No4 たこたこonline 2
7時間の授業を終えたところで、何となく勉強する気がなくなったのでさぼる事にした――。
小中の基礎授業以外では、勉強をやりたくなくなったら適当に毎回さぼっている。逆にしたくなったら、14時間の授業外でもやっているので、遅れは生じていない。
VR内での自室で、ふかふかベットに身を投げ出して空を眺める。
天井は思考一つで一瞬にして消え去っている。壁も同様に。
両手を頭の後ろで組んで、周りの草原からくる気持ちの良い風と自然が織り成す優しい音に耳を傾け、タコの歩みよりも遅い雲を何も考えずにただ眺める。
――どれくらいの時間が経ったかは分からない。
そのゆったりとした自分の時間を切り崩す音が鳴った。――鳥の鳴き声。
一匹が微かな音量で優しく鳴いた。
この音は自分を呼ぶ音でもある。誰かが連絡を取ろうとしている。
けたたましい音が鳴られては非常に不愉快なので、そういう音にして最小の音量に設定してある。
1分前に呼びかけて来た鳥の声が、再び聞こえる。――放置。
現在、誰であろうと完全に無視だ。
電話には出たくなったら出る。今は出たくないので出ない。――ただそれだけだ。
今では立体画像が表示されるのだが、昔の名残でまだ電話と呼んでいる。
3分もほって置けば、大抵の者は諦めて出直す。その3分限定の鳥の綺麗な声に耳を傾けて癒される。
しかし今回は違った。鳥の鳴き声がオーケストラに鳴り始めたのだ。
一匹がずっと鳴いても面白くないので、連続でこちらに連絡を取ろうとした場合は多種の鳥による1曲のオーケストラになるようにしている。
設定してから初めて聞くオーケストラだ。
このプライベートルームに連絡を取れる者は長年の友達など、親しい知り合いぐらいだ。
その中にこのように連絡をしようとしてくる者はいなかった。
自分に無理に連絡を取ろうとしても無駄だと理解してるからだ。
となると、誰だろうか。
――考えても分からない。
鳴り続けるオーケストラ。3曲目に入った。
しぶとい訪問者だ。
自作し、設定した10曲が終わったら電話に出てやることにして、目を閉じてその音に感性を委ねた。
そしてとうとう10曲目が終わった。とことんしぶとい人が連絡を取ろうとしているようだ。
右手でベットの横に置いたテーブルから冷める事をしらないコーヒーを取ろうとしたが、その手はカップをすり抜けた。
掴めないカップを横目で見ると、カップはあるが――右手はなかった。
忘れていた。現在4つ手ではないのだ。仕方なく枕にしていた両手を開放するために上半身を起こし、両足をベットから下ろし、コーヒーを一口飲む。
1曲目が再び鳴り始めたので、思考で連絡を取る許可を出した。
目の前に、背筋良く立って教壇の前で指示を出している女学生が姿を現した。こちらが横に出たため、まだ気がついていないようだ。
見渡すとこの教室の規模は確か1000人は優に入る部屋で、8割方イスが埋まっている。
何の集会だ? と首を傾げたところで、女学生がこちらに気がついたのか、声をかけてきた。
「ねぼすけさん、今日は何の日か知っていますか?」
不覚にも女学生に見とれてしまった。先ほど聞いて居た鳥達に負けない綺麗な声をしていて、それに見合うだけの容姿でもあった。
足は細くすらーっと伸びている。
そして見上げる形となっているので、その長い足と長くはない蒼いスカートによって、見えそうで見えないギリギリを演出していた。
上半身は黄色いTシャツ一枚だ。腰はくびれていて細く、抱き締めたら折れてしまいそうだ。
そのど真中に『文化祭実行委員』と縦書きで書かれているが、程好い大きさで手に収まるサイズの二つの張りによって上の『文化祭』の文字が横に少しだけ引っ張られている。
黒髪はその170は超えているであろう身長に負けない長さで腰まで綺麗に揺らめいている。
顔は外人並みに彫が深く、気は強そうだが知性を秘めた目をしていて、唇はツンと張っている。
思わず唇を奪ってしまいたい。――二つの意味で。
現在、見とれて返事を返さない自分に罵声による罵声を浴びせられているのだ。
汚い言葉ではないが、トゲを突き刺しますよ。という自己主張を綺麗な声と言葉にしっかりと秘めている。
「ちょっと、聞いていますか?」
「悪い、聞いていなかった」
女生徒は眉をピクっと動かすだけで、その顔には怒りを出していなかった。――が、分かる。奥に秘めた炎が燃え上がっているのが。
「――――もういいです。席に座ってください」
大きな瞳で睨まれた。ゲームの世界で目も背けたくなる生物達の殺意を何度も浴びているのでそんな綺麗な顔では全く怖くない。
逆に言い返して、落城してやろうか。と一瞬思ったが、ここは素直に従うことにした。
教室に目をやると、多数の目がこちらを見ているのだ。ある者は怒気を含んで、ある者は恋慕を含んで。臆さずに空いている席を探す。
後方に見知った顔を発見したので、そこへ思考によって自室から飛んだ。
イスに腰深くかける。
授業で良く一緒になる友人に話しかけられた。
「すまんな、あの人に聞かれてお前の自室の番号を教えしまった。それにしても良く来たなぁー。来ないと思っていたよ」
悪びれた様子は無く、話を変えるように後半部分を言った。
「問題はない。あの女の名前は何て言うんだ?」
響く声で進行し始めている女生徒を見て言った。目が合ったのか、確かに睨まれた気がした。
しーんとした教室でどうどうと喋る邪魔者を威嚇している様だった。
友が声を落として言った。
「知らないのか? 全国の同じ高1の男なら誰もが知っている俺達のアイドルだぞ?」
記憶をゆすってみるが、あの女生徒の記憶は落ちてこない。
「名前は椿 可憐だ。ちなみに俺は可憐様ファンクラブ6番目だ」
そう言って、賢いのだが、どこかアホな友はピンク色のカードを胸ポケットから出してきた。
