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たとえ、アンドロイドが電気羊の夢を見ようとも

作者: 石井常葉

 それは、ある日の放課後のこと。部室でペーパークラフトに励んでいた僕は、部活のメンバーに話しかけられた。

「中国語の部屋って知ってるよね?」

「もちろん知ってるけど……それがどうかした?」

 彼との会話は、だいたいいつも唐突に始まる。


中国語の部屋――それは、例えばコンピュータプログラムのような、機械的な動作だけで完全に記述きじゅつできる人工知能に人格があるのかといった主旨の哲学的な問いである。

 そして、その問に対する回答の一つとして引き合いに出されるのが、チューリングテスト――人工知能と人間の確実な区別が出来なくなったとき、人格があるとみなす――である。


「実は最近、自分に自信が持てなくて、自分が人間じゃない可能性に思い当たったんだ」


 彼がそんな話題を持ちだした理由の根本には、急速に発展する科学技術が挙げられるのだろう。

 昨今の技術の進歩は凄まじく、人にまぎれて活動する機械のうわさまことしやかにささやかれていた。


「もし、僕がロボットだったら、どうするよ?……なんてね」

 人間に紛れてロボットが生活している、そんな発想は子供だましで馬鹿バカげていると思った。もちろん彼も本気で言っているわけではなかった。

「君は十分じゅうぶん人間に見えるよ」


 作業をする時間と雑談の時間は明確に区別すべき、というのが僕の信条ではある。一方で、理想と現実が常に一致するとも限らない。

「っぁ」

 会話に集中して、手元がおろそかになっていたのだろう。デザインナイフで指先を傷つけてしまった。

「こんな怪我けがつばつけときゃ治るよ。ほら……あれ……?」

 彼が唐突に僕の指先を舐めだしたが、急に怪訝な顔をする。

「……? どうかした?」

「早起きしたからかな? いや……、何でもない」

 彼の回答は要領を得ないものだったが、特に追求するつもりもなかった。ともあれ、作業に集中することに決めた僕と彼の間の会話は、自然消滅した。


 それは、信じられないくらい唐突で、悲しくなるほど残酷だった。自宅へ向かって歩いていると、後ろから強い衝撃しょうげきに襲われた。激痛げきつうに耐えながらも、自動車に撥ねられたらしいと認識する。

 僕の体は、車に押しつぶされてしまったに違いない。想像するだけでも恐ろしかった。しかし、なけなしの力を振り絞って下半身を見ると、想像とは全く異なっていた。或いは、これが宿命だったのかもしれない。

 そこにあったものは、真っ赤な血潮とグロテスクにつぶれた内臓……などではなく、金属質の輝きを見せる歯車。


 目の前に見える走馬灯は、幼少の記憶は偽りだったのか。

 想定を遥かに超えた事態に然とする中、僕の視界は暗転し、エラーメッセージらしき大量のアルファベットで埋め尽くされた。


A problem has been detected and …

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