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No2 髪染めの魔法使い



 人間が支配している領地の最先端である街の、仕事斡旋所にフードを被った金髪の男が居た。まだ幼さを残している辺り、年は16〜8と思える。


「今日もレバン行きの依頼はないですか?」

「えーっと…………ないなぁ」

「そうですか……それじゃあ、いつも通り何かありませんか?」

「そうだなぁー、お前さんのランクは2だから……ん、これなんてどうだ?」

そういって、受付のお兄さんは一枚の紙を見せてきた。


『依頼人:国』

『洞窟に住み着いているオークの退治。ランク2。6人求む。報酬は一人2万den+洞窟で得た物』

『参加者1:ティア』


「んー、探索系ないんですか?」

「今のところないなぁ」


 その言葉を聞いて、金髪の青年はただでさえ細い目を、さらに細めため息をついた。


「そっかぁ……ちなみにオークって強いんですか?」

「下の下のコボルト、下の中のゴブリン、下の上のオーク。って感じだね」

「下の上かぁ……」

「ランク3の人が1対1で倒せるぐらいだし、危なくなっても足も遅いから逃げれるよ。どうだろ?」

「うーん――それじゃあお願いします」

「はいよっ」


 そうして、紙にティアという名前の下に、このフードを被った金髪の青年の名前、フォンという文字が書かれた。


「それじゃあ、集合は一時間後の街の西出口でよろしくー」

「はい」

「1日で往復出来ると思うけど、しっかり準備して行ってねー。それじゃあ――成功を祈ってるよ」

「助言ありがとうございます」


 フォンは受付の人に一礼し、ガヤガヤと騒がしい仕事斡旋所もとい、冒険者ギルトを出た。

 その後、言われたとおり道具屋に寄り、最低限必要になりそうな物を買い揃えてから、宿に戻った。



「……ん? この依頼……ああっ! 参加者一人目ティアか……しまった……。忠告し忘れたなぁ…………まぁ……いっか!」


 受付の青年はそんな不吉なことを呟いた。



 ギルドを出てから45分後、街の西出口に宿に置いていた冒険者の駆け出しに一般的な皮の防具類をフードの中にしっかりと着て、腰には安物の銅の剣を差してやってきた。


「んー、ちょっと早すぎたかな?」


 そこには衛兵が立っているだけで、これから一緒に行くような人はいなかった。

 ベンチに腰掛けゆっくり待つこと5分後、同じ冒険者らしき人がやってきた。


「私はティア=アルシンクというものだ。この度はよろしく頼む」

「は、はい、よろしくです」


 圧倒してくるオーラに思わじビシっと立ち上がり挨拶を返した。

 自分がフードを深く被っているため顔までは見ていないが、体と声を見る限り、自分と同じぐらいの年か、1個か2個下ぐらいだろう。そして身長もこちらの方が10センチは高かった。自分が170であるから、160ぐらいだろうと推測される。

 鎧も自分よりも良い物を着ているようだったが……胸の部分でふくらみはなかった。


「横に座らせてもらうぞ」

「はい。どうぞどうぞー」

「一日だけだが、一緒に依頼をこなす仲間だ、ため口でいいぞ」

「あ、はい……あー、わかったよ?」

「うむ、それでいい」


 二人の威圧感は正反対だった。片方が背筋をピシっと伸ばしたライオンなら、片方は丸まった子猫だった。片方が黒いフードを深く被っているせいもあるかもしれないが――。


 もしかして貴族なのかなぁ……。などとぼんやりフォンが考えていると、横から怒鳴り声が上がった。


「……遅い!! 遅すぎる!!」


 急に怒鳴り声を上げる人物に、フォンは体をビクっと反応して、座っている位置を少し離した。触らぬ神に祟りなしである。

だが、その気持ちは分からないでもなかった。既に二人が出会ってから30分は経っているのだ。――すなわち待ち合わせ時間から10分過ぎている。


「……何故だ! 何故来ない!!」

「えーっと……おそらく……依頼を受けた人が他には居なかった。かと思いますが……?」

「な、なに!? ま、またか!! またなのかァァ!!!!」


 その言葉は、酷く不安にさせる言葉であった。


「それはすなわち、今までも来なかったということが……」


 とフォン言ったところで、隣の少女は先ほどのフォンのように体をビクっとさせた。立場逆転である。


「んー? んー……? えー? えーっとぉー……?」


 先程までの威圧的なオーラはどこへいったのか。誰が見ても動揺している。と答える様だった。こちらから目を逸らし、俯きつつ、ブツブツと言ってるのだ。


 横からその様を見てみると、気づいたこと二つがあった。

 まず、この少女は非常に冒険者達から好かれていない。ということだ。つまり、受ける依頼を間違えたという深刻な問題である。

 ランク2が受けれる一般的な依頼より、倍以上の報酬であるのだ。取り合いになってもおかしくない依頼。メリットが非常にありそうなのに、誰も受けなかった。すなわちデメリットの方が――。もう先は考えたくなかった。


