得してあげるふりをしよう。


「そっかー、そうだよなぁー」

「他にも聞きたいことがあったら、何でも教えてやらんこともないぞ?」

自身に納得されたことに気をよくしたのか、何やら少し上機嫌になってきている。だが、断る。


「――なぁ風呂乃神よ、風呂ではリラックスしたいんだ。すなわち、何も考えずに、視線を浴びずに、ただぼーっと入りたいんだ。外で待っててくれないか? はっきり言おう邪魔だ。出て行け」

「なにっ!? 風呂乃神に風呂から出て行けとは、どういうことだ!?」

「そういうことだよ。しっし」

幼女を見ることもせず、投げ出している右手を2度払う。


「――お主、風呂乃神だと信じていないな?」

「信じてまーす」

「その声が信じておらぬと言っているのだッ!! いいだろう。その態度を後悔するがいい――」

「はいはい。幼女幼女」

その言葉が引き金となったのか、凄いことになってしまった。

浮遊感を感じたと思ったら、風呂場でお湯と一緒に飛んでいた。


「うおおおおおいっ!? なんだなんだ!?」

「ふふふ、なんと無様な驚き方だ。どうだ? 分かったか?」

空中湯浸かりをしている横で、その幼女も浮き上がっており、白く長い髪の毛は一本一本が生きているかのように、ふわふわと動いていて、その両目は金色になっており、吸い込まれるような輝きを放っていた。


「――不発弾爆発させちまった。マジで爆弾だこいつ」

「分かったかと聞いているんだ」

「分かったよ。風呂乃神」

「分かればそれでよい」

納得した幼女と、自分はゆっくりと降りて行った。


「……湯がすくねぇッ!」

まだ10分も入っていない。ゆっくり1時間は入るのが日課なのに――。


「――なぁ、湯とか出せるのか?」

「出せないこともないが」

「どっちだよ」

「……おい、お主、我が風呂乃神であることをもう忘れたのか?」

「覚えてますよ、風呂乃神様。湯出していただけると助かります」

「掃除をすると約束するなら良いぞ?」

「はい。分かりました」

「仕方ないのぉー。たまには人間の我が儘に付き合ってやろう」

ニヤニヤ笑みを浮べるその頭を引っぱたいてやろうか。と思うが、今は湯のため、風呂のため、我慢する。

幼女が風呂に手をかざすと、その手から並々と湯が出てきた。


「おおー風呂乃神様。お上手」

「そうだろ、そうだろ?」

「そうです、そうです」

「うむ、聞き分けの良い奴は好きだぞ? 私に性器を見られたとたん、おったてて襲ってくる輩は躾が大変でいかん」

輩は返り討ちにされたのだろう。


「我のような美女に見られて、顔を赤めすらしなかったお主、珍しい奴よのぉ〜」

知ってるか? 自分で自分を美女とか言う奴には碌な奴がいないということを。お前もその一人だ。――とは言わない。――まだ。


「いえいえー、幼女は趣味ではないのでー」

「まだ幼女と言うか。我はこの外見でもお主より年上だぞ?」

「――どのくらい?」

「そうよなぁ……1000年超えてから数えなくなったからのぉ」

昔を懐かしむように語っていた。そして思わず声に出てしまった――。


「ババァかよっ」

「……お主? 我のことをババァと申したな? え? その口か? その口なのか?」

これが生の殺気か。と関心させられた。

そして幼女の髪がふわふわと浮き出した。――これはやばい。地雷を踏んでしまった。


「そうだのぉ、まずはぶら下げている男根でも引き千切ってやろう」

「ちょいちょいっ!! まてまて!! これは死ぬまで使う予定がギッシリあるんだっ!!」

そんな言い訳も聞いてくれなく、体が浮かされると、俺のアレが不可思議な力で引っ張られ始めた。


「うぉぉぉぃぃぃっ!!!! 何だこれ!? この野郎っ、止めろ!!」

引っ張られ始める中で、幼女へと手を伸ばすが、届かない。


「そうだなぁ、人語で言えば、人力通でも言うんじゃないか? 風呂の中で我に楯突くなんぞ、阿呆のすることだ」

「ダメっ。痛い、痛い痛い痛いってぇぇぇ!!!!」

ニヤニヤ笑みを浮べながら、こちらのアレに向けてられている手は握られていて、その腕が横へずらされると、自分のアレが捻りを加えながらその横移動に合わせてじわじわと伸びていく。実際に触られていないのに、見えない力によって千切られそうになっていく。


「そうじゃないだろう? ごめんなさい。は、どうした? ほれ、その軽そうな頭を下げてみぃ」

「ご、ごめんなさい!! これからロリって言うから許してくれ!!」

その言葉にピタっと止まった。


「――ロリとはなんだ?」

「えー、えーと――」

咄嗟に出た言葉。これは地雷の予感が漂って来る。

自分で美少女とは言わずに、美女と言ったのだ。そのことからも分かる――。


「とても可愛らしく美人な女性のことを、ロリと言います」

「……ふむ。いいだろう。今回は許してやろう」

その言葉と共に、千切れそうだったアレは元に戻り、体はゆっくりと湯へと戻った。

アレを触って、まだ使い物になるか確かめる。少しヒリヒリするが、一日もすれば立派に活躍してくれそうだ。

どうやらゆっくり浸かる時間はない。風呂に浸かりながら――作戦を練る。

――脳内の電球が光った。


「えー、風呂乃神様。美味しい和菓子が家内にあるのですが、いかがでしょうか?」

「おお、甘いやつだのぅ? くれるというのか?」

「はい。とても、とても美味なので、是非とも風呂乃神様にも食べて欲しいのです」

「うむ、良い心がけじゃ。いいだろう、食べてやらんこともない」

かかった。HITHIT!! 餌にかかったぞ!! これは馬鹿な魚だ!! 釣り針の刺さった餌とも知らずにかかりよった!!