半分にへし折ったら面白いことになりそうだ。と考えるだけに留めて置く。
常時睨まれた気配がする中、この集会は何なのか聞いた。
どうやら我がクラスは高校生による文化祭に参加するらしい。
クラスといっても、知らない者も多数居る。
全国の高校1年生から集められたクラスだ。このクラスは3組。一桁台とは覚えやすくて助かっていた。3桁以上なんて、毎回の自己紹介のときに面倒極まりない。
このクラスでやる始めての行事である文化祭についての集会のようで、椿可憐が主導となり話を進めていた。
全国規模でやる文化祭は規模が大きく、VR内で7日に渡って開催される。
全国民は行事が大好きで、ほとんどがやってくる。毎年、小中高によって年3回間隔を空けて行われるのだが、どれも人気だ。
中でも高校の物は一つ一つがレベルが高く、開催する者の数も小中と比べると少ないので、どの店舗も行列が出来る程である。
さらに言えば、全世界からも人がやってくる。
そういう訳であって、半ば強制的に全クラスが文化祭に参加している。
授業のクラスメイトは授業の度に頻繁に会うが、こちらのクラスメイトと合うのは行事ぐらいのものだ。
これが高1のクラスの初顔合わせでもあった。
そういえば今日、事前に集会があると知らされていたのを思い出す――。
タコのように出だしで躓いたかな。と思うが、全く気にはしていない。
あの時、自室でのんびりしたかったからしたのである。そのことに後悔はない。
一通り説明を友から受けた。
そして輝く目をして一時たりとも椿可憐の姿を焼き付けようと目を見開いている横の者をほっておいて、のんびりと進んで行く話を楽しんでいると、急に名前を呼ばれた。
「深化 華王。貴方にも意見を出してもらいたいのですが如何でしょうか?」
自分でも思うが、華王だなんて、何とも大げさな名前である。両親が結構アレな人達なので、仕方がない。
そのうち名前を変えよう。と考えているので、今はこの名前を存分に楽しんでいる。――そのうちと考えながら早十数年が過ぎてしまった。
そして知り合いにはカオウが呼びづらいらしく、友からはコウと呼ばれている。
「意見を出してもいいのか?」
ベンチに座っていたら行き成りファールボールが飛んできた。ぐらいに行き成りであった。
「はい。誰の意見でも、良かったら取り入れます」
暗に、駄目人間でも良い案ぐらいは出せや、ボケ。と言われている気がしたのは気のせいなのだろうか。
椿可憐の後ろに広がるスクリーンには、喫茶店で決まったようで、そこからどう発展させるかの話し合いをしている。
少し考えた後――思考によって書き込んだ膨大な量の情報を椿可憐の目の前へ止まることなく送り続けた。
次から次へと出てくるスクリーンの情報に、教室に居た生徒の殆どはついていけていない。
椿可憐はその莫大な情報を一つでも逃すまいと、頭をフル回転させているようだ。
そして沈黙の数分後、こちらから送る情報は終わりを迎え、椿可憐の元で表示されたスクリーンは姿を消した。
生徒の大半は途中で解読を諦めている。残りの者はついて行こうと必死だが、全く持ってついてこれていない。
そんな中でも横に居る友は解読していた。――椿可憐が読み解いている姿を。
椿可憐は口を開いた。
「2人で話し合った結果、コスプレ喫茶となりました」
「「「ええぇぇぇッ!!!!?????」」」
有無を言わさない声だったが、流石に生徒たちが悲鳴を上げたが、そんなことはお構いなしに話を進めていった。
「えーと、服装は、競泳水着、ネコミミ、バニーガール、メイド、執事服…………で、着て貰う服と仕事内容は各々にメールを入れます」
「ちょっとちょっと!? 話し合う予定だった本格派の喫茶店はどうなったの?」
一番前に座っていた女生徒が立ち上がって拒否を含んだ声で発言した。
「喫茶店だけど?」
何か問題でも? と聞こえてきそうな声に、その女生徒は崩れ去った。
そして見たことのある顔の女生徒が呟いた。
「あぁぁ……最後の砦が落とされた……」
毎年ある行事。自分はいつもそのやり取りを楽しむだけで、後方で聞くだけだった。
が、ある年、誰かが自分に意見を求めた。
今回と同じ様に、事前に独自に考えていた案を、莫大な量の情報を突きつけた。
その者は一瞬、その量の情報を見ただけで――全権を自分に渡した。直感に従った賢い選択だ。
ある者は、寝る間も惜しんでその量の情報を詳しく調べていってそのままゆっくり落城した。
しかし自分が担った時は毎回大成功しているので、順位でも上位を取っていて、非常に評判が良い。――主に男性陣から。
服装に拘った店舗にしている。――露出が多めなお化け屋敷や、露出の多めな演劇、露出が多めなチョコバナナを主体とした飲食店等。
今回はそれらを上回って提案してみた。以外と通ったのでびっくりしている。
女生徒はもちろん毎回反対するし、リーダーが自分に意見を求めないように裏工作しているが、最前列で凝視していれば必然と意見を求められた。
こうして思惑通り文化祭が始まった。
しかし椿可憐は今までの相手と一味違った――――。
「それでは今日はここで終わります。それではまた明日、同じ時刻集まってください」
男性陣が女性に好感度を下げられないように、興奮を抑えつつ席から消えていく。
横に居る友は押さえ切れていなかった――。
「良くやったァァァァ!!!! それで、可憐様の服装は何にするんだッ!?」
「楽しみにしていろ」
そう一言返事をすると、腰を引きながら、こちらに深々とお辞儀をして、それでこそ親友のコウだ。と涙声で言って消えていった。
自分も帰ってタコをやるか。と思ったところで、綺麗な声で呼び止められた。
「それではカオウ君、これからどうするか話し合いましょうか」
「――は? もう各々に俺がメールも出したぞ?」
教室に居た女生徒の特徴から、それぞれにあったコスプレを考え既にメールを発信済みだ。後は自分がすることはないはず。