 二つ目は、この少女がとても可愛いということだった。

 俯いている姿を横から見ているだけなのだが、正面から見なくても、美少女だと分かってしまうほどだった。

 髪は燃える様な赤色で、腰に届くほどの長さがあるようでポニーテールにしていた。


 思わず見つめていると、ガバっと美少女ティアが顔を上げた。咄嗟に顔を背ける。


「さぁ、二人で行くぞ!」


 何を決意したのか、急にまた元気になった。

 天使と悪魔が頭の中で戦っているかのごとく、二つの選択肢がせめぎあっていた。が、フォンに選択権はなかった。


「名を上げるチャンスだ! ほら、時間が惜しい。出発だ!!」

「えーと、何故他の冒険者が――「6人でやる依頼を2人でやったら、得れるお金は3倍だ! ほらほら、元気良く行こうじゃないかー!」


 ティアは誤魔化す様に声を上げ、その小さな手から想像できない力で自分の手首を掴んで、そのまま引き摺るように街から出て行く事となった。





「ここだな」

「そうみたいだね」


 大人が数人手をつないで、スキップしながら入れる程の口を開けた洞窟だった。

 そしてその口は異臭を吐いていた。


「臭いんだけど……」

「おそらく、オーク達が食べ散らかした物が腐っているのだろう」


 鼻を押さえないと、顔を歪める程の匂いだった。


「気が進まないなぁ……2人っていうのは少々無茶が「ほ、ほらっ! さぁいくぞっ!」


 どうやらこの少女は、都合の悪い話になりそうになると誤魔化す癖があるようだ。


「しょうがない、諦めて行くかぁ」

「う、うむ、それでこそ男だ!」

 