「白い冷蔵……白い棚の中に入っております。白い棚は一つしかないので、案内せずとも見つかる思います。そして棚を開ければ目の先のところにあります。是非食べて来てください。私はまだ湯に浸かってますので」

「そうか。悪いな。それでは一つ食してくる――」

「はい。どうぞどうぞ」

そうして幼女が扉に手をかけ、開けようとしたところで――止まった。


「――駄目だ。風呂乃神は、風呂場に居なければならないのだ。すまないな。先に風呂の掃除を終わらせてくれ」

く、くそう!! 気がつきやがった!! この幼女めっ!!


「えー、それなら私めが取りに行って来ますよ」

「お、そうか。それじゃあ頼む」

風呂から上がり、いそいそと、それでは行ってきますね。と3枚にたたまれて行く扉に手をかけ、開けた――声がかかった。


「いや、待て。待つんだ。駄目だ。先に掃除をしてもらわねばならぬ」

2段階攻めでも落ちなかったか!! 心の中でorzになりながら、そうですかー。と言いながら風呂に戻る――がそれで終わる自分ではない。


「うおおおおおおおおっ!!!!」

風呂に入ろうとした直前、踵を返し、フラインググタックルを幼女めがけて突っ込む。


「ヌオッ!?」


ズターン。


「な、何をするっ!?」

「ふっ、ふっ、ふっ……ターンエンド。俺の勝利だ」

「ッハ、し、しまったッ!!」

幼女の上方に、当たるか当たらないかの空中へ飛び込んだため、幼女は咄嗟にしゃがんだ。

そして自分は風呂から飛び出ることに成功した。


「お主謀ったなァァァァァ!!!! そうか、今までのも演技か!? そうだろ!!」

「そうですが、何か問題でも? 騙される方が、ばーか。なんだよ」

くっはっはっは!! と大きく笑いながらタオルで体を拭いていく。

幼女は怒りが対象に届かないので、床を踏みつけることで発散していた。


脱衣所は、4畳ほどで縦長になっている。

床には床用の大きなタオルを置いているので、床が濡れることも、アレが床で擦れて痛い思いをすることもなかった。

それも計算済みだ。


「くそおおおおお!! 戻ってこいいいいい!!!!」

「ばーか。ばーか。誰がお前みたいな意味不明な風呂大好き爆弾幼女ババァの元へ戻るかよ」

罵声が続く中で服を着終わり、去ろうとした時、


「我はここに居座ってやるからな!! これは持久戦なのだよ。ふふふ、考えが浅かったなぁ、お主よ」

「――そこに居座るつもりなのか?」

「何を動揺している。さてさて何日風呂に入らない生活に耐えれるかのぅ?」

「ふーん、そっか。風呂場改築しようかと思ってたからさ、ちょうどいい機会だよ。さーて、幼女よ、壊されていく風呂場で何日耐えれるかな?」

「な、何だと!? お、お前そんなことが許されると思っているのか!?」

「何を動揺している」

「く、くそおおおおお!!!! 戻って来い!! こっちへ来い!! 食い殺してやる!!」

「ひゃー怖い怖い」

背中に脅迫を浴びるが、気にせずに脱衣所を出た。

和室に着いてもまだ何か言っている声が聞こえてくる。一軒家だからまぁ大丈夫だろう。

風呂上りに水をコップ一杯飲み干す。


「んまい」

さてと、と呟きながら白い棚、もとい冷蔵庫から羊羹ようかんを取り出し、皿に一切れ載せる。


「――ておるのか!? 聞いておるのか!? 風呂場を取り壊すなんぞ、許さんからな!!」

「まだ叫んでるとは、煩い奴だな。それでも神か?」

「く、黙れ!」

「そんなこと言っていいのか? 折角和菓子持ってきてやったのに」


「――え? 嘘だろ?」

「ほら、羊羹だ」

皿を床に轢かれたタオルの上に置いた。それが見えたのか、幼女は目を輝かせて、半身風呂場から乗り出して、膝をついて覗き込んでいた。


「ほ、本物だ。く、くれるのか?」

上目遣いで聞いてくる様子は、非常に可愛いと認めざる得なかった。


「ああ、あげるよ」

「…………届かないんだが?」

風呂場から必死に手を伸ばしてきているが、1Mは足らない。


「ん? 取りに来いよ」

首を傾げて、何で取らないんだ? とばかりに聞く。


「……お主、分かってて言っておるな」

「何のこと?」

「く、くそっ!! この悪魔めっ!! 我が風呂場でしか神力を使えないということを、風呂場を出るとそこらにいる人間の幼子と変わらないということをだ!!」

「へー、そうだったんだ。教えてくれてありがとう」

「なにぃっ!? 本当に知らなかったのか!?」

「詳しくは今知ったね」

「また……また……は、はめたのか……?」

幼女の体がプルプルと震え、風呂場にある物がぷかぷか浮き出して、ポルターガイストのようになっている。


「人聞きの悪いことを言わないで欲しいなー。毒も入っていないし。ほらっ」

そう言って、少し千切って食べてみせた。

怒っていたのに、食べた様子を見たとたん、ポルターガイストは止まり、唾を飲んで凝視していた。どんだけ好きなんだ。


「あー、これ美味しいわ。あげるの止めて自分で食べてもいいんだけどな?」

「そ、そんなぁ……」

世界の終わりだ。みたいな顔をして、力が抜けていた。


「まぁでも、あげるよ。出掛ける用事があるから。それじゃあ」

「だ、騙されないからなっ!!」

その言葉を最後に、自分は外へ出た。――様に見せかける音を鳴らした。


ギシギシと鳴る廊下を、普段通り歩き、いってきますー。と掛け声をかけて、横開きのドアを開ける。

ガラガラガラー。と大きく室内に響く。そして、もう一度ガラガラガラーと閉める音を鳴らす。

ガチャン。とカギをかけて、後はそっと忍び足で戻っていく。

床の上のタオルを先程、部屋の外に少し引きずり出していて、すでに縄をしっかりと結びつけておいている。


後は手鏡で、様子を伺ってタイミング良く縄を引っ張るだけだ――。


「罠か? これは罠なのか……? どう考えても罠だろう。いや、しかしトラバサミも無ければ、上から降ってきそうな檻も無い。あるのはタンスと洗面所ぐらいだ。皿にも仕掛けはなさそうだ。羊羹も例え毒だとしても、風呂場で食べれば問題ない。行くか? 捕まればどんな目にあうか分からないのだぞ? 人間には残忍な者も存在する。あやつはどうだ? ――残忍に違いない。しかし…………ええい!! どうにでもなれい!!」

悶々と独り言で、二役しているような幼女。

しかも最後には掛け声でタイミングを知らせてくれた。何と馬鹿なんだろう。

そーっと、そーっと抜き足差し足忍び足で皿に寄って来ている。

チャンスは皿を持った時の一瞬の緩み。

――――いまだっ!! 


「トラップ発動!!」


縄を強く引っ張って、それが付いた布も釣られて引っ張られる。幼女は足がすくわれて、綺麗にすっころんで、頭を撃つ。


ゴンッ!!


