1
1
俺は白井誠也、私立伊喪川高校の2年生である。
両親は出張でいつも不在。定期的に生活費が送られてくるためそれを使って生活している。
とはいえ一人暮らしというわけではない。
父さんと母さんは再婚したのである。
俺は父さんの方の子供。そして、母さんの方には俺より6つ年下の11歳の女の子の子供がいる。所謂『血の繋がってない妹』というやつだ。
名前は白井由依、長いダークブラウンの髪の毛をいつもツインテールにしている色白の女の子だ。
これだけ聞くと清楚な感じに聞こえるかもしれないが、そんな事はない。
11歳という年齢の割には小さい身長、それに反して天真爛漫な、元気な性格をしている。目は猫のように大きいながらも何か悪戯しそうな目をしている。
そう、俺はこの子と2人暮らしをしているのだ。
ただ、この妹が厄介なのだ。
どこが厄介というと・・・・
「おにいちゃーんっ!あ・さ・だ・よ〜!起きてっ!」
「ぐはっ!?」
眠っていたところに突如訪れた腹部への激痛。
目を開けると俺の腹あたりに由依が座っているが、実際は飛び乗ったのだろう。
「おにいちゃん、朝ですよ〜?起きないと、ちゅ〜しちゃうよ!」
「うぐっ・・・お、起きる、起きるから・・・・取り敢えず、そこから退いてくれ・・・!!」
ランドセルを背負っている状態であったため、普段よりダメージが大きいのだ。
しかし由依は退いてくれない。どころかニコニコしながら喋ってくる。
「そんなこといって、また寝る気でしょ!?その手には乗らないんだから!
それじゃあ、起きなかった罰ということでっ!」
ちゅ〜
唇への柔らかい感触
「ーっ!!?」
未だ覚めきっていなかった目が一気に覚めた。
由依を傷つけないように優しく、しかし強引に突き飛ばす。
「ふぎゅっ!?」
「ーっ・・・ま、毎回言ってるけど、この起こし方辞めてくれないか!?近い将来、具体的には4年くらいしたら後悔するぞ!!?」
少なくとも男子だったら4年後(厨二病を終えた年)に悶絶すると思う。
しかし由依は俺の言うことなんか聞かずに笑顔で言うのだった。
「こうかいなんてしないよ〜?私、お兄ちゃんが大好きなんだからっ!
もちろん、女の子としてね?」
そう、これが妹が厄介な理由である。
「あーはいはいわかったわかった。支度するから、下にいて先に朝ご飯食べちゃえよ」
「うんっ、わかった〜!」
ランドセルを背負ったままの由依はトテトテと走っていくと俺の部屋から出て行った。
「ただいま〜!」
高校での授業や部活が終わった俺は家に帰ってきた。
家に入ると玄関には妹のものではない大人しいデザインの靴が綺麗に置いてある。これは・・・・
「あ〜!お帰りおにいちゃんっ!」
「お邪魔しています。お兄さん」
「あぁ、ただいま由依。それといらっしゃい、椎名ちゃん」
妹の親友の椎名・ファーレリアちゃん。
妹より頭ひとつ分大きい身長だが、やはり年の割には小さい子だ。
背中まである長い白に近い金髪に青と緑が混ざったような不思議な色の目をした女の子。本人曰くロシア人と日本人のクォーターらしい。大人しく、大人びた性格の子でクラスに馴染めてなかったそうだが、妹の天真爛漫な性格《KYな性格》に救われたらしく、こうしてよく遊びにくるのだ。
妹と小学3年生の時からの付き合いで、それからずっと同じクラスなのだ。それで良く家に遊びにくる。
「由依、椎名ちゃん、晩御飯作るからもう少し待っててね」
「わかった〜!」
「・・・いつもすみません、お兄さん。」
「いいよ気にしないで、ご飯できたら呼ぶからそれまでゆっくりしてって」
「ありがとうございます」
ぺこり、とお辞儀をする。
うん、本当にいい子だ。由依ももう少し見習ってほしいものだ。
靴を脱いでリビングへ行って荷物を降ろし、冷蔵庫へ向かう。
「ご飯多めに炊いてあったし、大丈夫そうだな」
今夜はチャーハンだ。
チャーハンを作る片手間に唐揚げを揚げて、作り置きのポテトサラダを用意する。
「流石に2年もやってると手慣れてくるな、俺・・・・・」
2年前、俺が中学生だった頃はまだ両親がいた。俺が高校生になってからはそれまで育児を理由に長期出張を延期していた両親が出張を開始。何ヶ月かに1回帰ってくるのである。