「いえ、まだ足りません。トップを目指すからにはこれぐらいでは物足りません」
何言ってんだコイツ。という目を送り、
「……そうか。後は任せた。頑張ってくれ」
簡潔に一言で解決し、去ろうとしたがそうはいかなかった。
「駄目です。貴方にも協力をしてもらいます。いつも貴方のクラスは上位には入っていました。私のクラスもそうでした。しかしトップまではまだ遠いのです。二人が一緒に協力すれば叶うはずです」
何だこの知的熱血女。それが率直な感想だった。
「えーっと、俺トップ目指していないから」
「何言ってるんですか!? これはこのクラスを任された私からの命令です、協力しなさい!!」
数多くの戦を経験した自分には、折れない目だとすぐにわかった。
「…………はぁ、わかった。やればいいんだろ」
こうしてコスプレ喫茶について真剣に討論することとなった――。
「だからぁ……それはやりすぎだって言ってるだろ!?」
「何がやりすぎよ!! このぐらいの勢いがないとトップになれないって言ってるのよ!!」
「お前それじゃあ風俗店と同じだろ?」
「そんな低俗な物と一緒にしないでくれるッ!!」
そう可憐は言うが、イメージ図の服装はどうみても薄すぎる。
隠さなければならないところは隠しているが、形はハッキリと分かる。
9,9割の肌が見える包帯でのミイラ女の図だ。
「――それじゃあ、お前がこの格好するのか?」
「う……」
「だろ? お前がしないことを他人に求めるな」
少しキツイ声で言うと、脅えることなく睨み返してきて言い放った。
「す、すればいいんでしょ!! してやるわよ!!」
可憐はそのミイラ女の図を自分の名前の下に貼り付けた。
――上手く乗せれたようだ。
「そっか。それじゃあ服装は決まりだな」
展開していた服装に関する取り決めのスクリーンを全て消した。
「え? ……あ、ちょっと待って」
「お前が先に言っただろ? 「直感を信じて決めて行こう」って」
そう良いながら、先ほど録音した音声を思考で再生させた。
これもそう言うように仕向けたものだ。
「ちょっと何勝手に録音してるの!?」
消しなさいッ!! と言いながら座椅子に座りながら、足で机の下から蹴って来る。
腰の入っていない蹴りなんて痛くも痒くもない。大分フランクに接することが出来るようになってきた。
「細かいこと気にしてると背がもっと伸びるぞ」
「気にしてることを言わないでちょうだいッ!!」
向かい合うように座っていたが、背が、と言った時点で立ち上がり、力任せのビンタが飛んできた。
背の事と胸のことは禁句のようで、その部分だけ沸点が異様に低い。
避けてしまったらそのままの勢いで転等しかねないので、手で受け止め、良い音が室内を越えて広がる草原へ響く。現在天井と壁を取り払った自室である。
握った手に下方へ少し力を入れ、座らせる。男と久し振りに手でも握ったのか顔を赤らめている。
その整った顔でそんなウブな表情されても、こちらは冷めるだけだ。
現在フリー――が基本のこの世界。顔が良い者は3食の食事のように相手を変えてはスポーツを楽しむ如くやっている時代だ。それは毎晩に。ではなく、5時間毎に。等と盛んなのだ。
ちなみに自分もその中の一人である。自分のどこがいいのか分からないが、相手をする女性は少なからず居る。
来る者拒まず、去る者追わず。を基本に置いて相手している。
話が少しでも合えば、どんな容姿だろうとOK、たまたま視線があったからそのままベットへ。擦れ違い様肩がぶつかったから一週間の相手に。授業終わりに、この後全員でどう? 等と飲みに行くかのように誘う兵も少なくはない。
そんな簡単に相手を決める時代だ。なので、自分が特別というわけでもない。
そしてそれはVRMMORPGの中でも変わらない。宿のロビーや、前、酒場等、夜になると立ちんぼの如く相手を探す者で溢れている。
それは狩場であっても同じだ。狩りのPT何かだと、狩り終わりに一発が当たり前。鳥の巣でも、防音システムがあるテントの中で激しく動く人々。中には外で堂々としてる者達もいる。
それは異形で溢れる宇宙国でも同じであった。逆に異形で出来るのが珍しいのでそれがまた良いとか何とか――――それでも自分は避けられるわけだが。
「それじゃあ次、店舗のレイアウトだが――」
「待ってッ!!」
「何だ? まだ身長のこと気にしてるのか?」
「違うッ!!」
「それじゃあ進めていこう」
「う、うぅ……」
上手く身長のことを絡めて意見を取り下げた。イメージ図を見つめて唸ってはこちらをチラチラ見てくる。
自分は安全な位置で指示でも出すだけのつもりだったのだろう。しかし今回、その位置は俺が貰う予定だ。
そしてトップを目指すためには必要なことと、その服装による羞恥心と、前言撤回するのは悔しいというプライド、幾つもの思案が頭の中で喧嘩していることだろう。
その喧嘩の矛先はこちらに向いている。が、完全に無視して話を進めていく。
こうして12時間近い討論の末、コスプレ喫茶の店舗案が大まかに出来上がった。
「今日はこれで終わりでいいだろ?」
「そうね」
「それじゃあ疲れたから寝る」
と言って、立ち上がり、思考一つでふかふかのベットから、ぽにょんぽにょんのウォーターベットへと変え、飛び込んだ。
それを見ていた可憐が立ち上がった――。
「……ねぇ、私も疲れているからその気持ちよさそうなベット貸してくれない?」
レディーファーストは? と言って足を引っ張ってずり降ろそうとしてきた。
「何言ってるんだ。自分の部屋へ帰れ」
「このベット気持ちよさそうだから寝てみたいの」
そう言いながら、ベットにしがみ付いている自分の足を真剣に引っ張ってる。
「なんだ? お前の部屋、ウォーターベット機能ないのか?」
「そういう名前なの? 私のには付いていない――のッ!」
