5話 L v . 5 の重要性
日が空いて微妙な時間ですが
「総理!」
椅子に座って北海道大地震の被害資料を見ていると、秘書官の田川がノックも鳴らさず入ってきた。
「すいません総理、緊急でお知らせすることが」
「なんですか?」
資料から目を離して、田川に目を向けると複雑な表情をしていた。
「私自身信じられないんですが……モンスターが発生しました」
「は?」
今目の前にいる人物はなんと言った?忙しすぎて頭がやられてしまったのだろうか?
「順を追って説明します。まず12時45分頃北海道全域を震源とした震度5強の地震が発生しました。これは計測機器に一切前触れなく発生しました。
約2分間に続く地震により、北海道全域に謎の穴が空き、中から見たこともないような生物が大量に地上に出てきて、生物……特に人間を目にすると襲いかかってきます」
言われた内容は滑稽なものだったが、内閣総理大臣として私情で聞き逃すわけにはいかない。
「……その情報の信憑性はどのくらいありますか?」
「ほぼ100%かと。SNSを中心に同時刻に北海道全域で同じような報告がネットにアップされています。また、それにより北海道在中の自衛隊から救援許可要請が届いています」
椅子の背もたれによしかかり手で目を覆い天井を向く。
「いったい北海道はどうなっているのでしょうか。いや、どうなるのでしょうね」
思わず呟いてしまったが今はそんなことよりやるべきことをやらねばならない。
「自衛隊を派遣をします。これは災害です。ただちに人命を最優先に活動するようお願いします」
「分かりました。総理、緊急会議を行いましょう。各大臣は既にこちらへ向かっているそうです」
「そうですね、第二会議室が空いていましたね。あそこでやりましょう」
すっかりと冷めてしまったコーヒーを口に含む。苦い味が頭をスッキリさせてくれる。
「私の時代は波乱が起きやすいですね。内閣は倒れるにしても、ある程度収まるまでは持ち堪えねば」
内閣総理大臣阿蘇は会議室へ向かった。
◇
からだが……重い。腕を持ち上げようとしても全く動かない。いや、辛うじて指が動く。
ん?手がなにか暖かいものに包まれてる。ほんのり暖かく柔らかい。
その正体を確かめようとしたが見える景色は真っ暗だった。
ああ、目を開けてなかった。
なにやら頭が働かない様子に心の中で苦笑しつつ、目を開ける。
まぶたが重い。ゲームで三徹した時よりまぶたが重い。
なんとか開けた視界に入ってきたのはぼやけた景色。辛うじてわかるのは人の輪郭が見えて、そこから先ほど手を包んでいたのは人の手ということが想像できた。
その人らしき輪郭はこちらに近寄り、どこかへ行ってしまった。
だんだんはっきりしてきた視界と、聞こえるようになってきた聴覚から慌ただしい足音が聞こえてくる。
あれ?俺そういえばなにしてたんだっけ?
ぼんやりとした思考の中、記憶を辿る。
えーっと、中学校で迷惑教師を退治……殺してないよな?
捕獲して中学校を解放して、外に出て大きな犬が……確か、あっ!そう、オルトロス!
オルトロス!?
勢いよく起き上がるとひどい頭痛がする。
「うっ!」
「理緒くん!大丈夫!?」
俯いた顔を上げると、目の前には水瀬の顔がある。てか、近い。
「水瀬?あれ?ここはどこだ?」
確か中学校の校庭で倒れていたはず。
周りを見回すと白いカーテンに白いベッド、なにやら物が溢れている棚。ここは、
「保健室だよ、中学校のな」
声がした方に顔を向けると、そこには奏多がいた。
「奏多!っ!そういやあの犬っころどうなった!?」
「落ち着け、オルトロスなら高校の体育館に仕舞われた。男子たち10人がかりでな」
奏多がいた後ろには友紘がいた。
「奏多に友紘、それに水瀬までどうしてここに?」
「それはそこにいる中学生たちが連絡をくれたのさ、『救世主』にな」
指を指されは方を見てみると、保健室の入り口のドアの隙間から中学生達の顔が見えた。
あ、目があった。
目があったのに驚いたのか、一人の生徒が後ろに仰け反り、それに他の生徒たちが巻き込まれドミノ倒しのように倒れていった、音が聞こえた。
「こらお前たち!安静にしないといけないのだから騒ぐんじゃない!」
大きな聞き覚えのある声がすると、ドアが開き入ってきたのは先ほど話し合いをした、確か……
「金田先生!もしかして運んでくれたのは?」
「ああ、俺だ。中学校全体の救世主が血塗れなのに外に放置する訳にも行かないからな」
ニヤッと笑った金田先生の服には血がついている。
うわっ、もしかしてあれ全部俺の血か?
