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No4 たこたこonline


 多数の腕を操り、襲ってくる黒い狼達を次から次へと切り捨ててる――軟体動物がいた。


 

高校1年生のある男があるゲームを始めた……。

ふらっと立寄ったゲーム屋。そこでふらっと買ったゲームソフト。

何となく時間潰しのつもりで入ったゲーム屋だったが、そこの店員さんに鋭く進められて購入することとなった。

別に断れないタイプ。とかではないのだが、その日は進められるままに買った。


そのVRMMORPG物で、戦争が主軸に置かれていた。だからといって、他が疎かにはなっていない。激化し続けているVRMMO市場。そんな中で残っていくのは、主軸以外も面白くなっているものである。

名前は――パレレポー作者がまだつけてない。募集中?――だ。

店員が進めてきた理由の一つに、ちょうど今日が大型UPDATEの日というのがあった。

その大型UPDATEの内容は、中世の世界で二つの国が戦争を行っていたところに、宇宙からの侵略者が第三国として参戦した。という斬新な内容で、家に帰るや否や、早速やってみた。

――中世の時代に来ちゃ駄目でしょ。来るならもっと進歩してからだろ。と、心の中で突っ込んでしまったのも、買った理由の一つでもある。

VRのシステムは進化に進化を重ね、本体となるのは肩こりのしない親切設計なマクラいらずのヘルメットだ。

そしてヘルメットにソフトであるカードを差し込むだけで良い。


ふっかふかのベットで横になりスイッチを入れると、すぐに世界が変わった。

まず国を決めるようだ。三つの城が視界にあり、迷わず宇宙っぽいのを選択した。

次にキャラを決めるようだ。……決め方がおかしい。何でスロットなんだろうか。

キャラクターの絵が描かれた写真が1列、縦に回るようだ。

自分が生まれたときからVRゲームはあり、何度もやったことがあるが……この決め方は知らない。

自由意志による選択権が全て排除されている……。

と考えてる間にも勝手に回り、勝手に止まった――。


スロットがボフンっと音をたて、煙となり消えた。止まった時に描かれているキャラをちゃんと見たが……見なかったことにしたかった。

ずれていてくれと願いつつ……煙が消え去り、そこに自分のキャラと(強制的に)決まったのが居た。

どうみても人間ではない。――軟体動物。調子の悪い二足歩行のタコだ。気持ち悪いにもほどがある。

青白い肌で軽く透けていて、背骨が無い為なのか、軸が安定せずふらふらしている。


「……チェンジだッ!!」


大声で叫んでみるが――――反応は無い。

タコが勝手に回りだした。VRで服を買う時のようにゆっくり一回転が終わると、物凄いスピードでぶつかってきた。

ぶつかる瞬間、目を瞑った。

衝撃はなく、すぐに開けると――自分の体はタコになっていた。

悪夢だ。

即ログアウトした――。


情報端末のヘルメットに被りなおし、スイッチを入れた。

画面が物凄いスピードで展開していく。何も無い空間に脳が錯覚してあるように見える。

調べる内容はこの新しく買ったゲームについてだ。

もうすでに慣れた速度。ものの数秒で、詳細がかかれているサイトや公式を調べた。――特にタコについて。


調べていけば行くほど悪夢だった。

このゲームでキャラを選べるのは1国1キャラ。どういう理由があっても2キャラ目はない。キャラ枠ということではなく、削除すれば、その国ではもうキャラは作れないらしい。

それはすなわち、宇宙国でしたかったらタコだよーん。と判決が下されたということだ……。

元々1国1キャラが原則だった。が、この度のUPDATEで、2国2キャラと出きるようになった。

この事で後々わかることだが、ハズレキャラに当たった人はキャラを消して、他の2国に新しくキャラを作るのが主流となっているらしい。


しかも他は選択性なのに、宇宙国だけはランダムというキャラ選択方法らしい。――あの忌々しきスロット。

しかし、9割近くは現実の自身か、自分で作った外装をベースにスロットで選ばれたものに色々と変化するだけらしい。触覚が出来たり、尻尾が出来たりと。

その中でも職業が固定されてるのは5割程、後の5割は外見(種族?)はランダムで選ばれたが、基本的に職業は自由らしい。

自分のタコは1割の完全固定キャラと呼ばれるものだった――。


本当に調べていけば行くほど悪夢。

例え他の国で始めても、先人達の引き立て役でしかならない。――が、メリットもたくさんある。

仲間同士で結成するクラン、血盟と呼ばれるグループに入れば、我が子の様に成長をサポートしてくれるのだ。

それにこのゲームが始まってそう日が長くないので、先人達にも頑張れば追いつける可能性もある。

非常に悩むところだ……。タコで仕方なしと初めても良いのだが……。

キャラも固定であれば、職業等も固定になるらしい。選ばれた宇宙人に成りきるのがあるのは宇宙国だけのシステムだった。


基本的に、職業は1キャラにつき1つだけ選べる。大きく分けて戦闘系と非戦闘系の二つ。

例えば戦闘系の格闘家という具合に選び、そこからレベルを上げていくと中級職、上級職へと細かく枝分かれしていく。

そして、2国2キャラ作れるようになったので戦闘系と生産系の二つを作るのが一般的らしい。

それがタコの職業は『宇宙人』で固定だった。――意味が分からない。

固定、即ち上級職もなし。公式でもそう書いてるのだ。見直したが間違いない。

公式の情報は乏しかった……。


このゲームの進む速度は、現実世界の1日で7日進む。1時間で7時間だ。

UPDATEされたのが、現実時間の真夜中0時。

朝が過ぎ、昼が過ぎ、そして今は夜の7時だ。

かなりの時間がゲーム内では経っている。


その時間分攻略も進んでいて、それなりにこのタコについて情報が集まった。

まず喜ばしいことにこれは超レアキャラらしい! ――なんて言ってみただけだ。


まず名前、宇宙のキャラには全て名前がなかったので、代わりにあだ名がついていて、一通り見ていく。名前が目に入った瞬間、何故かこれだ。と断言出来た。――宇宙一番のハズレキャラ(笑)

ええ、直感です。レアはレアでも駄目なレア。

そのあだ名の通りの能力を並べていこう。


会話不可能。

――NPCとの会話も不可能。買い物だけは出来る。進まないクエスト多数あり。

聴力皆無。

――無音世界、常人では耐えれない可能性あり。

装備不可能系多数あり。

――重量系負荷等等。

表情4つ。

――顔も固定の上に、表情にすら個性なし。

移動速度、人型の歩き以下で固定。ダッシュなし。

――馬が怖がって乗れない。狩場まで歩き必須。

骨皆無。

――このキャラ唯一の例外、全身に骨がなく、人と全く違う生命体。操作激難。即ち日常生活するだけでも一苦労二苦労三苦労四…………。

モンスターよりも気持ち悪い。

――残念な見た目。


…………きりがないので、ここで終わりとする。

当たりキャラと外れキャラに分類されていた別れていた。

タコは一番下に位置しており、ここまで致命的なのは探しても探せなかった。

姿も、他のは生理的嫌悪を感じるようなのは少ない。

ちなみにUPDATEにもあだ名がついていた。――新しくて斬新で凄いのだが、何か間違ってるUPDATE。


その間違っているのを一身に浴びたキャラで始めることにした……。こうなったらもう縛りプレイと思うことにしたのだ。


――駄目もここまで極めれば満足だ!!



意気込んで再びログイン地点に戻ってきた。

3つの城。一つは宇宙船風の物、その前で待っている軟体動物。

見ただけでゾワゾワッと嫌悪感が走る。――意気込みは早速つぶれてしまった。

そこまでのものか? とでも思ってそうなので、描写してやろう。

お前も蝋人形にしてやr――間違った。お前もゾワゾワッと鳥肌を立てるがいい。


まずは限りなく良く言おう。――褒め殺しの場合。


エステを毎日欠かさずしてますと断言できるツルツルッとして、シミ一つない若々しく透き通るような青白い肌。

宝石の反射の如く綺麗にピカピカと光った、洞窟内では光源にでもなりそうな愛くるしい頭。

現役体操選手かと疑われんばかりの柔らかい体。

可愛らしい犬みたいな黒いお目目。

笑窪が出来そうな素敵な口元。


さて、頑張って表現してみた。が、実際はこうだ。


ツルツルというより、ヌルヌルに近い肌。

毛が生えるのぞみのない、やはりヌルヌルスキンヘッド。

青白い病人を通り越して死人のような色の肌。

骨がないようでグニャグニャ曲がる全身。

目は、何だこれ? 子供が書いた目か? と思うような、点だけ。


4つの顔を順番にしているので、それも言っておこう。

基本系は、口は黒色の横線、目は黒の2点、眉はない。

笑顔の時、口は半円を描く線になる。

怒こってる時、口は横線で、眉が出てきて、眉の端つり上がっている。

悲しい時、口は横線で、眉の端が下がる。

……すなわち書いてあった通り表情が一定で、かなり乏しい。どこの出来損ない人造人間だこれ。


こんなのと夜道で出会ったら、即逃げである。いや、昼間でも。

警察は即発砲。子供は腰が抜けて泣き喚く。

――もう言いたくない。これから自分がこれになるのだ。



そんなこんなで始まった、タコ人間のサクセスストーリー――。


始まりは城下町からだ。――正確に言えば宇宙船下町。

女神の像ではなく、宇宙船の艦長の像の前から始まった。――艦長ある意味、一国の王でもある。


さて、目の前では一人一人についたNPCによる、初心者に優しい説明を自分にもしてくれているんだが――声が聞こえない。





本当に出だしで躓いた……。


再びログアウトし、現実で情報を集めることとなった。

多人数参加型の情報サイトに感謝である。


3度目のログイン。

説明NPCを放置して、歩き出す。

初心者に親切(笑)を売りにしてるだけあって、初期から持っている物は充実していた。

剣、盾、回復薬、食料、その他色々。これらは全て死んでも落とさないようになってるらしい。

お金だけは落とすので、出口にあるATMにお金を全て預けることにした。

レーザー銃とかもあるらしいが、宇宙人の特定のキャラしか使えないらしい。当たりキャラというやつだろう。

設定としては、元居た世界では使えたがこちらの世界では使えない武器がほとんどで、原始的な方法に頼って征服を目指すしかない。ということらしい。


さて今現在、出口に向かってるのだが……視線が非常に痛い。


安全であるはずの街中からすでに戦闘は始まっており、声が聞こえないのに喜ぶことになるとは思わなかった。

すれ違う人は100%振り返ってくる。

歩いているだけで、公害を撒き散らしているようだった。


視線を感じならがも、ゆっくり、ゆっくり出口を目指した。――早く行きたかったが、能力からゆっくりとなった。

お金を預けて外へ出る。

そこは初日だけあってか、人の流れはすごいかった。


外に出てから5歩目といったところだろうか、自分の1回目の冒険はそこで終わった――。


……早速PKにあったのだ。即ち、人によって殺された。

反撃はした。が、すぐに人が集まってきて何人かでのフルボッコだった。――意味が分からない。


またログアウトすることにした……。


そこで得た情報は――あまりの外見にレアモンスターに間違われて殺されること多数あり。とのことだった……。

もう、なにこの不運キャラ。

…………これってちなみに、詰んだんじゃないだろうか?


話せないので、誤解を解くことなく死亡である。

もっと詳しく情報を集めていくと、本当にここで詰んで辞めて行った人が多いようだ。――多いといっても超レア(笑)なので全体から見ると非常に少ない。

後の人は歩く速度などによるストレス。

書いている人は……全て……詰んだということで……辞めていた……。数少ない同士がいなくなった……。

ログインの度に見て、気持ち悪いからキャラ削除してやった!! という意見も出てきている……。

……確かに分かる。ログインの度に真正面に生理的嫌悪物が居るゲームなんてしたくない。


こうして情報が他のと比べて鎖国状態となってしまった。

初心者に優しい(笑)


しかし。こんなのもたまにはありだろう。ということで、続投することにした。

今の時代、逆に情報が全くないというのも珍しいから、それはそれで楽しそうかなと考えたわけだ。


――Mではない。自身はSだと自覚している。



大通りと逆方向の、人気の少ない出口から、剣と盾持ってます。PCですよー。とアピールしながら狩場へ向かうこととなった。


草原を歩いているんだが……歩き方がぴったんぴったんって感じだ。

人間の体じゃないので、慣れない。

のっそり足を伸ばして、地面に吸着し、次の足をのっそり伸ばして……の繰り返しだ。

体のバランスも非常に難しい。バランスを崩せば、そのまま上半身が曲がり、頭が地面につきそうだ。

――実際に何度かやった。スライムを無理やり人型にした感がある……。


腕もぷらーんぷらーんで、攻撃するのも、力の篭め方が意味不明。

そんなわけで、今、反撃してこない牛の様な生物に苦戦している。


苦戦しつつも10体も倒し終わるころには、持ち前の運動神経で縦回転切りをして、扇風機のように回し、遠心力を利用してひたすら斬っていた。

ちなみに10体倒すまでに、3回PCに襲われて殺された。

経験値も勿論下がる。初心者に優しい(笑)

というよりPKした場合、赤目になり、赤いオーラを纏う。そしてその状態で死んだ場合、持っている装備一つと持っている金額全てを落とすというかなりキツイ仕様がある。なので初心者を殺すメリットはないのにも殺される。それほどまでモンスターと思われる外見なのだ。

レアモンスターと呼ばれる、ランダムで出てくるのがいるのもそれを助長させているかもしれない。


しかしレベル1と低いので牛一匹で10%の経験値取得でき、死んだら−5%。

そんなわけもあって、順調? に経験値は上がって行った。

といっても、やっと着いた狩場で、やっと狩りを始めても、すぐ殺される。――これはストレスを貯めるゲームであった。


苦戦しつつもレベルがあがった。


『ボンガラドンガラドンガラッタ!!』

『Lv2ボーナス!! 目が自由に動かせるようになります!!』


情報では知っていたが、LvUp音が異常におかしい。脳に直接響くので、これだけは聞こえた。この世界に来て始めて聞いた音だった。

それ以上にLvボーナスが悲しい……。

悲しい思考を探知したのか、悲しい顔になる。――眉が出てきて眉の端が下がった。

他のキャラ、職なら技を手に入れたりするものだ。

戦士なら力溜めだったり、魔法使いなら小さなエネルギーボルトだったり。

Lv2の時点で他の職は、職らしくなるのだ。


それが目を首から上ならどこにでも動かせるというだけ。

ただ、目は後ろに配置すれば不意打ちされなくなるので、非常に良い。がその後が問題だ……。


Lv4までのボーナスはサイトに書いていた……。


Lv3、眉が動かせる。

Lv4、口が動かせる。


(何なの? ねぇ、何なのこのキャラ?)

