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No1 血流の魔術師

「これでどうだっ!!」

「くっ……なんのこれしき!!」


煌びやかな服を着た黒髪と金髪の二人の男が、闘技場の中央で激しい魔法戦を繰り広げている。二人が一つの動作をするたびに周りの女の子達が黄色い悲鳴を上げている。


「炎よ!!」

「氷よ身を守れ!!」


黒髪が両手から拳の2倍はあろう火の玉を連続して放つ。

それに対し金髪は身を全て隠す程大きな氷の盾によって飛来してくる火の弾を全て守りきり、霧が二人の間に立ち込める。

そして二人の間には緊迫した空気が張り詰める。その二人の険しい表情を見た女の子達は唾を飲み込み、目を輝かせ、一時たりとも逃すものかと凝視する。

霧が晴れた時には、黒髪が呪文を唱えながら両手を上げ、頭上に大きな炎の塊を作り出していて、金髪も負けじと頭上に大きさの氷の塊を作り出していた。

そして、お互いに同時に呪文を唱え終え、ニヤリとお互いに口角を上げる様子に女の子達が気絶しそうになり、二つの塊は衝突し激しい爆発を生み出した――。



その様子を離れた位置で見つめている少年、テトはため息をついた。


「あんな魔法、自分も使ってみたいなぁー……」


爆発後、そのイケメン二人は握手を交わし、女の子達を連れて去っていった。

ここからがテトの仕事、闘技場の整地を始めた。

派手に戦ってくれたおかげで、整地の手間が増えた。


「はぁ……」


またしてもため息が出てしまった。

気落ちしながらも、仕事をこなして行く。が、手に持っているものは何もない。仕事とは整地専用の魔具に魔力を込めることである。

その魔具とは大きなボールのような物で、魔力を込めると、闘技場を元通り復元してくれるのである。

そのシステムとは、元々の闘技場の様を記録してあり、その状態に戻すというだけである。

いかんせん闘技場が広いので、それだけ多くの魔力が必要とされた。しかし特殊な体質のおかげで、魔力が外に出せない。


普通の魔術師は細胞一つ一つに、体全てが魔力を保持しているので、体内の魔力を自由自在に動かせ、魔法を使う時は、対外に出した魔力を変換し、魔法として行使しているのだ。だが、自分には出来ない。

そこでどうするかと言うと、唯一魔力を保持している血液を外に出すことだ。それ以外で体は魔力は保持していないし、保持出来ない。

すなわちテトは外に魔力を出すことが出来ない。魔法が使えない。――血を外に出す以外は。

なのでそのボールの様な丸い物に、指をナイフで切りつけて、触れる。これで体内の魔力がボールに注ぎ込まれて行った。



テトは先程戦っていた、黒金達と同じ学校に行っている。国立魔法学校で、同じ2年生で、同じ17歳。来年で卒業である。

しかし、黒金と違ってテトは貧乏だった。服装を一目見ただけで判断できるほどである。ピッカピカで、幾つもの高価な装飾品を付けている者達と違って、中古のすでに着古された少し大きめの色あせた服である。勿論装飾品などない。


黒金達が普通であって、テトが普通出ないのだ。学校自体が超名門学校で、授業費も超効果なのだ。そこに通うため、アルバイトをいくつもかけもちしていた。その内の一つがこの闘技場清掃だった。


