1話 始まりの日
色々アレですが見逃してください
眩しい陽射しを目にして思わず欠伸が出てしまう。
昨日はゲームを夜遅くまでやっていたせいで、寝不足になってしまった。
家のある恵庭市から、高校のある千歳市まではJR北海道の電車に乗って行くことになる。
いつもなら7時41分の電車に乗るが、今日は寝坊したため58分に乗ることになった。
ちなみに遅刻ギリギリなら8時6分の快速でも走れば間に合う。
札幌方面から電車が来ると、中は既に人が多い。
まあ、中学校の東京修学旅行の時に体験した、満員列車に比べると空いてる方だが。
それでもなんらかの影響によって電車が遅れたりすると、東京の満員電車に負けないくらいの乗車率になる。
雪の遅れならまだしも、人身事故や鹿とぶつかって遅れるのは勘弁してほしい。
近くの壁によしかかり、制服のポケットからスマホを取り出しSNSを確認する。
チラッと隣を見てみれば、英語の小テストの勉強をしていた。
スマホを見ていると、同じ学校の生徒から話し声が聞こえる。それも同学年だ。
「あー……受験って長くて辛い」
「分かるわぁ、就職するにしても今の時代じゃそう簡単に決まらないしな」
高校3年生、基本的に大学進学か就職を選び学年の雰囲気が2年生とはガラリと変わる。
しかし、俺は一応就職が決まっている。親も納得してくれている。
それはeスポーツでのプロゲーマーだ。
好きでやっていたゲームを仕事に出来るのはとても嬉しい。
昔の時代だとプロゲーマーとかは誇れない職業とされていたが、VRゲームの進化によりその評価は一変した。
そのお陰もあって今ではなりたい職業第1位に輝いた。
でも、まだその事を家族以外に言ってないので先生にはせっつかれてる。
まあ、いずれ言うと思うから先延ばしにしていいだろう。
千歳駅に着くと、会社員の人と乗り換えの人、そして学生がたくさん降りる。
いつも乗っている車両はエスカレーターに一番近い位置なので、人混みに巻き込まれないようにしている。
人混みはあまり好きじゃない。
全国に展開している大型商業施設-IONの中を通る。8時開店で今日はお弁当を忘れたので、適当にパンを二つほど買っていく。
商業施設から徒歩5分で高校に着く。生徒玄関前には先生達が3人ほど立っている。適当に挨拶を返して、靴を履き替えて三階の教室に向かう。
教室内はガヤガヤしているが、受験生の自覚があるのか勉強している人が半数ほどいる。
「おはっよー、今日は少し遅かったね?」
「あー、うん。寝坊した」
「珍しいね、勉強?」
「いや、ゲーム」
「ゲームかー、いいねー!」
クラスの中でも比較的話す佐藤 翔と挨拶ついでにちょっと話す。
翔とは一緒にゲームする仲間で、ファンタジーMMOをやったりする。元野球部らしく、モンスターを鈍器でバットのごとくフルスイングする姿は後ろから見ていてスカッとするものがある。
その後もちょっと話しつつ席に座る。チャイムが聞こえると、自然と話は終わり5分後に担任の竹内先生が入ってくる。
「今日の予定は特に無いぞ、英語の単語でも覚えてていいぞ」
言うことだけいうと、そのまま教室から出てしまう。
竹内先生は生徒との関わりが薄いが、その無駄にうるさくないスタイルは生徒から人気がある。
やはり思春期の子供は下手に自分の領域に触れらたくないものだ。
俺は言われた通り英単語を覚える。大学進学しないからといって、勉強しないわけにはいかない。
テストもあるので、勉強はやはり欠かすことができない。
◇
4時間目が終わり、昼休みになり俺は昼ご飯を食べるため教室を出る。
多くの人は教室で食べるが、俺は他のクラスの友達と食べるため空き教室に行く。
「おー!来たぞ、昨日の英雄だ!」
「遅いぞ、どうせ寝坊でもしたんだろ?」
「奏多煩い、友紘はそれで合ってる」
奏多と友紘は同じゲーム仲間で、FPSとMMOを中心にやっている。と、いうかMMOはこの二人に誘われて始めたものだ。
その結果、同じ学校にいる翔とかとも遊ぶようになった。
この二人は小学生からの友達で、一番仲のいい友達と言っていい。
「今日はどっち?昨日はFWWだったから、SMW?」
「ああ、それでいいだろ」
「ん、了解」
今日するゲームについて話しながら、買ったパンを食べる。苺ジャムメロンパン、悪くはなかった。
すると、奏多が反応した。
「今、揺れなかった?」
それに友紘と俺は目を合わせて、ジッとする。静寂が訪れて、教室の外からの騒めきだけが耳に入る。
気のせいだろ、と言おうとした瞬間大きく揺れ始める。