怒った顔になった。




PKトラップの異名を得ながら、タコの冒険が始まった。




この世界で夜、現在宿に泊まっている。

夜もあれば、寝ることも食べることも必要なのだ。

食べる事に関しても、寝ることに関しても、終わりはない。

寝たければずっと寝てもいい。食べたければずっと食べていい。


ただ最低限は必要である。――現在お金がないので、最低限の睡眠と食事ですませている。

時間制の宿なので睡眠は4時間終わると共に即出る。食事はメニューの横に数字があり、10になるまで食べたら、腹減りによるパラメーターの低下などは約6時間起きない。


モンスターを倒して手に入れるアイテム類は、倒れたモンスターの上の空中に手のひらサイズで浮かばれる。

それを手で触るだけで入手出きる。

そして手に入れたアイテムなどは、思考をすればスクリーンが表示され、何を持ってるのかは文字欄と、自分だけ見える実寸大の大きさで前方に浮遊し分かる。

わざわざ実寸大で浮遊されてもめんどうなので、ほとんどの人が設定を変えて文字欄だけだ。自分は手の平サイズ変えて、種類毎に並べ変えて、スロットの様に浮べている。

アイテムを出したい時は、文字等を指でドラッグして外に出せば出すか、浮かんでいる物を触るか。そして一般的な方法が思考である。

VRやる人はほとんど思考でやっている。自分もそうだ。

すでに、VRが世に出てから100年以上経過していて、自分はVR世代と呼ばれ、勉強も学校も、生活の大半がVRだ。

VRが出てから10年程で、そのようになっていった。

一番の理由は、やはり時間の進む速度の違いだ。

そして脳を酷使するために、脳のためのサプリメントは国から支給され、さらに格安でどこの店でも置いている。

現実で親などと話をする時、1日一回はサプリメント飲んだか? と聞かれるほどだ。

聞かれなくても飲む。飲まずに数日間7倍速のVRなんてすれば、頭痛がひどくて数ヶ月で廃人と化してしまう。


そして今も思考で武器を入れ替えた。

先に弓でモンスターをこちらに引き寄せて、十分近づいたら武器を盾と剣に変えて戦うのだ。


こうして草原に生える擬態しきれていないサボテンをどんどん倒していった。

始めだけあって、どんどんレベルが上がって行った。


『ボンガラドンガラドンガラッタ!!』

『Lv5ボーナス!! 耳が出来ます!!』


(おお!? これは!!)

思わず耳の位置を触る。――何も無い。

が、音が聞こえる!!


すでに技を覚えるという次元からかなり離れているが、それでも喜んだ。

しかし、耳が無いけど聞こえるという、不可思議な状態。目、口、眉は体に埋まっている。


すぐにログイン地点で姿を確認した。耳の部分に、目のように黒い点があった。


(よ、よかった……)


こんなキャラを作った人間なら、本物の耳をタコに埋めつけているような想像が出来てしまったのだ。点で良かった。

――人からも宇宙人からも遠く離れているが。


こうして一日目が終わった。



ヘルメットを外し、カーテンを開けると太陽の光が差し込んできた。

顔を洗い、朝ご飯を食べる。

家族は二人とも出張中で居ない。


ゆっくりとした食事を終え、トイレも終わり、高校1年なので学校へ向かう。


ヘルメットのカードを、学校のカードに変え、被る。


すぐさま世界が変わった。見慣れた教室、見慣れた自分の机。


ギリギリ間に合ったようだ。

周りの友達と軽い挨拶を交わし、授業が始まった。

授業終わり。

学校終わり。


現実時間にして2時間、こちらで14時間で終わりだ。

小中の間で、100年前でいう、大学院までの授業も、さらに職業訓練も終わっている。

VRの中で仕事もするので、実際に体験なども経験済みだ。

9割の人間が小中までで卒業している。


今での高校1年は更に学びたい者用である。

基礎の部分は小学生だけ、中学生だけで、となるが、基礎以外の選択の部分は小中高、全てごっちゃまぜで授業は行われる。

習いたい物を、習いたい時に。というシステムだ。ちなみに大人でも参加自由である。境目などあってないようなものだ。

はっかり言って、高校というのは必要ない。勉強したい人はいつでも勉強できるからだ。

だが、JKは必要だー!! という偉い人の意見は強く、今でも残っている。

あの時の首相の演説は覚えている。スタンディングオベーションになったほどだ。


他には、小学生で働いてる者もいる。

授業の時間なんて、現実で僅かなので、一日のほとんどが自由であるのだ。


そこで、昼3時から、1時間程度は全国民、強制的に外で体育がある。体調確認と、体を鍛える。後は自由。

体調確認は、家でもできるが、ずるをする者がいるためである。体調確認は週1だ。

そこでパスされた者はその週の強制筋トレ来なくてもOKである。


ここまで徹底してるのはVRに依存しすぎて、体が弱り、皆もやしっ子。を防ぐためである。

強制の筋トレで、病人を除いて、国民皆健康的である。最低限だけは鍛えられるのだ。勿論マッチョもいる。

強制筋トレの後は、現実でのスポーツが好きな者はその大きな運動場で思い思いにする。

自分は現実でのスポーツも、VRでのスポーツもどっちでも良い派なので、気分次第で参加している。


強制筋トレなど、ロボットのような生活だと言われるかもしれないが、その分以上に自由があるので問題ない。

自由がありすぎるので、漫画や小説などの娯楽部分が一気に伸びた。

というより、全てに置いて一気に伸びた。囲碁、将棋なんかのレベルは高くなりすぎて、上位陣は総入れ替えになるほどだった。

仕事もほとんどない。昔並みにあるが、今の時間の流れではほとんど無いと同意義である。

先進国というより、すでに発展し終わって、娯楽の国になった。

そして、実際に現実で動いて働く仕事は全てにおいて高給が貰える。

さらに一時期は脳だけ生き延びさせる、延命方法も出てきた。現在、問題となっているのはそれぐらいじゃないだろうか。

年はアンチエイジングで200歳までは楽に生きる。――実質VRで7倍の1400歳だ。


そんな世界で、自分は気味の悪いタコをしている…………。




今は馬車に乗って、出荷されている。

違う。移動している。

商人の人に身体言語で頼んだのだ。勿論それだけじゃ駄目だったので、物で釣った。


商人系の職は、3国全てで会話が出きる。

逆に言えば、商人以外は出来ない。


そんなシステムもあるため、商人は馬車で3国間を良く移動する。

特に今、宇宙国はフィーバー。フィーバーしている。


途中で降ろしてもらった。

今他の国に行っても何も出来ない。

殺されるだけだ。街中では殺されないが、外に出たら一瞬でやられる。国が違えば即斬りあいである。


始まりの町からそう遠く離れていないところの森で狩りをし始める。

他の者ならすぐに着く距離だが、自分ではそうはいかない。

なので、馬車を利用してここまで来た。馬車を利用する者など他にはいない。馬でいいのだ。

すでに同じ初日組で、このゲーム初めて。という者達でも、自分のレベルの数倍になっている。

そこで自分は誰よりも頭を使って効率良くやらなければならない。

MMOではスタートダッシュは非常に大事な要素だ。――ロマンでもある。

そういう理由もあって、このタコ野郎!! が好まれない。


何人に断られたか……。


狩りをして忘れることにする。


街道から離れて森の中に入っていくとすぐにコカトリスを見つけた。

いつも通りの戦術、弓で撃ち、引き寄せて、剣と盾に持ち替える。が、今回は盾じゃなく、双剣である。――ちょっとカッコイイ。

だが、タコのマイナスが大き過ぎてダメダメだ。


矢がコカトリスの頭にヒットした。――クリティカル。

だが、それで倒れるほど弱くはない。体の大きさは現実の牛程の大きさはある。

そんな大きさだが、素早く木々を縫う用に近づいてくる。


このスピードの相手に矢は当たらない。――自分が人型なら当てる自信はあるが……タコだ。慣れ親しんだ人間じゃない。まだ扱いきれない。

無理せず双剣に持ち替える。思考で持ち替えは慣れたもんで、一瞬だ。

両手を振り上げ、カウンターを狙う。

コカトリスはそのままのスピードで突っ込んできた。

あれに当たると、体力が8割近く減らされる。……さらに分かったことだが、このタコは防御力と体力が非常に低いらしい。

本当に……出てくる情報は……デメリットばかりだ……。


鬱憤を晴らすかのように、タイミング良く振り下ろし、コカトリスの額へダブルクリティカルヒットした。

そしてコカトリスはそのまま地面倒れた。


後はこの作業の繰り返しである。

このタイミングをミスすれば、確実に死であるから、緊張感は切れない。

足が遅いということは、咄嗟の回避行動が取れないのだ。

取れる回避行動は――片足を上げる。上半身を反らす。横にゆっくり倒れる。

そのぐらいだ……。

使えるのは上半身を反らしてスウェーをするぐらい。これだけは中々使える。

骨がないので、変な状態のままでも攻撃出来るのだ。

それは昨日のサボテンでさんざん練習した。

サボテンは頭に向かって飛んでくる。それだけの単調攻撃のため練習にはうってつけだった。

スウェーを手に入れたことにより、とても弱いPCなら倒せるようになった。現在……勝率1割……。


仕掛けた側はピンク目とピンクオーラを纏うことになる。なので、正当防衛の如く反撃して倒した分には、ピンク時は赤ネーム時と同じで、装備一つとお金全額を落とすので、結構美味しい。

仕掛けられる側(自分)が殺されたり、死んだ場合は、モンスターに倒された時と同じで、確立は低いが装備を一つ落とし、お金を半額落とす。

が、殺されている回数が普通じゃないほど多いので、すでに装備も、モンスタードロップで手に入れたお金も何度も落としている。

この人外での姿での対人戦の技術が上がっていくのでデメリットばかりでは……ない……。と考えるようにしている……。


そんなこんなで、3度目の森進出だ。

それは、2度人に殺されたということでもある。

初心者に優しい設定(笑)のおかげで、金回りは良いので、何とかやっていけている。本当にギリギリだが……。

食事が不味い。宿が汚い……。

こんな貧乏生活したの始めてだ……。


考えているだけで、悲しい顔になってしまった。


突撃してくるコカトリスを倒したところで、レベルが上がった。


『ボンガラドンガラドンガラッタ!!』

『Lv6ボーナス!! 耳を自由に動かすことが出来るようになります!!』


(はぁ……)

予想はしていたけど……ね?

大器晩成型と信じて、ネタキャラじゃないと信じて、ハズレじゃないと信じてコカトリス狩りを再開した。

実際に、ネタキャラ、ハズレで終わる実例は多数ある。

例えば有名なのが、Lv1000まであるVRMMORPGで、攻撃は体当たりしか出来ない職があった。

生身の体で体当たりである。しかもそのゲーム、痛み実感率100%。このゲームも100%。ただ、致死率のダメージは50%以下が法で決められてる。なので、一般的にほとんど50%である。このゲームも。

その体当たり職がLv1000になった時、最強職になることを夢見て頑張った青年。しかし1000になって覚えた技は――自爆だけであった。

1000人巻き込んでの自爆とかではない。巻き込めるのは精々1人〜2人。かといって、ボスを一撃で倒せるわけでもない。

――完全なるネタ職である。


製作者側からしたら、ネタ職として作ったのになんだかレベル上げちゃってるよ。せめて最後に技付けておこう。と言う感じである。

まぁ、その人が途中から痛みに快感を覚え出したので、幸せだったかもしれない……。

そういった実例がいくつもあるのだ。そしてこのゲーム作った製作元は……そこと同じである……。

期待してダメだった時の反動による精神的ダメージ大きいので、期待してやっていない。ネタ職としてやっている。――と言いつつ、少しの期待を抱きながら……。


『ボンガラドンガラドンガラッタ!!』

『Lv7ボーナス!! 声が出せます!!』


「こエ!? おオォおオぉォ!! …………ぇェ?」


潰れた音声機のような、一声一声、声質が違う。めちゃくちゃな声だった。

……うん。こんな声、現実じゃ出せないし、ラッキー…………。


しかしパラメータだけは順調に上がっていた。力、防御力、素早さ、知力、魔法防御と言った感じでパラメーターがある。

だが、今のVRMMOはそれだけではない。隠しパラメーターが腐るほどあるのだ。

見えるパラメーターでは、力と……? 力と……? 力だけ……だけ……だけが順調で……それ以外微妙だった。

順調といっても、調べた他の前衛職、キャラと比べて同じ程度だ。

元々重量系装備不可能なのだ。マッチョの見込みは薄い。

 


