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No3 異世界の野生児


少年の口周りは血で汚れていた。

そして、少年は死体に集るハイエナのように、ピューマのような動物の死体を貪り、血を啜っていた。


少年は泣いていた。

そしてその傍らには、ピューマのような動物が横たえていた。――その頭には剣が深々と突き刺さっていた。



始まりは、どこからとも無く聞こえてきた声だった……。


「えーっと、貴方は選ばれました。あー、このお菓子美味しいなぁ……。誰も見てないし、もう一個食べちゃお。

…………えーと、何に選ばれたかっていうとぉ、駒なの! これから千年の私達の仕事量を決めるために、自分の駒として他の駒と競い合ってもらいまーすぅ。頑張ってくれたら願い叶えてあげるからねーっ!

……あれ、違う……? あぁぁ! これは言っちゃ駄目なやつだったぁ。えーっとぉ……何々? 

欲深き者よ、願いを叶えたくば生き残ってみせろ。死の危険はない。死んだとしても記憶を無くし元の世界に戻るだけだ。どうだろうか? なぁーに、行き成り異世界に放り出しはせん。お主を呼び出した神の力量によって加護が得れる。どうだ? 願っても無い条件だろう。さぁ楽しんでみないか?

……よし! 練習もしたし、次は本番だぞー!! …………あれ? どうしよう。この人こっちの世界連れて来ちゃってる…………ま、いっか! 練習だし。あーそれにしても美味しいなぁ、次はこっちの果物食べよっと…………」