「今日もご苦労だったな!」

「お疲れ様ですー」


闘技場の管理主に挨拶をし、闘技場を出た。すでに空は暗くなり始めていた。


「……ふー! 終わった終わったー! さてと、今日は後何があったかなー?」


 大きく伸びをし、手帳を開いてみると、今日の日付には赤いマークがついていた。


「今日はあの日かー……。生活するためとはいえ、まだ慣れないなぁ……しかし給料がいいからなぁ……外せないよなー……うーん……嫌だなぁ…………」


テトはブツブツ言いながら、ネガティブオーラを纏って歩き出した。人気が無い方へと、無い方へと、町外れの森へ向かっていった。

そして、自宅に到着した。森の中にポツンとある古びた木造の小屋だ。

カギも掛けていない扉を開け、中に入って行った。開ける際に鳴る音は、静かな気持ち良い森の中に嫌な音響かせた。


「ただいまー」


しかし、返事は返ってこない。あたりまえだ。中には誰にも居ない。


「もう限界だなぁ……」


超激安物件として買った当時から既に潰れていた扉なのだ。騙し騙し直しながらやってきたが、限界が見え始めている。

扉に限らず、ほぼ全てにおいて家中から悲鳴が上がっている。

大規模な改築を施せば解決する話だが……お金がないのである。


この少年テトは、孤児である。

のんびり働きながら暮らしていたある日、王国魔法学校の者に魔力が持っていることを知らされ、推薦で入ることになったのだ。

夢に見た学校。夢に見た魔法使い。トントン拍子に出世して。――見たいなことにはならなかった。

魔力は持っていたが、使えなかったのである。魔法が使えないということは魔術師にとって致命的……というより、もはや魔術師ではなかった。

推薦のおかげで授業料免除で入ったのものの、授業には全然ついていけない。すぐに授業料免除は打ち切られた。


しかし、自腹切ってでも学校に留まった。それは魔法使いに成れた時のメリットが大きいからである。

孤児の時は、下級も下級。下の下である。最底辺生活。それが魔術師になると上の中には入れるのである。

魔術師というだけで、様々な事柄が免除される。お金も湯水の様に入ってくる。即ち裕福であるということである。

先ほどやっていた闘技場の修復係も、魔術師の仕事では底辺のバイトだが、それでも普通のバイトとは比べ物にならない給料を貰えている。


テトはただ裕福になりたかったのではない。育ててくれた恩を返すために、孤児院へ寄付するために魔術師を目指していた。

そんなわけもあって、バイトをしながら必死に学校に通い続けている。


学校に通うときに着ている安物ローブと制服を脱ぎ、ラフな作業着に着替え家を出た。

今日二つ目のバイトがあるからだ。



到着したのは、町の外の草原である。もうすぐ夜だが、ここにはいつも人がたくさんいるのだ。

何故ならそこは軍の基地だからだ。そんな中で1箇所、人々が列になって並んでいる場所へ向かった。

そろそろ出現する門を待っているのである。


並んでいる面々は、鎧を着た兵士がほとんどを占め、少ないながらもローブ姿の魔法使いも居る。そして自分を含め、後は普通の服を着た者達で列は形成されている。


そして程無くして大きな門が草原に出現した。門が開くと、そこは光の膜のような物に覆われていて、門に吸い込まれるように人々が進んでいった。

自分も光の膜を通り抜けた。抜けた先はあたりを一望出来る丘だ。左手には高くそびえる岩石地帯、中央には草原、右手には鬱蒼と茂る森が広がっている。

そして後ろには大きな砦がある。


まず兵隊で魔物の軍勢を倒したら、地域の魔物を殲滅し、砦を建てる。それを繰り返し人間はじわじわと占領域を広げて行っているのだ。そしてここが最前線である。

この大きな門という移動魔法に分類される魔法で、定期的に開かれる門によって後方からの支援がスムーズに行われている。

そして自分も後方支援している一人である。――後方支援と言えば少し響きが良いが……バイトだ。



