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突然ですが、この世界はRPGとなりました  作者: 笹石鳩屋(もはや溶けかけ)
俺はこの一週間を生き延びたら告白するんだ!
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初めての恐怖のバンジー

 「伏せろ。」


 東と二兎だけに聞こえるように小声で指示した。東は慌てて手にしていたトマトを商品棚に戻し、二兎は頬張っていたシュークリームをごくりと飲み込み、息を潜めた。まさか、死体狩りが一人で本部に乗り込んでくるとは、予想だにしなかった。


 「ひゃっひゃ。なんだよ。もぬけの殻じゃねえか。」


 足音と笑い声が静かな地下を荒らす。俺は次々と出てくる額の汗を袖でぬぐいながら、死体狩りが去るのを今か今かと待った。


 「ひゃっひゃ。誰もいないし帰るか。」


 足音が少しづつ遠のいていくことにホッと溜息をついた。


 「なんてな!」


 死体狩りが俺たちのほうへ叫んだ。東が身震いした。死体狩りの位置からでは確実に俺たちを見えないのだが、はっきりと俺たちが隠れている場所がわかるようでわざとらしくゆっくりと近づいてきた。俺は近くの商品棚に手を伸ばした。


 「隙をつくるから階段へ逃げろ。」


 二人に囁いた。死体狩りが棚を挟んで向かいまできていた。東と二兎は階段のほうへ走れるよう構えている。俺は死体狩りに先手を取るため、死角になるぎりぎりの位置まで移動する。人影が視界に入った瞬間には右手を前方の地面に向けて口を動かしていた。


 「フレイム!」


 飛び出した火炎が死体狩りの足元を狙う。ほぼ同時に後ろの二人が走り出した。口を大きく開けて、少し仰け反った死体狩りの顔へ左手に持っていたゴキブリ駆除スプレーを噴射した。


 「うがぁ、目がぁ!」


 死体狩りは膝をついて、暴れ回る。俺は傍にあった大根を掴んで、死体狩りを殴った。死体狩りは言葉にならないうめきをあげて倒れた。俺は出来る限り急いで1階へ上がり、東と二兎が待機しているデパートの出口前へ歩いた。


 「海李!」


 東と二兎がデパートの外から手を振っている。


 「前田さんたちと合流しよう。」


 俺は東たちに駆けよった。デパートから出る瞬間だった。周りの地面がボコボコと陥没した。それもきれいな穴ではなく、まるでパレットからこぼれた絵の具のようにぐちゃぐちゃに辺り一帯が液化したのだ。


 「なんでこんなことに?」


 東は地面をまじまじと観察しながら呟いた。東や二兎との距離はもうすぐなのに前方の地面はほとんど液化していて、前に進めない。不幸中の幸いといえるのか、引き返すだけなら液体の大地を踏まずにいられそうだ。残された道は上か地下だ。


 「死体狩りが能力を使ったんだ。奴はもうすぐ追ってくるはず。俺は後で追いつくから一刻も速くここを離れないと危険だ。」


 二兎は俺の顔をじっと見た。そして、深く頷いて、


 「よーし、わかった。さきにじーさんとごーりゅーするわ。ぜったいにしぬなよー。」


 それから東も何か言いたげだったが、俺は二人に笑いかけた。


 「らしくもないことを言うなよ。死亡フラグが立ちそうじゃないか。俺は大丈夫だから、そんなに心配しないでくれ。」


 また後で、と手を振って、踵を返す。早くしなければ死体狩りが来てしまう。俺は迷うことなく一直線に進んだ。そして、壁についているボタンを連打し、今か今かと待ち構えた。つまり、エレベーターだ。エレベーターは地下には止まらない。つまり、1階が最下層なのだ。エレベーターに乗れば死体狩りから一気に距離を離すことができる。最善手だ。扉が開ききる前に乗り込んだ。




─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─



 「痛いっ。」


 まだ目が染みる。あのガキは許さない。オレがデパートにきたと知った時点で絶望して無抵抗で能力者を引き渡すと思っていたのに、思わぬ反撃をくらった。1階へたどり着いて辺りを見渡したが、ガキはおろか、能力者ともう一人すらいない。出鱈目に融かした地面を見つめた。さっき聞こえたガキどもの会話からガキはまだデパートにいることはわかっている。ならば、と二階へ階段を上ろうとして、ふと、思いとどまった。罠ではないのか?油断しているとさっきのように痛い目をみる。慎重にならなければならない。周囲を観察する。エレベーターのランプが最上階で点灯している。