「――アキャッ!!」

鈍い音と、高い音がほぼ同時に鳴った。

すぐさま駆け出して、頭を押さえて悶絶している幼女を捕まえた。


「痛いッ!! 何が起きた!? ど、どこから現れた!? は、離せえええぇぇぇぇぇ!!!!」

「むーり。ばーか。むーり。ばーか」

四肢をばたつかせているが、腰を右腕で巻くようにつかんで抱えているので、この幼女如きでは逃げれないだろう。

現在居間として使っている和室へと連れて来た。相撲をとることが出来るぐらいの広さはある。

布団は常に引きっぱなしで、テレビ、パソコン、タンス(地震による転等防止対策済)と、一般的な男部屋であろう。

ただ、結構散らかっているぐらい――。


「さーて、どうしようか」

「我の頬っぺたを摘むな!!」

むにょーんむにょーん、伸ばしたり押したりして楽しんでいると、やり返そうとしてきた。


「お、やり返すのか? 本気になってもいいのか? 俺は二十歳の成人男性。お前は10歳ぐらいの幼女、さぁどうなるでしょう」

「う、く、ひひょうだぞ!!」

こちらのほっぺまで伸ばしてきた手を引っ込めて、降ろし、拳を作って震えさせている。そして空気が漏れて変な言葉になっている。


「アレを引き千切られるか、引き千切られないかの瀬戸際で、卑怯もクソもないんだよーだ」

「うぅぅ、は、はなひぇっ!! これひじょうの、くひゅじょくはゆるひゃない、からな!!」

「ふーん。――何言ってるか分からん。そうだ。俺のを千切ろうとしたしな、お前のを千切ってやることにするか?」

両手をほっぺから外すと、殴ってきた。――が、楽々拳を掴んだ。


「おっと、手癖が悪いなぁー」

両手をそれぞれ掴んでいたのを、両腕の手首を片手に掴み直した。

手が駄目ならと、さらに足でも攻撃しようとしてくるので、両足、膝をつかせた。

そして体をじっくり嘗め回すように見ながら言った。


「さーて、これからどうするかなー? まずはご奉仕ってのをしてもうか」

「やれるものなら、やってみるがいい!! 食いちぎってやるからな!!」

野生の獣のように、歯を剥き出しにしながらこちらを噛み付いてこようとする。

本当に何の獣だこれ。


「おお、そうか、ご忠告感謝する。その穴は止めておくことにするよ。残り二つもあるからな。――ちなみに口を閉じなくする道具もあるんだよ?」

「お前ぇぇぇぇぇ!!!! 殺す!! 絶対に殺す!!!!!」

何のことかすぐに分かったのか、顔を赤くしながら暴れ出した。現状の体制だと抑えきれないので、倒して馬乗りになった。


「やっぱりそうだな、俺一人で楽しんでも他の人類がかわいそうだ。うん、売ってしまおう」

「な、な、なんだって!? 何を考えてるんだ――?」

幼女は暴れるのもやめて、赤めた顔を徐々に青くしていった。


「ん? 1日100人ぐらいいけるかな? いけるよな」

「む、無理だっ! ほ、本当に何を考えてるんだ……? お、お前……おかしいぞ……」

「年齢は問題ないな。器量は良いから、んー短くても5万貰えるかな? それなら日収500万、月収だと1億5000万、年収にもなると13億。

やばいなこれは。月に3000人、年では3万6000人。頑張れよー期待してるからなー」

全く心配の意など持たずに、軽い調子で言ってやった。


「――か、神にそんなことをしても良いとお前は思っているのかっ!? 今は普通の幼子と変わりは無い……そんなことをすれば……」

「んん? 何をするかわかるのか? ええ? わかるのに、世界で起きる"そんなこと"は見向きもしていないのか? 自分は嫌なのに? えらく自分勝手なんだな」

「ち、違うっ! 我は風呂乃神であるのだ。そんなことは他のに言え!!」

「責任転嫁ってやつ?」

「な、何を言うか……」

「ま、どうでもいいことだ。神なんかに期待してないからな」

言い返せないのか、目を逸らしたまま力弱く押してくるだけだった。


「それじゃあ道具でも取ってくるか。ここで待って居ろよ」

