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一月某日深夜の出来事

作者: 水色アイス

昔高校の心理学の授業で、将来子供が出来たらというテーマで手紙を書きました。

私はそこに、

「生きていてくれるだけで嬉しいんだよ

こうなってほしい、とかはないから、ただあなたらしく、生きていてくれたら、とっても幸せだよ」

というようなことを書きました。

その時大好きで、色々お世話になったOBの先輩に言ってもらったような言葉。

先生はそれを見て、涙が出そうになりました、と、コメントのメモを書いてくれました。


ですが、どうでしょう。

ただ生きているだけという状況を、他人は、世界は、許してくれません。

存在しているだけでいいんだよとは、誰も言ってくれません。

それどころか、ただ生きているだけなら邪魔だから、さっさと死んでしまえとでも言っているような気持ちさえします。


ただ生きているだけじゃ、存在してるだけじゃ、ダメなんだ。

どうしてあの時先生は、涙が出そうになったと書いたんだろう。

私はOBの先輩に言われたそのような言葉で、なんとなく希望が見えたり、安心したりしてしまっていたけれど、それは果たして。

そんな言葉、ただの気休めにしかすぎなかったんじゃないか。

現に私は、ただ生きてしまっているだけで、誰からも必要とされてはいない。

表立って邪険にされることもまだないにしろ、両手を広げて歓迎してくれる人ももちろんいない。

いるわけがない。

生きているだけの存在は、ただ邪魔なだけだから。


音楽がないと、眠れなくなりました。

寂しいから。


私は多分、よく分からないけれど、みんなみたいな、普通の幸せなんて、味わうことはできないんじゃないかなと思いました。

いつだって、破綻してしまいましたので。


例外にもれず。

いつでも。

相手が壊さないときは、自分から壊しにいって、全部、崩してしまいましたから。

自分でも、そうしたいわけじゃないと思うのに、そうしてしまうのです。

そうしながら、

「ああどうしていつも、こんなふうにしてしまうんだろう」

って、心の中はどうしようもなくぐちゃぐちゃになってしまいます。


もっとみんなみたいに、普通にすることができたら、って、思います。

なん度も繰り返すものだから、なんだか私は、頭が少しおかしいのかななどと、疑わずにいられなくなってしまいます。


みんな最後には私のことを嫌いになるんだろうなと。


例えば待ち合わせの時間に相手が来なかったとして、狼狽することよりも先に、本当に約束したのかな、と、自分の記憶を疑ってしまう。

相手を心配して待つことよりも、気にしないふりをして、のんきに構えてしまう。

ドタキャンされて、当然の存在だと思っているから。

相手を心配する資格も、悲しがる資格もないと思っている。


それから、よく分からないけれど、涙がよく出る。

何かにつけてよく出る。

そのくせ、よく上機嫌になる。

要するに、気分の浮き沈みが、ひどく激しい。


とても、疲れてしまいました。


高校の時は、生きているだけでも、罪悪感はありませんでした。

大きくなればなるほど、生きていることに対する罪悪感は募るばかりでした。

関わる人に申し訳が立たないな、と。

誰かと一緒にいたいくせに、自分から壊しにいきます。

どうせ最終的には嫌われると思って疑わないので、時折とても悲しくなります。

こんなものは茶番にすぎないのにな、と。

ふとした拍子に、笑ってる私を俯瞰して、ああ何笑ってんだよ、と、自責の念にかられます。

それを他人に言っては、もっと自責や罪悪感が深まるので言えないけれど、そうなったら、もう笑えなくて、笑わないのに存在してることがとても申し訳なくて、存在ごと、消えてしまいたくなります。

それはもう、良くあります。


笑う資格など、いらなかったのに、ただ生きているだけでは、笑う資格はないと、私は自分自身で決めつけていました。


誰かに話をしたいなと思いました。

誰かと会ったところで、こんなこと、話せやしないから、取り繕って嘘ついて、今よりもっと孤独で寂しくなることが容易に想像できました。

どうしようもないやと思いました。

どうしようもないんだな、と、改めて自覚をしました。


高校の時は、生きているだけで素晴らしい、と、本気で思っていました。

そう言われて、とても、救われましたから。

きっとOBの先輩は、今の私にはそんな優しい言葉はかけてくれないでしょう。

高校生で、学生であるっていう条件を満たしていたから、あんな言葉をかけてくれただけ。


心の奥底深くから感じた幸せも、終わりが来ました。

また同じ幸せを築けるとは、思えませんでした。

そんなの、嘘っぱちだと思いました。


だから私は、私は、一生こうやって、夜になったら音楽を流して、出かけてる時も、イヤホンが手放せなくて、静かなことに耐えられなくて、混み合った電車で触れ合う温もりに安心して、そうやって生きていかなくちゃいけないんだろうなと思いました。