自分の家の周りの森も鬱蒼と茂っているが、空気はとても気持ちいい。門を通る前の草原もそうだ。しかしここは、空気がどんよりしている。

魔物達の住処に近いからだ。


今居る小高い丘の左を見れば簡易テントが一面に張られていて、右を見れば小さな簡易建物が幾つもある。

そして正面には、すでに軍隊が整列して並んでいる。


ここでのバイトは運搬である。大きく分けて二つ。

一つ目は、門間での運搬。今も絶え間なく荷物や負傷者を持った者達が門から出入りしているのがそうである。

二つ目は、戦場での運搬。負傷した者を下がらせることや、魔法使いの荷物持ちなどである。


そして自分が参加しているのは後者で、負傷兵を門まで連れて行くことである。

『運搬2』と書かれた看板のあるテーブルの前に来た。


「今日もよろしくお願いします」


 テーブルに座っているのは中年の男性だ。現在怪我をしており、事務仕事をしているらしい。


「ああ、良く来てくれたな。今日はB2地区に行って欲しい」

「はい。わかりました」


 B2地区と書かれた紙を出され、そこに名前を書いた。


「君が来てくれるとは百人力だよ。人数不足で困ってたところなんだ」

「いえいえ、そんな言い過ぎですよ」

「しかし惜しいなぁ……これで魔法さえ使えたらなぁ……」

「それは言わないでください…………」


 自己紹介をするたびに言われる言葉だ……。その度に落ち込む……。

 魔術師には、2種類の人間が居る。

 英才教育によって、子供のころから教えられ身につける者と、保有している魔力に目を付けられ、魔術師になるように育てられる者との2種類だ。

 魔法とは学べば大体の者は誰でも使えるようになる。魔力の保有量も修行によって増えていく。

 なので、子供のころから教えられれば、基本ほとんどの者が魔術師になることが出来る。

 しかしそれにはお金がかかるので、魔術師のほとんどが、前者の、御金持ち達の貴族が多い。 

 自分は後者だが……。宝くじが当たった。と思ったら、実はハズレだった。そんな感じである。

 それでも魔力を持っているだけで、十分に当たりで、このまま行けば恩も返せそうなので自分としては満足である。

 それでも、それでも、何度も言われれば気が滅入ってくるのも仕方が無いだろう……。

 こんな荷物運びのバイトをしている魔術師などいないのだから……。


「あぁ、悪かったなぁ。それじゃあ頼むよ」

「……はい」


B2地区と書かれたバッチを渡され、その場を去った。



程無くして、全軍一斉進軍が始まった。自分は森の中のB2方面へと大人数の兵隊と自分と同じ『運搬2』の者達と一緒に向かっていった。


自分は馬車を引き、一番後ろから着いていった。

基本的に馬等の動物は一緒に連れて行けない。魔物に脅えて使い物にならないからだ。

すなわち、自分で馬車を引っ張っているのだ。


「……君すごいね」

「はぁ……」

「どうやってそんな物持てる様になるんだい?」

「魔法……ですね」

「んん!? そんな魔法があるのかい? 風とか?」

「いえ、肉体強化等と言われているマイナーな魔法です」


 魔力を対外に出せないが、体内では使える。そうしてマイナーな魔法を身につけたのだった。



「へぇーおじさんには全然わからないや」

「自分でもあまり分かってませんからー」

「ハハハ! 変な魔法使いだなぁー!」

「良く言われます……」


 幾たびも言われた言葉を思い出し、またしても落ち込んだ。


「まぁ頑張って稼ごうぜ!」

「……はい」


同じ『運搬2』の人達と会話しながら、兵隊とは距離を置き、森へと入っていった。

距離が近すぎると戦闘に巻き込まれるからである。


そして戦闘が始まった。まずは草原の方からの地鳴りのような声で始まり、森の中からも獣の唸り声から人間の怒声、悲鳴、すぐに辺り一面は喧騒に包まれた。


運搬の人達はその場で待っている。待っているのは戦争状態が緩まるのをである。負傷者を連れて帰れば帰るほど、報酬は貰えるが、そのために巻き込まれて命を落としてしまっては元も子もない。

