9 素敵なギルドマスター
改めて水筒の水を飲むと、少し気力が湧いてきた。
腰を上げて倒したオークをマジックバッグに収納していく。やれやれ200頭ともなるとこれだけで大仕事だ。
一時間以上かかってようやく作業が終了した。掘っ立て小屋のようなものがあるので中を覗いてみると、どう見ても人骨のような物がある。俺も一歩間違ったらああなっていたんだと思うとぞっとした。
亡くなった人のことを思って合掌。
あとはオークキングが持っていた大剣も持って帰るか。
一通り見渡してみて、もう何もないことを確認してから集落を後にする。今から戻ればギリギリで日が暮れないうちに街に帰り着くからな。
こうして俺はオークの集落を後にした。
森の中は慎重に歩いたが、街道に出てからはかなり早足で歩いたおかげで夕暮れ前に街に戻ることが出来た。
そのまま宿に直行したかったが、疲れた体でギルドに向かう。本当に帰り道はきつかったよ。
「おう! 戻ったか!」
早速俺の姿を発見したリアル仁王様が声をかけてきた。
「で、どうだった?」
どうだったと言われてもなあ・・・報告しにくいなあ・・・ええい仕方ない!
「えーっとですね・・・思いがけないことになってしまいまして」
俺は一通りの経過を報告した。それを黙って聞いていたフォルスさんは急に大声を出した。
「この大バカヤローが!! だからあれほど注意しろと言っただろうが!」
この人怒ると本当に怖い、ヤ○ザの事務所に一人で放り込まれた方がましに思える。
「だがな・・・よく生きて帰ってきた。褒めてやる」
今度は優しい声で俺に語りかけるように言ってくれた。きっと心配していたんだよな・・・見かけと違って本当にいい人だ。
「で、持ち帰ったオークキングを見せてみろ。ああ、ここは狭いから裏に来い」
そう言って俺は解体場に案内された。
「では出しますね」
俺はそう言ってマジックバッグからオークキングを取り出した。
「こいつは凄いな! 紛れもないオークキングだ!! お前こいつをどうやって倒したんだ?」
俺はやつとの戦いを傷跡を指し示しながら説明した。そして最後に心から感謝の気持ちをこめて言った。
「この化け物に勝てたのは、フォルスさんのお陰です。ありがとうございました!」
フォルスさん照れているよ! 顔をポリポリ掻いたりして・・・かわいい所もあるんだな、おっさんだけど。
「いいかリョウタ、今回はうまくいったがこの次がうまくいくとは限らない。それが冒険者だということをよく覚えておけ。あと、いつでも鍛えてやるからまた来いよ!」
「はい、わかりました」
俺はフォルスさんの言葉を胸に刻んで返事をした。この人の言うことは重みがある。
「よし! 今日はもう遅いから、こいつはしまって明日また来い。今夜はゆっくり休め」
その言葉に見送られて、俺は宿に向かった。本当に今日は疲れたな、ぐっすりと寝よう。
翌朝、早速ギルドに向かう。
ドアを開けて中に入ろうとしたらいきなり腕をつかまれた。フォルスさん、何も入り口で張り込んでいることないでしょう! 俺は逃げも隠れもしませんよ!
「リョウタ、ちょっと上に来い!」
腕を掴まれたまま、連行される。一体どこに連れて行く気なんだ?
フォルスさんは一番奥の部屋のドアをノックして、中から返事があるとドアを開けた。
「ギルドマスター、連れて来ました。こいつがリョウタです」
えっ、ギルドマスター? ここの一番偉い人でしょう・・・その人がFランクの俺に何の用があるんだ?
中に入って俺は二度びっくりした。奥のデスクに座っていたのはあのチクビちゃんだったのだ。
えーっ! これってどういうこと? 本当にチクビちゃんがギルドマスターなの?
