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1.サンタなおれのクリスマス前夜は忙しい

 


 12月25日それは誰もが心浮かれる特別な日。日本では子供はプレゼントをもらったり、アメリカでは家族で集まって食事を楽しむ。


 カップルなんかはその日にデートを楽しみ聖なる夜を過ごす。


 街はイルミネーションの光に包まれ、ショッピングモールには数々の飾りをつけた大きなもみの木が先端に星をつけて立てられている。

 

 トナカイの角つけたりや赤い服を着た呼び子に溢れた街中は、いつもとは違う雰囲気がある。


 ぼっちでもリア充でも陰キャでも大人も子供も、誰にとっても特別な日。



 そんな一年に一度の素敵な日──クリスマス。



 今日は、クリスマス前日『クリスマス・イブ』だ。本当ならおれも心浮かれて彼女でも作ってデートに行きたいところだが今年はそうはいかないのだ。


 去年まではおれもプレゼントをもらって家族でチキンとケーキを食べてクリスマスを満喫していた。


 だが、おれは夜の8時だというのに近くのショッピングモールに訪れていた。



「それとそれとこのおもちゃもください!あっあとそれも!」

「ええっ!?こんなにですか!?」



 おもちゃ屋さんの悲鳴を聞きながら次々と指を指していく。クリスマスシーズンとあって品揃え良く陳列されたおもちゃ棚からおれはほぼすべてと言っていい数のおもちゃを買い占めていた。



「あっあのクマさんのぬいぐるみもいりますよ!サンタさん!」

「わかってるよ。すいませんこれもください」



 横にいるのはおれのアシスタントであるエルフのサリア。モコモコのついた緑の短めのワンピース着て、ベルトでウエストを絞っている。


 さすがエルフと言ったところか、スタイルは抜群にいい。


 ポンポンのついた、服と同じ色の帽子をかぶり、そこからは金髪の綺麗なロングヘアーが伸びている。顔も人間とは思えないほどの美貌だ。(まぁ実際人間じゃないんだが)


 こっちの世界では人間サイズに変装しているが、本物は30センチほどしかない小人エルフである。


 おれはこいつのせいでクリスマス前夜にこんなにも忙しなくプレゼントの買い出しをさせられている。


 なぜなら、サリアが子供からの欲しいプレゼントを書いた手紙をおれに渡すのを忘れていたからだ。その数およそ5000件。


 ギリギリ過ぎてすべてのプレゼントを工場では作れなかったので、生産できない分のプレゼントは店まで買いにいかなくてはならなかった。


 普通なら手紙を渡すのを忘れていたサリア本人に買いに行かせるのが妥当だがこいつはちと頭が弱くてまともに買い出しができたことがない。なので本当なら今プレゼントを袋に詰めるのに忙しいはずのおれがわざわざ一緒に買いに来ているのだ。


 レジに置かれたプレゼントを定員さんたちは3人がかりで精算してくれている。本当に申し訳ない思いだ。



「サンタさん!早くしないと全員にプレゼント配れませんよ!たくサンタさんは何事もすることが遅いんですから」



 店の外に停めてあるソリの前で呼ぶサリア。周りからは自転車のように見えているらしい。こんな街中にソリなんておかしいから隠蔽作業はしっかりとされている。


 どこまでも頭の弱いサリアに、おれは持っていた札束を怒りで握り潰した。



「誰のせいでこんなことになってると思ってんだ!アホかおまえは!早くレジ通したプレゼント運べ!」

「わたし女の子なんですよ!」

「理由になってねーわ!いーから運べ!」



 は~い。と気だるげにプレゼントをソリへと積み込むサリア。見ているだけでイライラしてくる。もし家なら頭を叩き回してたところだ。


 サリアも外でおれがそうできないことを知っているのか、いつも以上にぶーぶーうるさい。 



「はーい。積み終わりましたよーサンタさーん」

「おうもうちょい待っとけ。すいませんこんな夜なのにこんなに大量に買って」

「い、いえいえ。こちらとしてはありがたいです。ですが、こんなたくさんのおもちゃどうするんですか?」



 おれはレシートも受け取らずに足早にその場を立ち去ろうとすると、普通の人なら思い浮かぶような質問が投げかけられる。


 おれは少し振り向いてこう言った。


「子供たちにプレゼントするんですよ」


 視線の先では出発の準備を済ませたソリに乗って手を振るサリア。なんでおれはこんなに頑張ってんのにこいつはこんなに笑顔なんだとキレそうになるがまぁ文句も明日いいだろう。



「なぜならクリスマスなんだからな!」



 おれは勢いよくソリに乗り込むとサリアから渡された手網(たずな)を握る。



「あーもう買い出しで疲れたぜ」

「サンタさんに休みはありませんよ。まだまだ夜はこれからですよ」

「おまえなー。まぁいいか。さて、ひと仕事しますか」

「そうですね!」



 サリアはおれの隣で優しく微笑む。バカみたいに無邪気な笑顔が暗い闇の中でも輝いて見える。街灯に照らされた金髪はその光沢を一層発揮する。


 ほんとこいつバカじゃなけりゃガチで惚れ込んでるよ。


 おれは手網を強く握り直し前を向く。手網の先には大きな角の生えたトナカイが今にも走り出したそうにこちらを見ている。おれは手に持っていた手網を思いっきり振りかぶった。



「さぁ、行こうか!プレゼントを届けに!」

「はい!サンタさん!だって今日は……」


「「クリスマスだからな!(ですからね!)」」


 最後まで読んでいただきありがとうございます。

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