3.幼なじみな3人は初詣に行く
今回、幼なじみヒロイン出てきます!
めちゃくちゃ可愛いので最後まで読んでいってください。
クリスマスが終わって7日目の元旦。クリスマスまで358日。
「おーい三汰。寝てるのかー、おーい」
「三汰?大丈夫?」
聞き覚えのある声が深い闇の中から聞こえる。ここはどこだろう、暗くてよく見えない。
「おっおお、すまんちょっと寝てた。悪いな、海斗、いちご」
おれははっと目を覚ます。
「おいおい、初詣に来て立ちながら居眠りって元旦だからって寝てねーのか?三汰らしくないな」
「ほんとだね。三汰らしくないよ」
二人は笑っておれの顔を見る。らしくないってなんだよ。
目の前にいるのはおれの幼なじみで同じ学校に通う同級生の二人。
すらっと背の高いメガネをかけた男の方は坂城海斗。サッカー部に所属していて一年なのに三年の試合にも出ていた超すごい運動神経の持ち主。
イカつい印象の金髪とは相反して意外と大人しい性格だ。顔もそこそこカッコイイし勉強もできるから周りの女の子がほっとくはずもなくモテモテ。
それなのになぜか頑なに彼女を作らない。
羨ましったらありゃしない。
おれだったらすぐ付き合って、ラブラブな高校生活を送っているところだ。
瑠璃色の髪の女の子は立花いちご。いちごも、勉強もスポーツもできる文武両道の優等生。リーダー的存在でクラスの委員長も務めている。
前髪を左分けして、髪を左耳にかけてヘアピンで止めている。綺麗に切りそろえられたショートカットは丸くて可愛い。肌が白くてきめ細かくて、まるで人形みたいだ。
こんな完璧ないちごだが、背が低いことがコンプレックスらしい。そこまで小さくないと思うのだが、確か前に156センチになったと大喜びしていた。
でもおれは女の子は小さいほうが可愛くていいと思う。
顔もめちゃくちゃ可愛くてガチでモテる。ひと月に告白された回数は最高10人だそうだ。それなのにいちごも頑なに彼氏を作らない。
なんでおれの幼なじみってやつは彼氏彼女を作りたがらないのか。人生絶対損してるよな。
おれたち三人は小学校から一緒で高校も同じクラス。
もう友達というよりも家族的存在になってきている。海斗が兄貴でいちごが妹、おれが真ん中。いい感じの兄妹だ。
基本学校でも休日遊ぶ時でも三人でいることが多い。今日は元旦ということで三人で初詣に来ていたのだ。
でもいきなり起こされてビックリした。まじで寝てたのかよと自分でも自分を疑いたくなる。
だが寝ていたことは二人から見ても明らからしい。サリアの使ってくれる一日14時間だけ動けるようにしてくれる力はきっかり14時間で効果が切れる。その後は激痛で夜は眠れたもんじゃないのだ。
だから最近は寝不足続き。
夜は痛みで眠ることができず、その夜寝れてない分、昼に眠らないといけないのでで日中は潰れる。
そんな昼夜逆転した生活を送っている。
動けるようになるし痛みも感じなくなってるんだから、辛抱するしかないんだが、立ちながら寝てるってなるとちょっと問題になってくるかもしれない。
まぁあと数日もすれば身体も元に戻るだろうし、大丈夫だろう。
ちなみにその不思議な力をかけてくれるサリアは家に置いてきた。
外に出すとうるさいし、ムカつくし、泣くしで鬱陶しいので留守番させている。
「わたしも行きたいです!サンタさーん!」としがみついてきたが、『ねるねる』という知育菓子を買ってきてやると言ったら「なら、お留守番してます!」と100円で交渉が成立した。
こういう時はサリアがバカで良かったと思う。
自分がサンタだということはくれぐれも他言しないようにと契約で決まっているので、サリアがエルフだとバレたらいろいろめんどうなことになる。
だから、顔見知りに会う時はサリアは家に置いてくることにしているのだ。
あいつはバカだからボロがでないとも限らない。
こうして平和に初詣に来ていたおれたち三人は賽銭より先におみくじの列に並ぶ。
「今年も大吉引けるかなー、なぁいちご。いちごは去年凶だったもんな」
「大丈夫だよ。今年はなんか自信あるんだー。三汰は去年中吉だったよね」
「よく覚えてるな。去年のなんか忘れてたよ。でも今年はおれもなんか自信があるな」
去年はサンタになって子供たちにプレゼントを配ったんだ。きっと神様はおれに大吉を与えてくれるはず。
「忘れるなんて三汰らしくないね。昔の思い出とか三汰が一番覚えてたのに」
「そーか?いちごとか海斗のほうが勉強もできるし物覚えいいんじゃないの」
「いや、そういうことじゃないんだけどさ」
いちごの横顔は髪に隠れていたせいかあまり見えなかったが、少し寂しそうな顔をしていた。
********
「よっしゃ!大吉だ」
「やったー!大吉!ほらほら見て三汰!すごいでしょ。三汰は大吉だった?」
