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月が一つになってゐた  作者: 純戦士のおじさん/PureFighter00
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なろうのものがたり(前編)

 治療技能の洒落にならない効果により、我々は村での居場所を作る事に成功した。なんでも街の方には医者や医療関係者のギルドがあると言う話だから、追々報告なり加入手続きをする事にしよう。

 この様にしてとりあえずの居場所を確保して近所付き合いをして行くと、ようやくこの世界の輪郭が掴めて来た。川沿いに粗末な道を半日行けば当地を治める男爵の邸宅があるが、そこから徒歩1時間程度の川沿いに町がある。人口500人程度でそこから考えると男爵領の人口は総勢5〜6000人程度か。税は軽くは無いが重くは無い。

 更に川沿いに6日も行けば近隣を治める侯爵領の中心街があり、此方が当地の男爵の本家であるらしい。この辺りでは魔物はおろか野生生物すら稀であり、誠に残念な事に戦士や騎士の需要はゼロ。街道筋に付き物の強盗すら稀であるという。戦乱の兆しはまるで無く、隣国という概念すら無かった。どうも人口が少なすぎ、増加率も微々たるものなので戦争や騒乱にかまけている場合では無い様だ。それが医療技術などの粗末さから出たものとはいえ、それ自体は喜ばしい。グンダはこう評した。おとぎ話みたい、だと。

 それは当たらずとも遠からず……ある日グンダが村から一冊の本を持ってきた。仲良くなった13〜14の村娘が、姉に子が生まれるから先祖代々伝わる物語の本を子に贈りたいという。パイレミンは書写屋だからこの手の作業は大得意だ。先祖伝来と聞いて凝った装丁にしてフルカラーでやっちゃうぞーと張り切った爺さんが部屋にこもって1時間程度だろうか。家族全員が呼び出された。


「タイトルは『なろうのものがたり』だそうな」

「なんか聞いたことがあるような……まさか異世界から勇者が召喚されて女性に囲まれ……」

「女神に賜った神の力でバンバカ敵を倒し……」

「のじゃー!が出てくるのよね? ノジャーって言う敵。ボインボイーンの!」

「当地ではノスフェラトゥらしい。まな板らしいが。ボインは魔法使いじゃの。良かったなベッセル、アンデッド居たぞ、アンデッド」

「よし、神の名の下に斬り殺すからまずそいつを本から出せ! ……ってじいさん、物語だろそれ。フィクションでしょ」

「いや、気になるのがな……オークやゴブリン話に出て来てんだよ」

「良くある話というか、出るだろゴブリンぐらい。ソーサリアにも居たわ」

「ではネスカ、あんなメジャーな魔物が何故ここに居ない?」

「……どゆこと?」

「空想……かしら?」

「それにしちゃワシらの良く知るモンスターによー似とる。物語の中では勇者が魔物を根絶したとある」

「随分地道な勇者だな。ゴブ穴とか片っ端から潰したのか」

「まぁ、最初から読んでみよか……」

 と、晩飯を挟んで朗読会が始まったのだが……


「おいおい、いきなり恋に落ちるのか? うっそだろ?」

「えー……チューの前に手を繋ぐとか、一緒にいるだけでたのしーみたいな前振りないのー……私好きなのに……」

「ず……随分物分かりの良い娘さん達ね……ハーレムありなんだ、ふーん……」

「いや待てフラ。違う、断じて違う。別に男の夢じゃないぞハーレムって!」

「いや、好きな奴はいるんでないの?」

「ばっかお前! そんなんだから30半ばで女っ気無いんだよネスカ! お前逆やられて正気で居られるか?」

「お前の好きな娘さんが週7日の内3日は他の男に抱かれとる。そして娘っ子はいう訳だ、みんな愛してると」

「うっわ、いわゆるビッチ! ちょっとやだな……」

「ちょっとかよ! 激しくヤだわそんなの!」

「ネスカさん女の子の気持ち考えなさすぎー。むりー」

「ちょっとネスカ、考えなさいよ!」

「ワシなんか死んだバーさんに操立てとるぞ……いやー、我々的にはちょっと無いわー」

「こんなのお子さんに与えちゃダメ。書き直しなさい!」

「ハーレムだけじゃ無いんだこれが……」


「へ?」

「は?」

「じゃからキンキンキン」

「いや、だからなんでそこで音楽が?」

「戦闘の剣戟の音では? よーしらんが」

「……んー、つまり、パリーしまくり?」

「下手なんだか上手いんだか分からんな……」

「一回りして逆にすげぇわ」

「そしてなんだか凄い技が炸裂して凄いから敵は死ぬ」

「……最初から出せや……」

「か……駆け引きやフェイントは……」

「無いな。まるで無い」


「……えーっと、なんでそれで敵は改心したんですか。パイレミンさんご説明を」

「ワシの物語じゃないもの、知らんがな」

「あのさー、ジッちゃんさー。天才軍師は頭がパーだし、魔法使いはボインボイーンという事しか書いてないし、巫女さん泣いてるだけでね?」

「ワシもそーおもう」

「なんで世界は平和になりますか?」

「さぁてのぅ」

「なんというか……現実味は無いわね……」

「で、問題はここだ。魔王ノスフェラトゥを改心させて万事めでたしめでたし」

「おめでたいのは作者の脳みそだけだ」

「女神はそれを祝福し、勇者の願いを叶えました。そしてこの世は変わらず平和な日々が続きましたとさ」

「……変わらず? 変わらず平和……え?」

「ん? どしたベッさん?」

「変わんないの? ずっと平和なの?」

「あ、鋭い! グンダたまに鋭い! 変わらないから平和か。いやでもちょっとそれは……」

「え、え? 分かんないの俺だけ?」

「呪詛やんけ。何も変わらぬ毎日が続くから怪我や病で人が間引かれ、人が増えぬから騒乱も起きない……悪魔か」


「これ、物語じゃなくてこの地の伝承なんじゃなかろか……」

 パイレミンは本を閉じて窓の外を望む。フィクションであって欲しい、切に。


後1話で導入部終わるかな……


ノスフェラトゥ

アンデッド的な不死者を意味する言葉。死んで無い不死者はイモータル(定命のもの、寿命があるのがモータルで、その反対となる寿命が無いのがイモータル)かなぁ? 主人公連中は高位アンデッドと認識しています。この世界では実際どうなのか分かりませんが。


アンデッド

基本、ベッセルの奉じる神様は死神であり、宗門の教えでは死んだら粛々と神の下に行くのが正しい姿とされてます。死んでも現世でぷらぷらしてるアンデッドは神の定めに従わない「宗門の敵」となり、積極的に潰していくべき敵なのです。死神なのに人々の間に存在が許されているのはこの性質故ですな。

アンデッドの中には強い奴も居るのに、宗門の敵として執拗に高位アンデッドを打倒しようとするのでパッカンパッカン死神教徒は死にまくり、死んだら死んだで「神に呼ばれた」と喜ぶので中々信者が増えない……良くできた循環だ(白目)


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