馬乗り状態から立ち上がり、部屋から出た時、


「今だっ!! 馬鹿め、油断したのぅ!!」

幼女は反対側のふすまをあけて、そのまま走り去った。



「――あれ、何故だ!? 何故開かないっ!?」

「これなーんだ?」

必死に風呂場のドアと格闘している幼女。脱衣所の入り口の壁に体をもたれさせて、指で摘んでいる物を前に出す。


「……カギ」

「その穴なーんだ」

風呂場のドアを指差す。


「……カギ穴……こ、こんなのぶち破ってやる!!」

「そんな貧弱な手足じゃ逆に潰れるだけだって。それに――風呂乃神がそんなことしていいのか? 風呂の扉を破壊するのか?」

幼女は振り上げていた腕を下ろした。


「く、くそおおぉぉぉぉぉ!!!!」

「はい、捕獲〜」

この場から連れ去った時と同じように、片腕で腰を抱きかかえ連れて行く。


「天罰を浴びろ。地獄に落ちろ。碌な死に方にはならないぞ。死んでから目に物見せてやるからなッ!!」

「風呂乃神に何か出来るとは思えないなぁ」

クソっ! クソっ! と手や足でこちらを殴る蹴るしてくるが、幼女の腰の入っていない攻撃なんて、はっきり言って利かない。


「まぁどうぞご自由に。今を出来るだけ楽しむのが俺の行き方だからな。生きている間はせいぜい楽しませてくれよー? 死ぬまで面倒みてやるからな? 後80年は行きたいなぁー。80年、頑張れよ? ――いや、もっとだな。後継者が出てくるだろうから、もっとだなぁー。それが続いて、さらに続くだろう。性質の悪い後継者だと、実験動物のような扱いになるかもな。やはり人類滅亡するまでになりそうだな。人類滅亡でも祈ってろよ。何千年かかるだろうな」

一言一言かみしめるように、ゆっくりゆっくり言ってやると、現実味を帯びて想像してしまったのか、ここで変化が現れた――。


「…………い、いやだぁ……私そんなに耐えれない……ねぇ、許してぇ……。お願い……。もう二度と現れないからぁ……やだよぉ、やだよぉ……」

涙を流し始め、手で顔を何度も擦るが、それ以上に湧き出る涙が廊下に落ち、小さな黒い染みをつくっていく。


「俺にしようとしたこともう忘れたのか? ええ? その軽そうな頭を使って思い出せ」

「う、ううぅぅ……本当に千切ろうとは……思ってなかったもん……お願い、もうあんな事しないからぁ…………」

「ほぉ、便利なことばだな。しようとは思ってなかったか。早速使ってみよう。――和菓子欲しがってたよな? 欲しいか? でもな、あげるつもりなかったもん。くくく……くはっはっはっ!!」

「うぅぅ……許してぇ……お願い……お願い……お願い……お願い……お願い…………」

自室である和室まで戻ってきた。幼女を降ろす。力なくうつ伏せになり顔に手を当て、すすり泣いている。

その横に、タンスから出した学生時代着ていた青のジャージ上下を投げ捨てた。


「ワンピースを脱げ。それに着替えて待っていろ。――神が着ていた服。高く売れそうだなー?」

「……あぁ……これは――」

幼女は上半身をあげて、地面に対してMの字型の女の子座りをしながら、ワンピースを、体を抱くようにして握った。


「は? 何か言ったか?」

「……何でも……ない…………」

幼女は聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で呟いた。


「それじゃあ戻ってくるまでに着替えてろよ。じゃないと脱いでる姿拝ませてもらうからな。着替え終わったら、初仕事をしてもらう。楽しみにしていろよ」

「う、う、あぁ、あぁぁぁ…………わ、わたし、ひっくっ、ま、まだ、したこと、ひっくっ、ない、のぉ……お願い……初めては好きな人がいいのぉ……何でもするからぁ、ひっく……それだけは許してぇ…………」

幼女は泣いていただけから、息をヒックヒックと泣く時に良く見られる症状になり、先の体制から、どんどん頭が下がっていき地面に両腕を枕代わりにして、少し変わった土下座のような格好で泣き続けた。