気分転換にログアウトして昼食をとることにした。

現実の腹減り等は、警告がかなり出る。

7倍速でやってる分、現実で過ごすよりもエネルギーを消費するので、その分多くのエネルギーを取らなければならない。

今の1人前は、100年前の4人前らしいが――実感はない。

様々なサプリメントも手に平一杯分飲んだところで、再びログインした。


ログアウトした場所と同じ、コカトリスが生息する森の中だ。

移動の時間を限りなく減らすために、狩場滞在時間を長くする必要がある。

戻るときはドロップ品でアイテム欄が一杯になった時か、死んだ時のみ。睡眠は野宿に変えた。食料も携帯保存出来、安い激まずの物で我慢。そこまでやっても、数倍のLv差があけられている。

やはり、一番苦戦しているのはPKだろう……。

中にはこっちがPCと分かって襲ってくる輩も居る。生粋のPKerとは違う、狩りのストレス発散のために、間違った振りして襲ってくる連中が多いのだ。

これは外見が人外のものを採用しているゲームに多い。

このゲーム……自分はそれを如実に感じていた。


さて、すでに飽きてきているがコカトリス狩りはLv8までしなくてはならない。

逆に8になったら、ほとんど経験値が入らなくなる。それはモンスターとのレベル差が10程度以内でないと、経験値の入りが悪くなるというシステムがあるからだ。なので、自分のLvより+10のモンスターが一番経験値が入るのだが、それだと1体にかかる時間が増えるので効率は悪くなる。やるとしたらPTでだ。

なので、ソロだと±5辺りが一番効率が良く、美味しく狩れる。


そういったシステムがあるから、Lv8まではここだ。回避行動が極めて微妙、防御力も同様に。なので、狩場が限定されているのだ。


『ボンガラドンガラドンガラッタ!!』

『Lv8ボーナス!! 体中どこにでも顔が移動出来るようになりました!!』

 

「ウオォォォォォ!!!」

《これから声を出した時、全て一字毎に声が違う、潰れた音声器、壊れた拡声器、そんな機械音だと思ってくれると助かります。毎回変えるのは時間が物凄いかかる……》

「このタコ野郎!!!! そんなこと出来るようになって喜ぶのは変態だけダァァァァァ!!!!」 

怒った顔で怒鳴った。

その声に反応したように、遠くから木々を薙ぎ倒す音が近づいてきた。 

「やば……」

こっちに向かってるのは、地中に住み、音に反応して出てくるボスモンスター。

目の前の木々を倒して現れた。巨大なコカトリス、女王コカトリスが現れた。

周りには小さな赤ちゃんコカトリスを数十匹連れている。


ここのボスだ。

こいつを倒すのには、PTが必須条件である。――Lvがかなり高ければゴリ押しが可能ではある。

足の速い者が女王の囮となってる間に、魔法使い等、範囲系の攻撃で赤ちゃんを倒し、後はじわじわと女王にダメージを重ねていくことで倒せるボスだ。時折赤ちゃんコカトリスを数十体産むので、それに対処するためにも範囲系の攻撃スキルは必須だ。(全てサイト情報の受け売り)


しかし、ここにいるのは誰ともPTを組めないタコだけである。


――あっさりと押しつぶされた。



宇宙船の艦長像の前で復活する。


一応声も出るようになったし、PTに参加しようと一応は試みたが、脊髄反射拒否である。

稀にOKといってくれる方も居たが、足遅い、馬乗れない。そのことがネックとなり結局一人旅の再開である。

無理したら入れないこともなさそうだが、はっきり言って自分は足手まといである。同じLvの者と比べても異常に能力が低い。技も一つもない。しかも、PKに襲われる。

どう考えてもソロ狩りしか道はなかった……。 

PTは同じ地域に居れば組むことが出来る。PT主となり募集を出したり、勧誘するか、募集しているところへ申し込むかだ。

条件が合えば加入となり、集合場所へ行く。


――顔を合わせる度に悲鳴を上げて逃げられるなんて、初めての経験だ……。


VRMMOで現実の容姿を採用するのは半分近く。学校もそうである。

それとは逆に、このゲームは自分で設定した自由な容姿である。――宇宙国以外。

ふふふ、しかし自分は、自分の容姿を変えれるようになったのだ!! ――目を眉二つで十字を作ってピエロのように見せたり、眉で縦目にして、目で鼻を作ったり……耳の点を目の上に持ってきて4つ目にしたり…………。見せる相手が居ないんですけどね……? ――フレンドリストがとても綺麗だ。

…………。何でだろう。心の涙が出てきたよ。


さて、気を取り直してやって参りました新しい狩場、レベルダウンしてLv7だけどすぐに上がりなおすので、時間短縮のため行くことにしたのである。


森が町から馬車で30分のところ、今来ている荒れ果てた岩場は、次の街。といっても初めの街から遠く離れて、国境線近くである。その街からまたも馬車で30分近くのところ。

ここら辺まで来ればほとんどの敵が強敵で、今の自分なら一撃死並なのだが、ここは数少ない例外地点である。

猪より二回りも大きな親と子のモンスターがいるのだ。

そしてその子狩りが経験値美味しい上に、自分でも狩れるのだ。

まず、巣近くの枯れ木の上に上り、下に肉を落とす。

これだけで匂いに釣られて子供だけが寄ってくるのだ。

後は木の上から弓を射るだけである。

しかし問題はある。国境近くなだけあって、攻められて来た時が非常にまずい。国が違えば、PKしても赤ネームになることがないので、容赦なく襲ってくるのだ。

それに楽な狩りだけあって、ライバルも多い。特に自分は…………。

位置関係が上と下なので、大体の接近職系は追い返せる。

そんな危険な地域ではあるが、稼ぎの方が上だったのでここで狩り続けた。


動物虐待のような狩り方で、見た目も結構キツイ。猪の子の頭に数十本の矢が突き刺さっている――。

地表で戦えば非常に厄介である。子供サイズでも人間の大人ほどの大きさがあり、さらに体力も多いので、現段階でコカトリスの様に一撃カウンターで仕留めれる様な相手ではない。

ちまちまと、上から矢を放つ日々。一匹が倒れれば、すぐに巣から次の子が出てくる。これは食べ物を見つけた場合、始めに見つけた者の物というこの猪の子の習性を利用したものだ。