 洞窟の中は暗かったが、まだ午前中ということもあって、所々天井に開いている穴からの光で奥に進めない程ではなかった。

 が、進めば進むほど、鼻を押さえていても顔を歪める程の匂いになっていた。

 それは即ち、オーク達に近づいているということでもある。そのため、道にほとんど迷わず洞窟内を進んでいくことが出来た。


「あー、もう無理かも」

「……だらしが……おうぇ……ない……ぞ……オウィェ」


 ティアは自分の後ろから、押して来ていた。――正確にはもたれ掛る様に背中に顔を埋めていた。


「……引き返そうか?」

「…………やだ」


 匂いを気にしなければ、美少女に抱きつかれている状況というのは悪くないので、指示? にしたがって進むことにした。


 さらに一段と匂いがきつくなったと思ったところで、広い広場のような場所に到着した。

 真っ暗闇で、半分程度しか見通せなかった。が、オーク達が居るというのはわかった。

 何故ならイビキのオーケストラが奥の方から聞こえてきたからだ。


「……ねぇ、多くない?」

「これは予想以上に多いな」


 さっきまで死にそうな声を上げていた後ろの小動物は、戦闘前になったため、気合を入れたのか、威圧的ライオンオーラを取り戻していた。


「寝ているのはチャンスだ。一気に奇襲する。まず私が視界確保のためと、眼くらましのために火の玉を出す。目を塞いでおけ」

「了解」

「ちなみにお前は金髪ということは、土系の魔法、何が使えるんだ?」

「……あー、何にも……」


 フードの上から頭をかいた。


「……はっ? 聞き間違えた気がする。それだけ金色の髪をしておいて、何にも?」

「何にも」


 だんだんと機嫌が悪くなっていってるのか、トゲがある言葉だった。


「…………せめて剣は少しぐらい使えるよな?」

「……ほんの少し、ランク2程度は」


 そこで少女の限界がきた。


「なにいいいい!? 今まで余裕な素振りと、その頭の毛は飾りかぁぁぁーーー!?」

「正直飾りかなぁー」

「無駄に期待させおって!! こいつなら2人でも依頼達成できるな。と思った私の目に間違いがあったというのか!?」

「そういうことになるねぇー。にしてもちょっと声大きいよー」

「頼れそうな男だ。と思ってほんの少しだけ背中に抱いた乙女心を返せ!! 今すぐ利子をつけて返せ!! この鬼畜!!」

「あぁ……えーっと、それよりも問題なのが……」

「うるさい! 黙れ!! お主に発言権は許しておらん!!」

「オークさん達が……」

「オークがどうした!! そうだ! 私は強いから、オークの1匹や2匹蹴散らしてくれるが、お前がそうも弱いとなると……!! オーク3匹以上出た場合どうするんだ!?」

「オークさん達起きちゃった」

「なにっ!!」


 怒涛の言葉攻めがやっと終わった。代わりに奥からオーク達が起き出した唸り声が次々と聞こえてきた。


「これは5匹……いや、もっといるな。……お前のせいだ! 私が敵前逃亡とは……くそっ! 逃げるぞ!!」

「はいよー」


 回れ右をして、2人とも固まった。


「後ろからオークだと……!」

「これはまずいね……」


 どうやら出ていたオーク達が帰ってきたようだった。

 広場の入り口から続々出るわ出るわ、侵入者を見ては声を上げていた。

 そしてその声を聞いて、フォンの表情が険しくなった。


「くそっ! 強行突破するぞ! 目を瞑れ!」


 と、ティアは叫ぶと、右手の平から火の玉を上に放った。そしてそれはティアの上に付き添うように光源となった。

 急に現れた光に、オーク達は煩い悲鳴を上げた。


 その時自分は後ろを振り返り、軽く目を手で隠しながら広場の方を見た。

 そこには予想していたよりも酷い惨状が広がっていた。

 そしてティアは駆け出した――。


「ウオオォォォ!!!!」


 火の玉が現れた時にだけ一瞬だけ見えた広場の奥は、すでに見えなくなっていた。

 ティアに続き自分も来た道へ向かって走り出した。



 目を押さえ暴れているオーク達を倒すのは楽だった。

 暴れてはいるが、目を両手で押さえているため、ノーガードなのだ。その上床に転がっているのだから、急所である頭は斬り易い位置にあった。

 

 オークとは男の大人より一回り大きい、デブな人間ブタもどきである。

 ブヨブヨのお腹に、醜い顔、そして手にはどこで手に入れたか、様々な武器。そして強烈な体臭。

 防具はなく、腰に汚い布切れがある程度だ。なので、頭に剣を一太刀入れるだけで絶命していった。


 前に居るティアを見ると、自分とは比べ物にならないほどスムーズにオークを倒していっていた。

 良く見ると剣は炎を纏っている。

 こちらが叩き潰すかのように、倒しているのとは違い、ちゃんと切っていた。


 そして、入り口までの直線距離に居たオーク達を、通り過ぎ様に2人合わせて4体は倒した。

 まだ倒れているオーク達を尻目に、広場から脱出した。




 2人は小走りで洞窟内を走っていた。


「ふー、助かったぁー」

「私が敵前逃亡するはめに……」


 なにやらブツブツ言っているが気にしない。しかし、あの状況ですぐに脱出の選択をしたこのティアという少女は素晴らしいものだと考えていた。これほど高慢チキチキな者なら、ぎゃくさい覚悟で突っ込んでいくと思ったからだ。


「ナイス判断!」


 親指を上げ、GooDなポーズをとった。


「う、うるさい! もうお前は喋るな!」


 勝手に期待しておいて……という言葉は言わなかった。

 火に油を注ぎたくは無い。――それでも事実は伝えることにした。


「いやー、あのままやられていたら、どうなってたと思う?」

「……ん? どうなっていたっていうんだ? 死んだだけだろ?」

「いや、違う。俺は殺されて餌となったかもしれないが……ティアはたぶんオーク達に回されていたぞ」

「……え? ど、どういう意味だ!?」


 頬を赤らめて聞いてきた。


「…………回されるっていうのは、どういうことかわかるみたいだね」

「う、う、うるさい! 理由だ、理由を話せ!!」


 剣を抜いて、炎を宿し、今にも斬りかかろうとしてきた。

 それぐらいで命を落としては敵わん。


「え、えっとー、明かりが灯ったとき広場見たけど、白骨死体と、裸の女達が数人居た」

「…………」


 口をパクパクさせてこっちを見てきていた。


「どうやらここは、ただオーク達が居る。って場所じゃなくて、オークの巣みたいだな」

「……人間と交わることがあるとは確かに聞いたことはあったが……」


 もし捕まっていたら――。という想像でもしているのか、ティアは力なく剣を持っていた。


「……ッ!! お、おい! なら早く助けに行くぞ!!!!」

「話聞いてた? 戻ったらああなるよ。今は村に戻って、依頼の内容を変えてもらって人数も20人ぐらいで来ないと」


 依頼とは主に国から出ていて、今回のも国からのものだ。

 人間の領土を増やしていくために、まず軍隊が一気に魔物の領土に押し入り、領土を勝ち取り、その後、冒険者たちによって細かくしっかりと細かく残った魔物達を殲滅し、人間の領土としていくのだ。