力を溜め、一気に引っ張ろうとしていたのが見え見えだったので、ズボンのベルトを緩めてあげた。
そして勢い良くズボンと共に転がって行った。
途中スカートの中が見えた。
「いたぁぃ……」
頭を押さえながら睨む様子は可愛かった。始め見たのが気丈な様子だったから、どん臭いギャップは大きかった。
そして気が付いたのか、素早く近づいてきて、寝転がる自分の胸倉を掴んでゆすってきた。
「ねぇ見た? 見たでしょっ!?」
「何を?」
わざと何か分からないように聞いた。
「うぅぅぅ…………」
徐々に赤くなって行く綺麗な顔を、一時たりとも逃さないように見つめた。
「わ、私のパンツよっ! 卑怯者ッ! 貴方のも見せなさい!!」
そう怒鳴りながら、ズボンを下ろそうとしてきたが――すでにそのズボンは部屋の壁際にある。
「え?」
パンツを凝視したまま可憐は止まった。
どうやら本当に男にあまり慣れていないようだ。
石化したように固まっている可憐を楽しく見ていると、石化が解けてきた。
さらに馬乗り状態になってることに気が付いたのか、
「い、いやッ。ち、近寄らないでッ!!」
平手を放ってきた。無駄が無い綺麗なビンタで、そのままホッペに入った。――ただ、しっかりと顔を捻って力を逃がしているので皮膚が少し赤くなる程度で痛くはない。
そのまま飛び跳ねるように可憐は壁際まで離れて俯いたまま一泊置いた後、ごめんなさいっ! と深くお辞儀をされた。
そして崩れる様に座るとそのまま気まずい時間が流れた。
頭に浮かぶのは、平手を放つ前の脅えた姿である――。
俯いて座ったままで、表情は黒髪で隠れて見えない。
ずっと見ていると、雫がスカートに一滴落ちたのが確かに見えた。視力はかなり良いので間違いはない。
また一滴。また一滴と顔から落ちる雫によってスカートを濡らして行く。
「――何泣いているんだ?」
「え? 泣いてる? な、泣いてないから……」
と自分でも分かっていなかったのか、言いながら涙を袖で拭き取っていた。
「寝るか?」
「い、いやっ!」
「そういう意味じゃないって。勝手に寝ていいから、それじゃあ」
また目が良くないと分からない程、小さく震え出したのでログアウトした。――10分後に眠くなる香りがほのかに風に乗って流れてくるように設定した後で。
現実に戻ったが、ゲームする気にもなれなかったので、ぶらぶらと散歩でもすることにした。
誘ってるのか? と期待したのが良くなかった。期待は裏切られると反動がある。現在見事にカウンターパンチを受けやられていた。
買い物は全てVRで済ませているし、引き取るのも自宅はハイテク化されているマンションで、荷物は危険物が無いか自動的に調べられ、そして各家庭に勝手に入ってくる。冷凍物なら直接冷凍庫へと。
のびのびと現実世界で1日、VRの世界で約6日分をゆっくりと過ごした。
朝、珍しくヘルメットを外して起きるんではなくて、普通に起きた。
起きてすぐにカーテンを開け、朝日を取り入れて目を覚ます。
いつもの様に準備する。ただ時間はいつもより1時間程早かった。なので、教室ではなく自室へとログインした。
「――何でまだいるんだ?」
口から漏れる様に言葉が出た。
ウォーターベットの上ですやすやと寝ている椿可憐の姿があるのだ。自分の私服を勝手に着て、抱き付きマクラも抱いているのが肌蹴た布団から見える。
「うぅぅん……あうぅん……」
寝言を言いながら幸せそうに寝ていた――。
「起きろォォォォォッ!!!!!!!!」
耳元で叫んであげた。
まだ背負い投げで起こされるよりはましであろう。
「キャァァァァァッ!!!!!!」
猫の様に飛び上がり、そのままの勢いで自分を突き飛ばした。
鳩尾に綺麗に入る張り手だった。
「……あれ? 何してるの?」
寝ぼけ眼で床に倒れるこちらをじーっと見ていた。
「こっちのセリフ取らないで欲しい」
「…………」
立ち上がり、そのまま見詰め合うこと数分、やっと覚醒したのか頭を下げて謝って来た。
「――ごめんなさい」
「いや、別に気にしていないから。で、何で6日間もここにいた?」
震えるような話をするのは嫌だろうと判断して、話を変えた。
6日間居たと判断したのは、自室は他人の場合一度出たら入れないからだ。例外として鍵を部屋主から貰っていれば自由に出入り出来る。
――出るのは思考をすれば一瞬にして出れる。
「ウォーターベットという物と、空と草原、空気が気持ち良く、部屋が快適だったからです」
正座した状態で、背筋もピシっと伸ばして、初めて会った雰囲気のように凛々しくなっているが――寝癖が激しい髪の毛に涎の後、まだ抱えている抱き付き枕。様々な要素から凛々しいとは感じれなかった。
「そうか」
心配して昨日一日、VR時間で6日近くを損したことへの後悔をした。
「それじゃぁ――さっさと出て行けえぇぇぇぇ!!!!!!」
手に召還したゴムボールを勢い良く投げつけた。
「ヒィッ!!」
それが当たる前に可憐は光となって消え、ゴムボールは壁に当たった。
現実での飯どうしたんだ? と思ったが、ダイエットとして1日ぐらい食事を抜く例もあるので、大丈夫だったのだろう。
なんにせよ、あの様子を見る限り大丈夫そうで安心した。
「さて、昨日可憐と話しあい決まったことは既に送ったので見て貰えたと思う。そこで意見ある者は居るだろうか?」
女性陣が不機嫌な雰囲気を持ってこちらを見ているが、スルーする。可憐と呼び捨てにしているが、現代では当たり前であるので反応するものはいない。
「それでは、イメージ図も出来上がったので表示する」
「ちょ、ちょっと待ちなさいッ!!!!」
真横から朝とは別人になった人物からストップがかかった。
他の女性陣が反対の声を上げなかったのは、昨日より過激になったイメージ図を送っていないからだ。
送るとしても、程度を押さえたものしか送らない。当日になってからしか本当の面積の衣類データーは見せない。