「そういうこと、金田先生の連絡もあって俺たち3人も急行してきたってことだ」
「あれ?さっきは中学生達の連絡って言ってなかったか?」
すると奏多は言いづらそうにしながら喋った。
「先に連絡のきた中学生の内容がぐっちゃぐちゃの内容で困惑していたところに、金田先生の正確な情報が届いて急いで来たんだ。だからまあ、中学生の連絡で来たって言っても無理は……ないよな?」
中学生達を思いやっての発言だったのか。
それなら感謝しないとな。
「ああ、お前たちありがとな、お陰で助かったよ」
普段はあんまりしない笑顔で廊下で塊っている中学生たちに心からのお礼を言う。
すると女子達がどこか行ってしまった。一部の男子と共に。
「おうおう、やるな理緒」
「さすがだな」
「普段の理緒くんとのギャップがっ!」
奏多と友紘が何かを言ってるのを無視する。水瀬はしゃがみながら何か喋っている。正直ちょっと怖い。
「そういや今何時だ?」
保健室の時計は地震の時間で止まっている。ああいうのって、なんか不安になるよな。
「大体夕方の6時過ぎだから、2時間ほど寝ていたな、理緒は」
友紘がスマホで時間を教えてくれる。
そうか、2時間か。
改めて自分の体を見てみると、至る所に包帯が巻かれていて、特に背中を触ると傷跡が残っている。
「触っちゃダメだよ!あぁ、また血が滲んできちゃった」
「あ、ああ、ごめん」
水瀬が背中を確認して、優しく背中全体を撫でる。
ん?
「なぁ、血が滲んできたってことはさっきまで血が止まってたのか?」
「ああ、校庭にはかなりの血が流れていたけど俺が見た段階では血は止まりかけてたぞ」
奏多がきたのは大体2時間前として、あれだけ食い込んだのだから大怪我と思ったけど違ったのか?
いや、レベルにスキル、ステータスがあるのだから、人間じゃなくなってきてもおかしくないのか?