休まず狩り続けれるので効率が良い。

ちなみに矢は、少し高価だったがシール型の矢筒から出して射ている。

そのシールは手の平に貼っていて、矢を射たら、手の平を指でタップするだけで次の矢が手の中に召還され納まる仕組みだ。

これによって、矢筒から取り出すロスを少しばかり減らしている。

ドロップ品は猪の子の真横で普通に取れる。

食事中の猪は、攻撃しない限り襲ってこない。

そして時折襲われるのはそんな単調な日々を崩してくれるので、逆に嬉しいものだ。逆に嬉しいものだ。逆に……。


そんな狩りを7時間ぐらいであろうか、続けていた時、辺り一面に大声が響いた。


「敵が来たぞおおぉぉぉぉ!!!!!!!」


目の届く範囲で狩りしていた人達が大声の聞こえた方へ駆けて行った――。


現在、この国の平均レベルは他の二つの国に負けている。が、レベル差はPvPの時に補整がかかる。

レベルが低い者から高い者へのダメージは大きくなり、逆は小さくなる。なので、レベル差があるPvPはそれだけだと五分五分になる。

だが、スキル、技、が存在するので、高レベルの者の方が充実しており、その差でレベルの低い者はかなり負けやすい。

さらにはHP量の違いも出てくる。――はっきり言って殆ど勝てない。

だが、今は違った。国境に、領土内の至る所にガードロボットが期間限定で配置されているのだ。

宇宙国の全体のレベルが一定を超えるまで、それは置かれている。そうでなければ、他の2国に蹂躙され続けるだけである。

しかし、屈強なガードロボットと戦ってでも国境を越えてくる者達も居る……。


なので今の期間に攻めて来る者は、ステルススキルを持った者か、ガードロボットを突破してくるか。そのどちらかだ。今回は後者で集団だった。

クランと呼ばれる家の様な、血盟のような、仲間同士で結成するグループ、魔法国所属のPK集団のクラン『殺戮魂』だった。

国内でも無差別に襲いまくる極めて性質が悪いと事前情報で掴んでいた。


それに反撃しに行く、我が国の者達。

この戦争主題のゲームを選ぶだけあって、戦闘が好きみたいだ。

それに、敵国の者を倒したらかなり経験値と国から報酬が入るので美味しい。物を落とせばもっと美味しい。死んでもモンスターにやられたと思えば終わりだ。

それにガードロボと戦ってるところへ参加して漁夫の利を得ようと思ってるのだろう。


――だが、それは叶わなかった。

次に聞こえてきた大声と呼ばれる、辺り一面に聞こえる叫びは自分に被害が来ることを示していた。


「ガードロボがやられた!! 援軍求む!!」


しかし、辺りには誰もすでにいない。逃げたかそちらに行ったかだ。

というわけで、自分は誰も居ない快適な狩場で悠々狩りを続けた。

程無くして、PK集団が姿を現せた。

無差別集団というから、全員が赤ネームかと思いきや、そうではなかった。

考えてみればそりゃそうだ。敵国に攻めていくのに赤ネームである必要はない。青ネームと呼ばれる、普通の状態で走ってやってきた。

こちらに気付かずスルーしてー。と祈るが、枯れ木の上に居る、UMAは目立った。


こちらを発見した、杖を持った短い赤髪の可愛い少女が直ぐに近づいてきて、詠唱を開始した。

弓を射るも、体を少し動かしただけで避けられる、その間も魔法の詠唱は止まらない。

杖から立ち昇る光る蒸気が小さな少女よりも大きく成った時、少女は口角を上げて獰猛な笑みを見せた。――相当の戦闘狂らしい。

蒸気が収束し火炎球となり、少女が杖を振ると勢い良くこちらに襲ってきた。中距離からの魔法、火炎球の一撃でやられてしまった。

乗っていた枝もろとも、枯れ木の3分の1を破壊するほどの威力だった……。

――――これがその少女出会いだった。


こちらの陣営を蹂躙する脅威は、自分を道端の小石程度に蹴り飛ばし、歩を進めていった。


死んだので、近くの街に強制的に戻った。

各町にある広場の銅像の前である。それは始まりの街とは違う、この街の統治者の銅像だ。

女神でも人間でもない。ゴッツイ獣型の宇宙人だ。拝む気にもならない……。


そして街は喧騒に包まれていた。それもそうだ、敵国の者が攻めてきたのだ。

そうなると一種のお祭り騒ぎで、戦闘職の者達は我先にと町を出て行った。

たかが数十人が攻めてきても、問題はない。

こちらの領地には何万という宇宙人が狩りしているのだ。

そこへやってくる、退屈しのぎの者達。狩られる運命である者達。それは、ボス狩りのようにも似ている。

ボスは周期的に沸く(出現する)が、それは席取ゲームのように、我先に我先にと席の前で待っていたり、群がってくる高レベルの者達によってボスは蹂躙される。

やってきた侵入者の情報は瞬く間に広がった。


騒ぎが収まるまで自分は街で食事を取り、宿で睡眠も取る事にした。久しぶりの宿だ。――安物だが。

最低限の4時間を寝て、起きた。――まだ喧騒が続いていた。

氾濫する情報を集めてみると、相手は無差別のクランではあるが、その行動は戦略的であるらしい。

そんな行動に、こちらの国は掻き回されているみたいだ。

すでにこの街から更に南下して、本拠地である城の方角へどんどん行っているらしいので――自分に害はない。狩を再開することにした。


枯れ木の狩場も落ち着きを取り戻し、他の連中も狩りを再会していた。

そして間もなくレベルがあがった。


『ボンガラドンガラドンガラッタ!!』

『Lv9ボーナス!! 腕の関節!!』


「ん……? 関節?」

理解の範囲を超えていたので、スクリーンを出して自分のステータスを見てみた。

一応スキルに分類されているようで、今まで手に入れたスキルの中の一番下に新しくあった。


『腕の関節:好きな位置で関節を作り出せる』


実際にやってみると……非常に使えるスキルだった。

ふにゃんふにゃんの腕に、関節が付くのだ。

少しだけまともな人間の動きが腕だけ出来るようになり、しかも、好きな位置でなので、剣による変則的な攻撃が可能となった。剣の軌跡を強引に変えることが出来るのだ。

弓もふにゃーんふにゃーんと撃っていたのも、少しだけ人間らしく、そして早く撃てるようになった。


――徐々に自分はこのタコに愛着を持ち始めていた。これからの趣味が変わり、軟体動物をペットとして飼うまでにならないようには気をつける。

それに動きが緩慢のため、ゆっくり景色を眺めることが出来るし、ゆったりとした気分になる。

そんなこともあって、伸び伸びと狩りを続けた。


――そうは問屋が卸さなく、再びPKにあった。


弓は遠距離、魔法は中距離、剣等は近距離と分けられている。ハッキリ言って、枝の上に乗って定点狩りしている自分は弓職のカモである。

動き回りながら、避ける事の無い的を撃てばいいだけなので簡単に倒せるPCだ。

動き回る相手に、こちらからの弓は全く当たらなかった。これが人間の姿だったらある程度当てる自信があるのだが……。

それほど自信がある自分でも扱い辛いのがこのタコだった。

といってもすでに9割近く感覚が同調し、自身がタコになった感覚で扱えている。なので扱い辛いというより、出来ない。というのが正しいかもしれない。


そんな訳で、現実の夕食までにLv10を目指して今日もドナドナ気分で街道を進む。


そしてLv10のレベルアップと殺戮魂が討伐された情報が届いたのはほとんど同時だった。

その二つはどちらも驚愕のものであった――。



まず、クラン殺戮魂がやられたのは、結局ゲーム世界の時間で24時間以上経ってからというから驚きだ。

移動はワープなどないので、討伐する人が移動に時間かかったのかもしれないが、異常であると思われる。


最近できたばかりの国で、かなり活発である。狩場も混雑している。さらに、ガードロボットがいる。

ガードロボットは凶悪だ。死ぬときは一人は確実に道連れにして自爆するのだ。それに強さはボス並み。そんな中でPKをして回ったのだ。

被害を受けた人数が200人を超えているというから、最早、軽い戦争だ。


そして殺戮魂の方針は死ぬまで暴れる。だそうだ。

数十人程度の人数でここまで被害を出すとは恐ろしいクランだ。

よっぽど上手い策略家がいるのだろう……。


それらがまず一つの驚愕。これから戦争する相手に居ると思うと滅入って来る。

しかし逆に、こちらにもその集団を討伐した者達がいるということなので、それほど暗い話題でもない。



二つ目は物凄い嬉しく、そしてより人外に近づいた……。


『ボンガラドンガラドンガラッタ!!』

『Lv10ボーナス!! 腕が一本増えます!!』


「……は?」

脇下がもぞもぞしてきたと思ったら、ニョキニョキっと本当に腕が生えて来た。

腕が一本増え、バランスが悪くなって木の下に落ちてしまい、下に居た猪の子の体当たりを受け、そのまま死んだ。



銅像前の広場で今、新しく生えた腕を突付いている。

レベルダウンしたが、スキルはそのままのようで、生えたままである。

現実の人間が2本腕なので、3本目生えてきてもらっても動かせない。動かし方がわからないのだ。

目を動かせるようになった時も苦労した。後ろと前を見ている感覚が吐き気をもよおすのだ。


腕を動かそうとするがピクピクッとしか動かず、力なく体にぶらさがっている。

右腕一本増えた分の重みで、バランスを取るために現在体が左に傾いている。


ということで、腕を使えるようにするために特訓が始まった。

――完全なる独学である。どこに見てもそんな情報は乗ってなかった。あったとすれば尻尾だ。しかし尻尾を動かすシステムは感情によって自動的に動く。というものだったので参考にはならない。


3本目の腕を動かすのは、一度コツを掴んでしまえば後は楽だった。

元からある腕の感覚を、下に付いているだけ。と考えて動かせば動いたのだ。

そこからが問題であった。右を見ながら左を見ろ。と同意義で、右腕二本を別々に動かせるようになるまで、相当の時間を費やした。

といっても、宿に篭ってリハビリのようなことをしたわけではない。時間が勿体無い。


しかし、腕が一本増えたため、晒される奇異の目は余計に増した。

上半身に皮の鎧を着ていたのだが、着れなくなったため、現在気に入っていた狩り以外で着る私服に穴を開けて着ることとなった。防御力は皆無である。

防具、武器類は勝手に弄ったり出来ない。専門の職の者に頼む必要があるのだ。


常時金欠な自分としては、防具にお金はかけられない。

それに、これから更にお金のかかる狩りをするのだ。赤字すれすれ、また貧乏生活の始まりである。少しずつましになって来たのに……。

必要な道具を買い揃えたところで、腹減りでの警告音が鳴ったので、ログアウトした。


まだ両親は帰ってきてないようだ。長めの出張って言っていたので、当分帰ってきそうにない。

超冷凍室には、解凍するだけで出来立ての味を食べれる料理が沢山入っている。

今日はフランス料理の高級フルコースを食べることにした。ゲーム内での反動だ。


回転寿司と昔は呼ばれるものがあったらしい。今ではそれは家庭にある。

料理の量が多いため、いっぺんに解凍したら、後の方は冷めてしまう。なので料理がゆっくり、タイミング良く出てくる。

食べ終えた食器はそのまま回転台に乗せて終わりだ。


腹もいっぱいになったところで、タコについて情報が増えてないか調べることにした。

他のキャラの情報はどんどん流れるように書き込まれ、更新されていってるのに、タコは初日で止まっている。変わらずLv4のままだ。あったとすれば、目撃情報程度だった。それも全て自分のようだった……。

……あまり良い風には書かれていない。…………歩く猥褻物は言い過ぎだと思う。


腕が一本増えるという、新システムと、戦闘面において攻撃回数が増えるという利点、さらにバランスを考えればまだ生えてくる可能性。

儚い希望に期待しつつ、本当にタコになりつつあるキャラに愛着を確実に持ち始めていた……。



ログイン地点で、ふと違和感を感じた。それはどうやらタコが成長しているみたいなのだ。

自分の身長は180、タコは160程度だった。それが今では165近くはありそうなのだ。

成長システムは確かにあり、このタコにも適用されているようだった。



自分は同じみの岩場にある枯れ木の上にいる。だが今日はいつもと一味違う。

弓はLv10で装備出来る店売りで一番良いの物で、矢は毒矢だ。

毒矢は高価である。なので節約と3本目の腕の練習を兼ねて、毒を枝の上で作っている。

毒草を磨り潰して、その液を矢の先に付ける。これで簡易毒矢の出来上がりである。

金額は半分に抑えれる。

毒矢だけだったらそれほど赤字にはならない。問題はその後にあるのだ――。










Lv10になったので、親の猪もどきに挑み始める。

1時間に1体しか倒せないが、倒せば経験値がたくさん入る。

倒すのに1時間かかるのではなく、親猪との戦闘でそうせざる得ないのだ。


まず、巣の穴に煙玉を投げ入れる。

すると親猪が出てくる。そこへ一撃射てやればすぐにこちらに気がついて向かって来る。

子は下でグルグル回るだけなのだが、親は木に向かって突進してくるのだ。

10回ぶつけられたら、木は折れて自分はあっけなく殺される。


なので、10回ぶつかって来る前に倒す必要があり、毒が必要になってくるのだ。

毒矢は当てれば当てる程、効いていく。

それに普通に矢を射てもダメージはほとんどない。なので全て毒矢だ。木に突進してくる度に木がしなって揺れるので、足で枝にしがみ付いて固定している。

毒草と鉢も落とさないように紐でしっかり枝に固定している。


ノーダメージで親猪を倒すことが出来た。ノーダメというのも、節約のポイントだ。回復薬を使わなくて良いのは大きい。アイテム欄の圧迫もしなくてすむ。

それにしても本当に巨大である。熊の様にでかい。

ドロップは毒肉とお金と、皮や牙である。

一番高く売れる肉が毒肉という結果になり、稼ぎが激減してしまうのだ……。これが毒矢の一番の問題点だ。

毒肉の使い道はないが――――コレクションとして貯めて置く。


腕が一本増えてから、燃費が悪くなってきた。元々悪かったのが、さらに悪くなってきた。

食事が6時間に1度でよかったのが、Lv上がる度に間隔が短くなって来ているのだ。

不味い食事を何度も取らなければならないのは……拷問に近かった。

裕福な現代っ子。無人島に遭難でもしない限り、わざわざ不味いのを食べる機会はなかった。それはVRMMOでも同様であった。


耳が痛くなる声で愚痴を漏らしつつ、手は止めずに狩りを続けた。

親猪の倒れるまでの時間と攻撃回数がわかったところで、やろうと考えていたことを実行に移す事にした。


親猪のHPが後2割ぐらいであろう時に、上から落ちる勢いを利用して、腕3本に持った3本の剣で頭を突きさした。

親猪が木に体当たりした後の隙を付いて行ったのが良かったのが、避けられることもなくそのまま親猪は倒れた。

これで効率が上がりそうだ。毒矢の使用も減らせてお金の効率も良くなった。


しかしまぁ……良いことは続かないもんでお馴染みのPKにあった。

接近職は近づいてくる前に、矢を足元に放てば去ってくれた。PKかそうでないか分からないので、常に周りを警戒しておく必要があった。


今回は自分を鴨として狙ってきている弓職の者だ。定期的に現れる……。

弓専門の職にかかれば、盾を構えていても隙間を狙って射て来る。そういうスキルもあるのだ。

盾も大型のものは装備不可なので、体全部は隠せない。

隠したとしても爆破する矢や、貫通力のある矢などによってじわじわとやられる。

なので自分に出来るせめてもの抵抗は、大声で辺りに居るプレイヤー達に情報を伝えることだけである。


「赤ネームのPK出現。弓職。レア弓装備してます」


これだけで、PKKプレイヤーキラーをキラーする人が来てくれることがあるのだ。

PKKはお得である。赤ネームを倒せば装備一つにお金全てを手に入れれる。負けたとしてもデメリットはとても少ない。

だが……まぁ……居たとしてもPKKが来る前に自分はやられている……。

最後のイタチっぺのようなものだ。ただで負ける程馬鹿ではないし、清清しいスポーツマンシップなども持っていない。



戻った町で倉庫に毒肉を預け、他のドロップ品で終わらせれるクエストをクリアーする。店売り人売りするよりも得なのでそうしている。

人売りは簡単である。専用の販売マシーンに設定すれば自動的に売ってくれる。

無論、市場で自ら露天販売してもいい。販売マシーンに委託すれば売り上げの5%、費用として取られる。

だが、自分は販売マシーンに頼まざる得ない。

見ただけでゾワゾワっとする人外の軟体動物が露天主として居たところから買いたいだろうか? 答えは9割9分、ノーである。

石は投げられたくないので、買うのも売るのも販売マシーンだ。


吾輩はタコである。フレンドリストはまだ空白だ。

「ううっ……」

悲しい顔になった。


一帯に居る人を検索すると、まだあの弓職が居るようなので、鍛冶屋通りに行くことにした。

最後は剣で仕留めることによって、お金に少しだけ余裕が出来たので、防具を委託で作ってくれる人を探しに来た。

通りからは、休まず金属を打つ音が絶え間なく響いている。窓口が並ぶ通りだ。


窓口には誰も立っていない。皆中で作業をしているのだ。



売っている物を買いたければ、窓口付近に立ってスクリーンを開けば良い。

用事があれば声をかけるのだ。


売ってる武器を一通り見る。武器にだけはお金をかける。その方が結果的にモンスターを倒す速度があがり、儲かるのだ。

欲しい物は特になかったので、窓口から顔をニュッと出して声をかけた。――ひょこっと。とかではなく、ニュッである……。

「すみませんー!!」

壊れたスピーカーが声を出した。

その声に気がついた、人型で顔の長く、頭の天辺から触覚が出ている宇宙人が顔を顰めて来た。――たぶん駄目だ。

防具を作ってくれないか頼んでみるが、予想通り二つ返事で断られた。


商売をする人は、客は選ばない!! などという精神の持ち主が人が多いのだが……。選ばれてます……。

確かに生理的嫌悪感が見た目でも声でも感じるが、見慣れれば、見慣れれば、ましになってくるのに……。

それに触ったら以外と気持ちいい。――触る気骨のある者は未だ皆無だ。


こちらから選ぶ権利は元からないので、片っ端から声をかけていく。

窓口付近で買い物をしている人は道を空けてくれる。――避けられている。

溜息をつきながらも、7軒目、窓口からニュッと顔を出し、声をあげる。

「すみませんー!!」

大きく声を出さないと、金属音で届かないのだ。

奥から現れたのは、自分よりも少しだけ小さな人型だが、猫耳や、露出した肌から毛がふさふさと生えていることから、人型と獣型の中間のような女の子というのが第一印象で、高校生なのに、中学生と間違われるんです。とでも言って来そうな顔の作りで可愛かった。


そしてこちらを見て一言。

「気色わるぅ!!」

ド直球。大ダメージを負った。可愛い女の子に言われたのだ。

「うわぁ……何これ。こんなのいるんだぁ……きもちわるぅ……」

大げさすぎるほど引いていた。それぐらい言われるのは慣れている。少し凹みながらも、目的のため声をかける。

「防具作って欲しいんですがー」

「うわぁ!! 声何それぇ!! 耳がおかしくなりそう!!」

――駄目だこりゃ。

と判断し、去ろうとしたところ女の子は窓口から身を乗り出してきて腕を掴んで来た。

「待って!! ……うわっ、ヌルヌルだァァッ!!」

腕をつかんだが、一瞬で離した。

そして手を服で擦っていた。流石にそこまでやられたら――ノックダウンです。

悲しい顔をしていると、女の子は体をツンツンしてきた。――気骨のある者がいましたっ!