こんなふざけた声が聞こえてきたと思ったら、自分は異世界に来ていた。

初めは信じれなかった。が、状況から信じるしかなかった……。


――


自分が召還された位置は左右に森が広がる道の上だった。

状況を理解し、復讐を誓ったところで道を進んでいくことにした……。

早速選んだ方向は間違いだった――。というか、練習してたら召還しちゃったという時点でもう全て間違いだらけだ。



「あdsjd意gdf鋳あsdぁkじぇfりあおj」

「は、はい?」

「dfぎあおいあwdヵksぢあぐあds」

「え?」


馬に乗った3人組は意味不明な言葉を発しながら現れ、剣を突きつけてきた。


「い、命だけはっ! な、何も持ってませんからっ!!」


そう言ったところで、剣が振りかぶられた。

殺されると確信した自分は森の中に転げる様に突っ込んでいった。

後ろから聞こえる怒号に脅えながら、全速力で、何度もこけてもそれでも前へ前へと逃げていった。


もう走れない……。と木に寄りかかったところで、すでに後ろから追ってくる声は聞こえなくなっていた。

安堵のため息を吐いて、目の前を見た。何かがあった。何かはすでに一目見て理解しているが、理解したくなかった。


「ひ、ひぃっ!?」


白骨化した死体がバラバラになってそこには広がっていた。

綺麗に白骨化した遺体ではなく、骨があちらこちらにバラけて落ちているのだ。

そして服なども千切れ千切れで草などに引っかかっている。

そこでやっと何が起きてこの死体の人は殺されたのか理解した。


「……獣に食い殺されたのか」


幸いにも肉片は転がっていなかったので、吐き気を覚えることもなく、一度驚いただけで、冷静に状況を把握することが出来た。

そして転がっている剣を剣を手に取った。

どうやら見た感じ、触った感じ、安物の銅剣のように見えた。


他に鎧など無いだろうか。と辺りを探すが、どうやら死体は戦士とかではなかったようで、千切れた衣類しかなかった。

こんな状況で自分は、死人の者には霊がついてそう。等と考える頭の持ち主ではなかった。

そしてすぐさまその場を離れることにした。

何故ならここには肉食獣が生息しているということだからだ。


道へ戻ることも考えたが、森の中を走って逃げてきたので、どっちが道か既に分からなくなっていた。

前へ前へと考えて走ってきたので、一直線とも考えられるが、森はそんな甘いところではなかった。一直線な道など、数Mあれば良い方なのだから。

なので期待はしないが、一応、来た道っぽい方角へ行くことにした。



二日後


やつれた顔で、やつれた精神で、重たい足取りで森の中を歩いていた。


「……殺す。絶対殺す。引きずり回してから殺す……」


自然と悪魔の囁きが口から出てくるぐらい、疲労困憊だった。

水は一滴も飲めず、物は草しか食べれず(不味くて吐いた)、道は見えず。

そんな中思い出すのは、あの可憐な声である。

そんな風に言えば、恋でもしてるのか? と聞かれそうだが、全くの180度逆である。

一度声でも聞こえてこようものなら、その方角へ剣を持って脊髄反射の如く飛び掛ること間違いなしである。

普通に生きていた。可もなく不可もなく、日常を生きていた。成績は平凡であるが、しかしそれなりに友達にも恵まれ、生きていた。中学3年生。

すでに行く高校は決まっており、後は最後の中学生活を楽しむだけだった……。


今は楽しむという次元の話ではない。この状況を楽しめる者がいるなら是非変わろう。

さぁ、バトンタッチしてくれ。

――さて、そんな状況であるから悪魔の囁きが一つや二つ、百や千、口から自然と発せられても神様は許すだろう。だが、自分は神様は許さない。

そんな最悪の精神状態でふらつきながら森をさまよっていた。

死んだらそんな状態から開放されるのだが、絶対にそうしないと決めていた。

何故なら、死んで戻っても記憶がないのだ。すなわち、今生きている自分は死ぬということである。

ならば精一杯生きる。とすること決めたのだ。


「…………あれー、あんなところにピューマみたいな、虎みたいな、チーターみたいなのがいるよー。美味しそうだなー」


ふと森の奥から、こちらの様子を伺っている動物。美味しそうだ。


「……え?」


美味しそうな動物は――今見たら、カバでも美味しそうに見える――こっちに向かって走り出した。

美味しそうな動物は、一転して危険な動物へと、脳が変換した。が、前提としては美味しそう。はまだ付いている。


「無理無理無理無理無理ー!!」


一応剣を構える。走る速度を見た瞬間、逃げるという選択肢は消えたのだ。

食うか食われるかの状況。

自分は――食う側の人間だった。

気合を入れ、飛び掛ってくる美味しそうな動物を剣で上に振りかぶって、叩きつける様に一気に頭目掛けて降ろした。

首元狙って食いつこうとしてきた動物の頭は、無理やり下げられたが、勢いは落とせず、腹に突っ込んできた。

一人と一匹が転がった。

そんな中でも剣という、唯一の武器を離したら食べれない(死ぬではなく)と判断したので、しっかりと握っていた。

そしてすぐさま立ち上がり、ふら付いている動物を横から、バットで玉を打つ様に切り付けた。


「ッハ!!」


決まった!! と思ったが、その剣は獣の頑丈で弾力のある皮に威力を落とされ、元々安っぽい銅の剣で、錆ついてたせいもあり、斬る事は適わなかった。

銅の剣は、ただの硬い棒と化していた。ただ殴っただけだった。そんな攻撃では獣はビクともしていなかった。

しかしまだ獣は一撃目の攻撃が効いていたのか、まだ少しふら付いている。が、こちらをしっかりと睨んでいた。


自分は食う側の人間だ。――だが、今は食われる側の人間と成果ててることに気がついた。

即ち……逃げた。


獣は追ってはこなかった。が、獣だ。匂いで追跡などお手の物だろう。ある程度逃げたところで、木の上に上ることにした。

もう、自分がふらふらである。

飲まず食わずで2日、さらに初めての獣との死闘。限界が来ていた。が、最後の力を振りしぼって、木へと上った。

2Mぐらいの高さであろうか、太い枝に腰掛けた。そこで獣がやってきた。

下でウロウロ、ウロウロし出したのである。

いつ木を上って来るのかとはらはらするが、どうやら試してもこないことから、木登りは出来ないようである。


安堵し、気がつけば眠っていた。

良くこんなところで眠れたものだと目を覚ましてから、自分を褒めた。


どれぐらい眠ったか分からないが、下ではまだ諦めてないのか、獣が座ってご丁寧に待っていた。

その獣はこちらを完全に餌と認識したのか、緩みきっていた。

そこで自分は食われる側から、食う側へと再び変貌した。


剣を構え、下に居る獣をしっかりと見る。

計算上、落ちる速度と体重と力によって、頭を貫けると判断したのだ。

どうせ今失敗したとしても、死ぬのはそう遠くない未来である。それも1日か半日先か、それほど近い。

なので、食う側の自分はそのまま飛び降りた。

勢い良くとかではなく、すうっとである。掛け声もない。気付かれて獣の反射速度で避けられては、巣から落ちたヒナとなってしまう。


力いっぱい剣を振り下ろしながらおちて行った。剣は獣の頭へと吸い込まれていった――。


頭を串刺しにされた獣はピクピクと体を痙攣させるだけで、自らの意思で動くことはなかった。


「……グロっ!」


一瞬そう判断したが、喉を潤すために、血を飲み、腹を満たすために貪るように食いついた。

どれくらい食べて飲んだだろう……。気がつけばあたりは暗くなりだしていた。

初めて自分の手で生きた動物を殺したことに罪悪感の涙……はなかった。

腹を満たせたことに、幸福の涙を流した。生きてることを実感出来たのだ。

腹も喉も満たした自分は移動をすぐに開始することにした。獣の死体は他の獣を呼び寄せる。

疲れ切った体を、満たされた幸福を糧に動かした。

辺りが本格的に暗くなり始めたので、木の上に上って睡眠を取ることにした。


「……うーんっ!」


上半身を伸ばしながら、太陽の光を浴びる。久しぶりにまだ普通に朝を迎えた。

一日目はビクビクしながら、少し眠っては小さな小さな物音ですぐに起き、そんな夜を迎えたのだ。

そして今日は硬い枝の上で寝たので、尻は非常に痛くなっていたが、疲労はある程度取ることが出来た。


そしてこれからどうしようかと考えたところで、目に動物が入った。


鹿に近いが、角は無い害のなさそうな、草食です。草食です。とアピールする瞳。――餌が歩いていた。

こちらに気がついたのか、じーっと見てくる。

銃、弓矢なんて物はないし、真下にもいない。倒しようが無かった。


倒す方法が思い浮かばないまま、鹿もどきは去っていった。

そこでふと思う。あの鹿もどきが水場にしている場所があるはずだ。

寝起きに一杯、水をクーっと飲みたいはずだ。すなわち水は近い!!

鹿を良く知りもしないが、感覚だけでそう判断した。


そしてすぐに水場=餌場だということに気がついた。


「朝ご飯達まっててー!!」


今まで普通に生活していた自分は異世界に来てほんの3日で変わってしまった。

良いことなのか、悪いことなのか一瞬、ほんの一瞬考え、良いことだと決めた。決め付けた。

適応力即ち正義。


こうして正義の使者は、鹿が逃げていった方角に向かって歩みを進め始めた。

歩くこと3時間程度、時計がないので、太陽もどきから推測した。

水場=餌場を発見した。

そこは川で、水は澄んでいて十分に飲めると判断した。現に周りでは動物達が飲んでいる。

肉食っぽい目がギラついているのは居ないので一安心である。


朝の一杯も飲み終えた。――次は朝食だ。

血まみれの自分は警戒されているのか、周辺には動物は居ないが、視界にはいる。

一先ず血を洗い流すことにした。一晩経ってしまったので落ちにくかったが、出来る限り落とした。

それらを枝に干し、獲物になりそうなのを探す。


3時間経過……。すでに日は高く上っている。どうやら太陽もどきの動きによる時間測定は大方あってそうだ。

問題はそこではない。朝ご飯抜きの昼ごはん探しになっていることである。

小動物、動物、草食動物、自分に害のなさそうな動物達は、流石はサバイバルで生きているだけはあるのか、そう簡単には捕まってくれなかった。


疲れ果てた時、チラチラとこちらを馬鹿にするように木陰から覗いてくる小動物に、癒された。

――なんてことはなく、負け試合を3時間やらされて、プチっとストレスが爆発し、リスのような小動物には過剰の剣を持って飛び掛った。

そんな大振りで捕らえることが出来るはずもなく、代わりに木に剣がぶつかった。


その時だ、異変に気がついたのは。

ボロボロ銅の剣で斬れるはずもない木に、3分の1程度まで剣がめり込んでいるのだ。

そして、異常なのはそれだけではなかった。剣に膜のようなのが纏っているのが視認出来、それどころか、森全体が、一つ一つの生命が透明だけど、見える。そんな膜を張っているのに気がついたのだ。


とうとう自分の頭はいっちゃった。と確信を得た時、体中が気だるさを覚えた。

そういえば、3時間ぶっとうしで野生動物と鬼ごっこ。何て真似は現代では不可能だった。

現に今、気だるさを覚えているが、それだけだ。

不思議に思いながらも、可笑しくなった頭を冷やすために剣を引っこ抜いてから川へ顔を洗いに行った。


不可解な現象が収まったので、川辺にある大きな石に座って、足を川につけて一休みしていると足がそわそわとして、くすぐったい。

何かが足にちょっかいをかけてきていた。

のほほんとしていた自分は、のほほんと何だろなーと特に気にもせず、上半身を石に預け、空を見ていた。


何故だろう。その時急にサメを思い出した。――一気に足を水から引っ張り出した。

すると足に噛み付いている不可思議なウナギの様な、いやウツボか。そんな生き物が足に食いついていた。


「いぎゃあぁぁぁぁぁぁー!!」


生理的嫌悪を感じ、足を振り回して、その生き物を足から剥ぎ取った。

足の指にくっきりと歯形がついており、少し血が滲み出てきていた。

唾でもつけておけば直る。と信じ込むことにし、つけておいた。


そして地面でのた打ち回るウツボの様な生きもの。ぞくぞくっと鳥肌が立つ。

剣でツンツンと触って、安全を確かめる。

どうやら地上では無力のようだ!

強者の側に立った自分は、弱者の側である生き物を餌と認識した。

その時! すぐに生理的嫌悪は消え去った。


すぐさま剣を振りかぶって頭目掛けて振り下ろした――。



生のまま完食。

意外と美味しく、皮と骨以外は全て食べた。

そこで、先ほどまで感じていた気だるさが少し和らいだ。

筋肉疲労でも、スタミナが切れたのでもない、気だるさだ。


適応能力が優れているとここに着てから自負した自分は分かった。

生命エネルギーのような物を、食べることにより体内へと吸収していっているようなのだ。

人間の細胞一つ一つも、食べた物から出来ている。

この生命エネルギーのような物も、食べた物から出来ているようだ。

先ほど剣まとった膜のような物と、森の一つ一つが纏った膜のようなもの、これも生命エネルギーのようだ。



もしかして、この吸収能力が自分に与えられた加護!? かと勘違いして陽気に数日、川にいる魚もどきを足を餌にしたり、岩を岩にぶつけて、その衝撃波で川の中に居る者を気絶させたりして、魚もどきを捕まえて、食べて生活した。


が、そうではなかったようだ。食べれば食べるほど増して行く生命エネルギー、長いのでファンタジーっぽく魔力とする。

魔力が増えてきて、目を凝らせば分かるようになってきたことだが、どうやら食物連鎖のピラミッドのように、上に居る者は多いということだ。

小動物より中型動物、それより大型動物。という具合に纏っている膜が微妙な差しかないが大きいのだ。その数日間で襲ってきた獣が一番大きかったことから、その推測は大体あってると思う。


