009 顔無し
人化したジル、ノワ、エリュを連れて、私達四人は街の様子を見るべく外壁を潜った。
目に映るのは見るも無残な姿、当然であろう、あれほどの竜達に襲われたのだから。
しかし、幸いな事に街の住民達殆どが避難していたらしく、死者は一握りで済んだようだ。
「マスター、良かったわね。これからの事を考えると良かったと言ってしまってはいけないだろうけど」
「命有っての物種って、言ってた人も居たわね」
「…えぇ」
「なにしんみりしてんだよ!こんなんじゃ泊まることも出来ねぇんだから他行くぞ」
「「無神経」」
「なんだよ!?銀も黒も!ほんとの事じゃねーか」
「まぁ、そう言わないの。エリュの言うことも一理あるわ。次を目指しましょう」
復興は私達冒険者の仕事ではない。慈善で行う者もいるが、基本は住民や国が派遣する衛兵で行う。
私達が居ても仕方ないので次を目指すことにした。
ジルとノワには礼を言って還って貰い、エリュも先程の戦闘でかなり体力を奪われたようなので街道のはずれで夕飯にすることにしたのだが。
「パンが…」
「どした?」
「パンがないわ」
アイテムボックスに手を突っ込んだ私は愕然とした。
探しても探しても冒険の要であるパンがないのだ。
[アイテムボックス]とは、人族またはエルフ族なら皆が持っている格納魔法庫であり、魔力によって収納出来る内容量が変わるが、小さいモノでも成人二人分は入る。
更に、中は時間の概念が存在しない為、収納した時のままの状態で取り出すことが出来る。(生物は何故か収納出来ない)
「は?前の街で買ってなかったか!?」
「…あれ、パンじゃなくてスキレットよ。前に使ってたやつ穴空いちゃって買い換えたのよ」
「おいおい、なら買ったばかりのスキレット使って肉でも焼いてくれ」
「……………」
「おい、まさか…」
「そのまさかよ」
「ドヤ顔で言うことじゃねーよ!!」
誤魔化せると思ったけど無理だったようだ。
今持っているのは果物類だけだと、エリュに伝えながら柑橘と林檎を渡して我慢させた。
翌朝、すっかり体力が戻ったエリュが、『歩いてたら日が暮れちまうから乗りな』と竜の姿へと戻り、私を乗せて次の街まで飛んでくれた。
街が見えてきたは良いものの、余計なモノまでが目に入る。
『おいおいおい、こっちは腹減ってるっていうのによ!!』
「無面竜…相手出来るかしら?」
『任せな!瞬きで終わる』
[無面竜]
またはノーフェイスドラゴン。
白い仮面を被ったような顔には眼がなく、口だけが裂けている。
中級種に位置づけられ、10メーターと大型で防御力は上級種を超えるが、攻撃面では中級以下と偏っている。
評価していただけたら幸いです。