「……末吉」
「ま、まぁ末吉もいいじゃん。ギリギリ吉だし」
いちごの励ましが悲しく感じる。
神様はサンタにはプレゼントをくれなかったらしい。あくまでもサンタはプレゼントをもらう側じゃなくて、あげる側ってか。
二人は大吉なのに見事におれだけ末吉。なんて微妙な結果だ。どうせなら大凶ぐらいを引きたかった。
「ほーら三汰、おれたち大吉だぜ」
ピラピラとおみくじをおれの前でチラつかせてくる海斗。
いちごはおみくじの中身を読むので必死のようだ。
海斗はいつも通り鬱陶しいがそれは置いといて、おれもいちごに習って持っている末吉に目を通す。
失物:探せば見つかる
旅行:よし
恋愛:思うだけでは駄目
病気:長引く
・・・・・・
・・・・・・
待人:来ず
今年も来ないのか。
「恋愛……一途な思いが愛を深めるっか。へへへっ、やった」
おれには聞こえなかったが、なにやらいちごの大吉にはいいことが書いてあったらしい。嬉しそうにそのおみくじを何度も見返していた。
一通りおみくじに目を通したおれは、神社の木のほうに向かう。あまり良い結果だったおみくじは結んでおいた方がいいって聞いたことがある。
「三汰どこ行くんだ?」
「末吉だったから木に結ぶんだよ。そっちのほうがご利益ありそうだしな」
「ならわたしも結ぶ!」
そう言っていちごは駆け寄ってきた。
「いちごは大吉だから結ばずに持って帰ったほうがご利益あるそうだぞ」
「いいんだよ。三汰が結ぶっていうならわたしも結ぶ。結んだらご利益が無くなるってわけでもないでしょ」
「ならおれも結ぶか。おれだけ仲間はずれってのも嫌だからな」
「おまえらおれに同情してんのか?」
「そうじゃないよ。ただわたしは結びたいだけ」
「い、いや別にそんなことねーよ」
おれたちは同じ枝に三つのおみくじをくくりつけた。なんかやってることが小学生みたいで恥ずかしい。
「そういえば小学生の時の七夕で同じようなことしたよね」
「そういえばそうだな。近くのスーパーに笹があって一緒に短冊くくりつけたな。なぁ三汰?」
「あ、ああ、そんな……こともあったな」
「なんか懐かしいなー。あの頃はこんなに長い付き合いになるなんて思ってなかったよ」
「そーだな。今年もよろしくな二人とも」
「あっ忘れてた。今年もよろしくお願いします。三汰、海斗」
「こちらこそよろしく。海斗、いちご」
ちょっと照れくさかったが一応返しておく。この二人とはこれからも仲良くやっていきたい。大事な幼なじみだ。
でも、七夕に三人で短冊をくくりつけたっか。そんな思い出あったっけな。
おみくじはくくりつけたので次は賽銭の列に並ぶ。
さすが元旦、こんな小さな神社でも多くの人が並んでいる。
海斗は長くなりそうだから甘酒を取りに行くといって、甘酒を配っているおじさんのところに走っていった。
おれたちの分も取ってきてくれるらしい。気の利く良い奴だと心の底から思う。こりゃモテるわな。
だからおれといちごは二人で賽銭の列に並んでいた。海斗が戻ってきた時入れるようにしっかりとスペースも確保してある。
いちごの方をふと見ると、はぁはぁと息を手に吹きかけている。いかにも寒そうだ。細く白いはずの指が冷えてしまって少し赤くなっている。
その視線に気づいたのかいちごがこちらに振り向いた。
「ん?どうかした」
「いや、手、冷たくないかなー、と思って」
「あっ、うん。へへっ手袋忘れちゃって」
「なら、おれの貸してやるよ。ほら」
そう言っておれは自分のしてた手袋を外す。だがいちごは少し遠慮がちだ。
「大丈夫だよ。ほら、ポケットに入れてたらあったかいからさ」
「でも赤くなってるじゃん。手袋したほうがいいよ。おれは大丈夫だから」
そう言って半ば強引に外した手袋をいちごに手渡した。
「ほんとにいいのに。でもありがとう。………う〜んあったか〜い」
照れくさそうに受け取ったいちごは大事そうにおれの手袋をはめる。
外したばかりなのでまだおれの体温が残っていたようでよかった。
いちごは手袋をつけた手を顔にも当てて指同様に赤くなった頬を温める。凍りついたように寒がってた表情がほわっと溶けていく。なんか妙に嬉しそうだ。
なんかいちごは妹みたいでついつい世話をしたくなってしまう。
「そう言えば三汰。クリスマス・イブは何してたの?」
「えっ、あ、ああそれは……あれだ!普通に勉強してたよ」
サンタになって子供たちにプレゼントを届けてましたなんて言えないから即席の言い訳で誤魔化しておく。
「そっか。勉強熱心だもんね三汰。せっかくのクリスマスだから一緒に楽しみたかったけど」
「ごめんいちご。どうしても終わらしたい宿題があって」
「謝らなくていいよ。そういう真面目なところが三汰のいい所なんだから。でも今年は一緒にパーティーできるかな?」
