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突然ですが、この世界はRPGとなりました  作者: 笹石鳩屋(もはや溶けかけ)
俺はこの一週間を生き延びたら告白するんだ!
3/42

俺はコミュ障を克服できたのかもしれない!

 JKに抱きつかれている!


 俺も一応高校生なのだが、引きこもりにとって女子高生は幻の存在なのだ。


 少女の柔らかい感触、柔らかい、柔らかい、痛いっ!


 突然激痛が走った。尻に何かが噛みついている。そいつを掴んで尻から引き剥がした。


 「ごめんね。勢いで倒れちゃって。」


 覆いかぶさっている少女が、立ち上がった。俺も立ち上がって、掴んだそれを顔の前にもってくる。


 スラミン Lv1


 名前だけだと可愛い魔物なのに、気持ち悪かった。スライム状で小さくて丸い魔物だが、顔がおっさんなのだ。スラミンは牙をむきだしにして暴れ、腕に噛みつこうとしてきたので、地面に叩きつける。


 「こいつは俺がどうにかするから、奥に避難して。」


 俺は決め顔で2階を指さした。


 少女に良いところを見せたくて、つい言ってしまった。


 「でも、君も危険だよ。」


 少女は不安そうな顔で俺を見る。俺は不安の陰り一つない笑みで、


 「こんな魔物、俺なら倒せるから大丈夫だ。絶対に君を守る。」


 もう後には引けなくなった。こうなったらやるしかない。


 「わかった。ありがとう。」


 この時の少女の表情は俺の不安が全て吹き飛ぶほどかわいかった。この顔が見られるならどんなことだってやってやるぜ、と気合を入れて、スラミンを睨んだ。


 俺のHPは噛みつかれたダメージで7削られている。次にダメージを受けることを考えると、背筋がぞっとした。つい弱気になってしまうが、俺は少女を守らなければならない。よく格闘ゲームで見かける構えをそれっぽくやってみた。スラミンは低い声で唸って、真正面から攻撃を仕掛けようとしてくる。俺は避けずに、右足に力を溜めた。スラミンが跳びかかり、ちょうど地面から離れたところで右足から渾身の蹴りを打ち出した。スラミンの顔面の真ん中に足の甲がめり込む。蹴りの勢いのままに、スラミンを吹き飛ばして壁に打ちつけた。


 スラミンを一匹討伐しました 

 報酬を獲得します


 経験値 0

 獲得金 0Y

 スラミンゼリーを1つ獲得しました


 おいっ!


 とんでもない死闘になるかと思いきや、蹴っただけで倒せるほどの弱さだったとは。別にあんなダサい台詞を言う意味はなかったのに、さっき少女にかっこつけたのが恥ずかしくなってきて顔が真っ赤になる。表示にも色々文句を言いたい。なぜ報酬はゼリーだけなのか?俺は体力を7も削って戦ったのに、経験値すらもらえないとなると全く釣り合っていない。だがまあ、命があっただけよしとしよう。


 俺が振り返るとちょうど少女が二階から駆け下りてきた。


 「ありがとう!」


 両手で俺の右手を握ってブンブン振る。見た目から想像していた性格と違って、なんだかパワフルな子だ。


 「思ってたより危なくなかった。弱い魔物だったらしい。」


 恥ずかしいのをごまかしながら、頭を掻く。


 「でも、かっこよかったよ。」


 少女は微笑んだ。俺の今までの人生で最高級の笑みだ。何度見てもかわいい。


 「ところで、何で魔物に追いかけられてたんだ?」

 「学校の帰りに、急に声が聞こえて、電車が止まったの。気づいたら周りにいっぱい魔物がいて、外へ出て走って逃げたら、どんどん増えていって、気づいたらこの辺まで来ちゃってて、でも、初めて来た場所だからとにかく走るしかなかったんだ。」


 とってつけたジェスチャーがいちいち可愛らしかった。


 「今度は私から質問ね。君は高校生?」


 はい、高校生の不登校の引きこもりです。なんて言えるはずがない。


 「いや、俺は社会人だ。高校生ぐらいに見えるけど、仕事もちゃんとやってるんだぜ。」


 調子に乗って社会人なんて言っちゃった。ばれたら、恥ずかしいで済まないな。俺は不自然に体を動かし、目がうろうろしているが、少女は特に疑わない。


 「何のお仕事してるんですか?」


 痛いところを突いてくる。早く話題を変えなければ。


 「ただのサラリーマンだよ。それより、君は何年生?」

 「私は高校三年生です。だから、今年受験のはずなんだけど・・・・。」


 年上か。ますますバレたらまずいな。


 「こんなことが起こったもんな。君はこれからどうするんだ?」

 「私は家に帰りたいです。」

 「帰れるのか?」

 「それは・・・。」


 やはり、魔物がうろつく今は危険だ。特にさっき追いかけられた少女にとってはトラウマだろう。


 「しばらく、この家で帰れる見通しがたつまでいたらどうだ?」


 俺にとっても、美少女が家にいるのは気分が良い。少女は申し訳ないような顔をして、


 「迷惑をかけるので、せっかくのお気遣いですが、私はこのまま帰ります。」

 「本当に死ぬかもしれないんだよ。俺の家はいくつか部屋も空いているし、気にしないで使ってよ。」


 少女は少し黙って考えてから応えた。


 「わかりました。迷惑をかけますが、お願いします。」


 明るいトーンで話すが、やはり、外は恐かったみたいだ。俺は心でガッツポーズをとりながら、少女に微笑む。


 「俺は水里みずさと 海李かいりだ。よろしく。」

 「私はあずま 千里ちさとです。よろしくお願いします。」


 ぺこりと頭を下げる姿もまたかわいい。コミュ障の俺がこれだけよく喋れたもんだ。これも、世界がRPGになったからかも知れない。だからといって、俺は絶対に忘れはしない。この世界が母さんを殺したことを。

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