 「そこか。」


 悪者とは常に不敵に笑わっていなければならない。オレは声を上げて笑いながら、最上階へと階段を登った。



─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─・─




 エレベーターが下へ降りないように、鉄パイプでボタンを押しっぱなしにするように固定した。前田さんたちは用意周到で、もし屋上で戦うことになった時のために色々な資材が置いてあった。鉄パイプもその一つである。死体狩りはもう屋上へ向かってきてるはずだ。足止めをしつつ、逃げ切れるような準備を資材をあさりながら、思案していた。



 「よし、できた。」


 汗を拭った。まるで夏休みの工作でもしているような感覚だったが、一歩間違えれば命がないということにひやひやした。それからすぐのことだった。


 「ひゃっひゃっ。おい、ガキ!今すぐおとなしく首を出せば楽にしてやるぜ。抵抗するなら、痛めつけて殺すぞ。」


 階段の下から不気味に反響してきた。まだ姿は見えないが、荒れた足音は近づいてくる。体にビリッと電気が走ったように思えた。倫理観が崩壊しそうになるが、こんな簡単に人が死んでいいはずがないのだ。俺も死ぬわけにはいかない。動くものが視界に入った刹那、呪文を唱え手から炎を撃ち出した。放たれた炎は地面に着弾した。地を這うように広がっていき、ある意味密室ともいえる階段中燃え盛る炎に包まれた。灯油を階段にまいていたのだ。俺はすぐに離れ、階段室の扉を閉めた。恐らくすぐに突破される。後ろをちらちら振り返りながら反対側の屋上の端へと歩く。走れない俺にとってはこの距離すら遠く感じられた。後数歩というところで、背後の階段から吹き出る音がした。振り返ると、階段室の天井に穴が空き、建物の上に噴水のようにコンクリートが吹き出ており、そこから死体狩りが飛び出してきた。


 「ひゃっひゃっ。やるじゃねえか。だが、終わりだな。溶解!」


 足の下が水のようになった。そのまま沈んでいく。左手に握っているロープだけは離さないようにギュッと掴んで、右手は閉じないように開いたままにして、沈まないようにもがく。


 「凝固!」


 急に楽になったと感じたときにはもう体は固められていた。


 「ひゃっひゃっ。どんな気分だ?さっきのお返しをたっぷりするぜ。」


 余裕の表情で階段室の上から飛び降りた死体狩りは焦らすようにゆっくり歩いてくる。


 「フレイム。」


 落ち着きをはらった声で言った。固められたコンクリートの中で右の手のひらから炎が吹き出した。俺は賭けに出た。コンクリートが溶けるかどうかと俺の足が焦げないかどうかの賭けだ。コンクリートがゆっくりと液化していく。足は熱かったが火傷をするほどではない。どうやら賭けに勝ったようだ。左手で持っていたロープを思い切り引っ張る。コンクリートのプールから飛び出た。


 「なんだと!」


 死体狩りが驚いた一瞬の隙に反撃を浴びせた。


 「フレイム!」


 死体狩りは避ける間もなく、直撃して二、三歩退いた。


 「熱いっ、熱いっ!」


 燃える服を破いて脱ぎ捨てた。俺はその隙に屋上の端へたどり着き、その先のくうへ飛び込んだ。


 「じゃあな。もう二度と会いたくないよ!」


 空に残すように叫んで真下に落ちていく俺は8階分の重力を受ける。どんどん加速していき、地面にぶつかるすれすれで停止した。汗ばんだ左手に巻き付けたロープを放して着地した。運良くコンクリートに捕まったときにも役立ったが、飛び降りるためのロープだったのだ。死体狩りの視界から外れるため、建物の陰に身を潜めて、腰をついた。体の力が急に抜け、気づいたときには狂ったように笑っていた。窮地を乗り切った。死体狩りが再び現れてからずっと緊張状態だったのだ。解放感とともに、どっ、と疲れがきた。体が重い。だけど、東と二兎が待っている。ゆっくりと立ち上がって、歩きだした。行き先はわかっている。屋上にいたときステュクスと前田さんの仲間たちが戦っているのが見えたのだ。俺は商店街へ向かった。

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