第2話 罪
身体がふわふわと浮いている。
凪いだ海の中をゆったりと漂っているようで、とても気持ちが良い。
いつまでもこのままでいたくなる、そんな夢見心地な感覚に包まれながら、俺は微睡みの中に溶け込んでいた。
まるで赤子が母親に抱かれて、子守唄を歌ってもらっているような――。
――
一体、どれだけ時間が経ったろう。
何日も眠っていた気もするし、数時間程度な気もする。
生まれてこの方、ずっと白昼夢でも見ていたかのように、時間の感覚が麻痺している。
「――」
声が出ない。
身体は浮いているかのようで、重力を感じられない。
全くもって働かない頭に、言うことを聞く気もなさそうな身体。
指先を動かすことさえ、非常な努力を要した。
俺はどうなった?
ここはどこだ?
今何時だ?
トラックはどうした?
あの子は――、
助かったのか?
ようやくそこまで考えついた途端、全身から嫌な汗が噴き出た。
指先を動かす事さえ億劫だったはずの体は小刻みに震えだし、呼吸もまともにできない。
頭に鳴り響くクラクション、耳障りな悲鳴、蹴りつけたアスファルト、必死に掴んだ服の感触、目を見開くドライバー。
そして、今にも泣きそうな顔をした、名前も知らない女の子――。
俺は、死んでしまったんだろうか。
だとしたら、なんてざまだ。
自分には関係ないと思っていたはずなのに、体が勝手に動いていた。
気付けば自分の事など二の次に、女の子を放り投げていた。
あの子は助けられたかもしれない。
それは良い。
子どもは宝だ、簡単に失われて良いはずがない。
ただ俺は、何よりやってはいけない事をしてしまった。
絶対に、それだけはしてはならないと誓っていたはずなのに。
「ごめん、母さん……」
親より先に死ぬという、この上ない親不孝を。