その言葉に返事を返さずに、部屋を出た。


数分後、部屋に戻ってきた。棒状の物と、四角い物と、楕円型の物を持って――。


「ん? 下着きていなかったのか? 淫乱か?」

「……そんな習慣はない…………」

上半身は立った状態にあるが、俯いているため、長い髪が邪魔をして表情を知ることは出来ない。

そしてその両手には抱きかかえるように、綺麗にたたまれた白のワンピースがあった。

自分のサイズのジャージはやはり大きいようで、だぶだぶであった。


「へー。神はノーパン、ノーブラだったとはなぁ。まぁいいや――仕事はこれだ」

「――え?」

自身が両手に持った物を、幼女がゆっくりと上げた双眸で見て固まっていた。


「これだよ、これ」

「――――え?」

「あれ、これ見ても何するかわからないのか? 知っている時代にはまだなかったか?」

「ど、どういうこと……?」

「だから、見たまんま。掃除だよ。掃除」

「ほ、本当に掃除なの? これだけでいいの?」

そんなまるで否定したいように言われると困るものがある。


「あれ? 違うことしたかった?」

そう言って、両手に持ってた物を後ろへ下げた。


「いやっ、掃除がしたいっ!! 掃除するっ!!」

幼女は白のワンピースを横に置くと、元気良く手を上げ宣言した。

片手はズボンを押さえて、落ちるのを防いでいる。


「だろー? じゃあ頑張れよー」

「――どこをすればいいの?」

「家の中全て」

「……何階建て? どのくらいの大きさ?」

「2階建てで、結構な大きさ。ちなみに数年間まともな掃除していない。おそらく数日間は余裕でかかると思われる」

「…………やだぁ」

「え? 何か言った? 何か言ったのかいま? 愚痴を零したのか?」

「言ってないっ!!」

そうかそうか。と頷き、質問をする。


「そうだ、ちなみにさっきの違うことって、例えばどんなこと?」

「えっと、だから…………そのぉ…………」

両手を空中に上げ、うにゃうにゃさせている。何かを表現したいようだ。

少しの間それをした後、ピタッと止まり、顔がどんどん赤くなったと思ったら、3種の仁義を取り上げられた。雑巾と、はたきと、掃除機の3つだ。

一度いっぺんに取ろうとして、ズボンがずり落ちてしまったので、もっと顔を赤くしながら、一個ずつ取り上げられた。


「説明したくないっ!」

「何を想像していたんだ? おーい、言ってみろよー? ほらほらー」

「馬鹿っ! もうやだッ!!」

何分かずっとからかった。からかうネタが無くなったので、ソファーに座って終わらせたところ、幼女は少し考え始め、言った。


「――んと、まずは風呂掃除からしてくるから、カギ貸して」

「ん? またなんかいったか? ……男の中に溜まったものの掃除がしたい? そうかそうか、少し待ってろよ」

そう言いながら、ズボンを脱ぎ始める。


「この部屋の掃除をはじめますっ!!」

「うむ、今日のところはこの部屋だけで許してやろう」

うーっ。とじと目で睨んで来るが、ズボンに手をかけると、すぐさまキビキビと掃除を始めた。

はたきで台を使って天井をポスポスしたら、はたき自体から埃がボスボス出てきて、それを吸ってしまったのか、コホコホと咳き込んでいた。

そして引き摺るほど長い髪の毛が、埃を集める役割をしていた。

流石に見るに見かねて、手を貸した――。


「な、なにをするっ!?」

「じっとしてろ。噛り付くぞ」

「うぐぅ……」

額等についたりして、さらさらの綺麗な白髪も半分近くがばらばらになって、汚れていた。

それを丁寧に丁寧に束ねてゆき、一まとめにしゴムでとめてあげた。

引き摺る程あった髪は、変則的なポニーテールとなって腰ほどまでの長さに綺麗にまとまった。

そして、買い置きしていたマスクがあったので、それを後ろからかけてあげた。

最後に、両手で必死に掴んでいたズボンをッグ。と一気に持ち上げると、脇の下まで上がってしまった。キャッ。と可愛らしい声を出したかと思うと、何をするっ!! と毎度同じく怒鳴ってきた。華麗にスルーで、胸元以上まで来たズボンをゴム紐で調節してずれ落ちないようにしてあげた。