「……んんっ! おおぉぉ……以外とこれ気持ち良いなぁー! いいよぉ! 作ってあげる!!」

何を基準に合格になったのか分からないが、作ってもらえることとなった。そしてその獣の女の子はどこか天然なのか間延びした声をしているのが特徴的だった。なんか天然っぽい。

注文の依頼内容を言っている間、女の子は体を触ったり、抱きついたりしてきた。――抱きつかれたら見た目と反して大きな山が二つ当たり、非常によろしいです。

どうやらヌルヌルは他の人には付かないようで、それにひんやりしていて気持ちいいらしい。

見た目は最悪だが、触り心地は良いらしい。気に入ったらしく依頼内容そっちのけで触り尽くされた。

「おっけー。腕が4つ出せて、動かしやすく、軽い。10分もあれば出来るけどどうする?」

「待っておくよ」


窓口付近で待っていようとしたが、営業妨害しないで。と言われ、凹みながら店の奥、窓口からも見えないところへ強引に連れて行かれた。


そして現在、工房で女の子が作ってるのを近くで見ている。かなり近い。――密着している。

工房の中は暑いらしく、自分の膝の上に乗って防具を作成している。――完全にイス扱いだ。

両手はほっぺに当てろと言われ、残った一本は露出した腹を抱えるように抱いている。

その腕の上には中々重量感のある二つの丸い物。大きい……。柔らかい……。

少々気まずいながらも、初めての役得として進んで手伝った。


完成した防具は、両脇が店売りのよりも大きく開いている物だった。

現状剣を使うとしたら腕を回転させるように使うので、これなら問題なく腕が回りそうだった。

両サイドの防御力は、他の物よりも落ちるが、前面後面はほとんど変わってない。

何より装備出来るだけで十分だ。


「どうする? 武器も何かしようか?」

「いや、お金がないからこれだけでいい」

「ちょっとぉ、喋っちゃだめだってぇ!!」

「え?」

「マスコットは喋らないの! 返事は首を縦か横に振るかだけ!!」

…………コクッ。縦に振った。

泣けてくるが、やっと繋がりを持てた鍛冶屋だ。多少のマスコット扱いでも我慢せねばならないだろう……。

「あ、あらら? 本気にしちゃやだよー! 冗談だって、冗談!!」

腹をヅポヅポ指して来た。地味に痛い。

短い我慢期間は終わり、負けず嫌いが発動した。

仕返しとばかりに猫耳を掴み、捻りを加えながら引っ張り上げる。

「ぁっ……冷たさが……そこはダメぇ…………ああっ! 痛い痛い痛いッ!!」

涙目になってから10秒後、離して上げた。

「ぅぅぅ……耳が伸びたらどうするのよ……」

「……斬ればいい」

「ヒィッ!!」

飛び跳ねるように逃げ出して、部屋の隅でカタカタと震えてながら丸まってるのを見て満足し、お金を置いて一言、また来る。と声をかけてから、外に出た。

優しく言ったつもりが、凶悪な声に変換されて、猫耳の女の子は悲鳴を上げた。


今後、長く……長く……続く……鍛冶屋との繋がりの……始まりだっ……た…………。


「イヤアァァァァッ!!」



後々、この猫耳女の子から聞いてわかったのだが、スロットで選ばれたのは獣型で、元となっているのは自分自身。ほとんど人間と変わらないらしい。

そして職業は鍛冶屋か、爪使いのどちらかしか選べなかったそうだ。鍛冶屋を選んだところ、爪が退化し筋力が増したらしい。

……面白そうだ。タコに比べれば、どのキャラも輝いて見えた。



そんなこんなで猪狩りを続けて、Lvが11、12に成った時すでにそんな考えはなくなっていた――。

まず、Lv11で手に入れたのは左腕だった。これでバランス良く4本の手になり、実質2倍の攻撃回数に。まだ使い慣れていないので1,5倍程度だが、それでも手数が1,5倍は凶悪だった。――他の職と比べたらまだ非常に弱いが。


次にLv12で手に入れたスキル。

『しなる腕:しなります』

これが意外と良かったのだ。相変わらず木の上で弓を放つ生活だったが、これによって最後の決め手が少し変わった。

親猪の体力が残り半分の時には木の上から落ちて、倒せるようになったのだ。

4本の手で持つ4本の剣が突き刺すのではなく、しなった腕で斬る威力は強く、一度に5割以上の体力を持っていけるほどだった。


そして4本の腕は、2本の弓を止まることなく射るので効率もどんどん上がって行った。――毒矢を購入になったので少し出費が増えたが、それ以上に狩れるので、なんとか黒字経営が続いていた。


時折現れる超巨大猪のボスに木ごと人身事故に会いつつも、他のPTが討伐してレアドロップがあって喜んでる様子をじと目で見つつも、毎日現れる弓職に相変わらずやられつつも、他大勢のPKにあいつつも、魔法国から襲ってくる侵略者達に成すすべなくやれつつも、じわじわとレベルを上げていった。


「猫、頼んでいたLv13用の装備一式、出来たか?」

「フィーだって言ってるでしょぉ! もうぅ……。にしてもトゥー良い時間に来たね。後は手袋だけよー」

「おお、仕事が速くて助かる」

「ほらほら、入って入って!!」


言われるがまま入っていった。フィーとは猫耳の女の子のことで装備一式頼んでいたのだ。やっと出てきた自分のこの世界の名前はトゥーだ。

タコを見て直感的に思いついたのがトゥーという名前だった。

フィーは鍛冶屋であるが、基本的に装備類は何でも作れる。職が生産系の場合、同じ物をずっと作り続けるのは苦痛なので幅広く作れるのだ。


そして再びイス代わりとなっている――。現時刻はちょうどお昼なので良い時間とは、暑さを凌ぐ氷が来たとでも思われているようだ……。

「これ病み付きになるなぁー」

獣系で体毛が非常に暑いらしいので、毎回来る度にこれをやらされる。手袋がまだだっていうのも毎回何か一つ出来てないので、わざと一個だけ作らないで待っているのだろう。唯一作ってくれる職人なので文句は言わない。が手は出す――。

腹を摘んだり、猫耳を弄ったり、クルクルの茶毛で遊んだり、新たに発見した尻尾を触ったりしている。


痛いことをしない限り、猫のフィーは気持ちいいー。と言うだけだ。

そして更に新発見なのだが、どうやら耳も尻尾もしっかりと感覚が繋がっていて、自身で動かせるみたいなのだ。今までのVRだと、人外につく耳、尻尾、触覚、羽等は全て半自動型であったのだ。嬉しいと感じれば勝手に尻尾が動くといったように。だが、新システムを導入しているこのゲームでは全て自身の体なのだ。

これはかなり画期的であった。自分がタコのように、何にでもなれるということなのだ。――それを表すかのように宇宙国では何でもいる。

今までは人型の何とか〜。だったのが、タコ。と人から遠く離れれることが出来るのだ。

色んな愉快な動物さん。は徐々に紹介していくことにしよう――。


そしてネコミミのフィーは、この前、あと少しーあと少しーと言いながら手が止まって、イスではなくベットの様に押し倒されて、抱き付きながら眠り始めたので耳を捻って引っ張ったら、さすが半分動物、ふぎゃあああーー!!! と叫び、飛び跳ねて凄い勢いで工房から逃げていった。

少しすると帰ってきて、涙目で、痛いのは嫌。謝りなさい。とドアから覗いて言って来た。

が、こちらに落ち度はないと判断したので、

「わかった」

と言うとのこのこと近づいてきた。

すかさず両手でガッシリ捕まえ、もう一つの両手で耳を掴み言った。

「わかった?」

「わ、わかりました! すみませんでした!!」

痛くなければいいんだな。と言ったら、二つ返事でOKだった。それからだ、自分が色々触って遊んでいるのは。非常に良い手触りなのだ。

ちなみに年齢を聞くと自分より上で、おねーさんなんだからっ! と自慢していた。しかし自分の中ではペットである。


飽きて毒薬を作ろうとしたら、触りなさい!! 触らないと作らない!! と怒鳴られた。――こちらも完全に"ひえぴた"扱いだ。


そんなこんなで、時間の有効利用として触るのに飽きたら、抱き付きながら睡眠をとっている。

タコをやってると"基本的"にのびのびとした性格になる。キャラによって精神に干渉することはないが、タコをやっている内に何となくそうなるのだ。移動がとことん遅いのがそうさせているのかもしれない。


こんな風に接するのは、誰にでもっていうだけではない。この女性? 女の子? ……分からないが、自分と同じで最低限の4時間睡眠で、後はひたすら何かを作っている努力家なのだ。生産系は何かを作れば作るほどレベルが上がっていく。

それを見ててもここの窓口付近を見ててもわかるのだが、かなり出来る鍛冶屋のようで他よりも人が集まっているのだ。自分のような生物が出入りしていても、その数は変わらない。


このような女性に自分は弱い。


フレンドリストに1名の名前が記入された――。







タコは度重なるPKで、知恵をつけた…………。


接近職が近づいてくるのを後ろの目で気がつきながらも、わざと接近を気付いていない振りをして狩りを続ける。殺れる距離に近づいた時、一気に射るのだ。相手が逃げたとしても、それはすでに遅い――。

もしさらに接近を許した場合には、落ちる力を利用して斬りつければ良し。避けられはしない。

VRMMOは数多くやってきたので、強い人か弱い人かは大体分かる。強い者は先に威嚇射撃し、近寄らせない。


ということで、お金が潤ってきた。凄いハッピーだ。思わずスマイルマークにもなる。


ちなみに、これによってさらにPKトラップという異名を勝ち取っていくことになる――。


そしてどうやらピンクネームになるタイミングは、殺るぞ。と思考しているだけで自動的にピンクになるようだ。最近のVRで流行のシステムである。

青ネームで近づいてからやっぱり殺りたくなっちゃった。なんて奴はまずいない。攻撃的思考が一定時間あればピンクになる。

ただ、近づいて見てから、親の仇だった!! なんてことの場合はあるかもしれないが――そんなケースないだろう


これは弓職にとっては親切設定だ。接近を許すのは致命的な職であるので、接近されて攻撃されるまでこちらから反撃出来ない。というのは不利以外の何物でもなかったのだ。


ただ、狩る数は増えても、自分が狩られる数は減ったわけではない。

中距離の魔法使いは自国では数が少ないのでまだ襲ってこられたことは無い。が、しかし代わりとなる中距離がいる。

自分と同じ、宇宙国の1割に分類される完全固定のキャラだ。体内で作り出した電気を頭の触覚から放つ凶悪な種である。

しかも自分とは違って当たりに分類され、上位に位置する。

体は小さく力も体力もほとんどないが、それを補う以上に素早く電撃が強力なのだ。そんな奴に自分は絶好の的とも言える。

そして自分は同じ完全固定キャラで目を付けられたのか、毎度お馴染みの弓職以上に頻繁に襲ってくることとなった――。



――来た。



金色の毛並みをしていて狐の様にも見える。狐と違うのは尻尾がないことと、額から後ろへ伸びる体長よりも長い触角だろう。

――非常に可愛い。自国の人気者でいつもチヤホヤされている。女性達の寵愛を受けているのがあの近づいてくる金色の動物だ。

しかしやってることは凶悪。常に赤いオーラを纏っているPKerなのだ。しかも口が悪い。襲ってくる弓職は言葉が届かない距離というのもあるが、喋ってくることはない。

この狐は大声で辺り一帯に叫びながら来るほど、厄介者である。


「来たぜぇぇぇい!!!! 俺様がやって来たぜぇぇぇぇぇい!!!!」

「……うぜぇ」

「おお!? また居るなぁぁ!! この気持ち悪いタコがッ!!」

「ひたすらに……うぜぇ……」

「まってろよぉぉぉ!? 今会いに行くぜぇぇぃ!」


こうやって叫ぶのも、一帯に女性が居ない事を確認しているから性質が悪い。

女性達の前では大人しく可愛くしているのがまた腹を立たせる。いつ化けの皮が剥れるかを、男性陣は楽しみに待っている。が、中々剥れない……。こいつ、世渡りが非常に上手いのだ。