「マジか、またかよ」
「前と同じぐらいの大きさだから、震度6弱か?」
「一応窓から離れるか」
スマホから緊急地震速報が鳴り響く。高校だからか、一ヶ月前の深夜の時と比べて音が大きい。1人と数百人は全然違う。
「家で備蓄してる?」
奏多が聞いてくる。
一ヶ月前に北海道全域で停電になる地震災害が起こった。碌な災害が起きたことのなかった北海道民は、今までは他人事だったため大きく混乱することとなった。
うちでは停電、断水、ガスが使えないのトリプルで何もできなかった。
急いで食料や飲み物、光源を買いに行くもコンビニに物はなく、スーパーには大行列。ガソリンスタンドに至っては1kmに及ぶ大渋滞だった。
今では復旧したし、物流も治ったため備蓄を準備している家庭は少なくない。
「うちはあるぞ」
「俺の家もある」
一度大きな地震を経験すると、地震の最中でもこうしてお喋りできるほどの余裕が出る。これも内陸部の地域だから津波の心配が無いのはデカイと思う。
「結構長いな、今回」
「だな」
2分ほど続くと収まり始める。
すると、他の教室から騒めきが聞こえる中ある言葉が耳に入る。
「そ、外のグラウンドが!?中学校のグラウンドも!」
高校のグラウンドは教室の窓から見えず、廊下の窓からしか見えない。
逆に近くにある中学校は教室の窓から見える。
奏多が廊下の方に、俺と友紘が教室の窓に近寄ると、そこには大きな階段と穴、そこから出てくるナニカがいた。
「奏多!そっちは何が見える!?」
「大きな穴と大きな階段!それから犬みたいなやつと、人みたいなやつ!遠すぎてここからはそれ以上見えない!」
ひとまず俺達は教室に集合する。
「どうする?穴から出てきた奴ら普通じゃないぞ!」
「分かってる、理緒。どうする?」
「……さっきカメラのズームで見てみたけど、これアレに似てないか?」
俺はスマホで撮った動画を見せる。すると2人は分かったかのように声を出す。
「「ゴブリン!?」」
距離が空きすぎて画質は荒いが、そこにはVRMMOのSMWに出てくるモンスターであるゴブリンのような姿が映っている。
「やっぱりそう思うか」
「これはそう見えるな」
「でも、なんでグラウンドからゴブリンが?」
分からない、と言ってとりあえず情報収集だと思い友紘にネットで調べて貰う。
「念のため、武器がいるかもしれない。奏多用の竹刀、友紘のために槍になるもの、弓道部から弓を借りてくる。奏多はSMWが分かる他の奴らに伝えて念のため武装することを伝えてくれ」
「分かった!直接話してくる!」
教室を走って飛び出して行く。奏多は3人の中で一番社交的で友人も多い。それに信頼されてもいるので、最適だろう。
俺も走って一階に行き、武道場に怒られるが靴を履いたまま入り、竹刀を二本ケースに入れて背負う。
「ははっ、もし何もなかったら素直に怒られるか」
そのまま弓道部の弓と矢を借り、友紘のために……
「これでいいか」
壁に掛かっているさすまたを手に持つ。以外に大荷物となり大変だが、空き教室に戻ると2人がいた。
奏多に竹刀二本、友紘にさすまたを差し出す。俺はSMWで使っていて、現実でも少しだけやったことのある弓だ。
「はっ!ゲームが役に立つかもしれないなんてな!」
「全くだな」
2人は楽しそうに笑った。こんな時に、と呆れるがそれを言ってる暇はなく2人に聞く。
「ツイッターで調べたところ、北海道の至る所で穴が出来ているらしい。そこから出てきたやつの写真がアップされていて、凄い勢いで拡散してる。なんせ、複数人が違う場所から似たようなものをアップしてるからな。
ネットでは「ダンジョン」と呼ばれてる」
「ダンジョンか、納得出来るな。被害は?」
「まだいない。でも知られてないだけでいる可能性が高いと思う」
「奏多は?」
「一応フレンドになってる奴ら全員に言ってきたぞ。そこからまた広がっていて、女子がパニックになっているとこもあった」
「避難場所を考えた方がいいかもな。上にいるか、体育館に行くか。体育館って非常用の物資を貯めてあるんだろ?」
俺がどこかで聞いた知識を言うと、友紘が首を振った。
「あるらしいが、それは一ヶ月前の地震で消費したそうだ。追加してない限り無いだろうな」
こんな時にまで震災の影響があるらしい。
すると、校内放送が流れた。
『校内にいる生徒は落ち着いて聞け。さっきの地震の影響からか、グラウンドに穴が空きそこから訳の分からん奴らが出てきた。生徒が言うにはゴブリンと言うらしいが、まずは落ち着け』