そして裾を巻くって引き摺らないようにした。


「よし、これでオッケー」

最後に頭をポンポンと叩くと、手で払ってくるがすでにその時には離しており、空振りとなった。


「むぅ……」


「それじゃあ、俺は他の用事をしているから。さぼるなよ」

「私が何で……」

「え? まだ何か言おうとしている? 聞き間違えだよね? そうだよね?」

「うぅぅぅぅぅ……やるよ! やればいいんだろっ!」

「その意気だ。あ、あとそうだ。そこの1段目のタンスは俺の秘密ゾーンだから開けたらだ・め・だ・ぞ?」

部屋の中で一番小さな木製のタンスを指差して言った。

幼女は少しだけ考え、肯定の返事を返してきた。


「――うむ。わかった」

「よし、それじゃあ何かあったら叫ぶといい」

そう最後に言い残して、部屋から出て行った。


――


部屋にポツンと残された幼女は、足跡が遠くなるのを耳で確認し、早速秘密ゾーンのタンスを開けることにした。

弱みでも握ってやろうと考えたのだ。

「……馬鹿め。わざわざ見てくれと言っているようなものだ……ふっふっふ……」

中腰になり、ゆっくりゆっくりとタンスを引いて行く。


「――何が出るかな? それっ!! ――プギャアアアアアアアッ!!!!!!!!」


――


プギャアアアアアアア…………


「おお開けるの早いな。しかしまぁ馬鹿正直に開けるとはやはり、馬鹿だなー」

聞こえてくる叫び声ににやつく。

タンスの中にはびっくり箱に入っている、スプリングがついた飛び出る玩具が大量に入れているのだ。

それがタンスを開けたと同時に一気に発射されるわけだから、その驚きも大きなものとなっただろう。

ニヤニヤしながら、自分はテキパキと"用事"をこなしていく――。


――――


「くそぉぉ風呂乃神ともあろう者が腰を抜かしてしまったぁ…………」

へたり込みながら周りを見渡すと、飛び散った玩具が部屋中をカオスと成していた。

それを全て自分が片付けなければならないと思うと――。


「うぅぅ二段回でダメージを与えてくるとは……アイツやっぱり悪魔だぁ……」

やっと歩けるようになった後も愚痴を零しながらも、一生懸命自分の部屋でもないのに、掃除をし続ける。

掃除の基本である、上から。という基本を忠実に守り、天井についた埃から、丁寧に叩き落としている。

その次にタンスの上や、照明。そして、床に散らばったゴミの片付け。

雑誌等の本類がたくさんあり、分類毎に積んでいく。その中には女性がいやらしい格好をした物もあり、赤くなりながら、見つけたらゴミ箱に投げ捨てている。

――が、すぐにその後のことを考え、ゴミ箱から出して丁寧に他と同じく積んで行く。


「こんな低俗な本を積んでいる神様が他に居るのだろうか……はぁ……」

しかし考えていたことよりも全然ましであるので、しっかりと掃除を続ける――。


――


2時間後、やっと終わったぁ。と床の上に腰を下ろしている幼女の下へやって来た。


「終わったのか?」

「終わった」

掃除の神にでもなったらいいんじゃないか? と思えるぐらい綺麗な、片付いた部屋になっていた。

シュールなのが、詰まれたエロ本類である。


「それじゃあ、ご褒美だ」

「――へ?」

幼女は予想もしていなかったのか、すっとんきょな声を上げた。


「ん、いらないのか?」

そう言いながら綺麗になった丸テーブルの上にお盆を置く。その上には、熱いお茶と和菓子の盛り合わせが乗った皿がある。


「い、いる。欲しいっ! 食べるっ! 食べて良いのか!?」

「どうぞ」

4速歩行で高速に丸テーブルに近づいてきた幼女の前へお盆からお茶と皿を置いてやる。


「しかしまぁ、初めは、我は、とか、お主。とか、だのぉ。とか言ってたくせになぁー」

「うるさい! まぁしかし、今なら多少の無礼も許してやらんこともないな」

強気な態度で、神様とは思えないテーブルマナー、両手でガツガツと食べていた。


「さっきは、初めてなのぉ。らめぇ。とか言ってたくせになぁー」

「う、うるさいぞっ!! そんなこと言った覚えはないぞ!! 言っておらん!! 断じて言っておらん!!」

口から大量のグチャグチャが飛来してくる――が、お盆でガードする。


「ふーん、『初めては好きな人がいいのぉ。初めては好きな人がいいのぉ。初めては好きな人がいいのぉ。何でもするからぁ。何でもするからぁ。何でもするからぁ』」

「――な、なんだそれはっ!?」

口から先よりも大量で、大きなグチャグチャが飛来してくる――が、お盆ガード発動。


「録音再生が出来る…………俺専用の特殊な能力」

手に持った機械を見て、その場で思いついた適当なことを言ってみた。


「そんな人間聞いたことないぞッ!?」

「言ったことないもん」

「そんなにも人間は進化していたのか……そ、その能力を消せ!! 今すぐ除去するのだ!! 駄目ならお前は死んでしまえっ!!」

「むーり」

「いぎぎぎぎぎ…………」

よっぽど悔しいのか、歯軋りを立て始めてしまった。


「さーて『何でもするからぁ』何でもしてくれるのかな? 神様は約束を守ってくれるのかな?」

「この悪魔、非人間、クズめっ! ――くそっ、何でも言ってみろ!!」

「食べ終わったら言うことにする」

「うぅぅぅぅ…………」

とたんに、こちらをちらちら睨みながら、ゆっくりゆっくりちまちまと食べ始めた。

しかしすでに9割方食べ切っていた後なので、最大限にゆっくり食べても、10分とかからずに完食することとなった。