力の源ともいえる魔力を、この世界で生き抜いて行くために、効率よく得たいので動物を狙うが……うまくいかなかった。

ちなみに獣は狙わない。生と死の狭間のような状況に陥るまで、あんなこの森の食物連鎖のトップのような生き物とやりあうのは、寿命を縮める。


なので、生の魚もどきばかりを食べていた。数日間3食全てが生の魚。流石に飽きてきた。焼き魚、煮魚が食べたいなーと毎晩夢に出てくるほどだ。

ふと思った。魔力と総称している生命エネルギー。もしかしたら魔法が使えるんではないのかと。

ファンタジーな異世界だ。有り得ないことはない。

森の大火災をイメージして、目を凝らした時のように、手に力を込めていくと――マッチのような火が一瞬ッポ。と出た。


目の錯覚か!? とも思えるほどの一瞬で、小指の爪よりも小さい火だ。

しかも、3時間鬼ごっこ並の気だるさを感じる。


しかし、そんなことでめげる自分ではない。焼き魚のためなら気だるさなんて吹き飛んだ。

出来る限り燃えやすそうな枯れ葉を、枯れ木を集め、野外キャンプの様子を思い出し、石で土台らしき物体を作っていく。

歪な形ながらも、何とかそれらしき物体が完成した。魚も既に木に串刺しにして準備満タンだ。

燃えやすそうな物でも、更に燃えやすそうな物を選別して、左手に持った。


右手の平に集中する。

グモモモモ……と力をこめ、日本全土が燃え盛る大火災をイメージした。


ッボと先程より微妙に大きな火が手の平の上で出来、すぐさま左手に持った枯れ葉類を近づけた。

この間もかなり集中して、眉間にしわを寄せ頑張っている。

火が移った。限界だった火を消し、右手はだらーんと力なく垂れ下がった。

すぐさま火種を集めた燃えやすそうな物達に近づける。息を調節しながら吹きかける。


と、一世一代の大冒険の如くやったかいがあり、無事焼き魚を食べることが出来た。


火の有効利用を考えるが特に思いつかなく、気だるさの前に、寝所となったお馴染みの木の上で眠った。


それから数日後……。


「…………よしっ!」


見事にウサギもどきを捕まえることが出来た。

つるをロープのように使い、引っ張ると締め付けられる輪を作り、地面に埋め、その上に魚の食べかけを置いてひたすら木の上で半日待ったのだ。

焼きウサギを貪りながらふと、人恋しくなる。


人に恋しくなるというより、人が作る物に恋しくなった。

調味料などないここでは美味しい物にはありつけない。

生きるために食べる。ただそれだけだ。


慣れ親しんだ川辺から旅立った。

川という道筋があるので、町まで行くには簡単と予想できた。

水のあるところに人は住むのだ。

上流から人の物が流れてくることもなく、綺麗だったので、居るとすれば下流だ。

川沿いに沿って歩いていった。朝に出て、ゆっくり歩いてまだ太陽が天辺に昇ってない内に、人の道に出た。

現代では立派とは言えないが、剣で襲ってくる盗賊が居る世界では立派であろう橋がかかっていた。

左右どちらに進むか迷ったが、サバイバル生活から、無駄なことは極力避けることが染み付いていたので、第三の選択、人が来るのをその場で待つことにした。


橋の上で腰掛けながら、のびのびと待っていたところ、身なりが整った5人の男女が右の方から歩いてくるのが分かった。

一人は女性、後の4人は男性。雰囲気から盗賊ではなさそうだ。接触を試みた。

焼き魚が出来た時並の笑顔で、手を振った。

向こうの5人も多少不審には思われたかもしれないが、それなりの笑顔で手を振り返してくれた。

服装は日本の着物なのだ。甚平と呼ばれる半袖半パンの揃いの柄の物だ。パジャマとして着ていた自分は目が覚めるかさめないかの、寝ぼけている時に声が聞こえてきて、こちらに召還された。靴は獣の皮で出来た粗末な物だ。

民族衣装ともいえるこの衣装。笑顔でカバー出来たようだ。


第一段階クリアー。


第二段階声をかけた。


「すみませ〜ん〜! お聞きしたいことがあるんですが〜」

「……sdlkはイオf愛際音dあぽあds!!!!」

「……sだ……家尾あんだしいおあsdn!!!!」


女性を男性4人が後ろに下げ、4人は腰にかけてあった剣や、背負っている弓等を手に持ち、容赦なく襲ってきた。予想していた最悪の結果だった……。

わざわざ死ぬ気もない。すぐに踵を返し、森の中へと逃げた。上流へはすぐに向かわなかった。もし向かっていったら追っ手が来た際、川沿いには住めなくなる可能性が高いからだ。



ため息をつきながら、対人恐怖症になりながら、見慣れた仮住まい(木の上)で何故襲ってきたか考える。

身なりを見ただけで襲ってこなかったことから、服装、黒髪、黒目は問題ないようだ。

声をかけた。これが引き金となって襲ってきたことから、おそらく言葉に難があるようだった…………致命的だ。

これでは人らしい生活はかなり、非常に、嫌となるほど厳しいと予想される。


違う言葉を話す者=敵。

としてインプットされているが如くの反応だった。

外国と戦争でもしている線が濃厚だろう。その外国に行っても同じ目にあう可能性が高い……。

悪魔の囁きタイムがその日は留まることなく続いた。


気がついたことがあった。人間の中でも魔力量の違いがあることだ。

草食系なのか、肉食系なのかの違いなのかは判断できないが、確かにあったのだ。

女性が一番多く、残りの男性は草食系の動物並に少なかった。

いわゆる草食系男子と呼ばれる、奥手の人たちなのかもしれない。

――肉食系女子と4人の草食系男子。……何だか官能的です。


そして言葉を発したら問答無用で襲われることが二度も。――これだけで対人恐怖症になるには十分だった。


その後、川で1ヶ月ほど生活していると、出せる魔法のレパートリーが増えた。

辺り一面が燃え上がるイメージで、手の平程の炎。

国会議事堂が超大型ハリケーンに見舞われるイメージで、指先を振ればリスもどきを仕留めれるぐらいの速さの小さな風の刃。

洪水によって溺れているイメージで、手の平に集まるこぼれない程度の水。

地震で自宅が崩壊するイメージで、足の裏に力をこめ、強く地面を踏みつけることによって、前方1Mの距離まで膝ぐらいの高さまで盛り上がっていく土。

そして、木々が動き出すイメージで、森林を少しだけ操れた。エントもどきの森。

イメージとかなり隔たりがあるが、それぐらい強固にイメージしなければ、魔法が使えないのだ。


魔法、森に至っては一番楽だった。自然とこうして欲しいなーと思ったら、森林がそうしてくれるのだ。

魔力変換効率とでもいうのか、森が一番効率よく使える。森魔法を使ってもそれほど疲れないのだ。

そして他の魔法行使によって感じる気だるさも、無茶をしないかぎり減り、例えば手の平大の炎も1分程度までなら出し続けれる。

さらにどうやら、食べた分だけどんどん魔力が増えていくようだ。減ったとしても寝れば元通りだった。

そこで、最悪なことが分かった。食物連鎖で一番トップであろう人間を食べればそれだけで、一気に魔力が倍倍ゲームのように増えていく可能性が非常に高いということだ。流石にしないが……。そんな狂人が居ないとも限らない、それを生み出してしまう世界の法則だということだ。