なので、一般的よりも少しだけ過激なコスプレ喫茶程度で現段階では認識されている。
そして代表例として、男達のモチベーションを空飛ぶ勢いで上げ、馬のようにこき使うためと、女達に覚悟を持たすために、可憐の危ないセクシー包帯姿が大きく自分の横に大きく表示する前に止められた。――股下まで既に表示しているので、男たちはそこまでの美脚に唾を一様に飲んでいる。しかし流石というべきか、興奮して声を上げているものは居ない。
――いや、居た。何故友になったか分からない奴だ。思考で自分に直接、その画像のデーターを今すぐこちらに送らなければ殺す。と脅迫文が幾つも自分にだけ見えるスクリーンで展開しっぱなしだった。
「やっぱり駄目です!」
昨日に一気にフランクにはなったが、人前だと1000人近くを引っ張るリーダーで今までしっかりやって来たためか、その口調は凛としていた。
実際には身長と胸とウォーターベットで攻めれば、崩壊できる人間像なのだが――。
「裸じゃないんだしいいだろ?」
その言葉に、男達は目を一cm大きく開いて硬直している。その不自然さに気がついた女性陣で、彼女の者は横に座る彼氏の足を何度も踏みつけて骨折させようとしているか、太ももを抓って引きちぎろうとしている。
「裸という前提がおかしいのです。昨日は言葉巧みに騙されましたが、思い直しました。やはり駄目です」
冷静になったのか、ハキハキとした口調で言った。
「わかった。少し二人で話してくるから、皆には少し待っていて欲しい」
そう告げ、二人で自分の自室へと一瞬で移動した。
布面積を、厚さを下げれば下げるほど、売り上げが1割、2割、3割と上がっていくぞ。
となると、売り上げで順位が決まるから楽にトップだ。
と、色々と多方面から攻撃、もとい説得をして、再び教壇へ戻ってきた。
「布面積と厚さも増すことで決着がついた。大本はそのままだ」
この増えた分が元々自分の中で予定していたサイズである。
流石に元提案していたのは、文化祭を運営する大人達に確実に却下されるからだ。
そして現時点の物がギリギリ通るであろう面積である。――方針を決める運営の人達には勿論手を裏から回す。
こうして隠さなければならない女性の3箇所は隠れているが、普通の水着よりも2分の1程度の包帯による下着が完成した。
しっかりと形を作っているわけではないところが、ポイントである。包帯と包帯の隙間から見える肌が――――。
苦渋の決断をした可憐を横目に(実際にはさせた)、可憐の包帯姿の巨大なスクリーンを表示させた。
――そこで爆発した男達は机の上に立って雄たけびを上げていた。先陣を切ったのが誰かは言うまでも無い
その後、女性陣からの冷たい目で沈静化された。
これが椿可憐との出会いであった――。
14時間の授業と、文化祭の集会と、可憐と自宅で3時間程、文化祭の準備をした。
二人とも高スペックで、経験も十分にあったので方向性さえ決まれば後は突き進むだけで、全貌が出来つつあった。もう後1度やり取りをすれば文化祭の準備は完成するだろう――――。
「明日までに各自資料に目を通して、問題がなければそれで終わりだ」
「終わりましたね」
今日は真面目に終わらせた。
「それじゃあまた明日」
「はい。それでは」
「「………………」」
そのまま無言で、可憐と見つめあった。
「――おい。早く出て行け」
「貴方が先に出て行けばいいんじゃないでしょうか?」
「「………………」」
そのまま無言で、可憐と見つめあった。
「ここは俺の部屋」
「それがどうしましたか?」
当たり前でしょ? という雰囲気も気に入らなければ、変に敬語というのも気に食わない。
「出て行け」
「嫌です」
「冷凍庫の中身を勝手に食べつくす干物女を自室に置いておくわけにはいかない」
「気付いたんですかッ!?」
驚いているが、一つ二つ食べたならまだ分からなかったかもしれないが、そりゃ冷蔵庫も冷凍庫も空けたら、何一つ入っていない状態だったら、誰でも気が付くだろう。
「……後5秒以内に出て行かなければ、包帯じゃなくてサランラップに変更する。5」
「一日だけっ! 一日だけでいいからっ!!」
少し考えてみる。
「……駄目だ。信用出来ない。4」
「半日だけでいいからっ!!」
「ダ・メ。3」
「30秒だけでもいいからっ!!」
少し考え、30秒数えた。
「――――8,7,6,5,4,3,1,0。はい終わり。2」
「数えるの早いよっ!」
「指を広げて秒数を伸ばそうと必死な姿を皆に見せて上げたいよ。1」
170と高身長な可憐ではあるが、こちらの180が上げる手には届かない。ジャンプして、両足で腰に抱き付き、伸ばした手で必死に広げようとするが、こちらの鍛えた握力には敵っていない。というかこんなにくっ付いて平気なのかと小一時間聞きたい。
「ああッ!! ……こんな良い部屋始めてで……私の部屋と比べ物にならない…………」
諦めたのか、降りると、両手で顔を覆ってグスッグスッと泣いているように鼻をすする音が聞こえる。
「……ふむ、確かにこの部屋は親が開発部に居る特権で、他よりも早く実用されている最新の超高級な部屋ではある」
まだ、グスッグスッと泣いている。――が、指の間から覗く目でこちらを見ているのは見えているんだ。
「だが断る。俺に泣き落としは通じない。0」
「あああぁぁぁッッ――――」
可憐は強制退出によって光となって消えていった。
人前の綺麗で凛々しい姿から一転して、この自室だと無邪気な可愛い姿になるのは簡便してもらいたい。
襲っていいなら構わないのだが、襲うと泣かれるとなると溜まったもんじゃない。――いや、溜まってるのか? ――下ですみません。
溜 息をつきながらログアウトし、早めの昼食を済ませて、ゲームへと入った。
フィーの工房の前だ。
そういえば忘れていた――。
