なろうのものがたりのその先に
一々数えるのもめんどくさくなるぐらい、世間でいう異世界転移を繰り返してきた。
故国はグローランサのアップランド湿原にある寒村だった。灰色犬のインドロダールが裔と聞かされて育ったが、村は帝国に燃やされた……なんて酷い帝国だ!と言いたい所であるが、帝国の荷馬車をヒャッハーしてたの村の若者だから自業自得と言えなくも無い。
村が焼かれて私と仲間は剣神の宗門を叩いた。剣神の宗門は誰にも開かれていて我々は歓迎されたが、それは宗門の教えが門徒をバリバリ死なせてしまう関係上、恒常的かつ慢性的に信徒が足りぬからであった。なんせ、死ぬ。そして魔法のある世界でありながら死からの復活は神性冒涜に当たるので復活不能。そりゃ人が足りなくなる訳だ!
その様な理由から、ある程度以上の技量を獲得すると司祭に推挙されてしまう。そも、ウチの宗門で司祭の位階がきちんと充足されている事は稀である。私が司祭の位階を授かっていると聞いて色々難癖をつける奴はあちこちに居たが、帰依して生き残っていたらほぼ自動的に位階を授かるんだ。むしろ位階が貰えないぐらい致死率が低い地方へ行きたい……
と、考えていたこともありました(過去形)
何の因果かその後定期的に異世界へと転移し、銀の騎士の町でラウンドシールドの買い付けしたり転売したり、蟻穴で大蟻と戯れたり大蜘蛛倒したり犬を育ててみたり。またある時はスノウノウの話に感動したり、海底神殿で敵に囲まれたり。最近までいた世界では月が2つあって、大型のドラゴン独力で倒したり、黒い悪魔のパラゴンを飽きるほど倒してみたりなどしていた。致死率の低い世界ではあったものの、今度はそれらの世界では宗門の秘術が使えなかったので……私は司祭として神の剣という名を授かっていたが、実質何の魔法も行使できないただの戦士として活躍していた。
それらの世界でも可能な限り宗門の教えを守り、いつでも鉄の鎧を着てロングソードを友として戦ってきた。加護と制約を守り酒を飲まず、毒を使わず。
この前までいたソーサリアではゆっくりと時が流れて、私も地方都市郊外の穏やかな丘……自らアモン・イシルと名付けた丘の上に相応に大きな居宅を構えることができた。流れ流れて私は遂にこの家で人生を終えるのだなと。仲間と共に神の社を建ててゆっくりジジイになるのだなと、本当にそう思っていた。
しかし、ある日気付くと私は仲間と家諸共、また異世界転移をしていた。
流行り、だからなんだろうか? もうこっちは20年近く前から散々異世界転移してるんだが……また、長年の冒険者生活で技量や能力もいわゆるカンスト。俺Tueeeでもある。
激しくイヤーな予感がしたが、最近流行りの女神様には会わなかったし、チートは貰えなかった。まぁ、世界法則に反する様な力を行使するのは混沌だ。我が神はその様な物をお許しにはならぬ。混沌滅すべし、慈悲はない。
出来ればスローライフを所望したいところであるが、結果から申せばそんなことは出来なかった。この世界は歪んでいて、住民たちが当たり前と思っていることが極めて不自然なものだったのだ。もし良ければその顛末を話してみたいと思う。
私の名はベッセル。剣の神フマクトの門徒にして司祭。珍しく齢40を越えて尚、神のおわす剣の間に呼ばれていないSword of Humaktのベッセルだ。なお、些か自ら誇る所である「剣を取っては無敵」であるが、誠に申し訳ない事に今回の顛末では私の剣の腕は全く、いや本当全く活かされなかった。近年流行りのノンストレスとやらはほんっっとーに困ったもんだな!
Amon Ithill (アモン・イシル)
シンダール語で「月の丘」の意。シンダール語というのはあの指輪物語で有名なトールキンさんが作ったエルフ語だ。本作では書写屋のパイレミンが師事した魔法使いが「青の魔法使い」なので、グワイヒアのエルフ語講座程度のエルフ語をパイレミンが習得してる。みんなも折角だからエルフ語調べて使えばいいのにー(いいのにー) ググれば出て来るで!