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軽く読める短編集

勇者さま 7周目

作者: 猫弾正
掲載日:2017/02/05

 最初の人生のわたしは、少しは名の知れた神官だった。


 ああ、変な顔しないでくれ。

 言い間違えはしていない。

 最初の人生のわたしでいいんだ。わたしの人生の最初ではない。


 で、繰り返すが、最初のわたしの人生は神官だった。

 孤児で神殿に放り込まれたんだが、どうにも堅苦しい神殿の生活と言うものがどうにも性に合わなくてね。

 出奔して冒険者と言うやつになった。

 今もさして変わりはしないが、なにしろ世に悪が溢れてる時代だった。


 わたしは気の合う仲間と一緒に、財宝を見つけたり、怪物と戦ったりした。


 仲間と共にオークの群れを撃退したり、盗賊団を討伐したり、

 古代魔法文明の失われた都を見つけたりと。

 今では誰も覚えてないが、それでも当時は吟遊詩人に唄われるくらいに冒険譚が知れ渡ったものだよ。



 で、そんなわたしも年老いてだ。いよいよ独り暮らしをしてた祠で死ぬ時が来た。

 そこでわたしは失われた都で見つけた伝説の工芸品、蘇生の指輪を身につけた。

 同時に、成功率は大して高くないが輪廻転生の魔法陣を床に描いて、それから死ぬことになった。


 未練も在ったし、もう少し冒険して見たかったのさ。



 結果的に、輪廻転生は成功した。

 2周目のわたしは、小さな農村に生まれてた。長じて魔術師となった。


 あの人生は、楽しかった。

 よくある子供向けの物語で、転生した人物が幼少期から才能を発揮するじゃないか。

 あれやった。もう最高な気分だった。

 傍目から見れば、幼児に大人が混じってるようなものだが惨めとは思わんよ。

 君たちも、生まれ変わったら一度はやることをお勧めするね。


 村社会でトップの方が、都会の上位よりも幸せだと悟ったよ。

 最後の自分が死んだ祠に行って、蘇生の指輪と幾ばくかの財宝を回収。

 財宝で王都の魔法学院に入学して、卒業してからは冒険しつつ腕を磨いた。


 幼馴染と結婚してね。気立ての良い、優しい娘だった。

 前世は独身だったから、凄く幸せだった。本当に幸せな人生だったよ。

 今のところ、人生の絶頂期……うむ、記憶に在る限りの幸福の絶頂期だろう。



 3周目は少し外れで、奴隷に生まれてしまった。

 しかも、闘技場生まれだよ。剣闘士と言う訳だ。

 奴隷の子供だから、最下級の奴隷だった。

 一応仕込んで、使えそうになかったら使い捨てと言う役割でね。

 その頃のわたしは、杖や触媒がないと魔法が使えなかったし、

 それまで剣を振るったことなんか無かったからね。

 前2回の人生で培った人体の知識と回復術がなかったら、多分、途中で死んでただろう。


 まあ、余談だが、これ以降の人生で、わたしは奴隷に優しくすることにした。

 しかし、これを体験していないわたしは、いまだに奴隷に対して無関心なのだ。


 自由を得たのは、30も半ばの頃だった筈だ。

 農村のわたしの墓から指輪だけを回収して、まあ、それなりに冒険をした。

 魔法剣士であるわたしは、それなりに頑張って人を救い、騎士に叙勲されたが無理が祟ったのか。

 五十に届く前に身体を壊してしまって、結局、人里離れた祠で一人寂しく死ぬことになった。



 4周目は、死霊術士。

 辺境の外れの寺院で秘密結社に生まれて、導師にまでなった。

 死霊術士や秘密結社といっても、別に悪事を企んだりはしていないよ。

 真理を追究すべしとの目標の元、静かに瞑想したり、畑を耕したり、写経したりと、

 戒律に縛られた暮らしも悪くなかった。

 今まで培った知識を別の視点からアプローチして見直す時間にもなった。


 5周目は、スラムに生まれた。

 家族が代々の盗賊で、もう開き直って好き勝手に生きたよ。

 暗黒街の事にも詳しくなった。

 金持ちから盗むのは、面白い冒険だった。


 で、問題の6周目。

 貴族の子息で金に飽かした錬金術師となった。

 その頃には、転生術の水準も跳ね上がっていた。

 なにしろ、200年以上も魔術の腕を磨いてきたのだ。

 失敗の可能性も、殆どなくなっていた。


 で、前回のわたしの亡骸から蘇生の指輪を回収しようとして、だ。

 僅かに魂を感じられることに気付いたんだ。


 え?っと思った。

 こいつがわたし?では、今ここにいるわたしは誰だ?