もし自分がするとしたら、さらにその上に居る者をである。

ファンタジーな世界。人間より強く、美味しそうな獣が居る可能性が高いのだ。狙うならばそっちだ。


魔力以外にも、この1ヶ月で変わったことがある。

食べれる食事が、だんだんと向上しているのだ。

まず一番のターニングポイントは森の魔法を覚えてからだ。森の中の植物、草木など食べれる物と食べれない物、分けてくれるのだ。――たまに、ハズレが混ざっているが……。


そして2番目のターニングポイントは、町への進出である。

夜、一番近くの小さな町(川を下流に下りて、道を左)に忍び込んで、取れる物はバレない程度に盗ったのだ。

これにより調味料類が手に入り、ある程度人間らしい生活へと戻った。


3番目のターニングポイントは、盗賊らしき3人組みを見つけたので、2人が寝入って、一人が見張りしているところ、

森の魔法によって、睡眠花と名付けた花の花粉を嗅がせて眠らせ、残り2人にも吸わせてさらに眠らせ、物をかなり拝借した。

盗賊狩りによって、この世界の服や、少しまともな武器、防具が手に入った。

お金らしき貨幣も半分程いただいた。

着実と町に本格的に進出する準備が整っていった……。



最後に4番目のターニングポイント。これが一番大きかった。


――昼頃、町の生活様子を森の中の木の上から観察していた。行動パターン等を、今後のために逐一観察していたので、近づいてきた少女に気がつかなかった。


「syo,denruinikoso,nee?」

「……っ!」


見たのはまず、顔、胸、腰といった女性の部分ではなく、いや、確かに胸と腰も見たが、その意味は違った。

まず、目を見てこちらを見ていないか確認した。姿は確認されていないようだ。

次に両手と腰を見て、武器を持ってないか見た。そして最後に喉、胸という急所を見て狙いを定めたのだ。

手には籠しか持ってなく、危険性はないと判断した。仲間を呼ぶ気配もない。――完全に野生の殺しの脳となっていた。

武器がないことから一安心し、少女を観察する。


「kasemasi,sihanao,tekiterio……?」

「…………」

「……batetueneー! noruteikiー!?」

「………………」

「tuumo! tunsasao,tikeyowaii!」


 何を言ってるか分からない。だが少女はどうやら怒ってる様子だ。プリプリ頬に空気を貯めて、木をペシペシと叩いていた。

 こちらが何も反応しないので諦めたのか、手に抱えた籠に山菜を摘み始めた。


 そして少女は前置きも無く、愉快に歌を歌い出した。


――何と言っているのかは分からない。しかし良い歌だった。澄んだ声が森に透き通るように響き渡り、森達も喜んでいる。

 森の魔法を使い出して、一身胴体までは程遠いが、何となーく森の気持ちがほんわかと分かるようになったのだ。

 のんびりとしている森達が、興奮して珍しく歓声を上げて喜んでいる。晴れが長く続いた後の雨の日のように……。


 自分も聞き惚れた。CD出していたら即買いだ。ファンクラブがあるなら、我先にと入る。

 握手会があるなら、例え外国の田舎だろうと行く。それほど魅力的な声だった。


 森達も喜んで山菜を摘みやすくしている。

 どれくらい経ったのだろうか。歌が終わった。


「neayazyaresoー。tunetamansarusaoー!」


 出会い頭の怒ってた様子はすっかり消えて、可愛い笑顔で去っていった。

 声をかけてみたかった。唯一友好的な態度で接してくれた? 人間なのだ。

 今の生活を進展させたかった。が、せっかく細いながらも繋がりを持てたのだ。

 もし声をかけて逃げられたら……。もし声をかけて脅えさせたら……。もし声をかけたため、姿を見せなくなったら……。

 そんなifが行動させるのを躊躇させた。


 その日から、その少女を観察する日が始まった。


 




 第二章、ストーカーと呼ばないで。


服装は盗賊達から貰ったマントで全身を隠し、フードで頭も隠して、それでまだ少し見える顔(皮膚)も布で目以外は覆っている。

――どこからどうみても怪しいです。しかし見つかった時、今後のために少しでも身体的特徴を覚られる訳にはいけないのだ。


それから毎日、同じ時間、時間にして1時間足らずだが、愚痴や嬉しいこと等など、色んなことを話しかけて来て、そして歌を歌ってくれた。

実際には何と言ってるのか分からないのだが、雰囲気で何となく分かった。

そして歌を他の森達にも聞かせるために風に乗せて、遠くまで、出来るだけ遠くまで響かせてあげた。

それに答えるかのように、森達も歌に合わせて踊って見えた。


出来るだけ長く話し、長く歌を聴きたいので、森で取れた果物や、山菜等を森魔法で事前に置いて置いた。

町近くでの森の中の移動は、基本的に木の上で移動である。少しでも見つかるリスクを減らし、長く歌を聴くために。



そして今日は、綺麗な石をたまたま森の中で見つけたので、それでネックレス作った。

蔓を手の代わりにして最後に渡たそうと思っていたが……。


その日の少女の様子はおかしかった。何かを、幸せそうに語っているのに、何故か涙がポロポロと出て来ているのだ。

思わず木の上から飛び降りて、涙を指でぬぐってしまった――。


やってしまった! と思った時は既に遅し、こちらを見て目を見開いていた。

悲鳴でも上げられるかと思っていたが――力強く抱きついて来た。


なんだかよく分からない展開となり、抱きつき返そうと手を伸ばすが、適わなかった。

胸を押し返されたのだ。空中をさ迷う両手はどこへ行けば……? 今度はこちらが涙目になりそうになった時、


今度はこちらが目を見開くこととなった。


少女は叫んだ。


「tutegeni!!」


何を言ってるかはわからないが、身体で表す雰囲気、指で森を指し、早く行け!! とでも言っている感じだった。

訳が分からないが、後ずさりしたら周りから怒号が響いた。

周りを見渡すと、擬態した人間達が武器を構えこっちに向かって来た。

距離はまだ開いている。

もうここには来れないだろう。直感で分かっていた。

自分に向かって叫んでいる少女の頭に、ネックレスを広げ、かけてあげた。

少女は驚いて何か言っているが、分からない。分からないことがこれ程悲しいことだったとは……。


最後に日本語で

「ありがとう……」

と小さく呟いて、頭を撫でてから


すぐに踵を返し、すでに野生児である自分は猿の如く木々を、蔓を伝って飛んでくる矢を避けて、森の中へ入って行った。


最後に振り返って見た少女はまだ涙を流していた――。



森の中を駆けて行く中で頭は少女のことを考えていた。

一連の流れから、おそらく自分を捕まえるのに利用されたのだろう。

そしてその罪悪感に耐え切れなくなり、教えてくれたんだと思う。

最後まで流していた涙も、それであろう。


罪悪感など感じないで欲しかった。利用するだけしてくれてよかった。

それ以上のことをこちらは貰っていたのだ。

異世界に来て、対人恐怖症になるほどの災難の連続。

会話出来るのは、木々のみ……独り言。

そんな中で、会話は成立していなかったが、話しかけられ、歌を聴くだけで十分に癒され、寂しさ等が消えていった。


こちらが感謝しても、あちらが罪悪感で泣かれる覚えはない……。


もう一度だけでも、せめて最後に一度だけでも会いたかったが……それが叶うことはなく森を去ることになった。




盗賊狩りをしだしてから、森の中を何かを探すように動き回る人間達が徐々に増え出した。

森は自分の一部としつつあったので、そんな者達には捕まるはずもなく、簡単にその手から逃げ、生活していた。

川辺の住んでいた場所にもその手が伸びてきたが、楽々身を隠した。

自分が生活していた跡は、森の魔法によって隠蔽し、自分は草や木々のテントや、土の中の快適な穴倉よって、悠々と探し回る人間たちの近くで寝ていた。

それでも自分がその場所にこだわって居たのは、少女だった。


この度のことで、旅立つのは余儀なくされた。

今までの数十倍の人間が森の中を自分を探して、動き回り始めたのだ。

隙をついて、森の中の方位網から逃げた。

少女の居る村の方面は特に多く、行くことは不可能だった。


現在、人間達がさ迷っている森から離れた街道に自分は倒れていた――。



「kabuzyoudai?」


 優しそうな短髪中年の男性が声を掛けてきた。髪は赤色で、眉まで届かない長さだ。


「rahozumida,iiritukuyumuno」


 水筒のようなものを出して、飲ませてきてくれた。

 どうやら親切な人に当たったようだ。

 喉が渇いていたかのように、がぶ飲みする。

 

「nakiitetunodematima」


 男性に肩を借り、馬車に乗せてもらった。

 馬の手綱を握っているのは、太った恰幅のいい女性だ。肩口ぐらいまでの赤い髪だった。

 

