Let’s go to the department store!
「おおっ、デストロか!丁度良い時にきた。」
前田さんが話していた若い奴らの一人であろう。しかし、背丈は高いが、スラッとした体型でとても強そうには見えない。真っ直ぐ立っている姿はサギそっくりだった。
「なぜ隊長がここにいらっしゃるのですか?」
デストロはいまいち状況がわかってないらしく、細い首を傾げた。隊長とは前田さんのことだ。隊長なんて言われてから見ると、とても威厳があるように見えるのだから不思議だ。
「死体狩りが現れたようでな、この子が巻き込まれたようなんだ。」
「状況は理解しました。この子を助ければいいのですね?」
前田さんはおもむろに頷いた。
「では、失礼します。」
俺の前で正座をしたデストロは、突然額を地面に押しつけた。要は土下座だ。
「ちょっと、急に困ります!俺は何もされてませ・・・」
「破砕!」
俺の言葉など全く耳に入っておらず、途中でデストロは叫んで遮った。
「何が起こったんだ?」
デストロが唱えてからすぐには何も起こらなかった。そして、ゆっくりと顔を上げたデストロの額は気味の悪いことになっている。コンクリートが割れたように罅がはいっているのだ。次の瞬間、デストロから半径5メートル程の半球状の道路がみじん切りにされて、四角いブロックの集合体になるように、バラバラになった。俺の周りのコンクリートも崩壊し、拘束が解かれた。下半身に心地良い解放感が訪れる。俺はコンクリートの瓦礫を登って、足を伸び縮みさせ、異常がないことを確認した。
「これで大丈夫ですね?」
俺に優しく声を掛けるデストロの額の罅は消え、正常に戻っていた。
「ありがとうございます!」
デストロから漂う気品の高さから、俺も礼儀正しくしなければいけないと思い、深々と礼をした。
「僕にそんなに堅苦しくなくていいですよ。」
品のある笑みで俺にそう言った。
「おめー、すげーな。どうやって壊したんだ?」
品のないデブが口を挟んできた。二兎は少し太陽の下にいただけで汗だくで、汗一つかきそうにないデストロとは対照的だ。
「僕の固有能力の破砕です。額で触れた物と分子的に繋がっている、同じ分子構造で出来た半径5メートル以内の物質をだいたい一辺5センチメートルぐらいの立方体の集合になるように分解します。もちろん、二つ以上の物質に触れた場合は任意の方の物質になります。」
デストロの言葉に二兎の頭はショートしたようで、首が45度に傾いて固まっていた。
「なんだかよくわかんねーけど、とりあえずすげーんだな。」
デストロの説明が全て無駄になった気がするが、寛容にもデストロは微笑んで、
「そんなに万能でもないですよ。『破砕』は自分の最大MP分のMPを使います。つまり、一度きりしか使えないうえに、魔法を使う分のMPがなくなってしまいます。さらに、破砕で魔物を倒しても経験値やお金、アイテムなどは全くもらえません。上手く魔物に当てれば一撃必殺となりますが、外せばとても不利になる。いわば、諸刃の剣です。」
固有能力の相場というものがわからないが、死体狩りが持っていたコンクリートを溶かす能力よりは確実に強い。真っ先にデストロは死体狩りに狙われるはずだが、たった一人で町を歩いていたことから、相当な強さと慎重さを持ち合わせているに違いない。
「ここは危険ですので、本部へ向かいましょうか。」
デストロがやって来た方向へ指をさして、歩き出した。俺たちも後をついて歩き始めた。春といえどカラカラに晴れた真っ昼間はとても暑くて、風が一向に吹かないことを呪った。
「そういえば、今朝無防備に外を出歩いていた女の子を保護したんですよ。家に帰りたいと言っていたのですが、家のある場所が初戦闘の場所で、おそらく家は・・・」
俺と二兎は話すことなく、デストロと前田さんの会話を耳に入れては流しながら、町を眺めていたのだが、デストロのこの言葉におちおちと聞いていられなくなった。
「その女の子って、背は俺より少し低めで、痩せ型で髪は茶色っぽくて元気の良い女の子ですか?」
「そうだよ。」
俺と二兎と前田さんは、デストロの返答に息をついた。その後、ステュクスの幼体にも逢うことはなく、デストロは俺と二兎の質問攻めにあった。
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「ここが我々の本部だ。」
「ここ、ですか?」
俺たちは町の中心部にそびえ立つデパートを見上げていた。二兎は本部、という単語を聞いてからテンションが上がっているようで、隣で目を輝かせながらはしゃいでいる。うっとおしい。
「驚くのも無理ないですよね。屋上からだと、町が一望できたり、建物の耐久性が良かったり色々と都合が良いのです。女の子は7階にいます。さあ、行きましょう。」
自動ドアを手で押し開け、デストロと前田さんはすたすたと中へ入っていった。
「じどーじゃねーのかー!」
「ええ、一応夜は予備電源で動くのですけどね。」
動かないエスカレーターを登りながら、デストロは振り返って言った。当然照明もついておらず、普段の百貨店とはガラッと雰囲気が違う。それ以外にも何か強烈な違和感を感じるのだが、それが何なのかはわからなかった。商品なども荒らされた様子はなく、閉店後のデパートはきっとこんな感じなのだろうな、と思索に耽っているうちに7階へついた。
「こちらです。」
催事場と看板の出る先の重々しい扉をデストロはゆっくりと押し開けた。まず、目に入ったのは体格の良い男たちだ。60近いような定年間近のおっさんもいれば、俺とほとんど同じくらいの年の青年もいた。
「海李!」
部屋の隅のほうで影を薄くしていた女の子が駆け寄ってきた。
「東さん!」
俺は喜びのあまり周りの男たちを忘れて、東を呼んだ。
「海李、来ないでいいって手紙に書いてたのに。」
「あんなこと書かれたら逆に心配になるよ。」
東は俺の手を優しく握った。
「私は大丈夫だよ。今からでも引き返せるから、家に帰ってほしい。だけど・・・」
とびきりの笑顔で微笑む。
「来てくれて嬉しかった!」
とても良い雰囲気だ、と世界中の誰もが思ったであろうこの瞬間に一人だけ空気の読めない男がいた。
「東ちゃーん。俺にはなんかねーの?」
「別にこなくてもよかったんだけど。」
東は冷たくあしらった。二兎への目線に横で見ている俺までも背筋が凍った。