命とお金の天秤のバランスが取れた時、動き出すのだ。


周りを警戒し、誰一人動かない中、テトは馬車をその場に置き、兵士達が進んだ方向へと向かっていった。

周りの者達は唖然としながらその姿を見送った。


身体能力強化によって、さほどのことがない限り怪我はしないのである。

なら、前線で戦えばいいじゃないか。と思われるかもしれないが、殺し合いにはテトは向いてないと自分で分かっているので、やらないのだ。

それに魔法使いも、テトと同じように身体強化はしないのか? とも思うだろうが、マイナー魔法である上に、一般的に広まってる魔法を使ったほうが殺傷力が高く、変換効率が良く、しかも安全圏から攻撃出来るのだ。

 もっと言えば、魔術師がわざわざ肉体を強化する必要がないのだ。本物の魔術師と一騎打ちすれば、簡単に負ける。

 体内で魔力を使いより、外に出した方が断然使えるというのが、魔法なのである。

 誰も使わない肉体強化というマイナーな理由はそこにある。


運び屋達が負傷者を運び出すタイミングを探っている間も、テトは構わずどんどんと負傷兵を運び出しては馬車に乗せて、を繰り返している。

そのうち、馬車もいっぱいになり、門へと引き返すことにした。

出来るだけ振動を与えずに、いかに早く運び出すかを考えたテトが行き着いたのは、馬車を背負って膝の屈伸を見事に利用することであった。

周りが見れば、馬車が地面から一定の距離を保って空中を飛んでいるようにも見える。

よくある風の魔法による運搬方法に近い。


そして門で負傷兵を降ろし、再び森の中に行きの数倍の速さで戻って行った。

森に着いた時には、すでに他の運び屋達も行動を開始していた。――リヤカーに一人ずつ積んで運ぶということを。


再び馬車が負傷兵でいっぱいになってきて、ラスト一人だな。と思った時、ふと森の中が気になった。

何故か分からないが、テトは引き寄せられていくかのように、戦闘が起こっている方面とは90度違う方向へと向かって行った。


馬車に既に乗せている負傷兵のことも気になるので、急ぎ足で森の中をどんどんと突き抜けていった。

すると、森の端である崖に到着した。見上げても見上げきれないほどの高さのある崖の下に着いた。

気のせいだったか。と来た道を戻ろうとした時、上から何かが降ってきた。

バキバキバキッ

と凄い音を立てて木々の間から人が落ちてきたのだ。思わず咄嗟に飛び出して、腕にかかる重力に顔をゆがめながらも、両手でしっかりとキャッチした。

そして、腕の中に納まったものを見て、思わず声が出た。


「……女の子?」


腕の中に収まっているのは、白い肌が綺麗な少女だった。――美少女だ!


「……棚から牡丹餅?」


自分で何言ってるんだ。と反省しながら、思考を働かせる。

この崖の上に人間が住んでるとは聞いた事がない。即ち……


「……羽だ」


背中には黒い綺麗な艶がある羽が生えていた。しかしそれ以外はどう見たって人間であった。

こんな魔物は聞いた事がない。知っている魔物は全て異形の形をしているのだ。


「…………この場合は、棚から牡丹餅じゃなくて、崖から謎少女か。ラッキーなんだろうか」


余りの予測不可能な事態に混乱しながら、紡ぎ出す言葉にも混乱した。

そこで少女が血を口から噴出した。


「うわっ! 怪我してる!?」


よく見ると、体中に斬り傷や痣があったり、羽にも穴が開いていたりと、散々なことになっていた。

あまりの奇想天外な展開に、目が怪我を見てても、頭がついていってなかった。


「…………連れて帰るかぁ」


馬車に残している負傷者のことも思い出し、とりあえず連れて帰ることにした。

あまりにも羽が目立ちそうだったので、作業服をかぶせて隠した。さらに馬車に積んでる布や包帯なので、顔を隠したりと色々カモフラージュした。

何故なら、服装が少女が着るような服じゃなかったからだ。もうなんだか……やらしかった。

ピッチピチの服という、見たことのない服装で、肌の露出面積が異常に多かった。

それに戦場に少女は不自然すぎる。


全て、とりあえず。で片付けていった。

とりあえず、連れて帰ろう。

とりあえず、服でも着せよう。

とりあえず、カモフラージュしよう。


門に着き、負傷兵と共に少女を医療所に預けて再び戦場に戻って行こうとした。が、この後、魔物とバレタ時の処遇に不安を覚えるものがあったので、馬車を返した後、医療所へ少女を引き取りに行った。