Lv15装備を頼んでからもう約7日経っている。
……前払いなので、問題はないだろう。
窓口から声をかけると、すぐに窓口から大砲のように突撃してきた。
「おそいぃぃ!!」
「用事があって――悪かった」
素直に頭を下げた。
「んー……許してあげよう!」
フィーは少し考えた後、悪い笑みを浮べてから許してくれた。
何の笑みかは大体分かる――。
「ほら、あっちにあるよぉ」
工房の中を指差した先に、防具一式と弓が二つあった。
現在のタコの身長、170と同じぐらいの大きな木製の弓だった。
中に入り手にとって見ると、良い出来なのが直ぐに分かった。
非常に持ちやすく、上下のバランスは均等に取れている。これなら狙ったところへ思ったとおりに撃てそうだ。
「ありがとう」
「礼はいいから、早速1日イスになっ「土産があるんだ」」
簡単に予想できた要望をかき消すように言い、思考でネックレスを手の平に出した。
それを覗き込んでくるフィーの頭を一本の手で撫でながら、かけてあげた。
「わぁ綺麗……これってもしかして……」
フィーは、ネックレスの先についた宝石を指で掴んで目の前に持っていき、宝石を通して世界を見ている。
装備を作っている時の力強い表情や、装備に関することの会話の時などとは違う、目を輝かせて子供のように喜んで宝石を触っている。
「そのもしかしてだ。人形のお返しだな」
綺麗に蒼く透き通るドングリ程の大きさと形の宝石である。あの巨鳥がドロップし高額で買い取ったレアアイテムだ。
「あ、ありがとう!!」
スマイルマークで、抱きついてきたフィーの頭と耳を撫でる。
時間を忘れ、幾分かそうしていた時窓口から声がかかった。
「すみませんー、居ますかー?」
その声にフィーは慌てて離れ、窓口へ駆けて行った。
工房の奥から窓口をこそっと覗くと、蟷螂のような腕をした宇宙人が立っていた。
両手は刃物になって使えないのか、頭から結んだ髪の毛のような触覚を使って器用にヘルメットを持っていた。
あの頭では普通のは被れないだろう。自分は普通のを被れるのだが、視点移動があるために、ヘルメットは被っていない。
あまり覗いて商売の邪魔をしてもあれなので、工房の中を見学する。
すると、本棚にまとめて何冊か逆向きにして入っているのがあったのを見つけると自然と手が伸びていて、その内の1冊を取った。
『誰にでも簡単に作れるようになる、初心者のための人形講座♪ その4、応用編』
中をパラパラとめくると、中々複雑なことが書いてあり、柔らかい文字で色々と書き込んだ様子もたくさん見て取れる。自分は料理は得意だがこっちは得意とはいえない。見ていても面白くなかったので本棚に返した。
そしてふらふらと工房見学を続けていると、ふと気が付いた。――腰の、本人を数倍可愛くした青い4つ手の人形に。
直ぐに本棚に向かい、先程の本を手にとってスクリーンを出して、情報を見てみる。買った日付が書いてあった――。
高価だったが宝石を買い、この街に戻ってくるまでの町々で発見情報が流れるかもしれないが、それでも装飾品系を作成出来る職人を回ったかいがあったようだ……。
――思わず泣きそうになる。こんなタコにここまでしてくれるなんて。こんなタコに寝る間を惜しんで、やったこともない人形作りを丁寧に仕上げていてくれたなんて。剣を多数頼んだ時には、もう出ることが分かっていただろう。多量の剣を作り、仕事もこなし、そして自分の出発に間に合わせて人形を作り上げた。俺はこんなにも感情に揺れ動くようなタイプじゃなかったはずだ! と思うが、溢れてくる感情は抑えることが出来ない。
そこでどうやら商談が終わったような声が聞こえすぐに本を本棚へ返す。
上部にペンで円を書かれたヘルメットを両手で抱きかかえているフィーが戻ってきて首を傾げて言った。
「……涙を流してどうしたのぉ?」
言われて気が付いた。手で触ると、頬を流れる涙が確かにあった。まさかこんな点だけな目から涙が出るとは。と変なところで感動を覚える。
「い、いや、何でも無い。き、気にしないでくれ」
どんな時でも冷静を心がけている脳が、冷静になってくれなかった。――そしてそのまま正面から抱きついてしまった。
行き成りのことに驚いたのか、抱える様に持っていたヘルメットを落として転がっていった。傷がついて、少し凹んだだろう。持ち主には悪いことをした。弁償なら幾らでもしよう。
庇護欲をそそられる猫のフィーを4つ手で優しく覆った。
成長した体によって、10センチ程の差が出来、それは自然と上目遣いとなり優しい声でフィーは聞いてきた。
「――ねぇ、行っちゃうの?」
「……あぁ今日発つ予定だ」
「そっかぁ…………どうしたら行かないでくれる?」
可愛らしく尋ねてくる様子は、心臓を貫いていた。
冷静ではなくなり、出た言葉も馬鹿げていた。
「そ、そ、そうだな、胸でも揉ませてくれたら考えるかもな、ハハハ……」
言ってから数秒後気が付く――俺は馬鹿だと。何故ここでオープンスケベを出すんだと。
現在、9割近い人間がオープンスケベではあるが、ここで出す奴はまずいないだろう。
その日だけの関係の女に気の利いたことを言って、これからも付き合いのあるであろう、いや、もう無くなったかもしれないフィーにその言葉が何故出てくる。
後悔の渦の中でフィーが小さく言った。
「――いいよ」
思わず聞き返してしまう。
「え?」
「いいよ」
ここは、股間を思いっきり蹴り上げられていても文句は言えない。いや、蹴ってくれ。こんな馬鹿な自分は生まれて初めてだ。
そしてある可能性が導かれる。フィーもオープンスケベなんだと。――すぐに訂正して、蹴ってくれと心の中で叫ぶ。
オープンスケベのやつなら、窓口で会話した段階で誘ってきているはずだ。もうフィーとの付き合いはある程度ある。オープンスケベなら手を出していて当然の日数だ。しかしタコの自分はそれに当てはまらないのも確かだ。