「yokui-! tuha!」


 女性が掛け声をかけると、馬車は走り出した。

 町に着くまで、男性が色々と話しかけてきた。が、こちらから返事を返せば、高確率(現段階少女を除いて100%)で刃物を持って襲ってこられるので、声は出せない。

 耳と口を指差し、×印を指で交差して作った。

 それだけで判断してくれたのか、目を潤ませながら握手をしてきてくれた。

 これほど親切な人を騙すのは胃が痛くなるほど気が引けるが、これから生活していくためには仕方がないので、心の中で謝り、頭を下げて感謝し、腰に付けていた袋を渡した。

 男性は中身を見て驚いて返してくるが、こちらも身振り手振りで受け取ってください。と突っぱねる。

 そうこうやり取りした後、男性が溜息をつき、中から数枚の銅貨を取り出し、袋を返してきたので何度もお辞儀をして袋を受け取った。


 怪しさ満点服装や、元の世界の服等、ほとんど全ての物を住んでいた川辺近くに隠した。

 盗賊から手に入れた普通の服を着て、一般人を装い、街道で倒れてる振りをして、あわよくば助けてもらった人の家で街に住むことを決意したのだ。


 言語は違うが、生活していけば話せるようになるだろうと考えたのだ。

 ただ、行き倒れを助けるまでは大体の人は助けてくれるだろう。しかし、そこからが問題だった。家に住まわせてくれる人はほとんどいない。

 なので、そうしてくれるように仕向ける必要があった。

 もうすぐ、その仕掛けた地点に辿り着く――。

  

 女性の悲鳴が上がった。


「tanatana!! yotadetotuyoti!!」


 馬車が止まり、男性が前へと行った。

 自分は馬車から降りて、馬車の前へと向かった。

 

 そこには道の真ん中に鹿のような動物の死体を食べている一匹の見慣れた獣だった。

 貪欲なその獣はこちらに目をつけて、今にも襲ってこようとしていた。

 馬車に居る2人の男女、おそらく夫婦はナイフを構えてはいるが、どう見ても敵わない。


 自分はすぐさま剣を抜き、魔力を纏った鉄もどきの剣で、獣が飛び掛る前に一気に距離を詰め、その獣の頭に剣を突き刺した。

 獣は悲鳴を上げる間もなく息絶え、後ろから歓声が上がった。

 剣を頭から引き抜き、血を払い、布で拭き鞘に収めた。


 街に住み言葉を覚えるぞ! 作戦、第二段階が完了した。

 その後、街に着くまで、前の座席で馬を操る女性と身振り手振りで和気藹々と会話した。

 

 街には着いたが、どうやらここが目的地じゃないようだ。

 幾つかの街を殆ど素通りして、1週間後、今まで一番大きな町へと着いた。

 どうやらここに住まいがあるらしい。

 自分は初めは護衛として馬車に乗っていたが、どんどん気に入られ、道中家無き子ということを伝えたら、それじゃあ私のところへ。ということで転がり込むことに成功した。

 そして、自分の名前はデイと言う名前になった。

 名前が無いことを伝えてから、こちらを呼びかけてくる度に、デイと言うのでたぶんそうだろう。

 名付け親の2人、男性はヴァン。女性はフェイ。という名前のようだ。発音などの違いにより、微妙に違うかもしれないが、大体あってると思う。


 案内され、住むことになった家は、どうやら大衆食堂のようなところみたいだ。

 馬車に積んでいたのが、食料品が多かったので、どうやら2人のお店かもしれない。

 木製で出来たイスと丸い机が数多くあり、カウンターもあった。

 一階は全て食堂になっているようで、二階が住まいとなっていた。

 一本の廊下の左右にいくつも部屋があった。そして自分の部屋は三階にあるらしい。フェイさんが自分を指差してから上を指差したのだから。


 しかし、階段がない……。いつものことなのか、恰幅の良いフェイさんはこちらを見て反応を楽しんでいるようだ。

 すると十分楽しんだのか、廊下の奥まで進んで、窓の側にかけてあった棒を手に取った。先はかぎ爪のようになっている。

 そして天井についている小さな金具へと引っ掛けた。すると、ザ、屋根裏部屋へのドア(天井)が開いて、ゆっくり梯子が降りてきた。

 自宅にはこんなのはなかった。憧れの屋根裏部屋を宛がってくれた様だ。

 物凄い喜んでいる自分を見て、フェイは驚いていた。

 そういえば、屋根裏部屋は基本、良くない部屋だった気がする。それでも、自分からしたら最高の部屋である。 

 

 興奮しながら、梯子を上げって行くと、そこは意外と綺麗な屋根裏部屋だった。

 初日は埃まみれで掃除。を覚悟していたが、半日もあればピカピカに出来そうだ。

 ジャンプ出来ない高さだが、立って歩くことは出来た。それだけで十分だった。

 部屋半分は木箱で埋れていた。だが、半分もあれば、十分元自分の部屋よりも大きかった。

 そして斜めに傾いたの大きな窓が一つついていて。その窓から入る日光を浴びながら昼寝をしている――黒猫もどきが居た。


 元の世界と似ている物がたくさんあるが、微妙に違うのだ。森も見たことない森だった。ただ、知らない外国のような森なのかもしれないので、何ともいえない。

 黒猫もどきとは言ったが、まさしく黒猫だ。家の近くを闊歩する見慣れた奴より一回り体が小さかった。

 じーっと見ていると、視線に気がついたのか、頭を上げてチラっとこちらを見ると、再び目を瞑り、睡眠に戻った。

 邪魔しても悪いと思い、そのままにして掃除道具セットを借りるため降りると、1階から良い匂いが漂ってきた。

  

 匂いに釣られる様に1階の厨房へと入ると、フェイの夫、ヴァンが料理をしていた。

 3枚のお肉をッサと手馴れた手つきでひっくり返した。おおー! と拍手すると

 照れたように頭をかき、お肉の端を切って、つまみ食いをさせてくれた。

 牛肉ステーキのような味と食感に、感動し、再び拍手をした。

 またヴァンが照れたように頭をかき、お肉の端を切ろうとしたところで、後ろからフェンが現れて、自分とヴァンの頭を平手で軽く叩いた。

 引きずられるように厨房を後にし、丸机の椅子に座らされた。


 数分後、3人分の料理が並べられ、フェイ、ヴァンと共に一緒に少し遅い昼食を食べた。

 1週間の馬車の旅でも人間らしい食事を久しぶりに取ることが出来た。

 が、馬車は殆ど走りっぱなしだったので、街に着いた時に食堂で一食か、馬車の中で簡単な食べ物かのどちらかだった。

 馬もどきは、馬とは思えないスタミナでさらに賢かった。昼夜問わず走っていた。

 しかし戦いは出来ないのか、盗賊や獣が現れたら脅えていた。そこは自分が対処した。


 馬車の中での夜は2人とも寝て、自分も寝ろと進められたので寝た。だが振りだけだ。流石に夜に街道を走るのは危険だと思ったので、寝ずの番をしていたが、それは杞憂に終わった。

 夜には、獣には一度も襲われず、盗賊も襲ってくることはなかった。

 後々、擦れ違う馬もどきや、街中で見る馬もどきを見て気がついたのだが、この夫婦が連れている馬車の2頭は少し違った種類のようだった。

 それに夜、他の馬車と擦れ違うこともなかった。

 そのことを身振り手振りで聞いてみると、馬の目を指さしていた。

 そのことから、たぶん夜目が利く珍しい馬のようだ。なので夜に馬車が来るとは思っていない盗賊は寝たままだし、気がついたときには既に遅し。

 獣は活動していない。それらの理由から安全でほっといてもいいようだ。

 それにいつもは護衛を雇うようだが、1週間程も離れに行く護衛を受ける優秀な者はいなかったようで、仕方なく次の街に出発したところ、自分とであったらしい。――全て身体言語での会話なので、かなり推測が入っている。

 ここに来て、初めて自分には運というものがまだ存在していたことが分かった……。


 そして、今食べている料理>>>馬車の中の食事≧各街の食堂

 というのが美味しさの順番だった。どうやら、この2人が作る料理は相当美味しいようだ。

 毎回、思わず食べながら涙が出るので、2人に心配された。

  

 

 掃除を始めた。

 掃除終わり。


 猫から半径1M以外の部分は全て掃除を終えた。

 残るはこやつだけだ。近くに寄ろうとすると、シャーッ!! と威嚇してくる。

 うん、可愛い。

 森の中でサバイバルしていたため、こんな小さな猫にシャーッ!! ってされても、全く怖くない。むしろ可愛い。

 バケツの中の水に指をつけ、水滴を放つ。猫の頭に一滴かかった。

 耳をピクッとさせただけで、シャーッ!! がない。

 手を水につけ、ファイブフィンガーアターックをした。数十滴、猫の全身にかかった。


「シャーッ!!」


 来た!! 可愛い!!