「どいてどいてどいてー!! じゃまじゃまじゃまー!」


そこはテンヤワンヤな状態だった。


「あのー、ここの兵隊さん連れて帰ってもいいですか? 知り合いなもんでー……」

「ん!? まだ治療してないわよ、そこ」

「あー……そうだ! 自分国立魔法学校の生徒なので、治療はお手のものなんですよ。後任せていただいてもいいですか?」

「ああ、それならいいわよ! 早く連れて行って頂戴! その方が助かるわ! それじゃ!」


国立魔法学校とは、優秀な魔術師達の卵の巣窟なのだ。この医療所にもその卒業生達が数多く居る。

体中包帯やら布やらで、芋虫状態の少女をお姫様抱っこし、連れて帰ることにした。


「あー、すみません。知り合い見つけたもので、早退していいですか?」

「珍しいなぁー、まぁ別にいいけど。金大丈夫なのかよ?」

「…………ぅ……ぁ……お金のことは忘れます。また今度よろしくお願いします…………」

「あ、あぁ……またな」


目が潤ってしまったのが見えたのか、それ以上は突っ込まれず帰れることとなった。

しかしお金の問題を思い出すこととなってしまった。

高収入である今回のバイトが途中で終わってしまったため、生活が出来るか怪しくなったのだ。

その上、この少女の治療代が……。医療所ではああ言ったが、回復の魔法なんて使えない。

なので、薬を購入する必要が出てきたのだ。


等と、少々鬱になりながらも、しっかりと迅速に家まで丁寧に運んだ。

家にある薬で(ほとんどない)応急処置を簡単に済ませた後、薬屋を無理やり起こして、2割増しぐらいでぼったくられながらも、処方してもらった。

人間用なのか、魔物用なのか、はたまた動物用なのか。何が効くか分からなかったので、全て作ってもらうことにした。

魔物用と言ったら怪しまれそうだったので、魔物のペット用等と言葉を適当に濁しつつ、作ってもらった。人間用より値段、2割り増しの3倍増しである…………。

必死にバイトをこなし、食料も家も最低限で生活していた。それぐらいしてやーっと、授業料が払えるのだ。

それだけしても卒業の肩書きは十分にお返しが来るほど大きいので、やってきたが……。

高収入バイトが途中で、それもほんの始めの方で終わり、さらに薬代がかかるという、破滅的状況になったのだ。


人生オワタッ


ネガティブ感情が最大に達したので、お金のことは全て忘れることにした。



飲み薬から、塗り薬etc……人間、魔物、動物用全て合わせてを3倍の治療を施した。


今までのバイトよりも疲労感がある仕事となった。

少女とはいえ、女であるのだ。異性との交流なんて……。って感じなので、変に変に変に緊張した。

切り傷以外の慣れない治療行為にも四苦八苦で、終わった時には、倒れるようにして、唯一あるベットの上で寝ている少女のお腹を枕に眠りこけた。


少女のお腹といっても、素晴らしく整ったくびれなどは、姿を消し、包帯やらなやらで達磨状態の少女のお腹の上である。




次の日、一気に覚醒する音――悲鳴で朝が始まった。



「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」

「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」


少女のお腹の上にあった顔を跳ね上げ、そのまま後ろにひっくり返った。


「お前は誰だ……!!」


少女は上半身を起こして、こちらに指を指し、聞いてきた。


「……テ、テ、テトって言う学生だけど……!」

「……わからん」

「……こっちもわからない」


そこで少女はふと、壁にかけてあったローブに目をやった。


「おまえぇぇぇぇぇ!!!! あいつの仲間かぁぁぁ!!!!! ここは牢屋だなぁぁぁぁ!!!!!!!」