「あー、まだわからんが受験も近くなるし難しいかもな」
「そ、そうだよね」
少し悲しそうな顔をするいちご。
しょぼんと背中を丸める彼女は、ちんまりとしてより可愛く感じる。なんか小動物みたいだ。
いちごには悪いがクリスマスに予定は入れられない。イブはプレゼントを配らないといけないし、クリスマス本番は多分疲れて一日中寝倒すだろうからな。
「じゃあ、その代わりってのもなんだけど明日って空いてるかな?」
「まぁなんも予定は入ってないかな。なんだ買い物でも行くのか?でもショッピングモールは三が日で空いてないし」
「公園でも行こうよ。ゆっくり散歩したり、ベンチに座って話したり」
「なら、海斗も誘って……」
そう言いかけたところでおれの口にいちごの細い人差し指が触れた。か細くでも強い意志を持ったその指におれは言葉を止められた。
驚いていちごの顔を見ると、少し不機嫌そうに頬を膨らませている。顔も寒さのせいだろうか少し赤くなっている。
「このわからず屋……」
いちごは背伸びをして、おれに顔を少し近づけ、少しいたずらな笑顔で
「わたしは二人だけで行きたいな」
ささやくようにそう言った。
「ま、まあいいぞ」
なんか二人で行きたいみたいなのでとりあえず承諾する。
雰囲気に流された感もあるが、まぁ行きたくない訳でもないしな。
いつも三人で遊ぶのに海斗にはなんか隠してるみたいで悪い気がするが。
そんなこんなしてるうちに海斗が戻ってきた。
いちごとおれに一つずつ甘酒の入った紙コップを手渡す。
「二人でなんの話してたんだ?」
「別に普通の話だよ。甘酒ありがとう」
「なんか仲良く話してたからおもしろい話でもしてんのかなーって思ってたんだけど。何もなかったならいいや」
すまん海斗。今度こいつにはジュースでも奢ってやろう。
「あれ?いちご手袋つけてたっけ?」
よく見ているのか茶色の手袋に包まれたいちごの手に気づく海斗。
「これ三汰が貸してくれたんだ。ほらすごくあったかい」
「そ、そうか。おれに言ってくれたら貸したのに」
なんか残念そうな海斗。そんなに貸したかったのか。
ならおれがもらってやろうかな。いちごに貸しちゃって寒いから。
賽銭の順番が回ってきて、5円玉を放り投げる。ご縁がありますようにとダジャレだが、なんか縁起がいいのでいつもこれにする。
三人一緒に鈴を鳴らして手を合わせて祈る。
祈り終わって目を開くと横ではいちごと海斗がまだ祈っている。よほど叶えたいことでもあるのか、強く強く願いを込めていた。
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「三汰はなにお願いしたの?」
神社からの帰り道。突然にもいちごは聞いてきた。
「おれはいちごの背が伸びますようにってお願いしといたぞ」
もちろん嘘だ。
「もう!身長でからかわないでっていつも言ってるじゃん!絶対三汰より高くなってやる」
「はは、悪い悪い」
そう怒りながらもいちごはどこか嬉しそうだ。やっぱりいちごは妹みたいで可愛い。勝っているところが身長しかないので、ついついそこをからかってしまう。
「そういういちごは何をお願いしたんだ?」
海斗が問いかける。
「わたしはー、えっと、内緒!」
「そういう海斗はどうなんだよ?」
「おれも秘密にしとくかな」
「おい、ずるいぞ。おれだけじゃねーか健気な願いを教えたのは」
顔を赤くして照れてるいちごとクールに言い張る海斗。よーわからんが、お願いを暴露したのはおれだけってわけか。
「なんせ願いってのは口に出すと叶いにくくなるって言うからな」
「まじかよそれ、じゃあいちごの身長伸びないじゃん」
「だーかーらー!」
一人で怒るいちごを見て二人で笑う。それにつられていちごも笑う。
こんな日常は高校生である今しか味わえないんだろう。
大学まで一緒というわけにはいかない。各自やりたいこともなりたい職業も違うのだから。
とても楽しくてとても大切な時間。おれはこんな日常がずっと続けばいいのになと思う。
「おれスーパーよって帰るわ」
「なら三汰今度は学校でだな」
「おう、じゃあ学校で」
おれはまた学校での再会を約束し、海斗は振り返って歩き出す。
「じゃあ、明日ね三汰」
そんな中いちごは胸の前で小さく手を振り、小声でそう言った。その手にはおれの手袋がまだ着けてある。
まぁいっか。明日返してもらえばいいし。
二人から別れたおれはスーパーに『ねるねる』を買いに行く。買ってこなかったら家の留守番エルフが大泣きするだろうからな。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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