 しかし、すぐにまた丸くなる。

 ここで諦める俺ではない。

 両手でファイブフィンガーアターック!! をした。


「ウシャーッ!!」


 我慢の限界だったのか飛び掛ってきた。

 しかし、その爪は自分の顔には届かない。両手でその小さな両手を掴み、両足は地面につけさせて、二足歩行でトコトコと歩かせる。

 そしてそのままドア(床穴)から落とした――。


 猫は器用に回転し、4つ足で着地した。

 こっちを見て殺気の篭った目で睨みつけている。

 なので、ドア(蓋)を閉めた。閉め方は梯子を引っ張るだけで、蓋が自動的に閉まる仕組みだ。

 猫の居た部分を綺麗にし、猫が両足で歩いた部分、黒い小さな足跡を拭き取り、掃除が完了した。

 

 下に下りようとすると、猫がフシャーッ!! と威嚇してきた。

 気にせずに降りた。すぐに足目掛けて襲ってくるが器用に避け、両足でキャッチした。

 足はちなみに裸足である。

 日本人たるもの家の中は裸足だ。ということから、屋根裏部屋は裸足で生活することにしたのだ。

 

 器用に両足で猫を捕まえながら、片手で梯子を足が着くまで降りた。もう一つの手はバケツと中に雑巾である。

 猫を廊下に向かってポーイッ。して、両足で廊下に立った。

 地面に着くや否や、すぐに踵を返し、襲ってくるがすでに空いた両手でキャッチした。

 片腕で抱いて、片手で頭をネコミミを弄る。

 猫はバンザーイの状態だ。

 フギャフギャ文句を言ってくるが、お構いなしである。

 ネコミミ弄りを止め、バケツを持ち、抱いたまま1階へ降りた。


 現代の水道というものは無いが、それに近い物がこの街、この家にはある。

 各家の中に池のようなものがあるのだ。水が湧き出る筒があり、地下から水を上げているらしい。

 そしてその水が流れていく先に室内の池があるのだ。その池は外に繋がっている。

 池には魚もどきが色々と住み着いている。魚が出入りは出来るが、人間は出来ない柵があるので、防犯は大丈夫である。

 家々と繋ぐ川には生活廃水が流れるが、そこに住み着く魚達によって浄化されるらしい。


 そして今自分が目指すのは、その小さな池の隣に隣接しているシャワールームだ。

 猫と共にその中へ入る。ドアを爪でガリガリして脱出しようとしているが、気にはしない。

 猫を抱いた部分の服が、真っ黒になるほどこの猫は汚れているのだ。

 蛇口らしき物体をひねると、天井付近の筒から冷水が流れてきた。

 その冷水は曲線を描いて落ちて行き――その先にいた猫ちゃんにかかった。


「フ、フギャァァァァー!!!!!!!」


 行き成りの冷水に飛び上がって驚いていた。――実に可愛い。 

 猫はその心臓殺しの冷水からすぐに逃げた。

 すぐに犯人が分かったのか、足に噛み付いてきた。――が歯が通らない。

 体内でゆっくり休憩している魔力を出したのだ。

 どうやらこの世界では、魔力をやぶるには、それ以上の魔力か力を持ってしないと破る事が出来ないようだ。

 歯は通らないが、噛み付けてはいる。さらに爪で足を引っかき捲くって来る。

 別になんら問題じゃないので、放置して筒をこちらに向け、全身に浴びた。――すなわち真下に居た猫にもかかった。

 また声を上げているが、お構いなし。頭からシャワーを浴びていく。

 ある程度浴びたところで、服を脱いでいく。


 猫は必死に逃げようとドアを押すが、無駄な努力である。

 全裸になったところで、借りた石鹸もどきで全身を洗った。

 次に盗賊から取った安物の服だが、綺麗にした。

 最後に、猫を捕まえた。

 

 必死に抵抗しようともがいているが、こちらの力には敵わない。

 筒を外して、ホースのように使う。

 両足でガッチリ固定した猫を両手でガシガシと洗っていく。

 噛みつかれようが、爪で引っかかれようが、傷一つつかない。


 猫の全身をくまなく洗った。びっくりすることに、黒猫ではなかった。

 綺麗な真っ白い猫だったのだ。

 どれほど汚れていたんだ。と猫の小さなホッペをむにゅーん。とする。

 涙目で抗議の目を向けてくる。――微量の罪悪感を抱いた。

 無理やりしちゃ駄目だったかなー。と思うが、楽しかったからいっか。の一言で解決した。

  

 シャワールーム一歩手前の簡易脱衣所で、猫をタオルもどきで水を拭き取った。

 拭き取り終え、拘束を止めると逃げるように去っていった。

 無理やりにでもしないと、あの汚さで綺麗な屋根裏部屋に戻ってこられたら、何度掃除しなおすことになるか……。

 汚い=黒い小さいもどき。が現れる。ということだ。それだけはこの世界でも会いたくない。……心を鬼にして洗わせてもらったッ!!

 

 盗賊の私服2を着て、絞った着ていた服を持ち、バケツと雑巾は言われた場所に返し、屋根裏部屋の階段を上って、頭がちょうど部屋の中に入った時――襲われた。

 

 白い猫に。

  

 咄嗟のことで油断していたため、爪で思いっきりデコを引っかかれ、びっくりして梯子から落ちた。

 頭を打ってクラクラしている自分に、猫は追い討ちをかけた。

 飛び降りて倒れてる自分の頭に着地したのだ。

 軽く頭を上げていたため、二次災害となり、再び頭を床にぶつけることとなった。

 そこで意識は途切れた……。


 


 目を覚ますと、そこは掃除した天井だった。

 どうやら屋根裏部屋のベットで寝ているようだ。掃除したため、それなりに綺麗なベットだ。

 ズキッと頭の後ろから頭痛がし、触ってみると大きなタンコブが出来ていた。

 そしてその元凶が、初めここに来たときのように定位置で眠っていた。

 しかもその猫が布団にしているのは……自分の服だった。

 盗賊から貰った物だったので、怒りはしなかった。

 同居人と仲良くなれるか不安な始まりだった……。


 唯一ある大きな窓を開けた。まだ太陽が出ていなかった。

 そして外の屋根には洗濯物がかけられていた。自分の昨日洗った服も……上着以外あった。

 上着は猫の下で、良く見ると爪でも研いだのかボロボロになってるのが分かった。

 相当怒ってるようだ……。

 

 半径1Mの範囲に入らない限り反応はほとんど無いようで、猫を起こさないように部屋を出て1階まで降りた。

 すると厨房から光が漏れて、さらに良い匂いが漂ってきた。

 

 中を覗くとヴァン、フェン夫妻がすでに働いていた。

 腰部分しかないドアをノックすると、2人ともこっちを見て声を掛けてきた。


「良く眠れたかい?」

「ああ、昨日倒れていたから運んだよ」


 雰囲気はそんな感じだと思う。ヴァンさんは身体を使って表したので分かりやすかった。

 仕事を要求すると、洗濯物は貴方の仕事になったよ。というジェスチャーをヴァンさんがしてくれた。

 フェンさんは大らかで、アバウトである。こちらに声をかけるのも、身振り手振りはほとんどせず、普通に声をかけてくれる。

 これは実戦言語習得に助かる。

 ヴァンさんは身振り手振りを加えながら、声をかけてくれるので、何を伝えようとしてくれてるかは分かりやすい。

 今の、洗濯物は貴方の仕事になったよ。というのも、カレンダーらしき物を指し、全ての日数をなぞり、そして洗濯物を指したから分かったのだ。

 カレンダーらしき物は、ほとんど雰囲気はこちらの物と同じだったので分かった。マス目があり、週7日、月約30日。

 洗濯の一通りをヴァンさんにレクチャーされ、早速やることにした。

 湧き出る水を流し台に出し、貯めて、その中で洗濯物を洗濯板のようなギザギザの木の板で擦って汚れを落とすというものだった。

 

 厨房には火が出るコンロもどきがあった。……仕組みが気になる。また今度見せてもらおう。

 洗濯は手動で――冷水だった。

 何か便利にする方法は……と考えながら手を魔力で覆い、仕事をこなしたので冷たくてもほとんど問題はない。

 終わった洗濯物のカゴを持って、屋根裏部屋へと戻る。

 階段に足を一つかけたところで、昨日の記憶がフラッシュバック!!