などと、無駄に頭を回転させていると、フィーが言った。
「後一つだけ手甲を作ってないんだぁ……。手伝ってもらってもいいかなぁ?」
既に体温が下がるネックレスをしているので、工房内でも暑くないはずだ……。
しかし首は素直で縦に頷いた。こちらが手伝えることなど無いのだが、手伝うとは即ちイスになってくれということである。
誘導されるままに小さなイスに座り、その上にフィーが座ってきた。
鉄を鍛える時のポジションだ。意識していたこともあった。していない時もあった。だが、今は確実に全神経がしている。
4つ手が空中でふわふわしている。混乱した頭によって、各腕が自由に空中で行き場所を捜し求めている。
その右手をフィーが一つ取って、お腹に廻し、左手を一つ取って、首に廻した。
そしてさらに右手を一つ取って、大きな右胸に廻して当てて、左手を一つ取って、大きな左胸に廻して当てた。
そのゆっくりとした動作にされるがままとなり、まだ手は当てているだけだ。
そして、そのままの体制でフィーは鉄を鍛え始めた。揺れる大きな二つの山が当てていることにより、ダイナミックに感じ取る。
何だこのプレイは斬新すぎる。と馬鹿な感動を覚え、手甲の鉄の部分を作る作業がてきぱきと進んでいき、すぐに完成した。
その一通りが終わり、フィーが一度立ち上がる。自分も立ち上がってイスをどかして、床に座りなおす。フィーが裁縫道具等、必要な物を持ってきて自分の上に座ったところでポツリと言った。
「――触らないの?」
「触らせていただきます」
口から勝手に即答された。
そして手も勝手に動き出した。馬鹿野郎と罵って下さい。
比べるのは駄目なことだと分かるが、これは今までの中でベスト1。トップ。王者であった。
メロンのように大きいのに柔らかい。しかも全く垂れ下がっておらず、先にある者はしっかりと前を向いている。
王者の中の王者だ。等と考えたところで、フィーが赤くなって準備のために動き出した手を止めていた。口から勝手に出ていたようだ――。
もう自分じゃなくなったことに、失意するが、体は動く。
先の部分は触らないように意識するが、体が勝手に触る。
駄目でしょ! 息子達!! と叱る一方、良くやった!! と褒めるという、もう今までの自分じゃ考えられない思考が展開していた。
そしてフィーは鉄を手袋に手甲となるために、繋げ始めた。
その工程は非常に簡単に出来ている。手袋自体は装着可能なレベルが上がっても、変わる能力はたいした事無い。
なので、節約をかねてフィーは握りやすさを重視した布で手袋を作ってくれていて、鉄の部分は装着可能なレベルが上がれば上がるほど、強度が良い鉄が使えるようになるので、頻繁に変えてくれる。そういうことがあるから、鉄を外したり付けたりする工程は非常に簡単。
残されたタイムリミットはあとわずか。そう思うと自然と手の力やスピードが増す。理性が押さえようとするが、理性は完全に隅に追いやられている。UFOキャッチャーの隅に行ってしまった完全に取れないヌイグルミの如く、助けようがない。
4つ手の内、触り始めたのは二つ、いや、二人だけだったのに、いつの間にか他の二人も参戦していた。
こうして時折聞こえる、小さく押し殺してはいるが、確かな喘ぎ声はそんな理性を更に端へと追い込んでいった。
そして『ふじこちゅぁ〜ん』とルパンの如く、昔からある名作のネタで飛び掛りたいが、そうは問屋が卸さないのだ…………。
最後の1針を縫い終えて、後はその糸を切るだけとなった――。
フィーは爪で一度切ろうとしが、止まった。
そしてフィーは後ろに、自分に体重を預けてきて言った。
「それ以上のことはしないの? 私魅力ないかなぁ……?」
と小さく呟くように、今にも泣きそうなような声に自分が馬鹿だったことを改めて感じさせられた。
据え膳食わぬは男の恥。が家訓(自分だけである)だったのに、手を今まで出さなかったのだ。
そうこの現代は前にも言ったように、目が合っただけで行為に及ぶような非常にフレンドリーで開放的なのだ。
それが自分はこんなにいつも密着していて、触っていたのにそれ以上は何もしなかった。
これは、そう思われていてもしかたがない。そしてこれはフィーの責任ではなく、自分の責任である。
そこでやっと理性が打ち勝ち、手が止まった。
「いや違うんだ。この完全固定キャラ、タコにはそういう行為が出来ないんだ。――つまり、アレが立たないとか、それ以前の問題で生えていないんだ」
フィーは潤んだ瞳で振り返り、少し自分から離れ、急所を見ていた。――凝視されても困るので、証明するために思考操作によって装備を全部外して裸になった。
フィーがキャッと小さく悲鳴を上げた。――それは非常に嬉しい反応だった。こんなタコでも男性として見てくれているということの表れでもあるのだから。
そしてフィーがしっかりと全身を見て、その部分に至り、止まって、顔を見上げて、またその部分を見て、を何度か繰り返した。無いものは無いのだ。
フィーは指で涙を拭い「そっかぁ……良かったぁ……」と可愛らしい女の子の表情をしていた。
「自分は男なんだが、こいつが男じゃなくてすまない」
と、頭を下げて、全てタコの責任に押し付けた。――気持ちに気付いてやれなくて。とかキザなセリフは吐きたくないのだ。
フィーは変なタコを見てクスクスと笑った。思わずこっちも笑顔――スマイルマーク――になる。何と締まらない顔なんだコイツは……。
「とりあえず手甲終わったけど――どうしよっかぁ」
「どうしようもないからなぁ」
手甲を受け取ってアイテム欄に入れた。
ほのぼのと向かい合って座って談笑する。
「ねぇ本当に出てこないのぉー?」
等と言いながら、股間の部分をペシペシと叩いて来る。痛くはないが、現実ではあるので、叩かれる様子を連結してイメージしてしまう。
「精神的に痛いからやめて」