「ッケッケッケ!! また木の上で芋虫ゴッコかいぃ!? 弱いって残念だねぇぃ!」

シュッ。弓を射るが、簡単に避けられる。

「おやおや、気が早いねぇぇ!? ほらほら、楽しもうよぉ」

挑発はしてくるが、近づいてはこない。自身の矢を避けれる距離を正確に把握しているのだ。

無視して親猪を狩り続ける。

「連れないねぇぇぃ。遊ぼうよー?」

そう言って、親猪を強力な電撃を放ち、一撃で仕留めてくる。

煙球を巣に投げ入れようとしても、それも小さな電撃で撃ち落される。打つ手なしだ。

「その気持ち悪い声を聞かせておくれよぉー?」

今のところコイツが殺された情報は天敵である必中スキルを使った攻撃以外では聞いた事が無い。それは主に弓職が持っている。


そして周りに弓職たくさん居る。同じ木の上に登って狩りをしてる者達の殆どが弓職だ。――しかし叫んで回りに助けを呼んでも来ない。

自分を助けようとするのなら、コイツの標的にされるのだ。

そうなると、ある事無いことが女性の間で広まり、名声は地に落ちる。自分はすでに落ちていたが、更に落とされた――。泣けてくる。

さらに執拗に襲ってくる。ここでなら近づいてきてもすぐ分かるが、金髪ではあるが、他であれば小さいのでわかりにくい。

なので弓職も狙われたらたまったもんじゃない。タコを助けるためにそこまでの自己犠牲は出来ないのだ。

それも分かっているので、周りの弓職をせめないし、怨みもしない。だが、心の中で数多くの罵倒は必ずしている。


こうして3時間近く邪魔され続け、最後に殺された。


復讐を誓うNo1は急上昇のコイツで揺るがない。


襲撃の多さに、Lv12で止まったままだ……。

かといって街中にも居られない。視線もかなり鋭く痛いものが女性陣から飛んでくるのだ。――石はまだ飛んできていない。

最近、男性から同情されて路地裏などで物を貰う事がある。

あの小悪魔に現在自分が目を付けられているということは、他には行っていないということでもあるからだ。

それは即ち、1割の完全固定キャラの平和が保たれているのだ。

それに同じ種の者は執拗にPKして、ほとんどが辞めたそうなのだ。――同じのは他には要らないという理由から。

そう思っている者は確かに居るが、実行に移すのはこいつぐらいだ……。


このままここに居てもしょうがないので、仕方なく狩場を変えることとなった。

この街ともお別れということになるので、最後にフィーの元に来た。


「フィー、頼んでいた物は出来ているか?」

「はいはいー。これね、どうぞぉー」

事前に頼んでいた物を受け取り、言った。

「今日、町を移動することにした」

「……そっかぁー……そうだよねぇー」

「また来ることにする」

「うん、わかった。またね」


簡単なやりとりをして旅立った。


出会いもあれば別れもある。


同じ戦闘職でもLv差が出てくれば、自然と会わなくなり、クランも変われば会わなくなる。


非戦闘職でも同じで、本拠地を定めているフィーとは何時かは必ず来る別れである。


狩場は彼方此方あちこちにあるので、戦闘職にとって一箇所の街で長居することはあまり無い。


多くの人が溢れる現実でも、この世界でも永遠の別れは多い。如実に現れるのは学校であろう。


学校が、学級が、学ぶ種類が違えば、二度と会わなくなることもある。


しかし、別れは永遠ではない。


多くの永遠の別れの中で、フィーとはまた出会う。


餞別として貰った物のお礼を返しにいつか行かなければならない。


何が良いだろうと考えながら、馬車の荷台で眠りについた。



そのタコの腰元には、丁寧に綺麗に作られた4つ手の蒼い小さな人形が揺れていた――。












移動に1日をかける程、出発した街から離れた山村に来ていた。

ローブをすっぽりと被り、身を隠している。目撃情報を元にまたあの狐が襲ってこられてもかなわない。


"鳥の巣"と呼ばれる狩場へ向かう前に、小さな山村で大量の食料品や消耗品を持てるだけ持って向かっていた。


鳥の巣と呼ばれている場所は山の頂上である。

そこへ行く道、それは山をグルグル回って行くのが人の道だ。


しかし自分は山村から一直線に山の頂上へ向かっていた。

これは自分だからこそ出来る方法だ。

能力の一つに、歩く速度は一定。というのがある。それはどんな場所でも。という条件もあるのだ。

なので今、傾斜80度近い崖を上っている。試したところ90度以上は無理だった。が、逆に89度以下なら可能だった。

上半身は重力によって下へ引っ張られるので、かなり腹に力を入れなければならない。

上半身が重力に負けると、下半身もそうなり、そのまま飛び降り自殺になってしまう。

ハラハラドキドキのワクワクコースである。


こうして、人が5日ほどかけて上る山頂へ半日で着いた。

そこは切り取られたように平面になっていて、小さな草原にも見える。そのちょうど真ん中には窪みが出来ていて、そこは大きな鳥の巣となっている。

それに見合う大きさの卵があった。どうやら1日1度のボス討伐には間に合ったようだ。


そして、そんな草原の中にポツポツと生える大きな巨木が今回の目当てである。


5つのPTがそれぞれの巨木の近くで狩りをしていた。

残る巨木は1つ。人気の狩場だと聞いていたので、空いていてラッキーだ。


卵に亀裂が走った――。

タイミングピッタリだったようだ。


それに誰かが気がついたようで、その者が大声を上げた。

「シャチョウが出るぞー!!」

その声にそれぞれ狩りしていた5つのPTが集結した。そこへ自分も混ざりに行った。集まった人数は30〜40人。PTの限度が8人までなので、大体が6~8人で狩りをしていたのだろう。

集まった者達は誰一人会話を交わさず、静かに一人の人物を見つめていた。その者が口を開く。


「今回も自分が指示をしたいと思うが、異論があるものはいないだろうか?」

力強く、人を引っ張る力のある声に返事はあがらなかった。

「では、今回はいつもよりPTが少ない。が、指示をしっかり聞いてくれれば確実に倒せる!」

リーダーになった人の8つ目は怪しく赤色に光っていた。上半身だけは人間だが下半身は違った。

――蜘蛛だ。

アラクネと呼ばれ、VRMMOでも基本的にボスとして登場が多いモンスターだ。

横に6本、前に2本の8つ足でそれぞれの先が鋭く尖っていて、黒光している。斬っても斬れなさそうな硬度をしているようにも見える。狙うなら関節だろう。

記憶にある。――当たり種だ。だが、何らかの理由で上位には入ってなかった。

上半身は人と同じなので、普通に防具をして、腰には剣を2本携えていた。

……カッコイイ美人だ。出来る人オーラが放たれている。


「PTはそのままで、前衛と後衛に分かれてもらう。ボスは飛んでいて前衛の攻撃は当たらない。が、攻撃を額に当てれば落ちる」

ここに来る前に確認していた情報と同じだ。

「落ちたところを前衛達によって両翼を破壊してもらう。後衛の者は味方に当てない様に体を狙ってほしい」

皆は一言も聞き漏らさないように、静かに聴いていた。

「その後立ち上がってこようとしたら、すぐに離れて近くの巨木の横まで離れてくれ。その後、私が合図するまでその場で待機だ。それじゃあ――行くぞおぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」」」

掛け声が合図となり、すぐに前衛と後衛が別れて行った。

軍隊のように統一された動きを見ていたいが、ゆっくりしていられない。リーダのアラクネに声をかけた。


「すみません、今来たところでPTに入れて欲しいです」

自分の声に目をほんの一瞬大きくしたが、何でも無いように振舞った。

「ああ、それなら私のところが空いている。入るといい」

この声を聞いて平然と返事を返すとは、それだけで人間が出来ているのがわかった。

そして自分にだけ見えるスクリーンが表示された。

『リシア様から、PTに招待されました。入りますか? Yes/No』

思考で肯定を選択した。

視野に入る7人の者の体の中心に緑色の蒸気のような物が見える。

どうやらそれがPTメンバーの証のようだ。思考でチャットに「ボス狩りの間よろしくお願いします」と入力すると、すぐさま返事が幾つも返ってきた。

不快となる声を発するのもあれなので、アラクネのリシアにお辞儀をして、後衛の方へ向かっていった。

ゆっくりと歩いてくるローブ姿の者に、後衛の者達は不可思議な目を向けてきたので、お辞儀をして後衛の団体から少し離れた位置で待機した。


思い思いにそれぞれが準備している。配置完了から5分程経ったころだろうか、卵の殻が辺りに飛び散った。

強化や補助等のエンチャントがそれぞれにかかっていった。自分にもPTメンバーの誰かから様々な効果のものをかけてくれた。

――この世界に来て、こんなの初めてだ! ずっと剣と弓な中世世界だったので、やっとファンタジーな世界に来た気分だ。体が光るっ! 力が沸いて来るっ! 思わずVRでは当たり前のファンタジーに泣きそうになる。


そしてカチョウと呼ばれるボスが現れた――。


「クエエエェェェェェェェッ!!!!」


耳が痛くなる程の高音咆哮をあげると、巨木に居た鳥達が一斉に飛び立ち、去って行った。


「放てッ!!」


その声を合図に、10数人の矢やら、魔法や、何か分からない物達が、全体的に青い色をした大きな巨鳥に飛んでいった。

自分もローブをアイテム欄に納め、2本の弓から2本の矢を放った。


端に位置しているので、誰も自分の姿を気にした様子はなかった。

カチョウと呼ばれる巨鳥は次々と放たれる矢を物ともせずに飛びあがった。


その風圧に前衛の者達の小さい何人かは、体の大きな者にしがみ付いたり、逆に掴まれたりしていた。

飛び上がった巨鳥の頭へ向かって攻撃がされるが、止まっているわけではないので当たらなかった。

自分も射て見るが、ダメっぽい。


そしてその巨鳥の下にいる前衛の者達に急降下を繰り返して、二本の足の爪で攻撃をしかけていた。


「急降下してくる時がチャンスだ!! 一直線にしか飛んでこないぞ!!」

リーダーのリシアが大声で叫んだ。しかし、良い射手が居ないのか、中々当たらない。

――自分はって? 弓射るタコに期待しないでください。

本格的な弓職にも無理なのを、ただのタコには荷が重い。

だが、出来ないなら出来るようにするまでである――。


「前衛も弓が持てるものは持てッ!!」

その声に、盾だけ持って回避行動をしていた者達も弓を構えた。

数撃てば当たる。その名の通り、一本の矢が額に刺さった。

「クアァッ!?」

悲鳴を上げると、力を失ったかのように地面に巨鳥は墜落した。落ちた鳥は地面でバタついて暴れている。その羽につぶされたら中々のダメージを食らうが、そこへ飛び込まなくては話が始まらない。後衛からの援助があるのに、脅えていれば前衛失格だ。

「いけえええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

「「「うおおおおおぉおおぉぉぉぉぉっ!!!!!」」」

脅えていた者がいたとしても、その背中を強く押す声によって地響きを鳴り立てて突撃していった。

接近職の者達が翼に向かって様々な武器で攻撃を加え始める。


両翼に寄った前衛達。その間にある頭に向かって後衛からの攻撃が当たる。

戦争も良いが、ボス戦も良い。どのVRMMOで見ても、アドレナリンが放出され興奮を覚える。

「引けえぇぇぇ!!!!」

リーダーの声に巨鳥に群がっていた者達が、蜘蛛の子を散らすように離れて行った。

即席討伐隊なのに、しっかりと整って行動が行われている。

ここに居る者たちもVRMMOを散々経験した者達だろう。だが、それでも他とは比べ物にならないほど統率が取れていた。

鳥の巣で狩るなら数週間篭る。とも言われている場所なので、何度もアラクネのリーダーの下でこの巨鳥狩りが行われていたのだろう。


――巨鳥がゆっくりと立ち上がる。

羽からは血が滲んでるが、まだ飛べるようだ。羽を振り下ろすと竜巻が発生し、巨鳥を包んだ。

数秒後竜巻が消えると、巨鳥はすでに飛んでいた。

そしてまた足の爪で前衛達を襲い始める。――が、それは1回目も行わずにして終わることとなる。

自分が放った矢が額に刺さったからだ――。


飛ぶ巨鳥に地面からでは遠く、命中率が悪いと判断したらすぐに巨木に登り始め、そして急降下する直前の一瞬の停止を狙って射たのだ――。


武器には、隠しパラメーターがある。

使えば使うほどその種類の武器が扱いやすくなったり、ダメージが増えたり、弓だと遠くまで届くようになったりする。

そして自分の弓の扱う隠しパラメーターの技術は結構上がっていたようで、狙い通りに当たった。


地面に居る全ての者が、勝手に落ちてくる巨鳥に唖然としていた。

急降下の前の巨鳥は、地面からでは当たらない距離に居る。なのに落ちてくる。それは即ち矢が当たったことになる。

が、地面から射られた矢はなかった。が、実際に落ちてくる。不可思議すぎることを説明できるものはいなかった。――自身のPTメンバーを除いて。



戦闘中、巨木を上る青白く、胸には緑に光る光源を持つ人物が居ることにリシアは持ち前の目の良さで気がついていた。

PTメンバーでそんなことする者は居ない。即ち新しく入った8人目である。何をしようとしているのかは分からなかったが、一人のために指示を出していては他の6名が多少なりとも混乱するし、出す指示を増やせばそれだけ自身も混乱する可能性が出てくる。

