第10話 脅威との遭遇
昨日の時点で書き終わっていましたが投稿するのを忘れていました orz
今回は場面が大きく変わりルーシェの話です。
よろしければ読んでいってください。
妖精の囁き声が廃れた建物に反響する。
ルーシェはその声をBGMにして、周囲を見渡しながら慎重に歩いていた。
ここは薄命の街と呼ばれている場所だ。辺り一面真っ白で幻想的な場所である。昔は人が住んでいたらしいが、今は廃墟と化していた。その原因は周囲に満ちている魔力。地理的な問題で魔力が溜まりやすいこの場所は魔物が発生しやすいのだ。
「うむむ…魔物の体液でドロドロになってしまいました。」
顔をしかめながら手で汚れを払い、建物を背にして座る。魔物を何匹か屠ったためか疲労感がドッと襲ってきた。
この街は立ち入り禁止になっているが出現する魔物は弱いので、そこそこの力量があれば危険はない。それに魔物の血肉はギルドで売れば金になる。カラダを動かすことが好きな私は、ときどきスポーツ感覚でここに訪れていた。
腰にぶら下がっているポーチからスタミナポーションを取り出しガブガブ勢いよく飲む。一仕事終えた後はポーションがおいしい。力がみなぎり失われた体力が戻っていく気がする。
私はしばらく休憩しながら街並みを眺めていた。
(別世界みたいですね。)
魔力を帯びた砂埃が光を発しながら舞っている。
ここでしか見られない光景に目を奪われていた。
ほぉ…と魂が抜けていると突然、頭の中で警笛が鳴る。
上から何かが来るっ!!私は慌てて前転しそれを躱すと背後から轟音が響いた。
土煙が収まると、そこには醜悪な姿をした豚面の魔物がおり、口元を歪め涎を垂らしながらこちらを見ていた。
「休憩の邪魔をしないでくださいっ!」
戦闘態勢に入ったルーシェは手に魔力を集中させる。
先手必勝。
魔物に素早く近付き、魔力をまとった拳で思いっきり殴る。妥協なしの本気の一撃。
建物を巻き込み凄まじい破壊音を周囲に響かせた。
一瞬の出来事に魔物は悲鳴をあげる時間すら与えられず、あっという間にスクラップにされたのだった。
そんな魔物を一瞥してポーションが入った小瓶を探す。
「あぁぁ…まだ残ってたのに。」
瓶の表面にはヒビが入り地面に水たまりをつくっていた。
萎えた私は膝をつきガックリとうなだれる。そして魔物の血で染まった手のひらを眺め息を吐いた。
「今日はこのくらいにして終わりますか。」
襲ってくる魔物は弱いとはいえども、油断するとすぐこれだ。私は背を伸ばしたあと一息に立ち上がった。
好きな歌を口ずさみながら出口に向かって歩き出す。
ふと、耳元に声をかけられた気がした。
「ん?」
気のせいでしょうか。私はそう結論を出すとまた歩き出した。
「そこ…らに…て。」
気のせいではなかった。何を言ってるかわからないが、その声は私に何かを伝えようとしている気がした。
「誰です?私に何か用でしょうか?」
誰もいない空間に話しかけると今度はハッキリと聞こえた。
「逃げてっ!」
へ?
突然の警告に間抜け面をしていると背筋が凍るような殺気が私を襲った。
無意識のうちに体が動きその場から離れる。その瞬間、先ほどまでいた場所が炎に覆われた。
「きっ、キマエラ!?!?」
獅子の頭に山羊の胴体、そして毒蛇の尻尾を持った化物がそこにいた。口から火花が漏れている。
今まで倒してきた魔物とは段違いの存在。命の危機を感じた私は脇目も振らず一目散に逃げるのだった。
「明らかにおかしいです!アナタ何でこんなところにいるんですかっ。」
喚きながら氷魔法で槍を生成する。足の速度では敵わないので、足止めのつもりで化物に向けて放った。
だがキマエラは並みの魔物ではない。氷の槍をものともせず、すぐに追いつき鋭利な爪で引っ掻いてきた。
「うっ、ああああああ!!!!!」
気合いで何とか躱したが横腹を切り裂かれ尻餅をついてしまう。悪あがきに手刀を繰り出すも、堅牢な皮膚に阻まれてしまった。
(〜〜っ!傷ひとつつかないとは流石上位モンスターですね。硬すぎます。無理すぎてなんだか笑えてきました。)
涙目になりながら私は遊び半分でこの場に来たことを後悔した。
キマエラは絶望的な顔をしたルーシェを見ると愉悦に歪んだ顔を見せ、口の中に炎を溜める。
今にも吐き出しそうな炎を眺めていると景色がスローモーションになり視界が霞んでいった。
(動けない…もう駄目でしょうか。)
そんなとき荊棘が視界を覆いつくして、私は意識を失うのだった。
急にバトル物っぽくなってますが次回は百合回にするつもりです。ご安心ください。