ひどく、暗い気持ちでしたから。


本当は、腕でも切ってすっきりしたかったです。

傷を見せて、誰かが泣いてくれたのは初めてでした。

あまり泣かない人でしたから、泣いてくれたのにはびっくりして、でも、嬉しいとも感じました。

あと少しだけ、罰当たりに、なんて勝手なんだろう、とも。


腕を切ると、とても気持ちがスッキリしました。

すうって、赤い線ができて、ぷくーって、赤い玉ができて、重みに耐えきれずにいくつもの線になって落ちてゆくそれを見るのは、とても気持ちがよかったです。

そうして切った後は、少しだけ、気を張れます。

上手に自分をできる気がしたし、実際上手に自分をできていたと思います。

また自分を上手にできなくなったら、また切って、少しだけ自分に罰を与えて、それで気持ちがスッキリして、気を張れて、私は私を頑張れます。

そうすると、なんだか全てのことがうまくいくような気がしましたから。


だから、できるだけ傷は誰にも見せたくなくて、でも、仲のいい子には見せたかった。

付き合っている子にも、見せたいなと思っていました。

いや、ひょっとしたら、仲のよくない子たちにも、見せたかったのかもしれません。

それで少し気を遣ってもらったり、頑張ってるんだねって、声をかけて欲しかったのかもしれません。

私は頑張ってるんだよ、って、誰かに知って欲しかったのかもしれません。

頑張らなくていいんだよと言われても、私は私を許してはいないから、その優しさに、その暖かさにただ溺れてみたかっただけなのかもしれません。

そうしたら、また頑張れる気がするから、などと並べ立てて。


切りたいですよ、私は。

泣かれるのは困るけれど、頑張ってるんだよって、知って欲しいし、なにより、私を上手にできるようにするためにも、私は切らなければならないと思っていました。

よく切れるカミソリがいいなと考えました。

私は、一生前に感じたみたいな幸せの中で生きるなんて、出来っこないと思っていましたから。


人の心は、変わりますから。

だから、ひょっとしたら、生きていてくれるだけでいいのよと言っていた人が、突然、役立たずの癖に生きてるんじゃないと罵倒するようなことだって、ないとは言い切れないと思っていました。


生きているだけじゃ、生きたいちゃいけないんです。

少なくとも今さっきの私は、そう思っていました。


最近、音楽がないと眠れなくなってしまいました。

寂しいから。

声に、隣にいて欲しいから。

私に、声をかけていて欲しいから。


なんだか、もう死んでしまいたいなと、思わないわけではないです。

とても眠たいし、とても寂しいし。

罪悪感と共に生きるのには、1日1日が大変に長すぎました。

楽になりたい、逃げてしまいたかったんです。

何とも、向き合いたくなかった。


時の流れは残酷で、大好きだった人たちは、簡単に変わってしまいました。

変わっていないのは、私だけなんじゃないかしらと思うくらいに。

最近は私を上手にできないから、人に会うのもとても億劫に感じていました。

全部のことが、嘘に見えてしまいますから。


孤独です。

寂しいです。

そんなものですか?


永遠はないです。

好きは曖昧です。

人はとても怖い生き物です。


溢れすぎている。

僕はもう、ここから逃げ出したいです。

人が怖い。

人が好き。

人が怖い。

仲良くしたい。


仕方がないから、もう今夜は眠ってしまったほうがいいよ、と、××は言いました。

だからそれに従って、僕も休むことにしました。

眠っている間は、全てのことから逃げていられる。

朝が怖いから、少し眠ることも怖いけれど。


大丈夫、明日起きた時には、もう全てが終わっているから。


そうか。

僕は納得しました。

姿の見えない××の声は、僕をいやに安心させましたから。

だから、もう、眠ろうと、僕は、久しぶりに、笑顔になりました。

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