少女は一気にベットの上に立ち上がると、手に魔力を集め始めた。


「ちょ、ちょっと!? マテマテマテ!!!!」

「誰が待つカアアァアアァァァァ!!!! 死ねェェェェ!!!!」


少女が手の平をこちらに突き出すと、そこから薄らと緑色をした風の刃発射され、自分目掛けて飛んできた。


「うおおぉぉぉぃ!!」


間一髪の所で避けれた。身体強化して咄嗟に飛び避けなかったら確実に首が飛んでいた。――後ろの壁に横穴が開いた。


「クソッ!! 次は外さない!!」

「まてぇぇぇ! 話し合おう!!」

「聞く耳もたん! 死ね!!」


と、少女は両手に先ほどの5倍はあろう魔力を貯めて、5倍の大きさのはっきりと見える緑色の風の刃を放ってきた。

その間、自分の頭の中ではこのような言葉が繰り返し流れていた。


避けたら家半壊。受けたら体半分。避けたら家半壊。受けたら体半分。避けたら家半壊。受けたら体半分。避けたら家半壊。受けたら体半分。

そして選んだ答えは――。


「くそおおおお!! 家は死守する!!」


体内(血液)の魔力を全て両手に集め、両手で巨大な風の刃を握りつぶそうとした。


「な、何だと!?」

「イタイイタイイタイイタイイタイ!!!!!! 無理っ!!!」


それは即ち刃物を素手で掴もうとしてしまったようだ。手がざっくり切れ、思わず耐え切れず横に逸らした。


「い、家が……」


そこは見るも無残に、元から無残だったが、更に無残にボロ屋敷になってしまった。

壁に大穴が空いている……。流石に、穴があっても小さな穴だったのに……。


「痛っ!」


それよりも深刻な事態が起きていた。左手が吹き飛ばされていたのだ。

しかも、断面図は綺麗ではなく、グッチョグチョ。床に落ちた、元左手は、肉の塊に成り果てていた。

すなわち、今後一生……左手無し。いかなる魔法でも、この様子では望みが無かった。

戦場に何度も行ったことがあるテトには、それが一瞬で判断できた。


「う、嘘だろ……?」


腕から勢い良く噴出される血を見て、気は弱いテトはそのまま気を失った。

戦場で戦わないのは、殺す殺せない以前の問題で、単に気が弱いのだ。


「こいつ何者だ……? 私の魔法を素手で弾くとは……」


その少女は大きく開いた家の穴を見ていた。


「……あれ? この建造物、木で出来てる……? 牢屋に木……?」


さらに体を見回した。


「……治療? が施された後がある……。これはすなわち――」


包帯の間からかすかに見える、白い肌が綺麗な少女の顔が青ざめていった。


「うわぁぁぁぁ!!!! 恩人を殺してしまったぁぁ!!!!」


涙を垂れ流しながら、自分よりも青ざめて行っているテトの両肩を掴んで、力任せに揺するが全く反応がない。


「死ぬなぁぁ!! 死ぬなぁぁ!!」


テトは力任せに揺すられ、左手から血が壁に飛び散る。


「……くっ、命の恩人だ…………。ええい! どうにでもなれ!」


このまま揺すっていても助からないことに気がついた少女は、俯いて眉を寄せ、少し考えたのち、苦渋の決断をした。

そういうと、少女は指を爪で切り裂き、流れ出る血をテトに飲ませた。

1滴、2滴……と口の中に入っていくにつれ、テトの顔に赤みが戻っていった。そして10滴目……少女の指にテトが吸い付いた。――意識は戻ってい

ない。


「あっ……ちょっと、ぁっ……ん……って、何するのよっ!!」


テトの顔面に拳がHITした。――そしてすぐに少女は気がついた。


「……ああっ!! 恩人だったぁぁぁぁ!!!」



 こうして、少年の物語が動き出した……。


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