「し、しかし! 置いて行く等、貴族として有るまじき行為……!」

「はぁ……どうしたらいいか、もう答えは出ているんだろ?」

「く、くそっ!! 急いで帰るぞ!!」


 この少女、頭は悪くないようだ。

 しかし、洞窟から出ることは適わなかった……。


「な、なんだと!?」


 あと少しで出口というのに、通路にはオーク達が数十体居たのだ。


「グモオオォォ……」


 後ろに逃げてもオークが追って来ている。前にもオーク。逃げ場は無くなっていた。


「ここの討伐、20人程度じゃ足りなさそうだねぇ……」


 ティアはこの後、自分の身がどうなるのか考えてしまったのか、一瞬身を震わせ、そして打ち消すように剣を抜き放った


「ま、まだ諦めん! 最後ぐらいお前も死ぬ気で戦え!!」


 まだ諦めないといいつつ、最後と発言してしまっている。

 そんな発言をしてしまうほど、状況はよくなかった。


「わかったよ……っと!」


 襲い掛かってきたオークの斧を避けた――。



 どのくらい時間が経っただろうか。

 フォンは2体程倒し、ティアは10体以上は倒していた。

 フォンのランクは2で適正のように思える。なので、2体倒したというのは功労賞もんである。

 狭い通路におびき寄せたとはいえ、2体を倒したのだ。

 だが、ティアはランク4〜6ぐらいの実力はあるようだった。冒険者には成り立てだが、元から鍛えていたということだろう。魔法何かも使っちゃってるし。


 そして、その戦いは終わりを告げる時がやってきた……。

 狭い通路で前から来るオークに対処している時に、広場にいたオーク達が追いついたのである。


「くそっくそっくそっ!! ここまでなのか!!!! クソォォォォ!!!!」


 赤髪が逆立ちそうなほど怒って、ティアは地団駄を踏んでいた。


「こうなったら、お前を殺して私も死ぬ!!!!」


 その矛先は、何故かこちらに来た。


「ちょ、ちょっとまて!!!! そんなストーカーが告って断られた後のようなセリフは止めてくれ!!」

「じゃあ、何か解決案を出せぇぇ!!!!」


 危機的状況に、ティアの目は血走っていた。そして何も解決案を出さなければ、本気ですぐにでも殺されそうだった……。


「……しかたない……か……」


 ティアに近づき、そして、後のことは頼んだ。と言い、ティアに魔法を掛けた。


「な、なにをする……ん……だ…………」


 ティアの瞼が徐々に沈んでいき、体が崩れ落ちる寸前、フォンが支えた。

 それは下からティアがフォンを見る形となり、ティアはフォンの顔をこの旅で初めて見ることとなった。柔らかい顔付きで――中々タイプだった。

 そしてティアはフォンと目を見つめ合いながら意識を失った。

――フォンの二つの目は黄色とは違い、漆黒であった……。


 少女が崩れると同時にオーク達は勝利を確信し、それぞれが咆哮を上げた。


『黙れッ!!!!』


 それを遮る声が洞窟に響き渡った。それは紛れもなく魔物たちが話す言語であった。


『グッヘッヘ、こいつ言葉を話やがったのか?』

『なんだぁこいつ!? 魔族か!?』


 オーク達は不思議そうにこちらを見た。


『お前たちを殺さないでおいてやる。代わりに捕まえている者達を開放しろ』

『グハハハ、おいおいおい!! 聞いたか!?』

『バカだろこいつぁ。この状況を見てよくそんなことが言えるぜぇぇ!!』


 馬鹿なオーク達がこちらを見て笑っていた。


『俺がお前達より強い証拠を二つ挙げよう。まず一つ。これだ』


 そう言ってフードを脱ぎ、眼光をオーク達に向けた。


『こ、こいつ魔族だぞ!?』

『お、おい、どうするんだ!?』

『し、しかし、こいつ弱かったぞ!!』

『二つ目はこれだ』


 動揺しているオーク達に見えるように、懐からペンダントを掲げた。


『なんだそれ!? そんなもんが、なんの価値があるっていうんだぁ!?』

『そんな物より、お前の体をよこせぇぇぇ!!』


 一つ目の証拠を見せた時とは打って変り、今にも襲い掛かってこようとした。

 というより、もう既に一つ目のことは頭からないようだった。


『まてお前たち!!!! 人間よ、それを見せてもらおうか……』


 そんな中、オーク達の後方から二周りも大きく、体の色も異なり、黒い大きなオークが姿を表せた。

 ロードオークだ。

 フォンはそのロードオークに向かって、ペンダントを投げ、ロードオークは器用にそれを受け取り、見つめだした。

 静寂が洞窟を包み込む。数十秒経ち、ロードオークが声を上げた。


『引くぞ!!!! こいつは魔族か、魔族に縁のある者だ。手は出せない』


 オーク達は地響きのように唸り声を上げ、地団駄を踏んだ。が、それだけだった。文句は口々に言うが、誰も反論はせずに洞窟の奥へと消えていった。


『それじゃあ、捕まえている者全てここまで連れて来て貰おうか』

『おいおい、全てってのはいささか傲慢じゃないのか? その雌だけで十分だろ』

『全員だ』


 即答の返事をした後、漆黒の瞳同士の睨み合いが続いた。


『……ッチ、仕方ない。ここは引いてやろう。しかし次は無いと思え』

『何を言っている。俺はお前たちを助けてやったんだぞ?』

『…………どういうことだ?』

『ここに全員連れてきたら教えてやろう。ついでにそうだな、宝も持ってきてもらおうか』

『ふざけるな!』


 ロードオークが張り上げた声は、洞窟が響きを聞かせて、そして洞窟がスピーカーの様な役割をして、森中に、洞窟中に響き渡った。


『くっくっく……わかってないようだから教えてやろう。お前達を死んだことにしてやろうと言ってるんだ』


 その瞬間、今まで以上にロードオークから殺気が放たれた。


『睨むな睨むな。人間の間でだ。お前達はすでに人間達に狙いをつけられている。一度狙われたら最後、どうなるかお前が一番知ってるんじゃないか? 周りの魔物達が、オークの部族がどんどん潰されているのを知っているだろう』