「終わったな。それじゃあ、またこのワンピースに着替えろ。30秒だけ待つ」

「ま、まだだっ!」

皿を嘗め回すとでも言うのだろうか――。


「終わったな。30−29−28−27−――」

数えながら部屋を出ると、あせあせと着替え始める音が部屋の中から聞こえてきた。


「5秒前〜」

「ま、まってくれっ! まだ終わっていない!!」

「…………しょうがない。30−29−28−――」

仕方なく数えなおす。


「5秒前〜」

「ま、まだだっ!! まだ駄目だ!!」

「は? 遅すぎるだろう」

有無を言わさずに部屋に入った。

そこには、ズボンのゴム紐を小さな手で必死で解こうとしている幼女の姿があった。


「解けないんだぁ〜?」

わざと馬鹿にしたように聞くと、予想通り怒ってきた。


「う、うるさいっ!! お前がきつく結ぶから悪いんだっ!」

「解いてやろうか?」


「……いらん世話だっ! 一人で出来る」

「一瞬考えたな」

「う、うぅぅぅ……」

「次の30秒後、着替え終わってなければ――どうすると思う?」

「…………ほどいてくれ」

何をどうする。とまで言ってないのに、大人しく白旗を揚げてきて、自分で上のジャージを胸元まで上げていた。

これだけ見ていると、本物の子供だ。


「見てないで早くしろっ!!」

「はいはい」

ささっと簡単に解いてやった。


「ありがとう。は?」

「何でお前に礼をしなければならない」

「ふーん」

「……ひ、卑怯だぞ…………ありがとう……」

ただニコッと笑っただけで、卑怯と言われ、小さな小さな声でありがとうと呟いていた。


「それじゃあ、10秒外で待ってる」

「え? 10秒っ!?」

「10−9−8−――」

「わわわわっ」

「3−2−1−0。はい。――おおっ良く着替えれたな」

「おまえ、本当に、碌な死に方、しないぞ?」

必死に着替えたのか、軽く息切れしていた。


「さて、目を瞑ってもらおうか」

「何っ? 何をする気だ……?」

「ふふふっ」

不気味に笑いながら、お姫様だっこをした。


「キャッ。は、離せっ!」

四肢をばたつかせてきてうっとおしいので、


「落とすぞ」

ピタっと止まった。目は閉じられているが、口からううううう。と唸る声が止まらない。


ガチャガチャ。

ガラガラガラ。


「もしかして、外……なのか? だめだぞ!! 私の様な美女が外に行くと、人間達にとって食われてしまうっ!!」

目を開けようとするので、片手で両目を隠している。


「さて、到着だ」

そういいながら、ゆっくり降ろして立たせ、目隠しも取る。


「――――風呂場だ」

そこは原型を思い出せないほど綺麗になっていて、空が広がっているような風呂場となっていた。

幼女がその光景にえも知れぬ興奮を覚えていたところに、後ろから声がかかった。


「そう風呂場。掃除もした。お別れだ」

「何っ!? どういうことだっ!」

見上げてきているのに、こちらを見下ろしているような口調の幼女の頭を撫でてやる。

払ってこようとするが、逆にはたいてやる。


「お前みたいに馬鹿だと、本当にこんな目に何時か会うからもう人間界に来るな。どっかで大人しく風呂に入ってろ」

「…………馬鹿っていうな……」

力なく呟き、俯きだして、撫でる頭を払ってはこなくなった。


「何でもするって言っていた約束は、もう二度と人間界に来るな。それが約束だ」

「…………」

「わかったか?」

「…………」

幼女は首を横に振った――。


――


幼女の中では、ある考えが浮かんでいだ。現在二人とも風呂場の中なのだ。それはつまり、自分のテリトリーであり、男に何でもやり返せる。――しかし狡賢い男が、そんなことも忘れて入ってくるはずがない。何故か? という理由に明確に答えは出てこなかった。が、これでお別れであり、相手は真剣だということがわかった。

神は約束を守らなければならない。録音までされていては、それこそだ。

しかし――この約束に首は縦に動かなかった。

騙され、捕まえられ、絶望を味わい、泣かされ、恥ずかしい過去を言わされ、しかもそれでからかわってくるという残虐非道。さらにはこちらの口調が昔々のに戻る程、攻めに攻められた(からかいに、からかわれた)。

――なのに何故だろう。首を縦に振れないのは。


――


「わかったかって聞いているんだ」

頬っぺたを両手でむにぃーと引き伸ばす。


「……痛い」

「わかったか?」

「……わからない」

はぁぁぁ。と溜息を大きくつく。


「1時間だけ時間をやる。一時間後まだ居たら襲うからな? その間に俺は飲めない酒を飲んでまた来る。俺は酒飲んだら記憶なくなることも多々ある程だ。だから襲った後、外に捨てに行くかも知れない。何をしでかすかわからないからな」

「……わかった」

「さっさと神の国でも何でもいいから帰れよ」

「…………」


――


「はぁ、酒が美味しくねぇ。どうせなら美味しく飲ませてくれよな……」

独り言をぶつぶつ言いながら1時間酒を飲んだ。


一時間後


「何でいるんだよ」

「……いたいから」

風呂場の扉を開けると、背筋をしっかりと伸ばしてこちらを見返す白いワンピースを着て、白い髪はポニーテールのようにまとめられ、瞳は黒。白い頬は掃除で汚れたのか、少し黒くなっている。そんな今日、突如としてやってきた幼女がまだそこにはいた。


