第9話 甘味で餌付け
サブタイトルに名前を付けるようにしました。
私たちは調理室に向かう途中、簡単な自己紹介をした。
彼女の名前はノエル。1学年上の先輩で料理研究部の部長のようだ。
料理研究部は部員が少なく、そのほとんどは帰宅部らしいので実質先輩一人しか活動をしていない。そのため自由気ままに料理やお菓子を作っているそうなのだが、食べてくれる人がいなくて寂しい思いをしていたらしい。そんなとき図書館で料理本を見ていた私を見かけ声をかけたそうだ。
「自分が作ったものをポツンと一人で食べる。それが案外悲しいんだよね。」
やっぱり人に食べてもらうのが料理の醍醐味だよ!と私に力説してきた。普段料理を作らないのでいまいちピンと来なかったが、とりあえず頷いておいた。
調理室に着くと席に座っていてと言い、ノエルは戸棚の方に向かっていった。戸棚の中には溢れんばかりの焼き菓子が詰まっており、私の視線を釘付けにする。
「まずはこれをどうぞ。」
手渡されたお菓子は綺麗な飴細工が施されており食べるのがもったいない。とはいえお腹もすいているので一口パクリ。
(うっ!!うめぇぇぇぇっ!!!)
口に入れた瞬間とろけるような触感。そして甘さと酸味のバランスがちょうどよくとても美味しかった。そんな私の様子を観察しながら次のお菓子を差し出す。
「次はこれを。」
差し出されたのは白っぽい長方形の塊。どう見ても消しゴムにしか見えないけど…。
少し、というかだいぶ躊躇しながらそれを口に含んだ。
(えっ?嘘でしょ?)
見た目は完全に消しゴムなのだが、チョコレートの味がした。
私の探し求めていたもの。まさかの出会いに思わず立ち上がりノエルの手を握る。
「ノエル先輩!!素晴らしいです!!最高です!!」
歓喜のあまり大声を出す。ノエル先輩は嬉しそうな顔をしながら私の目の前に次々と新しいお菓子を置いていくのだった。
雛鳥のように差し出されたお菓子を次々と食べていると、口の中が甘ったるくなりお腹もいっぱいになった。
これ以上食べたらエリーナではなくデブリーナになってしまう。そのことをノエルに伝えると、彼女は笑いながらお茶を出してくれた。
(美味しかったなぁ。)
私は満足げな顔をしながらお茶を啜る。お茶の苦みが口の中を洗い流した。
しばらく寛いでいると、ノエルは私にお茶のおかわりを聞いてきたのでお願いした。注いでもらっている最中に先ほどチョコの味がしたお菓子の作り方を教えてほしいと頼むと、ノエルはニヤッと猫の笑みを浮かべる。
「教えてもいいけど…エリーナが調理部に入ってくれたらいいよ。」
露骨な勧誘してきたのであった。まあ私は帰宅部なので調理部に所属するのは可能なのだが、一つ問題がある。部活に所属すると放課後の時間がとられる。つまりお家でくつろぐ時間が減るじゃないか。
元の世界では怠惰に過ごすことが好きだった。体は変わってもその性質は変わることはない。私はノエルに入部の件を保留にしてもらい調理室から出ていくのであった。
……もちろんお土産のお菓子はしっかり頂きましたよ。
そろそろ帰ろうと下駄箱に向かう途中、サリッサとバッタリ出会う。
「あれ?こんな時間に会うなんて珍しいわね?」
サリッサが首をかしげながら私に聞いてきた。普段の私は帰宅部ゆえにすぐに帰るからね。
調理室でお菓子を食べていたと、先ほどお土産でもらったお菓子を見せびらかす。良かったわねと微笑み、食べ過ぎちゃダメよと私に注意する。
相変わらずお母さんみたいだなぁ。私は、はーいと返事をしてお菓子の袋を開ける。ムフフ…イタズラしてやるぜ。
「多分食べ過ぎちゃうからサリッサにお裾分けしようかしら。ほら、アーンってして?」
私はサリッサの口元にお菓子を近づけ、口を開けろと要求する。
「っっ!? いっ、今はいらないわよ。それに1人で食べられるし…。」
頬を染めつつ反抗してきたが、口を強引に開けお菓子を食べさせる。
「んっ!………あっ、美味しい。」
お菓子を食べさせられ照れていたようだが、お菓子の美味しさに顔を綻ばせた。
「美味しいようで何より。今度は私にも食べさせて?」
サリッサにお願いすると、おでこにデコピンされたが何だかんだ食べさせてくれた。優しい!
そんなことを繰り返していると、家に着くころにはお菓子が無くなっていたのだった。
(また今度、調理室に寄ってみようかな。)
私はまたお菓子を貰いに行こうと決めたのだった。
今日もありがとうございます。