 それを聞いたロードオークは少し考える素振りを見せ、そして舌打ちをした。


『……ッチ……確かにその通りだ……。既に回りに居た者達は全て殺されている。周辺での生き残りが集まったのが我々だ』

『だから、俺が狙いを外してやる。その間に人目のつかない所まで逃げることだ。後二日もここに居ればお前達はこの世からさよならだ。……行くなら西に真っ直ぐがいいぞ。一番手薄だ』


 西の方角を指差して言い切った。


『……何故お前はそこまで俺に情報を与える?』


 オーク達と違って頭が良いのか、こちらが発言するたびに頭を働かせて考えているようだった。


『…………宝のためとでも言って置こうか。宝をこちらに渡さなければ、捕まえてる者達全てを引き渡さなければ、俺は本当の情報を与えないからな。お前は聞いてしまったために、全てを渡さなければならなくなった。西が安全というのは嘘かもしれない。それを確かめる術はない。一度そのような情報を聞いてしまったお前は、その情報を無視するということは、数百のオークを全てを危険に晒すことに繋がる。それは出来なくなったのだ。さぁどうする?』

『……俺が全ての者、人を渡したという保障はどうやってわかるんだ?』

『俺には魔族との繋がりがある。それを使えばオークの大行列が持っている物なんぞ簡単に分かるってわけだ』

『ならば、更に聞くが、そのペンダントは偽者か拾った物。そういう可能性もあるわけだが?』

『……そうかもしれない。……しかし、もう分かっているだろうが……今お前と話していること自体が証拠だろう?』

『……グハハハ!! まさにその通りだぁ!! いいだろう! 少し待っていろ!』


 そして10分後、洞窟の入り口には、数十人の女がボロ切れを着て並べられ、その横には宝石類と金銀が入った大袋が数袋、さらに小さな袋も数袋置かれていた。

 予想以上の量に驚きを隠せなかった。


『さて、どうだろうか? 人間の雄は既に食べてしまったがな』


 ロードオークは不気味に口角を上げてニヤついていた。

 しかし、この宝の量は問題があった。


『……十分過ぎる。……逆にありすぎて駄目だ。宝は1割程度でいい。人の居ない奥に移住するということは……金がかかるだろう?』

『そこまで知ってるとはな…………。その通りだ。魔族に献上せねばならん。……が、今回は献上しなくても良さそうなのでな』


 魔族に献上しなくて良い理由なんて聞いたことが無かった。


『……なぜだ?』

『おぉ、嬉しいな。立場が逆転したぞ?』


 ロードオークはこちらを馬鹿にするようにゲラゲラと笑い出した。


『さっさと訳を話せ』

『そう焦るな。バカな手下どもとばかり話していたんだ。たまにはこういう会話もないとつまらんのだ』


 人間のような仕草で両手を上げ、ヤレヤレと肩をすくめていた。


『……俺としては簡便願いたいね。今から魔族の賢い者達と散々話すことになるだろうに』

『そうだ。その賢い魔族どものペンダントを持った者が、献上する物を要求して来たのだ。渡さないわけには行かないだろう? ということで、我々はこの度、献上免除となるのだよ……クククッ……フハハハハッ!!』