一人で顎に手をやり考えていると、奏多が少年のような輝いた目で聞いてくる。
「理緒は今レベルどうなってるんだ?」
「ああ、なるほどな。それが気になってそんなそわそわしてたのか。ちょっと待ってろ、ステータス」
白波 理緒 Lv.7
職業:
1st狙撃手Lv.7
2nd選択可能
HP:21/100
MP:144/144
筋力:55
耐久:50
敏捷:70
技量:85
魔力:72
抵抗:48
sp:60
スキル pt:15
『狙撃Lv.5』『隠密Lv.3』『空間認識能力Lv.5』『魔力弾Lv.6』『気配察知Lv.2』『危機感知Lv.3』『鷹の目Lv.2』『自動収集Lv.3』『奇襲Lv.2』『回避Lv.3』『剣術Lv.2』『正騎士の誇りLv.1』『最後の一撃Lv.1』
称号「一騎討ち」「格上討伐」「単独ダンジョンボス討伐者」「北海道初ダンジョンボス討伐者」
「はっ!?」
「ど、どうした!?」
「い、いや、なんでも、ない」
奏多から「いや、絶対なんかあるだろ!」と言われているが無視する。
このステータス、突っ込みどころが多すぎる。
まずレベルが7まで上がっている。あれだけあがらなかったレベル5を乗り越えて更に2つも上がっている。
スキルも人並み上がっているし、称号なんてものもある。
そして2nd職業が選択できるようになっている。
「レベルは7になってるな。称号っていうのも表示されているし、2nd職業も選択できる」
「ちょっ!?理緒お前爆弾発言多すぎな」
「レベル7か、3つも離されてしまったな」
だが、最大の驚きはまだある。
ステータスといったときに表示されたものだ。
ステータス
ショップ
これは一目見た感じ、現状を覆すほどの重要なものだ。
このショップが手に入る条件はなんなのか、それによって言える相手が変わってくる。
単にレベルで解放されるならいっても問題ない。むしろ積極的に広めた方がいいだろう。これで多くの人が助かる可能性がぐっと高くなるのだから。
しかしもしこれが、オルトロスを倒したもの、というかダンジョンボスを倒した人限定などの条件がある場合、無闇矢鱈に広めるわけにはいかない。
確実に争いの種を生むし、余計な死を生む可能性もある。
しかし俺の悩みはすぐに解決することになる。
とりあえずステータスポイントを振り分けることにした。その後スキルを見てみると役に立ちそうなものがあった。
結果これだ。
白波 理緒 Lv.7
職業:
1st狙撃手Lv.7
2nd選択可能
HP:21/100
MP:204/204
筋力:60(+5)
耐久:50
敏捷:80(+10)
技量:100(+15)
魔力:102(+30)
抵抗:48
sp:0
スキル pt:13
『狙撃Lv.5』『隠密Lv.3』『空間認識能力Lv.5』『魔力弾Lv.6』『気配察知Lv.2』『危機感知Lv.3』『鷹の目Lv.2』『自動収集Lv.3』『奇襲Lv.2』『回避Lv.3』『剣術Lv.2』『正騎士の誇りLv.1』『最後の一撃Lv.1』『鑑定Lv.1』『収納Lv.1』
称号「一騎討ち」「格上討伐」「単独ダンジョンボス討伐者」「北海道初ダンジョンボス討伐者」
オルトロスとの戦闘経験から、敏捷と筋力にもステータスを割り振った。
魔力と器用も上げとく。これは俺の基礎となるものだ。
スキルは『鑑定』と『収納』等が増えていた。なのですぐにこの2つを取得。これはゲームでお馴染みのやつだと嬉しい。
早速『鑑定』を使ってみると、人に使えばレベルが。物に使えば名称が分かった。レベル1だとこんなもんだろうと思っていると、称号にも使うことができた。
その結果として「北海道初ダンジョンボス討伐者」の報酬が「武器引き換えチケットEX」で、「単独ダンジョンボス討伐者」の報酬が、「2nd職業」になることがわかった。
ちなみに単独ではなく、複数人の場合「ダンジョンボス討伐者」が獲得できて、「2nd職業」も選べるようだった。
その代わりに単独の場合は、選べる職業が増えるらしい。
と、いうことはショップについてはレベルでの解放の可能性が高くなった。
「格上討伐」や「一騎討ち」の可能性もなくはないが、ない気がする。勘だけど。
なので、ショップをこの場にいる人に教えようと思う。
俺、待ちきれない表情をしている奏多、じっと待っている友紘、楽しそうにこちらを見ている水瀬、今後に関わることだと思いこの場に立っている金田先生、興味深そうに聞き耳を立てている中学生たち。
「多分だが、レベル5になりづらい理由が分かった」
「本当か!?」
「ああ、予想だが合っていると思う。それはショップの機能の追加だ」
そう言うと友紘の眉が上がり、こちらを凝視してくる。
「友紘が言ってた魔石が通貨になるっていうのは、間違いじゃなかったみたいだぞ」
「と言うことは、理緒」
「想像の通り、ショップとは魔石をポイントに変換して色々なものと交換できるものだ」