021 ハイエナ
『ん?なんかあるぜ』
「なにかしら?」
『馬車だ。襲われてるっぽいな』
次の街[ホルベルン]へ向けて街道の上空を進んでいる私達の目に、魔物に襲われてる馬車が飛び込んできたので助けられるかエリュに聞くと。
『もう遅ぇ』
「だとしてもよ」
『チッ、分かったよ。舌噛むなよ』
高度を急激に下げて馬車を襲っている魔物に飛び付いて脚爪で一体を貫き、少し離れていた一体にブレスを、残った一体に爪撃を与えて三体の[ 死肉喰竜 ]を葬り去った。
しかし、馬車の持ち主であろう商人らしき者と護衛の冒険者達は皆食い漁られて見るも無惨な姿である。
「有難うエリュ」
『人間なんて喰っても不味いだけなのによ』
「そうなのね……確かに、散乱した積み荷の燻製肉の方が美味しそうね」
『お前って以外と強いな』
「あら、これでも冒険者で食べているんだから…これなにかしら」
散らばった荷物の中に、錠付きの古びた小さな木箱が転がっており、それを持ち上げて振ってみるとカラカラと硬い何かが転がる音がする。
「お宝っぽいわね」
『ネコババするのか?』
「失礼ね。預かるだけよ」
『おい、それを「それを渡して貰おうか」
「『!?』」
私達は唐突な声に驚いて振り返ると、そこには黒一色に身を包んだ[黄金郷]だと思われる怪しい男?達が立っていた。
一人の男は私が持っている木箱を寄越せと言っているがそんなの聞くに値しないのでシカトしてエリュに「行こう」と促すと。
「無視は宜しくないな。私の可愛いペットを殺しておきながら」
「貴方がハイエナを放ったとでも?」
「手懐けるのに苦労したがな。なんたって契約を行える頭を持っていないのだから」
『コイツ等、人間の小飼だった訳か。テメェが襲わせたって解釈で良いんだな?』
「そうとも。だがそれだけではない!」
男は召喚口上を唱え始めた。
そんな時間は与えないと、エリュが炎の渦[プロミデンス]を放って焼き付くそうとしたが、横の二人が前に出て展開された防御魔法によって受け止められてしまう。
「魔術士!?」
『人間の魔力にしちゃデカイぜ』
「あ~あ、喚ばれちゃったわね」
『めんどくせぇな』
黄金郷が召喚したのは[ 鉛竜 ]、銀竜と酷似しているが。
『パチもんか。ソイツだけで俺に勝てると思ってんのか?』
「見えんのか?上のアレを」
男が指差す上空へ目を向けると、太陽に隠れてもう一体の竜が近付いてきた。
『嫌な気配はコイツだったか』
「鋼竜…」
「殺してから奪うとしよう。行け!!」
[死肉喰竜]
ハイエナドラゴンや肉漁りとも呼ばれる小型の竜。
気性が荒く、頭が弱いため召喚契約など出来ないとされる下級種である。
[鉛竜]
またはプルンブムドラゴン。
中級種であり、その身体は脆く力も非力だが特殊なスキルによって苦戦を強いる相手となる。
[鋼竜]
上級種であるスティールドラゴンは、一般的な竜より一回り大きく、鋼の鱗で覆われた身体は魔法も斬撃も弾く。




