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月が一つになってゐた  作者: 純戦士のおじさん/PureFighter00
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寒村

よし、なろうのものがたりが出てくるとこまでは少し展開早めにしよう。こまけー話は後から途中挿入したらえーんじゃい。

 結果から言うと、我々が転移した丘の先のもう一つの丘の先に現地民の村落があり、我々は友好的に迎え入れられた。完全武装のグンダが村人の飼う大型犬をモフろうとして長槍抱えながら追い回したにも関わらず、奇跡的に好意的に迎えられた。見てくれだけは美人というのはやはり武器の一つなんだなぁと。また、グンダがアホの子であり実際抜けた会話をしてくれたのも良かった。少なくとも、我々には。

 で、村人との接触により判明したのだが、ぶっちゃけこの村酷すぎる。子供は痩せていて若い女性が極端に少ない。地方の寒村といえば大概色々なものが遅れているのは極めて自然ではあるが……少なくとも私ベッセルが見てきた中では故国の焼かれた村ですらもう少しマシだった。

 村はちょっとした川の沿岸に広がっており、村の中には水車も風車もない。川向こうには耕作地が広がっているが、牛などの耕作用家畜の姿も見えない。領主の館は半日ほど川下に向かった先にあり、パン焼窯はそこにしかないと言う。即ち村民の主食は大麦などの麦粥! 嗚呼懐かしの生家の味! もう2度と御免だと思ってたのに!

 豚は頭数が少なく、もっぱら肉は羊毛用の羊を偶にバラして食う程度。後は鶏。しかし基本は卵。ああそりゃ栄養足らんわな。豆とかも見かけないし。

 すると寒村に詳しい私が考える限り……医療が未発見なのだ! 私の故郷では貧しかったが各村に(まじな)いを使うバァさんがいたものだ。大体の問題はバァさんの魔法で片付いたし、大体以外の問題はそんなには無かった。稀に魔法を使えるものが居ない村もあったが……すると子供がポコポコ死ぬ。下手するとお産の時に母親ごと死ぬ。そんなもんだから子供が死ぬので子供を沢山作るとバンバン母親が死に、仕方がないので次の嫁を娶るがやはり死ぬ。結果的に「嫁」はどんどん若くなり、年頃の娘は激減し、若い男は外に嫁を探すのだが、魔法医療も無い寒村に嫁ぎたがる娘はいない。簡単に死ぬからだ。愛し愛されて子供を作ると死ぬからだ! 結果、呪い師やちゃんとした魔法使いが来ないと10年ちょいで離散する羽目になる。良く保ってるな、この村。

 なんじゃこれ……とドン引きするが、ここの村人は別段これがおかしいとは思っていなかった。それはどういう事かと言うと、この村の交流範囲では「これが普通」なのだ! マジか!

 つまり、グンダが非常にヤバい状況でも村人に好意的に受け入れられたのは幸運では無く必然だった。嫁候補生だと思われとる!

 散々異世界転移して来たが、ここまでパンチの効いた寒村は久しぶりだ。いやその……魔法とか医療は無いの? マジで?

 恐る恐る村で唯一の医薬品取り扱いの店を覗く。何故か体力や傷が万能で治る「やくそう」や「ポーション」らしきものはない。宗門の学舎で「どうしても他に手段がない時は……」と前置きして教えられたヨモギがドーンと鎮座ましましてる。その上ヨモギの鉢の幾つかヨモギじゃない。間違えてるじゃん……どういう事だ? 他にも蒲の穂から取れる粉らしきもの(ガマなら効くと聞いたことはあるが、普通はキュアとかヒール使う)、柳の枝……いや、久々に見た。一応聞いた事はあるが常用してるの初めて見た! クサクサワールドかっ!

 脂汗をガマの様にたらーりたらりと垂らしつつ店を出ると、我が家唯一の魔法使いであるパイレミンが村をのんびり散策していた。事情を伝えてヒールやキュアが大活躍だっ! と伝えると、パイレミンは穏やかに、そして悲しげにこう口を開いた。


「ワシの魔法、ここでは発動せんのじゃ……」


 あ、終わった。


 簡単な話、周りが皆そうであれば外部から見てドン引きな状況でも人は生きて行ける。それでも人は喜び、笑って生きていけるのだ。腹ペコでも子供はそれが当たり前なら腹ペコなりに笑うし遊ぶ。思えばグンダを引き取った時もそうだった。人間は豪奢にも貧困にも慣れるのだ。貧困の中で短い命を終えようとも、それが普通になってしまえば粛々として死ぬ。それを不幸と思えるのは、自らが幸福の中にいたからだ。私もかつてはそうだった。生煮えの大麦粥が当たり前だった生活から黒パンを毎日食べられる生活になって涙を流しながら喜び、白パン食った時は余りの軽さに騙されているのかと、中身くり抜かれてないかと訝しんだものだった。その後その柔らかさに仰天したが。そして私は故郷とは比べ物にならない生活に慣れた。アイスクリームに感動し、偶には豚の丸焼きを食い、大抵丸鶏のローストを器用に分解して一人でむしゃむしゃと楽しんだ。

 そして今、悲しんだ。豪奢な食事や生活を知るが故に。


麦粥

中世ヨーロッパでは良くある食べ物の筈なんだが、何でかそこらで良く見るファンタジー小説では見ないもの。それが麦粥。


まず、小麦耕作してても収量がびっくりするほど少ない小麦は租税や換金作物として用いられて農民や一般市民(中世的な)の口にはまず入りません。小麦を粉にする風車や水車は利用料金取られます。また、パン焼窯などは領主の館にあるものをこれまた有料で借りる形か、お許しを貰って新造するしかありません。

よって、脱穀して籾殻を取った小麦以外の麦……大麦やライ麦、燕麦を水か牛乳か山羊の乳で煮た麦粥が主食になってまうのです。白パンが市民の常食になるのは農業革命により生産力が向上した18世紀まで待たねばなりません。ベルばら時代だぞ。蒸気機関やライフルが出回った時代だぞ。

なお、その頃江戸では庶民も白米食ってたり。同時代の小麦に比べて米はアホ程収量があり、水稲だと連作障害も無かったからです。


みんな、転移とか転生するならお米が主食のところがえーで。半端なく中世ヨーロッパハードモードよっ!

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