メリットとデメリットを考え、何も言わずにほって置いたのだ。それがこんな結果を導きだすとは――。



他のPTメンバーは落ちてくる巨鳥を見上げたときに、その横に聳え立つ巨木に緑の光源があることに何名か気付いた。

そこで、リシア同様に8人目のPTメンバーが何かをしたということを理解した。

何か声をかけるか……? と考えた時、リシアの声が今まで以上の音量で響いた。

「いけぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」

その声に考えを頭から弾き出し、武器を構え落ちてくる巨鳥へ向かっていった――。


リシアはその攻撃に参加せずに考えていた。

この巨鳥には弓の技、スキルは効かない。隠しパラメーターがあるにしても、ほとんど自分の腕だけで当てなくてはならないのだ。それだけの実力の持ち主。

しかし、その実力者がふざけた顔のした奴。フードで顔を隠しているが、暗くなって見えにくい顔もリシアの目にはしっかりと映っていたのだ。


そんなことを考えたが、すぐに自分もその情報は後で考えることにした。

自身が他の者達に考えさせるのを止め、突撃を指示したのに、自分が止まっていては面目がない。

6つの足を動かし、人外のスピードで羽にたどり着き、スピードを利用し、そのまま羽を切り裂いて行った――。


その後、巨鳥が飛び上がって、一度目の急降下の時にまた一本の矢によって落ちてくる巨鳥が何度か目撃された。

そして蒼かった羽は、もう見る影も無く赤色に染まっていた。もう飛べないようだ。



カチョウとの、ボス戦の第二幕が上がった。



ゆっくり起き上がった巨鳥の目の前にリシアが一人で立った。

巨鳥がゆっくりと動き出したと思ったら、次の瞬間には一気にスピードを上げ前のめりになりながらリシアに突撃をした。

しかしその突撃はリシアには当たらなかった。リシアの体が少し沈んだと思ったら、すぐに飛び上がるように横へ避けていた。

巨鳥がスピードを落とそうとする前に、リシアがその左足に双剣ですれ違い様に撫でる様に斬った。

巨鳥は体勢を崩し、派手に転がりながら巨木にぶつかり、頭をくらくらさせ立ち上がれないで居る。

「いけぇぇぇぇぇぇ!!!!」

リシアの掛け声と共に、声を上げながら前衛達が飛び掛って行った。


その様子を見て、すぐに巨木を降りることにした。

巨鳥がぶつかった巨木の揺れ具合を見て、自分のいる巨木にぶつかった場合、確実に飛び降りコースになると思ったからだ。

巨木には天辺近くにしか枝葉は存在しない。即ち、捕まる所が無く非常に不安定である。


降りる最中も頭を狙って弓を射続けた。


そしてリシアの掛け声で一気に引いていく前衛。

これらの繰り返しを3度目の倒れている巨鳥に攻撃を加えている時、リシアが今までと違う掛け声を出した。

「自爆するぞッ!!!!! 巨木の後ろに隠れろッ!!!!!」

一斉に全員が巨木へ向かって走り出した。

そんな中、自分は手遅れだということに気がついた――。


巨鳥はゆっくりと起き上がりながら、蒼い体は既に血で染まっているが、体色自体が確実に赤くなっていっていた。

自爆する鳥ってなんなん。って突っ込みたくなったが、突っ込んでもしょうがない。一応逃げるが、この足の遅さでは間に合わない。

前衛でも後衛でも足の遅い者が居る様だが、それは全て力のある早い者のサポートによって逃げれていた。


自分の立ち位置も問題だった。後衛の中でも離れた位置に居たのだ。――もし、皆と近い位置に居た場合、連れて逃げてくれただろうか? ……あまり考えたくはなかった。

確かに情報で最後に爆発する。と書いていた。が……ボンッ。程度と思っていた。完全に自分の落ち度だ。


どでかい花火を折角だから見ることにした。徐々に膨らんで行く巨鳥…………。


カチョウが現れた時に発した咆哮よりも大きな、巨大な爆発が起きた――。




――その呆然と立っている気味の悪い生物を視界に捕らえていた。

自分の足の速さから、全員逃げるのを確認してから逃げようと思っていたら、遠く離れた位置にポツンと変なのがいるではないか。

逃げようともせず、ただ立っている。胸に灯される緑色の蒸気も見て取れる。顔もあの変な顔だ。

一瞬、その気味の悪さに躊躇したが、それに向かって走り出した――。



――――



「助かった。ありがとう」

「気にするな。当然のことをしたまでだ」

巨木の裏で、爆発の熱風を感じながら、声の数を減らすため、出来るだけ簡潔に言った。

そして今、非常に落ち込んでいた。

お姫様を助け出す白馬の王子様。完璧に逆転してしまったのだ。――どちらもそれには遠く離れているが。

構図は、蜘蛛の2つの前足によって抱きかかえられるように捕まった獲物だった……。


「礼を言うならこちらもだ。貴方のおかげで楽に討伐出来た」

首を横に振るだけで答える。流石に不快になる声を何度も聞かせるわけにはいかないし、自分でもあまり聞きたくない。なので話す時は出来るだけ簡潔に短くを心がけている。

「……声を出してもいいぞ」

少し考えた後、声を出すことにした。

「俺だって何故わかった?」

「私は目がいいのでな」と言ってリシアは指で額の目を指した。

そして、更にPTメンバーであれば緑の光が見えることを言われてから思い出し、こっそりとやったつもりが、バレバレだったということが分かりため息をついた。今後のため、能力は出来るだけ隠しておきたかったのだ。

「リシア姉さーん!! リシア姉さんどこですかー!? ドロップ品取って分配してくださいー!!」

「おっと、行かなくては。分配が終わったら少し話でもしないか?」

「わかった」

6つ足を器用に動かしてリシアは去って行った。自分もローブを着て、ゆっくり爆発地点に向かうことにした。


ボスの粗品は欲しい者がそれぞれ買い取り、そしてレア武器も出たが、買い取る者がいなかったのでリシアが気前良く買い取り、結構なお金を分配として貰えた。


その後PTメンバーに色々聞かれたが、チャット答えた。ちょっと事情があるため声が出せないです。やった方法は能力の一つです。と。

こちらの顔と声を見聞きされていないためか、比較的友好的に話をした。こんな大人数での会話久しぶりだ。

合わせてチャットで会話してくれる皆、優しい。


一段落ついたところで、商売を開始した。

持ってきた大量の食料や消耗品を定価より幾らか高い値段で販売して、小銭を稼いだ。

こうやって、鳥の巣に新しく来る者と去って行く者によって、近くの山村から5日という距離があっても、最低限の流通がある。

食料は現地調達出来るが、毎日同じ食事ということになるので、他の物が高く売れるのだ。


売る物も全て売り払い、周りに誰もいなくなったところでリシアが話しかけてきた。



「改めて自己紹介するよ。リシアだ。種族はアラクネをやっている」

「トゥーだ。宇宙人だ」

握手を交わす。握った瞬間、リシアは、んっ。と声が漏れていた。

離すとその手を握ったり開いたりしていた。


「もっと粘着質かと思ったよ」

「ご希望に添えなくて悪かったな」

「おっと、すまない。気を悪くしたなら謝る」

「気にするな。触られたのはお前で二人目。それだけで十分だ」

「そうか。分かるよ。私も脅えられることが多々ある」

特に小さい種族系にはな。と悲しそうに言った。イメージと違うが、ぬいぐるみとか抱いて寝てそうだ。

そう思うと可愛く見えた。


「それでここへは始めてか?」

「そうだ」

「歓迎するよ。私はここでは主と。鳥の巣の主と呼ばれている――悲しいことにな」

「思い出したぞ。上位種には入ってなかった理由を」

リシアは知っていたか。と苦笑していた。

「経験値10倍か。難儀な能力だな」

他の人が1ヶ月で卒業していく狩場だとしても、単純計算で10倍だと10ヶ月。これだと飽きが来て辞める可能性は非常に高い。

いくら強くても飽きには敵わない。絶対的な力。それが飽きである。

いかに飽きずに楽しくすることが長くやる秘訣であり、長くは強さに繋がる。

だから、ボスとタイマン張るほどの強さがあっても、飽きが来てしまえばそこで終わりなのだ。

非情な能力だ。


「その通りだ。ちなみに私と違いお前は完全固定キャラだろ? 確か、上位には居なかったな……中位辺りか?」

人間の部分を好きに出来るというので、アラクネは完全固定キャラではない。

「そう思ってくれるとは光栄かな。――――残念ながら最下位だ」

「なにぃっ!? 宇宙一番のハズレキャラ(笑)かっ!? それがっ!? あんな事ができるのにっ!?」

改めて言われても困る。それにやったのは自分の腕前が大きい。まぁ、ここで自分が居れば他の後衛は要らなくなるだろうが。

「最近では気に入っているが、出だしは最悪だった……経験値が10倍必要と言うわけでもないのに、まだこのレベルなのが証拠でもあるな」

「……ふむ、ということは大器晩成型だったのか?」

「そうだと期待している。しかしまだ技一つ覚えれていない。――その足はどういうシステムだ?」

これ以上自分の情報を渡す必要もないので、多少強引だが話を変えた。

「完全に自分の足として動かしている。始めは苦労した」

「……なるほど、同じか」

自分以外にも苦労した者が結構居そうだ。

そして、リシアは一息吸い、力強い超えで言った。


「さて本題なんだが、その腕前――私のクランに入らないか?」

「非常に嬉しい誘いだな。――だが、断る」

嬉しい誘いには間違いなかった。今後この身体と声を知ってクランに誘ってくる者は数少ないと予想できるからだ。

「何故だ?」

「問題はこの声だ……。そこまで言えば分かるだろ?」

この声でクラン、PT、仲間は馬鹿馬鹿しいにも程があるのだ。同じ宿の元、家持ちなら同じ屋根の下、時には一緒に狩りをし、食事をする。意思の疎通のメインは声である。自分でも嫌になる声を近くで聞きたい者が居るわけがない。

姿はキモカワイイという言葉があるので、まだ0,001%ぐらいの者には受け入れられるかもしれない。が、声にキモワカイイは聞いた事が無い。一字一字変わる耳が痛くなる壊れた機械音。好きだと言う者は――いないだろう。

全てチャットという手もあるが、やはり外見の問題もある。わざわざクランを崩壊させる原因になる訳にも行かないので断ることにした。

「…………わかった。……だが、諦めない。気が変わったら言ってくれ。登録して置く」

リシアはそう言うとフレンドリストに登録してくれた。――二人目。


何故だろう、フレンドリストが増えるだけで涙が出そうになる。現実じゃありえない。他のVRでもありえない。

「ありがとう……」

聞えないほど小さく呟いた。




そして聞きたかったことを聞くことにした。

「間違っていたら申し訳ないが、"ファイナルランド"の東方軍に居たアリシアか?」

「――ッ!! な、なんで分かった!?」

あからさまに動揺していた。地団駄を踏む様に8つ足が世話しなく動いているのだ。

「いや、誰でも分かるだろ。その口調にオーラ、名前もアを取っただけ」

「な、何っ!? や、やはり簡単すぎたか……」

顎に手を当て、シリアにでもしておけばよかったかな? と呟いている。

「ファイナルランドではお前に苦戦させられた記憶がまだしっかりと覚えてる」

リシアはその自分の発した言葉を聞くと、徐々に目を見開いていった。

「…………お、お前……その高圧的な喋り方に、あの弓の技術、もしかして、南方軍に居たティスか!? 悪魔のティスだろ!? 何が苦戦させられただッ!! ふざけるなッ!! そ、そ、そ、それ以上、こっちに来るなァァッ!!」

「懐かしい呼び名だ。しかしその反応は酷いと思うなぁ」

その様子が面白かったので、後ずさりする蜘蛛にゆっくりゆっくり歩を進め、顔が自然とスマイルマークになった。

「ヒィッ!!」

――何故驚く。

「何はともあれ、今回はフレンドだな!! 今回はよ・ろ・し・く頼むよ?」

「い、いやだぁぁぁっ!!!! また悪魔の罠にはまったぁぁぁぁっ!!!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」

美人が台無しの形相で、叫びながら去って行ってしまった。

他の者達がその様子を見て、あの凛々しいリーダーが……と、しっかり者でクランの盟主であり、そしてここの主。というカッコイイ美人さん像が崩れていった音がここまで聞えてきた。


ここでの狩場は退屈しそうになさそうだ。


刃を向けられたら、こっちが確実にやられることは間違いないが――。

何せ機動力が半端じゃないのだ。ジャンプすれば10M〜20M軽く飛ぶし、ダッシュも異様に早い。

それに上半身と下半身である蜘蛛の胴体は柔らかそうだが、しっかりと防具を着ているし、それ以上に大きな尻と足の6本は甲殻のようで、ハンマー系の殴りでないとダメージが通りそうにもない。関節を狙っても、自分の足の如く使いこなしているので、それは難しいだろう。

さらに、あのリシアは前のゲームで見たが戦術も戦闘もどちらも非常に上手い優秀なプレイヤーだったのだ。

現状で勝てる見込みはなかった――――なのに、ついつい楽しくて苛めてしまった。反省はしていない。




ボスを倒したが、狩るモンスターが全て去ってしまっているので、40人近い人達は思い思いに時間を過ごしていた。

ある者は談笑し、ある者はここで取れた物で料理をし、自分は草原で大の字で寝ている。――実際にはさらに一本横線が入る。

寝てから約3時間後、ピィーピィーと透き通る綺麗な声を出しながら鳥の群が帰って来た。

それを合図に狩りが再開される。

一度解散されたPTは再び組みなおされていく。

自分も入れないことはないだろう。……入れるよな?

まぁしかしデメリットの方が勝つので入らない。――決して、入っていいか? は? 見たいな反応が見たくないからではない……。


ということでまずは狩りの様子を眺めることにした。情報はあるが、所詮情報だけだ。鳥の自爆で懲りた。


巨木に巣を作っているのは、赤と青の鮮やかな鳥達である。赤が雄で、青が雌。体系は燕を一回り大きくした感じだ。

しかし鮮やかではあるが、非常に攻撃的。警戒を始めると眼光が光だし、巨木が発光しているようにも見える。


一つの巨木毎にテリトリーが円状に分かれていて、その円の中に入った者には容赦なく襲ってくるのだ。


8人PTが一つの巨木の下で戦闘をしている。

そのテリトリー内で前衛が鳥を思い思いに倒し、後衛は安全なテリトリー外から攻撃を加えている。

PTを組むメリットは補助スキルや回復スキル等を受けれるからだ。

それによって狩りの効率も上がるし、安全にも狩れるのでここでの狩りの仕方は基本的にPTである。


しかし例外もいた。あのアラクネのリシアだ。

単独で飛び跳ねながら、どでかい斧を振り回し、さらに足で次々と飛び掛ってくる鳥と空中戦していた。

地面に居れば頭を狙ってくるが、リシアの場合自分から飛び掛っているので、そうはならない。

当たったとしても8つの足で、当たったものが逆に落ちて行った。


そして自分もそれ仲間入りするわけである――。


――落とされる方じゃなくて、落とす方だぞ?