 演技過剰の役者を見ている気分だった……。

 綺麗な役者なら我慢出来るが、こんな不細工な面の化け物の演技なんて見たくもない。――オークの世界ではカッコイイのかもしれないが……。


『なるほど……巡り巡ってというわけか。――が、俺の元で物が止まられても困るんで、返す』

『な、なに!? いらんのか!? それだけあれば人間世界で一国の王にでも成れるだろうに!』

『……本気で言ってるのか?』

『クククク……。わかっておったか。やはり阿呆ではないな』


 どうやら、本当に演技だったようだ。

 食えないオークだ……。


『本来魔族が手に入れる物を人間が横から持って行ったら、ペンダント持ちとはいえどうなるもんかわかったもんじゃない。ってことで一握りだけ貰って後は返す』

『まぁいいだろう。一握り程度ならやろう。俺からの餞別だ。それと……ついでにこれもやろうッ』


 と言って投げてきたのは、ペンダントだった。しかしそれは先に渡した魔族のペンダントとそれにもう一つのペンダントが付けられた物だった。

 何やら文字とマークが書かれているが、オーク文字なのか読むことは出来なかった。


『後は、そこにある小袋は全て持って行け』

『中身は何だ?』


 ゴソゴソと袋が動くので、開けてから「俺の好物の虫達だ」とでも言われたら非常に気色が悪いので、聞いて見たら予想外の答えが返ってきた。


『妖精だ』


 当然、妖精だ。と言わんばかりだった。

 罠かもしれない。とおそるおそる袋を開いてみると、本当に妖精。両手両足両羽を縛られた可愛らしい緑の髪の妖精だった。


『……こんなもん居たのか……』

『ん? 何か言ったか?』

『い、いや何でもない』


 まさか妖精が存在しているとは思わなかったので、驚きを隠せなかった。


『そいつらのおかげで、我々は隠れ生き延び、そしてお前達を挟み撃ちに出来たのだ』

『道理でおかしいわけだ……』


 オークは基本的に夜に活動するから、昼に狩りに行ってて、帰ってきたところとバッタリ遭遇。何て非常識だったのだ。 


『妖精とは人を欺くことに長けている。もう俺達には必要ない。捕まえていた全ての者ということだったしな。ついでにやろう』


 何をされたか分からないが、とにかく妖精に一杯食わされたわけだ。


『ありがたく貰って置こう――が、これでは貰いすぎだ。……最後に俺からも返そう』


 そう言って剣を引き抜き、ティアの髪をばっさりと切った。腰まで届いていた長く燃えるような赤い髪を肩口までに切り落とした。

 ポニーテールにしていた紐を使って、切り落とした髪を束ねた。そしてロードオークに投げた。


『この髪を魔族に渡せ。悪い様にはならないはずだ』

『助かる。我々一族、魔族領内の争いで10分1になる覚悟であった』

『それじゃあ、さよならだ。もうその醜い面を見せないでくれよな』

『ククク……こちらも願い下げだ。お前のような狡賢いやつとはもう会いたくない』


 妖精を捕まえ使役する辺り、かなりこのロードオークは賢いようだった。

 そしてロードオークはフォンと視線を交わし、お互いに笑みを浮べたところで踵を返した。が、最後にポツリとロードオークが言った。


『……ああ、言い忘れてた。我々一族は今ここに数百なんぞではなく、数千居るぞ』

『ま、まじかよ…………』


 予想していた以上の数に、驚き、振り返った。

 見抜けなかったことで、何となく負けた気分になった……。

 少し悔しかったので、こちらも――。


『まて! 第3の証拠を見せてやろう。たとえ断られていても俺は脱出出来た』


 腕を地面と水平に上げ、手の平から黒い魔力の塊を洞窟の奥に向かって放った。

 黒い玉が洞窟の壁に当たったが、地震のように揺れるわけでもなく、爆発するわけでもなく、ただ壁に吸い込まれるように消えていった。それは壁に黒い玉が吸い込まれたのではなく、黒い玉に壁が吸い込まれて行ったのであった。つまり玉の大きさの穴が壁に出来、どこまで続くか分からない穴だった。


 それを見たオークロードは、目を見開いたかと思うと、豪快に笑いながら洞窟の闇に消えていった。

 最後に勝った。と少し優越感に浸っていたが、すぐに崩されることとなった。


 その後、数十人の女を連れて森の中を半日移動するのは無理に近かったので、どうしたものかと悩んでいたところ、オークが何十体も現れ、町近くの森まで連れて行ってくれたのだ。――そのことに頭が回ってなかったことに悔しく、リベンジを決意した。自分は負けず嫌い、勝つまでやる。



 さすがに、今まで辱められていたオーク達に最後の最後まで肌に触れらるのは、可愛そうだったので、せめてもと、女達は眠らせて連れて帰った。

 といっても、取引開始の時点で眠らせていた。オークに担がれる前に、途中で目を覚まさせないように魔法を重ねがけしてより深く眠らせた。


 町近くの森の中、オークが去った後、小袋を次々に開けて妖精達を開放していった。全部で8匹ほどいた。

 だが、まだ紐で括られて、芋虫状態のままである。

 口に詰められていた布だけは取った。


「君達を助けたの、俺。わかる?」

「わかるー!」

「それぐらいわかるわよっ!」

「早く解きなさい!!」


 妖精とは気紛れなものだと、どこかで読んだことがあった気がしたので、一応芋虫状態のままにしているのだ。

 だが……まさかこれほどとは思っても居なかった。

 1匹以外、全員の口が悪い……。今まで捕まっていたということもあるのかもしれないが……。それにしても……。夢に見た妖精とは違ったので落ち込むには十分だった。


「…………えーと……恩を恩で返そうとかっていう気持ちは……ある?」

「あるあるぅー!」

「恩を着せようっていうわけ? ッチ……これだから人間ってやつは……」

「早く自由にしろぉぉ!!」


 ちなみに、妖精全員可愛い女の子である。……舌打ちされた。


「……オークに返すことにしよう」


 そう言って、一番生意気に返事を返した者を袋に入れ直そうとした。


「ちょ、ちょっと待って!! 感謝してるわ!! だから、早く縄を解いて、自由にしてちょうだい!」

「……まだ生意気だ。オークはやーめた。コボルトにでも渡そう。妻にでもしてくれるかもしれないなぁー。一夫多妻制ならぬ、多夫一妻制になるかもなぁー。そうなると朝晩関係なく愛されるかもな! 体に気をつけて頑張れぇー」


