第0話
日々、毎日を生きている。
そこにたとえ明確な夢や目標があろうがなかろうが、何かに向けて努力をしていようがいまいが、心臓が懸命に動いている限り人は生きねばならないし、生きていける。
そう、生きていけるのだ。
こと日本という、世界から見て異色なこの国に生まれたという類稀な幸運に恵まれたのなら尚のこと。
国民のほとんどが、毎日飲める水で風呂に入れる。
コンビニでは24時間、新鮮で美味い食べ物が手に入る。
毎年のように大規模災害が起きても、略奪や暴動が起きるどころか、譲り合い、助け合う。
警官は賄賂を受け取らず、自衛官は真面目で勤勉。
日常に死は無縁のもので、戦争などテレビの向こうの遠い世界の、もしくは過去のお話……。
それでも皆、勝ち組だの負け組だの、草食だの肉食だの、Being型だのToDo型だの、何かの型にはめたりはまったりするのが好きなようだ。
最悪の場合、疎外感に追い詰められ、自分を殺してしまうケースも少なくない。
しかしそれもまた、人である限りは当然なのかもしれない。
個ではなく、集団で生きる生き物なのだから。
ゆえに、人は得体の知れないモノに恐怖し、時に崇拝し、時に排除し、自己防衛するようにできている。
それは本能であり、良いも悪いもない。
2本の足で立つことを覚え、火と道具を扱うようになり、群れて生きる人間だからこその。
それは常軌を逸した思考かもしれない。
荒唐無稽な振る舞いかもしれない。
サイコパスな価値観かもしれない。
天才的すぎて常人には理解できない知恵かもしれない。
あるいは……およそ人の持ち得ぬ力を得た者かもしれない。
そんな、戦隊ヒーローやアメコミ主人公のもつ力に憧れを持ったことは、誰にだってあるだろう。
悪を砕き、正義を貫く。
そんなお伽話のような、誰もが子ども心に夢見た力を。
だが、歳を重ねるにつれて、そんな力は本当にお伽話の中にしかないのだと思い知らされる。
ヒーローを夢見た少年は、お姫様に憧れた少女は、「まだそんな夢見てんのか」と過去の自分を馬鹿にし、自身を正当化するために大人になる。
食い扶持を得るために、社会に入り込むために、集団に溶け込むために。
それでも、心の何処かで望んでいる。
そんな夢物語を捨てきれない。
皆、特別な何かになりたいと、願い続けている。
届かぬ星に手を伸ばし続けるかのように。
たが――ふとした拍子に世界の歯車がずれ、届かぬはずの星に触れてしまったとしたら。
本来持ち得ぬ力を、その身に宿してしまったとしたら。
望んでいた力が、決して幸運だけを呼び寄せるものではないと知ってしまったら。
あの退屈極まりない日々が、なんと幸福だったのだろうと思えるようになってしまったら……。
あなたは、どうするだろうか。
何を想い、何を成すだろうか。
その力ゆえに背負ったモノに対して、どう向き合うだろうか。
これは、ただ平凡で幸福でしかなかった男の、少しだけ勇気を振り絞る物語だ。