「リョウタさんどうぞお掛けください」
進められるままに俺はソファーに腰を下ろす。隣にフォルスさんも座った。
「登録のとき以来二度目になるわね、私がここモルテナの街のギルドマスター、テイ・クービーよ」
何だ、やっぱりチクビちゃんで合ってたのか、それより俺のことを覚えていてくれたのは嬉しいな。
「よろしくお願いします、リョウタです」
俺はそう言って頭を下げた。
ん! 今一瞬チクビちゃんの短めのスカートの足の間から水色の物が見えたぞ。この人隙が多すぎないか?
「リョウタさん、オークの集落を全滅させたのは本当ですか?」
にこやかな表情で聞いてくるチクビちゃん、まいったなー・・・また怒られるのかなあ。
「はい、調査に行ってつい全滅させてしまいました」
俺は正直にそう答えた。
「そうですか、ではあなたは今日からDランクに昇格です」
へっ? Dランク? なんだそれ、俺まだ冒険者になって5日目ですけど・・・・・・
「単独でオークの集落を全滅させるような優秀な人材を、薬草採りなどに使う程うちのギルドは人が余っていませんからね。これからたくさん働いてもらいますよ」
そう言って再びにっこりと笑う、言っていることは厳しいけどなあ。
「はい、ありがとうございます」
「おや、あまり嬉しくなさそうね」
怪訝な表情で俺の事を見るチクビちゃん。
「いえ違うんです、ギルドマスターっていうから白髪の小父さんを想像していたら、クービーさんがあんまり若くて奇麗だったので、びっくりしているんです」
俺は正直に答えた。
「まあ、若くて奇麗なんて嬉しい事を言ってくれるわね。こう見えてもそこのフォルスよりもずっと年上よ」
チクビちゃんが笑いながら答える。
そうだ! ついでに気になっていたことをきいてみよう。
「フォルスさんっていくつなんですか?」
なんだ急にといった顔でフォルスさんは俺のほうを向く。
「俺は26歳だがどうかしたか?」
「ええーーー!!」
本当にたまげたよ! おっさんだと思っていたら26歳だって。
「お前失礼なことを考えていないか?」
ギロリと俺を睨むフォルスさん、その顔はやめてください。
その様子を面白そうに見ていたチクビちゃんが発言する。
「私はね、ハーフエルフだから見かけと実際の年が違うのよ。もう200歳以上は数えるのも止めているけどね」
ひょえー! ハーフエルフって・・・やっぱり異世界だ! 200歳以上ってそれにしても奇麗だよな。
「オークの集落に関する討伐報酬は下のカウンターで受け取って頂戴。買取についてはフォルスが案内するわ。あなたには期待しているから今後も頑張ってね!」
フォルスさんと一緒に昨日の解体場に出向いて、オークキングを取り出す。このほかにオークが200体以上いるって話したら、フォルスさんがびっくりしていた。何がって俺のマジックバッグの容量にだ。
いっぺんには無理なので、20頭買取をお願いしてカウンターに寄ると金貨が入ったズッシリと重たい袋を渡された。
これは集落の討伐報酬で、金貨80枚だそうだ。買い取り代金は今から査定をして明日の支払いになるとの事だった。
カウンターのお局様から手渡されたギルドカ-ドには、大きく『D』の文字がある。
いいのかなあ? と思いつつ裏面を確認しようと魔力を流したら、レベルが43になっていた。
一日で12もあがったよ!
あと剣術スキルの欄に『フェイント』『駆け引き』『騙し討ち』って小さく書いてある。どれもセコイ技だなあ・・・でも、昨日のオークキングとの戦いで一番役立ったし。
火属性魔法にも『ロケット花火乱れ打ち』と書いてあった。もう少しカッコいいネーミングは出来ないのかと突っ込んでやった。
ともあれ、これで当分金欠ともおさらばだし、今日はゆっくり休むとしよう。
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現在連載中の『異世界にいったら、能力を1000分の1にされました ~『破王』蹂躙の章~』(n2600dj)もどうぞ読んでみてください。