 そんな物騒なことを呟きながら、袋を紐で閉じた。

 先とは比べ物にならないほど、袋の中から喚き散らしていた。

 すぐに開けてあげた。すると、とても可愛らしい笑顔で助かったー。と言ったが――その口に布を突っ込み、袋を閉じた。


 周りの妖精からも口々に非難、罵声が浴びせられた。

 お構いなしに、ゴブリン行き〜、コボルト行き〜、虫の巣行き〜、変態貴族行き〜。などと呟きながら袋に詰めていった。


「あ、君だけは良い返事をくれたよね。妖精って約束守るって聞いたんだけど……どうだろう?」

「守るよっー!」


 純粋無垢。目は澄んでいて、この表現がピッタリな可愛い良い子だった。


「そっかそっか、俺の頼みは今ここで寝ている女性達をそれなりの暮らしになるまでサポートと、その後もアフターケアを時々してあげてくれると助かるなー。それと、特にこの赤髪の少女には色々と助けてあげて欲しい」

「わかったぁー! でもなんでその少女だけ特別なのー? 他にも、もっと若いの居るのにぃー?」


 首を傾げて聞いてきた。

 倒れて寝ている女性の中に10歳ぐらいであろう子もたくさん居た。10台ぐらいから30台ぐらいまでの女性ばかりなのだ。

 それ以上でも以下でも、体力が無くなり力尽きていったのかもしれない……。


「この子の髪と引き換えに君達の自由を交換したからねー」

「おおおぉー!! 助ける助けるぅー!」


 なんとも口調は軽くて不安を覚えるが、信じることにした。


「――この者を袋から開放する――」


 指に魔力を込め、妖精の額に指を当てながら言い終わると、袋がパサーと、消えて無くなっていった。


「さて、他の皆さんどうしましょー?」


 まさか本当に開放されると思っていなかったのか、その光景を見た(聞いた)ので、次々と手伝う手伝う。という声が聞こえてきた。

 流石に女性達をずっと森の中に寝かせたままにするわけにはいかなかったので、言葉を信じてどんどんと解いていった。


「でも、貴方自身を助けろ。仕えろ。とかって約束はないのー?」

「ないないー。今までオークに好きな様にされていたんだから、もう自由を満喫して楽しみな。人に悪戯するもよし。のんびり暮らすもよし。好きなように生きるといいさ」

「ふんっ! そんなこと言っても、欲望の塊人間のくせしてっ!」


 一番わめいていた一匹の妖精がまだ芋虫状態でツンツンしていた。他はもう開放してある。

 すでに去った者も居る中、一番初めに開放した無垢な妖精が横に居て言った。


「あの子、一番昔から捕まってたのぉー」


 妖精を見て視線があうと、ふんっと言って視線を反らされた。


「ふーん……。そうだ、もう一つ約束して欲しいことがあった」

「ほらみろっ!!」


 これだから人間は! と怒鳴ってきた。なので、頭に手をやると、その小さな妖精は震え出した。よっぽど長く、酷い目にあったのだろう。

 流石に性的対象にはならないだろうが、悪ふざけでかけられるぐらいはあったかもしれない――。それにあの臭い空間。さらに食料状況も良くはなかっただろう。それは女性達を見ても分かることだった。最低限生きていける分ぐらい与えられていた。というぐらいの雰囲気なのだ。

 いや、しっかりとたくさん食事はあったかもしれない。だがその食べ物には問題があっただろう。オーク達は何でも食べる。なので腐ったものでも何でも食べるのだ。それと同じように食事を出されていたとしたら、痩せて行くのは無理はないだろう……。