 棒を持って、自分の服の洗濯物を一つかけて、ドアから上に出した時、ザシュッ!!

 ドアの端から白い小さな手が伸びてきて、服を切り裂いたのが確かに見えた。

 すぐに引っ込めると、こちらを上から見下ろす白い猫が居た。

 ッチ。と幻聴が聞こえた気がし、猫は見えなくなった。

 

 頭に魔力を覆いつつ、屋根裏部屋へと入った。

 もちろん、引掻かれた。ニター。と笑ってやると、シャーッ!! と威嚇をしてから定位置へと戻った。

 これはもしかして、毎回入る度に気をつけなくてはならないのだろうか……。突発的な戦闘の訓練だ。と言い聞かせポジティブに考えた。

 かかっていた洗濯物(自分の物しかなかった)を取り、夫婦の物であろう服をかけていった。

 おそらく、行き帰りの馬車の中で着た服であろう。二人合わせて4着分しかなかった。

 行きで1週間、帰りで1週間。計2週間程度は仕入れに行ったはずだが、一人2着。そういうのが当たり前なのだろう。

 確かに自分も野生児生活の時は、一着で何十日いたことか……。

 盗賊の服が手にはいってからは、汚れるまでは着ている。野生児生活中は汚れることが度々だったので、ほぼ毎日変えていた。

 馬車の中では、獣、盗賊退治した時ぐらいだけだ。


 洗濯物をかけるのが終わる頃には太陽が昇ってきた。

 窓から部屋にはいろうとした時、フラッシュバック!!

 こっそりと部屋の中を覗いたら、定位置に猫がいないのだ!! 来る時居たのに、だ!!

 途中、夫婦に連れて行ってもらった靴屋で買った靴を脱ぎ、ズボンも脱ぎ、簡易偽者足を作った。

 それを部屋の中に入れると、窓の下、こちらからは完全に死角から猫が飛び出してズボンを爪で引きちぎった。

 スタッ。と音がするように立ち、こちらをチラっと見て、またッチと舌打ちしたかのような幻聴が聞こえてきた。

 あれ人間なら絶対舌打ちしてる!!

 定位置に戻り、丸まった。

 魔力を纏って行ってもいいのだが、それよりも偽者で引っ掛ける方が、何となく勝った気分になるのだ。


 そんな死闘の末、1階に戻ったら朝ご飯を作っていてくれていた。

 朝からこゆいっ! と唸る程のコッテリ天ぷらもどきが出てきた。

 しかし、日本料理もどきだ。喜んで食べた。

 日本で食べた味とは全然違うが、それでも目を潤ませる程の美味しさだった。

 

 食べている最中、両開きの大きなドアを開けて、女性が2人入ってきた。

 一人は自分と同じぐらいの身長で、黒く長い髪をポニーテールにしていた。

 もう一人は太腿ぐらいまで届く長髪をそのままに流し、ドアから差し込む透けてキラキラと光っている金髪の女の子だった。

 出来るOLと、どこか抜けた天然オーラを出す少女だった。

 出す声にもそれが如実に現れていた。ハキハキと早口な女性と、どこか間延びした少女。 

 何を言ってるかは分からなかったが。

 首を傾げていると、厨房からフェンさんが出てきて、2人と抱きついていた。


 そして、すぐに3人ともこちら見て紹介っぽいのをされた。

 自己紹介のような喋りを二人が終え、こちらを不可思議に見ていた。

 こちらも首を傾げるしか出来ない。

 フェイさんを見ても、ニコニコと笑うだけで説明してくれないようなので、自分を指差し、デイ。と言った。


「デェイ?」

「デイィー?」

「デイ」


 デイ。デイ。デイ。デイ。と連呼した。名付けてくれた発音にあってるのか知らないが、まぁいいだろう。 

 そして2人と握手を交わした。握手を交わしながらも何か言ってくるが、分からない。

 フェイさんに助けを求めるのは諦め、ヴァンさんを呼んだ。

 耳は聞こえるが、聞こえにくい? 声は出るが、言葉が分からない? そんな風に何となくに、夫婦は自分を判断してくれてると思う。

 ヴァンさんが現れ、何かやり取りをした後、何故かポニーテールの女性にきつく抱きつかれ、背中をバンバン叩かれた。

 そして、少女も横から抱きついてきた。


……何だこの状況。


 ヴァンさんはどのように説明したのだろうか……。まぁ、包丁を持って襲ってこないだけ、全然ましだ。

 それにしても、美人な女性と美女な女の子に抱きつかれるとは、美味しすぎて反動が非常に怖い。


 その後、連呼による名前紹介によって、2人の名前がわかった。

 出来る美女はルート。天然は美少女リア。 

 何度か反芻して、頷かれたのであってると思う。 

 

 1段落着いたところで、フェンさんに雑巾を渡され、丸い机の上に乗ったイスを指差したので、どうやら開店準備をしてちょうだい。ということのようだ。

 2人の女性は二階に、大荷物を持って上がっていった。

 どうやら夫婦の仕入れの間、旅行か里帰りでもしていたようだ。

 

 全てのイスを下ろし終えて、机もイスも拭き終わったところで女性2人が降りてきた。

 二人ともエプロンをし、髪もしっかり結んで一まとめにしてあった。

 従業員のようだ。夫婦に似てないので、娘ではないと思う。

 そして自分もエプロンを2人係で付けられた。何だか……幸せです。

 しかし従業員のようだ。自分も。

 街に着てからすることは言語習得しか考えてなかったので、これは近道となるかもしれない。

 良い方に、良い方にと考えた。

 

 店は開店したと同時に満席となった。

 順番待ちの行列も外に出来てるようだった。

 そりゃあこれだけの美人が2人もいれば人気になるのは必然と言えた。

 それに男ばかりではなかったのは良かった。むさ苦しい酒場のようだったら少し嫌だなー。というのが正直な意見だった。

 女性も来ているのは抜群に美味しいからだろう。

  

 そんな中、次々と出される料理を、指を指して指示されたテーブルへ運んでいった。

 耳が悪いわけではないから、声をかけられるのは分かるので、注文なのか、ただ単に話しかけられたのか分からないのが難点だった。

 その度に止まって、話しかけて来る人を見て首を傾げるしかなかった。

 そしたらすぐにルートがやってきてくれるか、こちらから「ルートー!」と呼ぶことにした。そしたらすぐに来て説明してくれている様子だった。

 ルートには世話になりっぱなしである。

 

 説明し終わったら、説明された人や、聞こえた周りの人が少し目を潤ませながら何か自分に一声かけて、肩を叩いたりしてきてくれた。

 どう説明され、どう勘違いされてるのか分からなかったが、どうやら生きていけそうだ。ナイフやフォークもどきが飛んでこなくて良かった。

 初め、開店と同時に押し寄せた人々に、かなりビクついていたが、どうやら何とかなりそうだ。

 それでもまだ人には慣れない。野生生活が長かったためか、自分に近づいてくる者が居るとッパとそちらを見てしまう。

 背後から声をかけられると、飛び退いてしまうほどだ……。

 慣れない世界で、言葉が分からない。声を出せば殺される。……ウェイターはかなりしんどかった。

 しかし適応力だけは良いと思うので、どうにかなるだろう……。

 