 で、疑問を抱いたわたしは、好奇心に負けて、前のわたしを蘇生させようと試みた。

 自分と話してみたかったんだよ。


 で、自分の死体を材料にして、古代文明のクローン技術を併用してホムンクルス創ったのだが、成功したよ。

 ガラス瓶の中には、人間の背丈の美人さんが目をパッチリ開けてこっちを見てる。


 後から振り返ったら、だ。

 きっと、この時が運命の分岐路って奴だったんだろう。

 蘇生の指輪の所為だと思うがね。

 死んだ時点で発動する転生魔法陣と、蘇生の指輪の力が、変な風に干渉してかち合い、魂を分けたのか、複写したのか。

 まあ、解き明かすには時間がかかるだろう。


 わたしのホムンクルスは銀髪の大した美人で、裸身に液体が滴っていたが欲情はしなかった。

 だって、中身はわたしなんだぞ?

 それにわたしは、好きでもない異性とそういうことはしないのだ。

 魂が童貞と呼びたければ好きに呼ぶがいい。いや、話がそれた。


「わたしは、死んだはずだが……生き返ったのか。ここは何処だ。わたしは……お前は」

 彼女は……わたしはそんな風に語り掛けてきた。いや、彼女でいいのかな。

 わたしは答えた。独り言みたいだったがな。

「蘇生の指輪の力は、完璧ではなかったんだな。或いは、転生の魔法陣が阻害したのか。

 ふむ、興味深い」

 で、5周目の彼女は6周目のわたしをまじまじと見て呟いた。

「お前……もしかして、わたしか」とね。


「ああ、頭の回転は速いな。わたしが二人だが、その体は赦してくれ。

 ホムンクルスの培養にクローン技術を併用するとどうしても女になるんだ。

 ただ、素晴らしく頑丈だぞ。魔力においても肉体においても、生前の資質をさらに上回っている」


 それを聞いた5周目のわたしがな。その時、こんなことを言ったんだ。

「お前、6周目のわたしと言う訳か」

「ああ、うん。わたしは6周目だ。お前を5周目とするならな」

 で、5周目のわたしがじっと考え込んでから、顔を上げてこんな疑問を口にした。

「すると、前のわたしは、私たちは、どうなっているのだろう?」




 で、現在。7周目だ。

 辺境の村の狩人の子に生まれたわたしだが、当然冒険者を目指していたのは何時もの通りだ。

 同じ村の連中や、幼馴染と共に王都にやって来たところ、何故か私に、【私たち】に襲撃されてしまった。


 目の前には、紅の鎧をまとった大柄な女騎士。見るからに高位の正統派な魔法使いの女性と、顔に入れ墨を入れ、髑髏のペンダントを掛けた怪しげな女魔術師。

 白亜に金糸を縫い付けた法衣の女神官。テーブルで酒を飲んでる目つきの悪い小柄な革鎧の女。

 貴族のように豪奢な服を着た、やはり魔導士であろう女性。


 酒場を兼ねた冒険者ギルドに入った直後に捕まって、其の儘、隅の席に連行されて取り囲まれている。

 逃げられない。周囲の冒険者たちがざわめいている。幼馴染は、涙目で私を見つめていた。



 みすぼらしい狩人の小僧を、見るからに腕利きっぽい美貌の冒険者の一団が取り囲んでいるのだ。

 これは誰でも興味津々に違いない。他人事ならわたしだってそうだ。

 だが、厄介なことに此処にいるのは全員、わたしなのだ。


「……黄金の剣だ」

 女たちを見た冒険者の誰かがぽつりと呟いた。

「あれが黄金の剣か」


 クラン『黄金の剣』。大国であるアシェナードの王都でも名うての冒険者集団だった。

 恐らくは、王国全土でも屈指の冒険者PTの一つだろう。

 黄金の剣の6人は、揃いも揃って英雄であり、勇者と呼ばれるにふさわしい領域の力量の持ち主と言われている。

 それはそうだ。人の人生の何倍も生きれば、凡人だって一角の域に達する。

 全員、経験値だけならちょっとした英雄並に違いない。


 黄金の剣には、もう一つの特徴がある。

 全員が女性であり、同時に信じられないほどの美貌の持ち主なのだ。


 その力量と美貌から、黄金の剣を傘下に組み入れようと動いた貴族や同盟を求めたクランは少なくない。

 中には、黄金の剣を越える英雄的冒険者や王国屈指の大貴族の勧誘も在ったが、誰に勧誘されようが、或いは誰が志願しようが黄金の剣は拒んできた。

 その孤高のチームが、何故か、農村から出てきたばかりの平凡な小僧を強引に仲間に引き入れようとしていた。


 酒場にいる男たちの嫉妬の宿った視線がわたしの背に集中していた。

 生きた心地がしない。

「お前は、一人で冒険者になるつもりだったのだろうが、それは許さぬ」女神官が言った。

「然り。『我ら』を途切れさせる訳にはいかないからな」女騎士が肯いている。


「なんの権利があって、わたしの自由意志を阻害する?」

 つい不機嫌そうな口調でそう吐き捨てると、豪奢な服装の錬金術師が真面目な口調で言い返してきた。

「心配するのは当たり前だろう!我らとお前は他人ではないのだ!」


 言うに事欠いてとんでもないことを口走りやがった。この俺めが!