 痩せ細った妖精が居ないところを見ると、妖精は別待遇だったのかもしれない。だが、この脅え方はあまり良い待遇ではなかったようだ……。

 なので、約束事を一つ増やして言った。


「もう捕まらないで欲しい」

「っ……!」


 そう言いながら頭を撫でた。


「なんでなんでぇー?」


 そう言いながら、一番初めの妖精は、撫で易い位置に寄ってきたので、撫でてあげた。


「んー、なんでだろうなー。飛び回ってる方が可愛いからじゃない? 理屈で考えるの面倒だしー」


 そう言って、一番初めの妖精を手の平に乗っけて上に上げたら、飛んでくれた。

 実際には、こうして捕まらない。という約束をすることによって、捕まりにくくはなるのだ。

 制約をすることによって、罠が仕掛けられているところに何となく行きたくなくなったり、何となく方向を転換したりと微力ながら影響するのだ。


「ななな、なに適当なこと言って! ……その化けの皮もすぐに剥がれ落ちるから!」

「落ちるかもねー、ってかすでに落ちちゃったしねぇ……はぁ……早速一つ目の村でバレちゃったよ……」


 今後のこと考えるとブルーになってきた……。


「な、なにネガティブになってんのよ!」

「おお、慰めてくれるのか!! 嬉しいなぁー」

「だ、黙れ!!」


 撫でてあげていると、震えは収まってきたがそれでもまだ少しビクついていた。声を張り上げてくるが、噛みつかれないだけ全然いい。


「まぁ、とにかく、あと君だけなんだよねー。どうだろ? 捕まらない、この子達をたまに助ける。それだけ約束してくれない?」

「…………いやよ!」

「んー、困ったなぁ……」

「…………あんたが……私達を助けてくれたんだし……だ、だから…………あ、あんたを助けてあげるっ!!」

「嫌だ」


 即答。縄を全て解いてあげた。


「な、せっかく助けてあげるっていってんのに!! 好意を受けなさいよ!」


 その自分の手を、小さな手でバシバシと叩いてくる。が、物ともせず、妖精の額に指を当てた。


「――この者を袋から開放する――」

「ああぁぁぁ…………何よぉ……私と一緒に居たくないってことぉ……?」


 目を潤ませ、涙を流しながら、上目遣いで聞いてきた。その様子は人間の比じゃなかった。妖精の圧勝である。中でもこの妖精は一番可愛かった。なのでその分酷い目にあってたのかもしれない……。

――ちなみに大きさの違いから高確率で上目遣いにはなる。


「違う違う、先にも言ったけど――自由に飛んでる方が可愛いってこと」

「――っ!!!!」

「8人の中で一番可愛くて、羽も綺麗だしねぇー」


 羽は太陽の光を浴び、透き通って虹色に見えた。

 驚いた顔をしたと思ったら、俯いてしまった。褒めたのに……。

 俯いている妖精の羽をつついてみた。

 ほっといて! と言わんばかりに羽を動かして、パパパと叩かれた。


 地味に痛かったので、頬っぺたをツンツンしてみた。 

 指先で感じる頬っぺたは柔らかく、抵抗もしてこなかったので、何度もツンツンしてると、ッバと顔を上げ、噛み付いてきた。

 

「あぎゃぁぁーー!!!!」


 妖精に噛みつかれるなど予想外で、思わず手を振ってしまった。勢いよく空中にほりだされる妖精を、ダイビングキャッチの如くしようと飛んだが……妖精は自分で飛んで、自分は木の根っこにダイビングヘッドしてしまった。


「あ……あが……あがが……」


 割れんばかりの衝撃を受け、血を流しながら頭を押さえていると、その手に重ねるように小さな手が置かれ、妖精が何か呟くとピューと出ていた血は止まっていき、痛みも引いていった。


「お、おおぉぉ! ありがとう!」


 先まで泣いていたかのが嘘のようにクスクス妖精は笑い、言った。


「自由に貴方の周りを飛ばせて貰うわ」

「自由に飛ぶなら仕方ないかぁー……」

「ええ、貴方がそういったんだもの」

「しょうがないな、お前が飽きるまで一緒にいるか」

「私は我慢強いのよ?」

「ええ!? 俺と一緒に居る事は我慢なのかよー?」


 長年連添った者のように気軽に会話を交わし、最後に妖精はクスクス笑うだけだった。



――そこに数人の妖精から抗議の声が上がった。


「ちょっとー!? そこ2人で良い感じになってるのよー!?」

「私も一緒に行くぅぅー!!」

「そうよそうよー!」

「私も連れて行けー!」


「駄目よっ!! この人は私の物なんだからっ!!」


 綺麗な羽の妖精は飛び上がって、近づいてくる妖精達を遮った。

 

「ずるいよぉー! 私もその人欲しいよぉー!」

「一人占めは良くないぞー!」

「そんな女より、私よねー!?」

「その人欲しいー!!」


 急に始まった物取り合戦について行けなかった――というか物扱い……。

 妖精達の価値観で見る人とは、どういった扱いなのだろうか……。

 これから一緒に行動することに不安を覚えた……。今からでも取り消せないだろうか。と思ったが、どうやらそうはいかないようだ。


「だーめぇぇぇー! 私のぉぉー!!!!」


 そう言って綺麗な羽の妖精は、頭にへばり付き、寄って来る妖精たちから頭を死守していた。

 頭の上というポジションが、何か重要な意味を占めるのだろうか。

 物扱いされ、頭……。洗脳されるのではないか!? 想像された未来の自分は、頭の上にいる妖精がコントローラーを使って好き勝手自分を動かしている姿だった。

――寒気を覚えながらも妖精達よりもマイペースに帰る準備を始めた。



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