 開店時間は5時〜8時、11時〜14時、17時〜20時。

 3時間開店したら3時間閉店。それの繰り返しで、夜8時に完全閉店だった。

 といっても、朝昼夜ご飯の間の時間は仕込みや掃除、食器洗いなどに時間がはいってくるので、実質1〜2時間の休憩である。

 そしてその休憩時間にはフェンさん、ヴァンさん、ルート、リアの手の空いている人が言葉を教えてくれた。

 

 それから一週間、そんな生活が続き、ウェイターするに必要な言葉は大体覚えれた。

 水と座席番号はまず初めに覚えた。

 出された料理を運ぶのに、番号を言われ、持って行くのだ。

 そして運び終わり、カウンターまで帰る時にたまに空になった入れ物を出されて、水ちょうだいー。と言われるのだ。

 

 伝票はハイテク魔法のテーブルにかけられたホワイトボードメニュー表のようなものの横のスペースに、数と座席番号をセルフサービスで書くというシステムだ。

 そして書いたら自動的に厨房に知らされるのだ。

 これによって、自分はカウンターから料理を運ぶだけで仕事のほとんどを占めている。

 後は水を運んだり、机を片付けたり、拭いたり。

 会計……はまだ出来ない。計算は大体出来るようになったが、会計の際に生じるちょっとした会話と、問題に対処できないからだ。

 

 ちなみに座席番号はアルファベットのABCのようなものだ。

 さらにシステム化した店もあった。ウェイターが居なくて、自分でカウンターまで取りに行くというものだ。

 そのシステムは夫婦はあまり好きじゃないらしい。

 なので、原始的な方法と、ハイテクな方法の二種類が混ざった食堂となっていた。 


 どんな時でも日本語使わないようにするということに精神が磨耗された。

 だが、肉体的疲労は少なかった。体に疲れを覚え出したら魔力でカバーしたためだ。

 初めから魔力でカバーしてもいいが、それだと筋力や地のスタミナがつかないと判断したので、適度に疲れるまで、魔力は使わずに仕事をした。

 そしてその魔力を使わない時間を、日に日に徐々に延ばしていった。


 8時から眠たくなるまでの間は 同居猫との仁義無き争いや、……というよりこれは常にだ。

 看板猫なのか、店の中をうろちょろすることがあり、油断すればどんな時でも襲ってくるのだ。狡猾に、巧みに。

 前なんて、頼まれて食器を出そうとした時、開けた棚の中から飛び出してきた。

 シャワーを浴びている時、急に出なくなったと思ってシャワー室から出たらちょうど現れたルートとお風呂でばったり。引っ叩かれた。――逆ならいくらでも引っ叩かれてもいいが………………。

 ルートに何故ここに着たか聞いたら、猫に呼ばれたらしい。猫が抜けた管の部分をルートに教えてた。策士め……お前が抜いたんだろう……? 狡賢いやつめ……。


 後、猫の名前が判明した。メアだそうだ。なので、みゃあーみゃあーと呼んだら怒って襲ってくる。

 してやられた後は、1時間はことあるごとにそう呼んでいる。実際には可愛らしくみゃあーみゃあー鳴くのは聞いたことがない。

 一番多く聞くのはシャーッ!! だ。油断していない時以外はこちらが圧倒的優勢なので、弄りまくっている。

 だから襲われるのかもしれないが――これは何と言われようが止めれない。


 閉店後の8時から寝るまでのことだったが、その間は物を作っていたりする。

 まずは大きな五右衛門風呂を作った。材料は盗賊からカッパラッタお金で賄った。作り方は材料を近くの草むらや、木々に運び、後は森の魔法で作ってもらった。

 朝に洗濯物もこの中でする。洗濯用に少し改良を加えた。どのように改良を加えたかは、自宅の洗濯機を覗いて、どのように動いているかを見て欲しい。詳しくは書かない。――詳しくは分からない。んじゃなくて、詳しくは書かない。…………魔法があるのだ!! それで解決!!

 フェンさん、ヴァンさんの服は全部(下着を含め)と、ルートとリアの服(下着以外)と、後は自分のを全てを一気に洗濯器方式で洗うことによって時間が短縮された。

 夜は本来の使い方、五右衛門風呂だ。

 久しぶりの風呂に、今のところ毎日はいっている。

 初日はゆっくり自分ひとりで入った。

 次の日、安全性を向上させ火傷はまずしないようにした。

 なので猫、メアを連れて入ることにした。

 真っ白になったのに、すでに数日で灰色になってきてるのだ。

 冷水を浴びさせるのは、被害が大きかった時と限定することにした。


 まず桶で(これも森魔法で作った)お湯をゆっくりかける。――食われてたまるか!! と今まで以上に必死に逃げ出そうとするが、がっちり足で固定している。

 そりゃ普通、湯だった釜の中に入れようとするのだから、当然の反応だろう。

 だが、笑顔で断る。

 お湯をかけられるという経験が無いのか、もう必死だった。

 あまりに必死だったので、水を魔法で出し、混ぜて温度を下げかけてあげた。――冷水までは温度下げていない。

 ぬるめの温度に抵抗が少し緩まった。

 チャンス!! とばかりに両手で抱きつきながら風呂に飛び込んだ。


「ブギャアア――」


 夜に大声で叫びそうだったので口を塞いだ。

 あまりに初日で長風呂させては、トラウマになり、今後一緒に入ってくれなさそうなので、1分もしない内に出して上げた。

 

 しっかりとメアの体を拭いた後、ふたたび自分は湯に浸かった。

 ちなみにこれは池のある裏庭の小さなスペースを借りてやっている。

 回りは家々が建っている――日本程じゃないが街らしくそれなりの距離で。

 なので、ポツンとあるところで、入っているわけじゃないので、それほど目立っては無い。

 そしてお風呂前に魔力をほとんど使い切るのを日課にした。

 寝たら回復するのだ。魔法に慣れる為に庭で特訓した。


 そんなこんなで、ここに着てから7日目。今は風呂に浸かり、空を見上げてる。前では考えられなかったほど、人らしい生活している。

 魔力も美味しい食事により、順調に増えている。

 しかし、目を凝らすとどうやら全員が全員、多量の魔力があるようではないようだ。というより、多量の魔力持ちは少なかった。

 だが、魔力は見ただけで全ての量が分かるという簡単な物でもない。

 自分は普段なしで生活している。この状態を人が見たら無い様に見えるだろう。ということで一概に言えなさそうだ。

 それに吸収しやすい体質と、しにくい体質がいるのかもしれない。

 フェンさん、ヴァンさん夫婦は2人ともそれほど多くないのかもしれない。ヴァンさんの前で手の平に水を出してみたら、拍手されたのだ。

 ルートとリアの前でやったら、二人とも同じように出したので、こちらが拍手をした。この2人はもしかしたら多いのかもしれない。仕事でも疲れている姿は見たことがない。それは夫婦も見たことが無い。

……言語を覚え、聞けるまでまだ魔力の存在は不透明のままのようだ。


 そしてこちら世界の言語で100を数えきったので、風呂から上がり、猫をふいてあげた。

 子猫(大人サイズかもしれないが、現代ではまだ子猫に見える)、綺麗好き計画をじわじわと実行している。

 一日毎に、風呂にはいる時間をこれから10秒ずつ延ばして行く予定だ。

 食べてくるわけじゃない。ということがわかったのか、まだ大人しくはなったが、それでも逃げようとしている。

 何をしても逃げようとするので、もしかしたら実はもう既に好きになってるんじゃないかー? と考えながら、半ば涙目の猫の目を見たが、見なかったことにして、明日も風呂に浸かる……。


――ちなみに、風呂入る時でも一応腰に布はしている。露出狂と呼ばれないために。

風呂から上がったらいつものことながら、服が破かれていた。これで何着目だろうか……。それでも懲りないデイは明日も猫を弄る。



 1ヵ月後、デイは冒険者ギルトと呼ばれる店の前に居た。





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