最初は家事に慣れてなかったが今ではこの通りだ。
家事は由依と分担してやっている。
朝ごはんは由依
休日昼ごはんは交代制
夜ご飯は俺
掃除は由依
洗濯は俺
買い出しは2人で
お風呂掃除は俺
パッとあげられるものならこんな感じである。
ただ、友達が遊びに来てる日は交代することが多い。俺も妹も。
調理を始めて20分ちょっとで全て完成し、皿に盛り付ける。
「よし、完成だな」
箸とスプーンとコップとお茶を用意しておき、2階の妹の部屋の前まで行く。
「2人とも〜ご飯できたから食べちゃいなよー!唐揚げ冷めちゃうからね〜!」
『わかった〜!』
『わかりました、ありがとうございます!』
中でパタパタと音が聞こえる。
2人の返事を聞いた俺は隣の自分の部屋へ戻り、制服をハンガーにかけて私服に着替える。
1階に降りると2人はご飯を食べている。見た感じ食べ始めたばかりだろう。
「いただきます」
俺も食べようとスプーンを手に取ろうとするが、スプーンがない。
「ん、出し忘れたか?」
無くなったスプーンと箸を出そうと腰をあげると顔の前にスプーンが出される。スプーンの上にはチャーハンが山盛り。これは・・・・
「おにいちゃん、あ〜んっ!」
「またお前か妹よ。頼むから普通に食事させてくれないか?」
超笑顔の妹。
週に3、4回ほどあるのだ。箸やスプーンを隠してこうして「あ〜ん」をしてくることが。
「あ〜んっ!」
更に近づいてくるスプーン。
妹の笑顔に若干の影がさす。マズイ、間が空きすぎた。
「あ、あ〜ん・・・・うん、ありがとな妹よ。けど、俺のことはいいからこういうのは椎名ちゃんとやったらどうだ?」
「ん〜・・・学校でやったからいいの。今はおにいちゃんにするの!」
「(もぐもぐもぐ)」
椎名ちゃんの方を見てみると、椎名ちゃんは一心不乱にチャーハンを口に詰め込んでいる。
リスのようで愛らしく、大人びていながらもやっぱり子供なんだなって思うが、実態は違う。
椎名ちゃんは別にチャーハンが大好物と言うわけではない。
「おにいちゃん?」
ならなぜこうもチャーハンを口に詰め込んでいるのかと言うと・・・
「私が食べさせてあげるって、言ってるんだよ?」
妹の声が低くなっていく。
自分で言うのもなんだが家の妹は俺の事が大好きである。
「なのにしーちゃんの事ばかり見て、もしかしてしーちゃんのこと、スキなの?」
しかし由依の好きはどうやら・・・
「許さないよ?ワタシを見て、ホラ、タベテ?ワタシのおにいちゃんでしょ。ワタシだけの、おにいちゃん。ネェ、食べてくれないと、ワタシ、しーちゃんのコト」
ヤンデレ、と言うやつらしい。
「おにいちゃんの目の前でバラバ「いただきますっ!」」
急いでスプーンを口に入れる。
咀嚼して、飲み込む。
この間一切妹から目を離さない。正面から妹の顔を、目を見つめる。
ハイライトの消えていた栗色の瞳に光が戻り、段々と恍惚とした、蕩けた瞳と表情に変わっていく。
スプーンを口から離し、一言だけ。
「あ、あり、がとな、由依。美味しかったぞ・・・」
果たして、妹の感想は如何に
「ふふっ、んも〜!今日のご飯はおにいちゃんが作ったものでしょっ!私のご飯は明日まで待ってて!・・・んふっ」
セーフ、のようだ。
ホッとした直後にカラン、と床から音が聞こえる。
見てみると食卓に用意した覚えのない銀色のシンプルな作りのハサミが落ちている。
妹の椅子の辺りに。
「ひっ」
ど、どうやら、セーフはセーフでもアウト寄りのセーフだった様です。
「(ガクブルガクブル)」
椎名ちゃんは涙目でこちらを睨んでいる。椎名ちゃんは知っているのだ。妹がヤンデレであると言うことを。
怖がらせてゴメンね。
食器の片付けを由依がしている。
俺と椎名ちゃんはテレビをつけてソファでゆっくりしている。様に見せかけて小声で会話している。
「ゴメンな椎名ちゃん。うっかりしてたよ」
「いえ、次から気をつけて下さい。ホントに」
「はい、気を付けます。今日はどうするの?泊まってく?」
「いえ、帰らせていただきます。これ以上ここにいるとまたいつゆっちゃんが暴走するかわからないので」
「わかった。帰り、送ろうか?」
「・・・・じゃあ、お願いします」
よし