既に先生までさっきの話が届いていることに驚きながら奏多を見ると、ニヤッと悪い笑顔になった。
「少し強引な手段を取らせてもらった」
『えーっとゴブリンと犬みたいなやつは、人を見つけ次第襲いに掛かるようだ。だから絶対に構内から出るなよ。窓とカーテンを閉めて、外から見えないようにしろ。今警察に連絡したが伝わらない。怖いのは分かるが、絶対に自暴自棄にだけはなるなよ。また何かあったら放送をかける』
放送が終わると、他の教室から悲鳴が聞こえる。
「人を襲うとなると反撃しなきゃやられるだけだな」
奏多がゲームの中みたく二刀流で素振りをする。その姿は我流っぽいが様になって見える。
「とにかくこれからどうするか決めないとな」
「友紘の言う通りだな。選択肢としては
1.このまま待機している
2.見つからないように物資の確保行動をする
3.外に闘いに行く
の3つだな」
「3は絶対に除外だな」
「ああ、数も分からないのに言っても無駄だ」
「1も除外だ。武器を用意して待機してるなんて、それなら他の奴にこれらを渡せって言うんだ」
3人で顔を見合わせ頷く。
「「「4、戦略を立てて行動するだな」」」
奏多が教室を走って出る。友紘が黒板に覚えている校内地図を描く。俺がスマホを使って調べ物をする。
「持ってきたぞ!」
息を切らしている奏多は3人分の荷物を持っている。そこから役に立ちそうなものを探す。
「こっちも出来たぞ」
黒板を見てみればそこには、正確と思える地図が描かれてあった。
「出てきている奴らは……ゴブリン、犬、ツノ兎、コボルト……おいおいマジか、ドラゴンなんてやつもいるぞ」
重くなったネットで画像が上がったモンスターを探していると、空を飛ぶ西洋の竜が動画になっていた。
「とりあえず最優先は人命の確保、次に物資の確保、後はバリケードなんかも欲しいな」
ギャーギャー煩い廊下をのぞいてみると、四階に走って向かう生徒たちの姿があった。
「……一階に向かってみるか」
「そうだな」
「行くか!」
今では武器となるものを各々が持ち、生徒たちの視線を感じながらも下に降りて行く。
生徒玄関は鍵が掛かっているようで、安心できる。
後は職員玄関、体育館入り口の2つだ。
しかし職員玄関を確認するためには、生徒玄関を通る必要があり姿が見られる危険があるため、二階を経由する遠回りのコースを選んだ。
体育館入り口には1年生男子と思われる3人がいて、同じことを思ったのか竹刀を持った生徒がいた。
「ゴブリンなんかぶっ倒そうぜ!」
「楽勝だよな!」
「早く行こうぜ!」
ゲームと同じと思ったのか、武器を得て慢心したのかはわからないが止める暇もなく外に出てしまった。
「あのバカ達!」
奏多が急いで追いかけるが、すぐに悲鳴と嫌な音が聞こえた。
「奏多!一旦隠れろ!」
曲がり角や柱の影に身を潜め、小さな声で会話をする。
「鍵空いてるか?」
「多分な、ドアを開けれる知性があるかは分からないが」
「トモ!リオ!来たぞ!」
ドアが空き、そこから子供ほどの大きさの緑色の体をしたやつが入って来た。
手には赤いものが滴る木製の棍棒のようなものを持ち、こちらとは反対側の体育館の方に向かって歩いて行く。
「……どうする?」
「どうするってヤルしかないだろ」
「じゃないと、あそこからまた入ってくるしな」
作戦を立てると、音を立てないように歩き出す。
体育館に中から入る入り口は2つあり、バレないように中をみると赤い液体……血がその場所を教えてくれた。
「……女子更衣室の中だな」
「じゃあ出て来た瞬間に俺が射る。ゲームと違って、あまりやったことないから外すかもしれない。外したら友紘が抑えて、奏多が殴る。それでいいな?」
「「おう!」」
ゆっくりと近づき、矢を引き絞り構える。部活動で使う矢のため先端は尖っていなかったが、持っていたカッターで先端を尖らせた。
だが、それにより少し重さが変わりどう飛ぶかは分からない。
手汗が噴き出て、額から汗が落ちて来て目に入る。拭えないため、片目を閉じる形となってしまう。
ギィ……と音を立てながらドアが開き、中からゴブリンが出てくる。
「ハッ!」
放った矢は不規則な軌道を描きながら、右の眼球に突き刺さる。運良く即死させる場所にあたり、そのまま床に倒れ臥す。
《レベルが上がりました》
「は?」
「おぉ!良くやった、リオ!!」
「凄いな、俺は急いでドアを閉め鍵を閉めてくる。また入ってこないように」
「あ、ああ」
今聞こえたのは幻聴か?緊張のしすぎで耳がやられたか?