「ばっ、おま……この糞野郎。」

 わたしは今、正に凄まじい負の念を物理で感じた。

 先刻までの比ではない。本当の殺気まで入り混じって首筋の産毛をちりちりと逆立てている。

 言ってから、6周目のわたしも不味いと気づいたのだろう。

 やっちまったーと言う感じで表情を強張らせている。


 周囲を取り囲む人ごみから、幼馴染のシーラが進み出てきた。

 可愛い子だ。互いに憎からず思っているのは感じるのだが、どうにも一歩を踏み出せずにいる。

 妻帯したと言っても、それは前世の話だ。現世の私は、いまだにピュアなのだ。

「あ、貴女はシド君とどういう関係なんですか!」

 シドは今回の私の名前である。両親から付けて貰った大切な名前だ。

「……そ、そ、それはだな」

 狼狽している錬金術師のルーラ。

 6周目では、生真面目な研究バカだったから、あまり口が廻らないのだろう。

 代わりに口から生まれたような人生を過ごした5周目のわたしが進み出てきた。

 わたしの肩に手を廻すと、艶冶な微笑みを浮かべてみせた。

「切っても切れぬ仲よ。もはやお互いで知らぬことは何ひとつない」

 言ってくすくすと笑う。

「止めろ」

「つれない男よ。わらわ全員が、こうもお主を想っておると言うに」

 わたしは天を仰いだ。後ろの方で幼馴染が床にひっくり返る音がした。


「……ハーレム」

「あの歳で……」

「きっと持ち物が」

 周囲でざわめきが大きくなる。

 好奇心や戸惑いの囁き。羨望と憧れの眼差しを向けてくる男たち。

 おい、それは勘違いだぞ。こいつら全員、わたしなんだぞ。


 冒険者の中から一人の騎士が進み出てきた。

 美丈夫だった。だが、憤怒の形相を浮かべている。

 鎧には、王立騎士団の紋章を付けている。

「ルーラ。なぜだ!なぜ!?」

 聞かれた女魔術師が、堂々と胸を張った。

「血よりも濃い魂の繋がりゆえ」


「こ、この冴えない小僧が!?

 頭も悪そうで、性根も捻くれてそうなこんな小僧の何処がいい?!」

 騎士の言葉に黄金の剣全員が怒気を発っした。


 わたしを愛してるからじゃない。

 自分の悪口を聞かされて愉快になる奴はいない。

 いや、愛してると言えば愛してるのか。自分だもん。


「さあ、冒険に行こうぞ」

 うきうきした様子の女騎士がわたしの襟を掴んでひょいと持ち上げた。


「待て!わたしは駆け出しなんだぞ?」慌てて喚いた。

「安心しろ。トロルが出ようが、ヒュドラが出ようが、我らの敵ではない。

 我らなら大抵の悪は倒せるぞ!守ってやろう!」

「大抵じゃない悪が出たらどうするのだ」

「ドラゴンや巨人が出ても逃げられる!」


 わたしは、自分の力で冒険したいんだ!

 暴れるが英雄級の冒険者の腕力に敵うはずもない。


 同じ村から出てきた連中が怨みがましい目で見ている。

「な、なんでお前が黄金の剣にスカウトされてるんだよ!」

 仲の悪かった餓鬼大将が喚いていた。うるさい。


「さあ、鍛えてやるぞ」

「出来れば一芸特化の方が良いな」

「おお、獲物は弓か。得意な奴が少ないからな。よいぞ!実に良い!」

「なに、時間は幾らでもある。さあ、冒険しようぞ」

「魔力も鍛えなければな」

「薬についても思い出してもらうぞ。新しいレシピも在る故な」


 一緒に出てきた幼馴染が涙目でこっちを見てる。はなせぇえ







※時間と共に増えるんやな


この後、幼馴染と滅茶苦茶結婚した



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― 新着の感想 ―
[一言] ギーネさんのお話が完結したら、7週目を連載してほしいなと思いました(小並感)
[一言] あれだろ、1周カウントが進むごとに敵の耐久と火力が1.8倍くらいになってくんだろ。俺も灰の人の一人だからな、わかるぞ(7週目の某長子とかいう化け物にぶっ殺されながら)
[良い点] 転生というシステムを逆手にとった発想が斬新でした。この手の話だと(自分が二人いる)同属嫌悪で大抵バッドエンドになりますが、優しい世界で最後まで楽しく読めました。 [気になる点] 自分の生ま…
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