「先に言ったからな?」

それだけ言うと、強引にお姫様だっこをして、無言で自室まで連れて行く。

そして布団の上に落とし、自身の服を全て乱暴に脱ぐ。同様に幼女のワンピースも一気に脱ぎ取った。

悲鳴も何もあげずに、ただこちらの目を見る幼女。

馬乗りになって、小さな唇へゆっくりと顔を下ろしていく――。

唇と唇の距離が後1センチ程となったところで、声をかけた。


「はぁ――俺の負けだ。何で嫌がらないんだよ」

「……優しい人だとわかってるから」

「優しい人と狼は違うだろ?」

「そうかな?」

「そうなんだよ。やっぱりお前人間の世界に居たら危険すぎる」

「ほら、心配してくれてる」

そう言いながら、自分の頬っぺたを幸せそうに触ってきた。


「――何で帰らないんだ?」

「……まだお風呂の掃除が終わっていないから」

目を逸らしながら返事が返ってきた。


「ちゃんとしただろう」

「ううん、風呂乃神からしたら、物足りない」

「物足りないって何だよ物足りないって。後どれだけすればいいっていいんだ?」

「ん〜そうだなぁ〜、汚れがこべり付いてるからなぁ、あと1年ぐらい? 2年かな? 10年かな? 死ぬまでかもー」

にこにこ笑いながら自分の顔をベタベタと玩具のように触ってくる。


「はぁ? どんだけやれっていうだよ? それなら改築するわ」

「だ、だめっ!! あの空色のタイル好きなのっ!!」

鼻を摘んで来た。顔に息を吹きかけてやると、ああんっと顔をしかめて、手を離した。


「ふーん、タイル全部やるから、帰れよ」

「やだ」

横を向いて、完全拒否の様子だった。


「――どうしたら帰ってくれるんだ?」

「何をしても帰らない」

「……俺、もしかして憑かれたのか?」

「憑かれただなんて、ひどいぃ……」

「あ、いや、ちがう。その、なんだ」

急に手で目を覆って、泣き出す幼女に激しく混乱した。


「うっそー」

「……」

「私を女にしてくれたら帰るよ?」

そう言って妖艶な笑みを浮べながら、唇を触ってきた。


「俺の素晴らしいソレを見てみろ。男としての機能をお前じゃ果たそうとしてくれていない。つまり趣味じゃない。わかったら帰れ」

「ええっ!? うっそー!?」

「ほれほれ」

そう言いながらブラブラと見せる。


「むぅー」

「さて、それじゃあお開きだ。俺は寝る」

布団の上に居た幼女を転がして、布団から退かす。


「ちょ、ねぇちょっと!?」

「もう寝ましたー」

「ちょっと!! 起きてよー!!」

布団を被って丸くなる。上から揺すったり蹴飛ばしたりしてくるが、我関せず。

何分かすると、大人しくなったので、そーっと覗いて見ると――。


「ぷはーっ」

「……」

棚に隠していた酒を勝手に一気飲みしまくっている。

唖然としていると、見つかって――飲まされた。

その後の記憶はない――――。


――――


「っ――。いてぇ……きもちわりぃ……」

激しく二日酔いに不機嫌に目を覚ます。

自身の姿は全裸で布団もはだけて寝ている。

何が起きたのか全く分からない。

仕事から帰って、風呂入って――。いや――。風呂乃神がいて――?

徐々に記憶を取り戻していく。


やってないだろうな俺。とブツを確認する。朝の自然現象だけで問題はない。

周りを見るが、あいつの姿はない。

風呂もふらふら歩きで見に行くが――いない。

台所で水道から水を出し、コップに入れ、飲む。


「はぁ……夢だったのか? それにしてもあんな美少女が迫って来られたら、いくらそんな趣味なくても耐えれねぇよ。俺がどんだけ我慢したと思ってるんだ……。やったら帰るっていうし――本当は居ても良かったとどこかで思っていたのかねぇ……。やめだやめ!! ああっ変な夢だ。クソッ欲求不満なのか!?」

頭を水道で冷やし、手探りでタオルを探していると横から出され、お、ありがとう。と言い、受け取って、髪をガシガシと拭く。――――え?


「お、お前っ!?」

横には昨日の幼女がいた。


「聞こえちゃった…………居てもいいの?」

「き、きききいていたのか!?」

「うん……」


恥ずかしそうに俯くそいつは自分のジャージを着て、バケツを片手に、もう片手はズボンを押さえていた。

何か誤魔化そうと必死に考えるが――――はぁ、とため息をついて言った。


「――泥棒に人形と間違われて連れ去られても知らんからな?」

「うん」

「何か起きても助けに行かんからな?」

「うん」

「家の掃除してもらうぞ?」

「うん」

「……狼が襲ってしまっても知らんぞ?」

「うんっ!」

「…………風呂掃除もしろよ?」

「ううん」

「分かったよ、風呂掃除は俺がするよ」

「うん」

「勝手にしろ」

「うんっ! 大好きっ!!」

「あーあーあー知らん知らん知らん」

「――あ、立ってる」

「は? ……違う。これは違う!!」

「やったー!!」

「やったーってなんだ!? は、離れろ!! 触るな!! あっ……」

「やっても帰らないからっ! ねっ!」


――――


そんな騒がしくやってきた幼女なのか少女なのか女性なのかババァなのかゾンビなのか不老不死なのか精霊なのか神なのかまだ良く分からないそいつが、一人暮らしのこの家に住み着き、二人暮しとなった。


風呂乃神の生態:1


布団で一緒に寝ると言い出したので、風呂場に投げ捨て鍵をかけたのだが、朝になれば同じ布団の中に居る。

どうやら中からだと鍵を開けれるようだ――。



















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