002 銀と赤
『』は、ドラゴン時のセリフ、()は念話です。
イグニス・フォワール、大戦を相棒の赤竜と生き残り、残りの人生を謳歌していたが、70歳でこの世を去る。
それに伴い、イグニスと特殊な召喚契約をしていた赤竜は、主の死により石化した。
人目の付かない所でひっそりと、未練がないかのように。
などと聞かされたけど、一体何処で?って感じになった。
人目を避ける?あのエリュが?なんて事を思いながら捜索を開始し、ようやく手掛かりを見つけた。
『あそこの山頂ね』
「話だとそのようだけど」
『…本当ならそっとして起きたいのだけどね』
「同感だわ」
活火山であるノースト山の火口、黒い煙を上げる溶岩が流れる横にその姿があった。
石化した赤竜[エリュテイア]と…もう一つの影。
(待っていた。必ずや此処に来ると信じていた)
頭に響く女性の声、あの影いや、あの竜から送られた念話である。
「屍術竜…私達を待っていたと言うの?」
下に降り立った私達を待っていた 屍術竜 に投げ掛ける。
(世界が必要とする力。今こそ赤の復活を)
「分かっているわ。その為に足を運んだのよ」
(さすれば我を倒し、この魂で赤を解放してみせよ)
「何故貴女がその様なことを?」
(託すだけのこと。行くぞ、銀)
『マスター、下がっていて』
ジルと屍術竜は翼を広げ、空へと飛翔して行く。
屍術竜は命尽きる時、自らの魂を犠牲にして同族の蘇生を行えると伝えられているが、先程の口振りからあの話は本当の事らしい。
それでもただでやられる訳ではないようで、ジルに向けて黒炎のブレスを吐き出している。
ジルは避けるだけで反撃をせず、何やら話しかけているように見える。
(何故自らの命を引き換えに赤を望むの?)
(今世界を覆い尽くそうとしているモノは貴女が考えているモノより恐ろしい。されど私ではどうにも出来ない)
(だから託すと?)
(そう。今為すべき事をして。貴女も…私も)
(分かった…有難う)
幾度となくブレスを躱していたジルから、回避の姿勢のままブレスが放たれて屍術竜を直撃、更にもう一撃を浴び火口へと落下して行く。
「屍術竜…」
(後は…任せた…若き者…達よ…)
言葉を残した直後、屍術竜の身体から光りが発せられ、辺り一面を包みこむと同時に、誰かの声が頭に流れてきた。
(まだ三日程しか寝てねぇー気分だぜ!ったくよ)
この粗暴な喋り方は間違いなくエリュのモノ、降りてきたジルとエリュを見ていると。
パキ…パキ…っと石化された表面に亀裂が入って行き、隙間からは紅く煌めく鱗がチラチラと見てとれる。
全体に亀裂が渡りきった時、砕ける音と
共にその姿が顕になった。
『久しぶりね、赤』
『目覚めて最初に拝むのが銀のツラとはよ。未練なく眠りについた俺を起こしたんだから納得のゆく理由を説明して貰うからな』
[屍術竜]
ネクロドラゴンや蘇生竜とも呼ばれる黄色い竜。
生と死を司り、命尽きる時、同族を復活させられる他に類を見ない能力を持っている。
[赤竜]
レッドドラゴン。
陸の監視者であるベヒモスの児とされる程、強大な力を有する。
エリュテイアに至っては、粗暴な喋り方とは裏腹に、人化すると赤髪の良く似合う可愛らしい女の子の姿である。