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英霊に捧げる黒銀の詩  作者: 柴光
43/53

040 紛い物

 


「さて、貴女達の目的は何かしら?」


 五枢機卿の一人ナーダと名乗る女性は、ジャンヌに剣を突き付けられながら私の質問に答えた。

 資金集めはついでで、本来の目的があるが知らないと言う。

 枢機卿のクセに知らないはずないとジャンヌに脅しをかけるよう伝えても本当に知らない、嘘と思うなら殺しても構わないと。


「本当に知らないようね。貴女はお金しか興味なさそうだし」

「その通りです!お金と力は持っていても困りませんから」

「ハァ、分かったわよ。でも貴女を生かして還す訳には行かないわ」

「そんなっ…」


 ジャンヌの一突きを受けて血飛沫を上げながら倒れて行くナーダ。

 ナーダは首を押さえながら暫くもがいていたが、今はピクリとも反応しない。


「やはり、悪とは言え人を殺めるのは良い気分じゃないわね…」

「…そうですね」

「行きましょうか。エリュ、ジャンヌ」

『アーシェ、ちょっと待ちな』

「どうしたのエリュ」

『あれ』


 エリュが見つめる方向には、先程の下っぱ四人の死体が転がっているだけのはずが、死体からモゾモゾと触手のような物が生えて四つが一つになろうとしていた。


「なに、あれ…」

「マスター、此方も」


 それだけではなく、ナーダの死体からも生え始めてくっついた死体の方へと向かい、また一つになって蠢いていた。

 一つの肉塊は衣服を破り、皮を脱ぎ捨てやがて大きな何かへ変貌を遂げた。

 生まれたての赤ん坊のように滴る血と人だった肉の欠片、それらを震って自身の身体を綺麗にすると、ソレは翼を広げながら咆哮を上げた。


「[ 混血竜(サングイスドラゴン) ]…」

『相変わらず気味悪ぃ奴だぜ』


 身体は西竜であるものの、手足と頭は人間のソレであり、顔は複数の人間が混ざりあった禍々しい姿を持つ混血竜は、一種の呪いで産み出されたと考えられている。

 私も生まれる瞬間は初めて拝んだが、こんなにも不快なモノは他にあるだろうか。


「エリュ、ジャンヌ、お願い出来るかしら?」

「燃焼不足なのでここは私が引き受けます」

『なら頼むわ。俺は大分消耗しちったからな』

「エリュテイアさんはお年なので休んでいて下さい」

『あ!テメェ…行っちゃったよ。一言多いんだっつの』

「悪い子じゃないんだけどね」

『まぁ、そりゃあ…そうか?』

「そうよ」


 混血竜に凄まじいスピードで走り寄るジャンヌは目前で頭上へと飛び、額に両手の剣を突き刺すと、暴れ狂う混血竜から離れて再度頭を狙い斬り裂いた。

 クロスされた剣は四つの人間の顔に切り込みを入れ、三度降り下ろされた聖剣は

 主となっているナーダの顔を真っ二つにした。


『ソイツ、頭を落とさねぇと死なねーぞ』

「分かっています!」


 明らかに致命傷を受けている混血竜だが、今だにジャンヌと向かい合っている。

 何の抵抗もなくジャンヌの斬撃を食らい、私が瞼を閉じて開いた次には首を跳ねられてドスンッと横たわり、跳ねられた首の複数の口から人語が発せられた。


「「「我々の、最後の、あが、き。くる…み、と、に…し、み…を、奴、に」」」


 そう言葉を残して青い炎に包まれて骨と周囲に焼け焦げた臭いを残して息絶えた。






[混血竜]

 またはサングイスドラゴン。

 4メーターあるが、手足と頭は人間そのものの形をしており、ベースとなった人間が混ざりあった顔をしている。

 呪術を掛けられた者が命を落とした際に産み出される竜と考えられている。



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