「妹よ〜!もういい時間だし、椎名ちゃんを家まで送ってくるわ!」
こちらに背を向けて食器を洗っている妹が振り返って笑顔で返事をする。
「は〜い!早く帰ってきてね〜!!」
どうやらセーフの様だ。
椎名ちゃんが支度して戻ってくる。
「じゃあ、行ってくる!」
「お邪魔しました。ゆっちゃん、また明日ね」
「あ、おにいちゃん行ってらっしゃ〜い!しーちゃん、また明日ね〜!」
椎名ちゃんと外に出て、道を歩く。
「「はぁぁぁ」」
示し合わせたわけでもないのに同時にため息を漏らす。
その事がおかしくて2人で顔を見合わせて少し笑う。
「今日は危なかったね」
「ええ、でも、お兄さんの注意不足が原因ですよ。私頑張って気をそらしてたのに、何やったんですか?」
椎名ちゃんは気をそらすのに夢中で具体的に何があったから把握してないらしい。
「いや、ご飯口に詰め込んでる椎名ちゃんがリスみたいでさ、普段のイメージと違って可愛かったから、つい」
「〜っ・・・・あ、ありがとうございます」
椎名ちゃんが僅かに俯く。
こう言う細かい仕草が大人っぽいんだよなぁ。
クラスに馴染めなかったって聞いたけど、この分じゃ高校生になる頃にはモテモテだろうな。年齢関係なしに。
「でも、あんまりジロジロ見ないでくださいね?女の子は食事中の姿見られるの、あんまり好きじゃないんですから。それに、私の生死に関わるんで・・・」
「・・・ホント、毎日毎日ご迷惑おかけしております」
そんな会話をしているうちに椎名ちゃんの家までついた。
同じ団地に住んでいるから家は近い。距離にして3、400mってところか。でも小さな女の子を、ましてや椎名ちゃんみたいな美少女を1人夜道を歩かせる訳にはいかない。
「それじゃあ、またね椎名ちゃん」
「はい、送ってくれてありがとうございました。誠也、さん」
はにかみながらこちらに小さく手を振る椎名ちゃんは、控えめに言ってもクソ可愛かった。
「あ〜、あと4歳くらい歳とってたらなぁ」
いや、それだと由依も15歳、と言うことは今よりも酷い事態になるのでは・・・?
「・・・やっぱ、今が一番だよね」
帰りは運動も兼ねてランニングして帰った。あまり帰りが遅いとまた大変なことになりかねない。
家に入ると既に由依はパジャマ姿でアイスを食べてテレビを見ていた。
「ふぁ、おあーいあーい、あいーあー」
「悪いけど何言ってんのかわかんないから、せめてアイス食べきってくんない?」
俺も食べよう。ソーダ味のアイスキャンディー
「んむっ、おかーえりー、おにーちゃん!って言ったんだよ!」
「わかってるよ、一々言い直さなくても」
毎回聞いてれば流石に第一声がなんであるかぐらいわかる。
「じゃあ俺風呂入ってくるから、早く歯磨いて寝ろよ」
「は〜い!」
着替えを準備して風呂場へ行く。
脱衣所をみると用意してあった俺のバスタオルがない。代わりに未使用の妹のバスタオルが1枚・・・・。
「・・・やりよったな」
これもまた月に2、3回はあることだ。
聞いてみたら、俺の常用してるタオルで体を拭くとゾクゾクするらしい。そして俺が由依のバスタオルで体を拭いてるのをイメージしてまたゾクゾクするらしい。第二次性徴期もまだなのにコレだと数年後が怖い。
取り敢えず俺は理由を知った日から妹のバスタオルを使うのはやめてハンドタオルで体を拭く様にしている。
「は〜・・・・疲れた」
防水仕様のワイヤレススピーカーを風呂の窓に置いて音楽を流す。
「〜♪〜♪、♫」
ーガチャッ
『おにーちゃん、歯磨くから〜』
「ん、りょーかい」
流石のヤンデレ妹も俺の全裸を直視する程ヤバくはないらしい。
妹が居なくなったのを見計らって脱衣所に出てサッと着替える。
「俺もついでに歯磨いちゃうかね」
見ると、既に湿っている俺の歯ブラシと、湿っていない妹の歯ブラシをが・・・・
「・・・まあ、いいか」
一々新しいの出してたらキリがない。
念入りに水洗いした後歯磨き粉をたっっっぷりとつけて歯を磨き、明日の用意をして眠りにつく。
これが俺の、少し変わった日常である。
お、思い出せないぃぃぃ!!!
チャ、チャーハン!!チャーハンチャーハン!!
中華鍋を使わないなんてチャーハンじゃない!!ひまわりの種を隠し味に!!
※サマポケに影響されすぎww