一通り、敵の行動パターンを見終えた自分は動き出した。

空いている巨木へゆっくり向かっていく。

通り道にあった真ん中の巨大な鳥の巣には、また卵がある。自爆し終わった後すぐに空から卵が落ちてくるらしい。自爆した際に体内の卵が打ち出され、綺麗に巣の中へダイブするらしい。いっつあ、ふぁんたじー。


そんな脈打つ卵を横切り、リシアの狩りの横も通った時――露骨に距離を置かれた。

そんなのを見ると――からかいたくなる。わざと乱入してやろうか。と考えるが、自分の方が弱いのでそれはしない。といいつつ、そちらを向いて笑みを浮べて、余計に距離を置かれるのを楽しむ自分の性格に拍手したくなる。

そして他の巨木から一番離れた端にある巨木へたどり着いた。


ローブを収納し、4つ手に4つの剣を持つ。4刀流である。この剣はフィーに最後に注文していた物で、Lv12で装備出来る物の中でも中々良い性能を持っている。

鳥達のテリトリーに入ったのか、巨木の上方が騒がしくなり、実が落ちてくるように、赤と青の鳥が羽を畳み、鋭い嘴を武器に弾丸の様に襲ってきた。

この鳥のやっかいなところは、雄と雌のスピードが微妙に違うこと。

そして良いところは、頭しか狙ってこないということ。――即ちスウェーが生かされる。

剣は限りなく軽く作ってもらった。レイピアのようにも見える程の薄く細い剣で止まる事なく襲ってくる鳥を次々と斬って行く。軽いが故に、4つであるが故に、自分であるが故に出来る芸当だ。

しかしさすがに硬い嘴を両断は出来なく、胴体を真っ二つにした鳥がそのままの勢いで頭にぶつかって来ようとするので、最低限頭を動かして避けていく。

目は頭の上部に二つはなれて配置しているので、死角はない。

リシアとは違うが、自分なりにソロで狩る方法を確立出来た。


そのリシアが視界の端でこちらを観察しているようだ。戦闘が止まっているのだ。こちらの目が死角がないとすれば、あちらの8つの目は遠くまで見通せるようである。

そんな事は気にせず、どんどん斬っていく。――からかいたいが、少しの油断が死に繋がる。

自分を中心に回りに死体の山が出来ては消えていき、そこに残るのは実体化されている手の平サイズのアイテム郡である。


そしてどんどん剣が刃毀れしていく。

とことん軽量化をしたためのデメリットである。非常に脆い。

限界まで酷使すれば砕け散ってしまうが、その前に研げば元通りになる仕組みだ。

しかし今、そんな時間はない。限界近くまで使用したフィー特製の剣を思考で仕舞い、すぐに新しい同じ剣を手に出現させて止まることなく斬り続ける。

完全に全く同じ物は作れないので、ほとんど同じ物という表現が近い。――店売りの物は完全に同じである。


それからどのくらい経っただろうか、所有の剣が全て刃毀れしてしまったので、4つ全てしまい、小盾に変更する。

出来る限り頭だけで避け、無理なのは盾で弾く様にして少し軌道を変える。

こうして周りに、円型に出現した大量のドロップ品を回収してテリトリーの外に出た。


テリトリーから少し離れたところで座って、10数個の剣を砥いでいく。

4つ手なので2倍の速度で出来上がっていく。

こうしてスリル満点の、一発でも頭に突き刺さったら即DEADな狩りを、これこそが狩りだった。と喜びを感じながら続けた――。











PKされていて分かったのだが、どうやら隠しパラメーターに、殴り系には強い。斬り系には弱い。があるらしく、こういった鋭い嘴なんかは天敵であるのだ。

しかし当たらないので関係ない。たまに掠ったりするぐらいだ。

逆に言えば、一度当たってしまえば体制が崩れて、連鎖して次から次へと当たるので、一度たりとも当たれないのだ。

この狩りは自分に適していたようで、レベルもすぐに上がった。


『ボンガラドンガラドンガラッタ!!』

『Lv13ボーナス!! 足が増えます!!』

「マジデ、タコォォォッ!?」

後ろの腰辺りがむずむずすると、ニョキニョキッと足が尻尾の様に生えてきた。

現在、3点倒立のようになっている。

LvUp時が一番油断しやすいと、一度木の上から落ちたことで学習しているので、そのような過ちは起こさない。

足は動かなく、少しバランスが変わったがそれだけだ。剣を盾に切り替え、ドロップを回収し、足を引きずるようにしてテリトリー外に出た。


狩りをしてLvを上げることより、優先順位が足を扱えるようになることになった。

すでに腕で2回も経験しているので、1時間もあれば普通に歩ける様になった。

3つ目の足によって、歩くスピードが少しあがった。大股歩きのような事が出来るようになったのだ。

素晴らしい進化に感動し、よりタコに成って来ている姿に何とも言えない気持ちとなった――。


剣を研いでいると良い匂いが漂ってきたので、ローブを着て匂いの元へ行く事にした。

すでに辺りも薄暗くなり始めている。夕食時だ。

そこでは大きな一つ目のサイクロプスのような男と、小さな角の生えた皮膚が赤みを帯びている小鬼の様な女の子が調理器具を広げ、並ぶ者達にどんどん料理を作っていっていた。

自分もその列に並ぶ。

料理は誰にでも出来る。隠しパラメーターがあるのかどうかは知らないが、誰も出来る。

なので、こういう長期滞在の狩場では上手い奴が一人居るだけで、食事の質が格段に上がる。

自分も料理は好きで満足するのは作れる。が、ろくに調理器具なんて持ってきてないので、この者達が作ったのを食べた方がはるかに美味しいのだ。


こうしてお金と手に入れた材料である鳥の肉を渡し、料理を受け取った。

談笑しながら食事をしている者達の中に入って、静まらせるわけにも行かないので、一人でゆっくりと食べていると声をかけられた。

カサカサと足を器用に動かすアラクネのリシアだ。


「――隣いいだろうか?」

頷くと、リシアは横に座った。

「私はファイナルランドでのことを忘れることにした」

聞いてもないのに、唐突に宣言された。

「そうですか」と適当に生返事を返した。

「でだ、昼の狩りを見たが、やはり私のクランに来ないか?」

「またそれか」

「っく……私のクランに興味がないのか?」

「ない。って言ったら?」

「ないと言われたら――それまでだ」

もう泣きそうな位落ち込んだのが表情から見て取れ、更に攻めたかったが、つい本当のことを言ってしまった。

「――あるよ」

「あるのかッ!?」

やばい、3日食事を食べていなかった犬のように目を輝かせている。

何だか大きな尻尾も少し左右に揺れている気がするのは目の錯覚だろうか。

「正直言ってある。かなりある」

「――入ってくれるのかッ!? そうなんだなッ!?」

両手を脅えることなく、堂々と握ってきた。

「いや、入るとか言ってないし」

「……そうか……」

ズドーン。とでも効果音が出そうな表情になってテンションが下がっていっていた。

――やばい。こいつ弄るの楽しい。

的確に指示を出し、それでいて先頭で恐れる事無く向かってくる過去の記憶からは想像もつかない。

「しかし気に入ったから、気が向いたら入るよ」

「――ッ!! そ、そうかァッ!!」

握手を交わし、その後フィー以来のひさしぶりの会話を楽しんだ。



――今自分がPKに遭わずに狩りを出来ているのはリシアのおかげでもある。

一度、国内のPK集団が襲ってきたが、リシアを中心とし統制された軍隊は強力で軽く捻り潰していた。――自分は間に合わなかった。

それにどこで嗅ぎ付けたかあの金狐が襲ってきたのだ。粘着質。ストーカーすぎると驚かされた。

金狐はどうやら森の中や、足場の悪いところでは、あの機動力が発揮出来ないらしいので、わざわざ近くの山村からでも5日なのにも関わらず来たのだ。ある程度ちゃんとした人の道があるのでもっと短い時間でたどり着いているだろうが……。


鳥を狩りしている人達に女性がいたことから、叫びもせず行き成り暗殺の如く襲ってきた狐はリシアの目により簡単に発見され、リシア軍がプチっと潰してくれた。

それ以降はここでは分が悪いと思ったのか、襲ってこなくなった。賢い判断だ。

こうして粘着質な狐から逃れて、夜はリシアと二人きりだ。


――変な意味はない。夜でも狩りを続けているのだ。


暗くて全然見えないが、鳥の目だけは光って見えるのだ。

それを目印に狩りを続けている。難易度が上がったぐらいで、問題はない。


が、他のPTは熟睡している。――リシアを除いて。

毎度お馴染みになった、食事に会話の時に聞いてみると、夜の方が見えやすいと言っていた。

こうして昼夜問わず狩りを続けたところで、


『ボンガラドンガラドンガラッタ!!』

『Lv14ボーナス!! 足が増えます!!』

「んんっ? また足か!?」

4本目は頭から除外していた。なんとなく3本がデフォルトだろうと決め付けていた。

そして、右足の生え際から後ろに一本足が生えてきて、尻尾の様にあった足は左へと移動した。


4つ足、4つ手になった。計8本という過剰過ぎる手足の数。

歩き方は3本のときと変わらず、ぺったんぺったんの大股歩きである。

4つ足は、3つ足でも良かった安定感が抜群になった。

安定感が良くなったことにより、より無茶苦茶に上半身を動かせることとなった。


増えた足を見たリシアが、幾つまで増えるんだ……? と聞いてきたことにより、まだ増える可能性があるということに気がついた。


タコで始まるタコタコストーリー。


こうして、今までじゃ想像も出来ない速さでレベルがまた一つあがった。

――リシアは10のまま。

『ボンガラドンガラドンガラッタ!!』

『Lv15ボーナス!! 吸着することが出来るようになります!!』

「……? 吸盤?」

スキルの全体像が見えてこないので、早速確認することにした。

『吸着:体のどこでも、どこにでも吸着することが出来る』

何ていうか、本当に吸盤な能力でした。


「吸着!!」と叫んでも、吸着されるわけではなかった。

ということは思考型のようで、しっかりと吸着しているイメージをして持っていた剣を放した。――落ちない。

成功したようだ。そしてこのスキルは新たな狩りが出来ることを意味していた――――。


現在鳥の巣に来てから現在2日目、最後に二度目となるボスを倒してから下山することを決めた。

今回のボスはあっさりと倒すことが出来た。昼に30人近くの団体が来たのだ。


そしてそのボスは装飾品系に分類されるレアアイテムの宝石をドロップした。

装備した者の温度を下げるという能力としては微妙だが確かにレアアイテムで、狙っていたアイテムだったので、高額ではあったが買い取ることにした。

お財布の重みが……。――実際にはサイフなどはない。



そしてリシアに下山する節を伝えたら――引き止められた。

「早いな……もう行くのか?」

「ああ、人も増えたし次の狩場へ向かうよ」

巨木一本辺り2PTまで十分に狩りが出来るだけの敵が居るので、狩場の取り合いにはならないが、その分、人と近づくということになると――視線が痛い。

能力は隠せるなら隠すが、人の目に限界はあるのでそこに重点は置いていない。すでに多くに見られている。

ここの鳥はLv10なので、±10まで経験が美味しい。20まで居ても問題はない。が、一番の理由に、吸着でここより効率の良い新しい狩り方を思いついたからだ。


「そうか……残念だ……」

下半身が蜘蛛とはいえ、美人にそう悲しい顔をされると残りたくもなってくるが、自分の意思は変えない。

「まあ会えるだろう。戦場で期待している」

その言葉に納得したのか、体をガッチリ固定されていた8つ足は外された。――体にその跡がくっきりついている。

「そ、そうだな…………そうだよなッ! また会おう!!」

リシアは噛締めるように言い直し、握手を交わして鳥の巣を去った。


時折見せる子供らしさから、以外と自分より年下なのかもしれない。

が、年下だの上だのは現代において、あまり意味をなさない。

外見における老化というものが、ほとんどないからだ。

5歳かもしれないし、100歳かもしれないし、外見は実は不細工なのかもしれない。それも問題ではない。外見等の外面は恋愛までは意味を成すが、実質1400年という長い間を一緒に居ることになる結婚となるとほとんど意味を成さない。

しかし、全体的に美形にはなってきている。食べる食事は柔らかくなったので顎が細くなり、追い討ちをかけるように一昔前に美形大流行が起きたらしく、美形同士の結婚、さらに子沢山という一大旋風が起きたのだ。



再び半日かけて山を降り、山村へと着いた。

降りる前に大量に買い付けた粗品を売り払い、少し財布が元に戻った。

レアアイテム購入でなくなった財産だが、Lv15の装備一式を買うお金は何とかなりそうだ。

ローブ姿で馬車に乗り、猫耳の生えた鍛冶屋の元へ帰ることにした。


窓口が並ぶシンプルな鍛冶屋通り。前と変わらず止まることなく金属音が鳴り続けている。


「おーい、フィー居るかー?」

「はいはいはいー? ――あッ!! とぅーだぁ!!」

猫耳ピクピク動く女性は、窓口から発射される弾の様に、飛び越えて抱きついてきた。

「短い別れだったねぇー」

フィーは抱きついたまま上目遣いで言ってきて、そして目線を落とし、腰に小さな青い人形があるのを確認すると、笑みを浮べながら抱きしめる力を強くした。

「……まぁな。鳥の巣は卒業した」

「私の剣は役に立った?」

腰に挿している剣を引き抜いてじっくり見ていた。流石そのあたりは鍛冶屋だ。

「素晴らしく良い出来だった。性能がほとんど同じだから、混乱することなく使えた」

4つ手に4つの違う性能の武器はまだ使いこなせない。コンマの世界で狩りをする時に置いて、武器による攻撃の仕方の違いを考える余裕はない。――勿論、性能の差もだ。不用意に考えれば考えるだけ脳は混乱し、腕はめちゃくちゃに振り回されることとなり、ゲームオーバーだ。


頭を撫で、そのまま猫耳も弄った。

「そうでしょそうでしょー」

作った武器が褒められたのが嬉しかったのか、自己主張激しい胸を反らし、頬を赤らめていた。

「それじゃあLv15の防具一式と武器は弓。飛距離重視で2本頼む」

「んもぅ……帰ってきてすぐに商売の話だなんて、もてないぞー?」

腹を指でづぽづぽと突き刺してきた。――だからそれ地味に痛い。

「この格好でモテようとは思っていない。学校があるから急いでいる。頼んだぞ」

こちらの世界で多少急いでも変わらないのだが、このままだとまたイスにされて何時間も捕縛されかねない。

「んぬぅー。まぁ明日までには仕上げるようにするよー」

学校の一言が聞いたのか、潔く引いてくれた。


ログアウトして、いつも通りの量の食事を取り、学校へ接続した――。




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