フィーは叩くのは止めたが、突付いたり、引っ張ったりしてくる。
「フィーを抱きかかえてる時に泣くほど実感しているから……」
そう言うと、フィーはキョトン。とした後、その意味が分かったのか「そ、そっかぁ」と一言言うと赤くなって俯いた。
少し気まずい空気になったところで、フィーは顔を一気に上げて言った。
「そうだ! VRで会おうよ!」
「お、おお!」
VRMMORPGでやる時はそのままの姿で、そのままの性格でやるのが基本で、現実の姿のVRになると成りきっていた性格が戻ったり、見た目が――で、終わったりするので、マナーのような禁句のようなことになっているのでVRで会うという選択肢はすっかり飛んでいた。
――――
色々あった。とにかく色々あったんだ。これまでだったらまだギリギリセーフになりそうな気がするから、ここからはとめておく。
じゃないと、アップする時にあたって色々……禁設定がややこしいことになりそうなんだ。
妄想というエンチャントを自身で重ねがけして欲しい。
また人気が出て、要望が出たらそっちバージョンも密かに作りたいと思う。
いわゆる神の声が出てしまって申し訳ない――物語はまだまだ続く。
――――
フィーのお見送りつきで、馬車に乗って城下町へと戻る。
ただ馬車に乗る前に、尻尾をぶらーんぶらーんとし、上目遣いで見てくるものだから、抱きしめて頭撫でたりした。
その後の尻尾の動きは言うまでもないだろう――。
そして、抱き締めてから3秒で商人が勝手に出発し始めて、置いて行かれそうになった。
慌てて馬車にしがみ付いて行く形となり、何ともかっこ悪い別れ方となった。
ちなみに、フィーの部屋で年齢を聞いたら、3本の指を出してピースのように向けてきた。
3歳年上? と聞くと頷いていた。もう一度聞くと、ウッとちょっと体を引いてから、頷いた。もう一度聞くと、指が一本徐々に下がり、2本になった。
そこでまた2歳年上? と聞くと頷こうとしたので、頷く前に少し強めに2歳年上? とまた聞くと、またしても徐々に指が一本下がっていった。
そして結局1歳年上だったようだ。しかも遅生まれで、早生まれの自分とほとんど差がない。
しかし少しだけでも社会で揉まれている分、少しだけ大人っぽいのかもしれない。ただ大人っぽい態度を取りたいだけのような気もする。
他には――VRで会った時、こちらの姿を見て「やっぱりかっこよったぁ。私って物を人を見る目があるつもりんだぁ」と言ってくれた。お世辞だとしても嬉しかった。
こうして道中、馬車などを唯一襲える盗賊系の職の者も現れず、残念な見た目に当たった商人と愚痴を交わしつつ、毒薬を作成しつつ、無事に城下町、始まりの町まで帰ってきた。
今日は一日ここで過ごすことにした。
神殿に篭るために、神殿に一番近い村よりも物価が少し安いここで道具を大量に購入しておくことにしたのだ。
毎度お馴染み販売委託マシーンで、矢と毒矢、毒草、調味料等、料理器具を店売りより安い物を大量に購入した。
今回主に必要になるのはそれだけだ。なのでいつも以上に購入しておいた。
高くも安くもない、一般的な食事をし、普通の宿に泊まった。生活水準が少し上がったことに喜びを覚える。
これからは野宿になるので、少し奮発したのだ。奮発して普通の宿というのが悲しい。
そして日が昇るのと共に、神殿へ向けて出発した。――もちろん馬車である。
それほど時間をかけずに着いた。
竜族の村。
原始的な生活をしているわけではない。首都とあまり変わらない水準だ。
もろドラゴンではなく、人間と竜の混血である。竜の血の方が人のそれよりも非常に強く、色濃く現れている。
人間らしい部分といえば、二足歩行をし、両手を使って武器を使うぐらいだ。
大きく太い尻尾が生えていれば、鱗は硬く。顔は爬虫類独特の顔をしている。
そして寿命が長い分、知識も豊富である。
この村で生活して居る者は、こちらを襲ってこなくて前までは人間達と、今では宇宙人達とも交易を交わしている。
そして今から向かう神殿と呼ばれる場所は、その竜と人間の混血、ドラゴニュートが居るのではなく、その下位種であるリザードマンが巣食っている場所である。
知性はほとんどなく、会話は成り立とうと思えば成り立つが、すぐに襲ってくるので成り立たないといっていいだろう。
この竜族の村は、そんなリザードマン達がこちらの国に攻めて来るのを防いでいる役目もある。
そんな村でも受けれるクエストはたくさんあるので、全て受けた。受ける数に上限はない。
〜〜を倒せ。というものなら、勝手にその村周辺で狩りをしてたら、いつのまにかクリアしている。
ややこしいクエストはレアアイテムが貰えるが、今のところほとんどこなしていない。それよりもレベル上げを優先している。
クエスト受けるだけ受けて、あとは素通りの村となった。
酒場に美人の受付嬢が居るという情報があったが、行かなかった。
住んでる者は皆ドラゴニュート。――こちらに美しい基準が分からないのだ。
その情報に目を輝かせて酒場へ行ったプレイヤー達は今頃ぼられている。
村から一歩、首都と反対側に出れば、剣と小盾を持ったリザードマン達がウロウロ歩いていた。
その警戒網の範囲から逃れるように、間を縫うようにして神殿を目指す。
現在のレベル15、リザードマンは25。
はっきり言って敵わない。足が速く口から炎を出し、盾と剣を上手く使い分けて、仲間を呼びながら戦ってくる。
仲間が来るまでは防御を優先し、仲間が来ると一転して攻めへと転じる。
1vs1でも負ける相手なのだ。そんなのがうろうろしている沼地で戦闘を起こす気にならない。起こすものなら、すぐにわらわら集まってきてDEADであろう。
時間をかけて、リザードマンの警戒網から逃げ回る様に神殿へと辿り着いた。
これから始まる、ずっと俺のターン。に思わずスマイルマークとなってしまう――。