恐る恐るゴブリンの死体に近づに見てみる。目からは緑色の血が流れ出ていて、手に持っていた棍棒は赤く濡れている。
「ん?」
よく見ると先程までなかった、胸の辺りに黒いガラスのかけらのようなものがある。
何故か取らないといけない気がして、手を伸ばすとポロっと落ちて手に収まる。
大きさ4センチ、厚さ0.5ミリほどのそれから何故か目が離せなくなっていた。
「どうした?」
近くに来た奏多に見せる。
「なんだこれ?ガラス……じゃあないよな」
「奏多も分からないか、友紘は?」
「……知らないな。どこにあった?」
「こいつの胸ら辺にあった。触ったらすぐポロっと取れたぞ」
分からないものはわからないと結論付けて、戻ろうとすると閉めたドアの窓から3人の死体が目に入った。
腕や脚が変な方向に折れ曲がっていて、頭から血が流れている。それを3体のゴブリンが棍棒で殴りつけて笑っている。
知らない1年生だったし、勝手に出て行ったのは自業自得だろう。しかし、底知れない怒りがゴブリンに湧き出てくる。
だが、今それをぶつけたところで彼らの二の舞になる可能性は低くはない。なんとか怒りを抑えて、各階層の教室全てを確認してから三階の空き教室に戻る。
疲れがドッときて、思わず椅子に倒れこむように座ってしまう。
そこで2人にさっきのものが聞こえたか聞いてみる。
「なぁ、さっきレベルが上がりましたって聞こえた気がするんだけど聞こえたか?」
急に変なことを聞いた俺の方を2人は分からなそうに首を振る。
「やはり幻聴か?」
「いや、待て。こんな風にダンジョンが現れ、ゴブリンやドラゴンが出たんだ。レベルがあったっておかしくはない」
「俺もそう思うぞ!何か変わったことはあるか?」
奏多に言われたため、ジャンプしたりするがあまり変化はないように思う。
「多分、変化はない」
「もしかしてステータスとかあるんじゃないか?」
奏多のゲーム脳の発想に驚きながら、可能性を考える。
「ある、かも……知れないな」
「じゃあ、ゲームみたくしてみろよ」
一瞬わからなかったが、SMWのことだと気づきやってみる。
「ステータス」
白波 理緒 Lv.1
職業:選択可能
HP :18
MP :0
筋力 :25
耐久 :20
敏捷 :26
技量 :31
魔力 :0
抵抗 :18
sp :20
スキル pt:10
「で、出た……」
「「マジ!?」」
信じられないと思うも、目の前にはしっかり見えている。
震える指でスマホにステータスの表示を写し、2人に見せる。
「やっぱりモンスター倒したらレベルが上がるんだな。ゲームみたいに」
「だが、ゲームと思ってはダメだな。これは現実なのだから」
2人が何か話しているが、全く耳に入らない。これは夢ではないか、とまで思ってしまう。頬を抓るが痛いだけ。それをみた2人に笑われてしまった。
「とにかくspはステータスポイント、ptはポイントか?後は職業ってやつも決めてみて、どうなるか確かめないとな」
「理緒やってみてくれ。よく考えていい、当然アドバイスが欲しかったらする。だが、最終的には自分で決めろ」
2人に言われてようやく動き出す。頭が、視野が狭くなっていては今後後悔するかも知れない。
ゆっくりと深呼吸して呼吸を整え、言う。
「ステータス」