8 オークの集落での死闘
藪の中に身を潜めて、オークの集落の様子を窺う。このまま戻っても依頼は達成なのだが、出来るだけ詳しい情報があったほうがいいからな。
ここから見る限り200頭ぐらいいるようだ。フォルスさんが言っていたオークキングってやつの存在が中々確認できない。どんなやつなんだろう? 『見れば分かる』って言ってたけど・・・
集落をちょっとだけ違う角度から見ようと少し足を動かしたときに、下に落ちていた木の枝を踏ん付けてしまった。
『バキッ』
周囲に響く予想外に大きな音。その音に気がついた一頭のオークがこちらに近づいてくる。
(やばい! 見つかる!!)
心臓が締め上げられるような緊張に包まれる。口の中はカラカラだ。
(どうする!?)
このまま踵を返して逃げるか、退却しながら迎え撃つか、それともこちらから突撃するか、考える時間は残っていない。オークはもう20メートル先まで来ている。
やつらは匂いに敏感だとフォルスさんが言ってたな。ここまで接近すれば、いつ気が付かれてもおかしくない。
ここで俺は覚悟を決めた。こちらから攻め込んでやる! どう考えてもこの数を相手に逃げ切れるとは思えない。森を走っているときに一回でも転んだらそこでおしまいだ。
ならば攻撃あるのみ! いざとなったら最終兵器を使う。死にそうな目にあうが、死ぬよりはマシだ。最後っ屁っていうやつだな。
俺は音を立てないように剣を抜いて、左手には炎の魔法を発動する。
手始めに接近してくるやつの額をぶち抜いて、藪から躍り出た。
でかい木の幹を背にして、青い炎を打ち出す・・・・・・だめだ! これでは手数が足りない!!なんかもっと連射のロケット花火みたいに飛んでいかないか。
そう思った瞬間、指から『ヒュー』と音を立てて次々に炎が打ち出されていく。
やった! さっきよりも全然早い。それにこの『ヒュー』って言う効果音がオーク達に恐怖感を与えているようで、突進しようとする勢いが鈍っている。
ロケット花火型火炎弾は次々にオークに命中して、やつらを倒していった。狙う必要がないぐらい密集しているから打てば当たる。
しかし、やつらも馬鹿ではない。密集していてはいい的になることがわかって、今度は散開してこちらを包囲しようと動き始める。
まずい! 端から端まで距離がありすぎて、やつらの接近を止めきれない。どうする!? まだ倒したのは20頭ぐらいだ。
冷や汗が噴き出す。落ち着け俺、いざとなればあれを発動すればいいんだ。俺も死ぬかもしれないが、やつらは皆殺しにできるだろう。
そう考えることで、頭がクリアーになる。落ち着いて考えることで俺は大事なことに気がついた。
待てよ! 指は10本あるぞ!! すべては無理にしても、発射する数を増やすことは可能だよな。
左手で持っていた剣を地面に突き刺して、人差し指に魔力を集める。
「出た!」
ロケット花火が両手から発射されていく。これで俺を包囲しようとする両翼を押さえ込む事が出来た。次はさらに二倍! 三倍! 人差し指に加えて、中指からも発射を開始! さらに薬指も追加する。
一秒間に1本の指から一発ずつ、6本の指から計6発のロケット花火が飛び出していく。これはちょっとしたマシンガン並みだぞ!
ただ、よい事ばかりではない、俺の魔力が目に見えて減っていく。やつらが全滅するか俺の魔力が尽きるかの戦いになっている。
俺を包囲しようとしていたオークはバタバタと倒れる。逃げ出そうとするやつも出てきたが、背後から襲い掛かる火炎弾に焼かれていった。
何とか魔力が尽きる前に全て倒しきった。我ながら無茶をしたものだ、冒険者になって一週間もたっていない初心者がやる仕事じゃないよこれ!
まあ、もう少しだけって欲張った俺が悪いんだけど・・・あと何発か打つくらいは出来そうだけど、魔力はほぼ空っぽだな。
その場に座り込んでマジックバッグから水筒を取り出して、水を一口飲んだとき突然咆哮が響き渡る。
「グオオーーーーー!!」
何だと思って顔を上げると、その辺に転がっているオークの倍以上ある巨大なやつが俺の身長くらいある大剣を手にして現れた。
あいつがオークキングか! なるほどフォルスさんが言う通り見ればわかるな。これは化け物だ!
魔力はほとんどないから、後はこいつが頼りだ。俺は地面に突き刺しておいた剣を手に立ち上がる。
巨体を怒りに震わせて、ゆっくりと近付いてくるオークキング。あの両手持ちの大剣はかなりヤバそうだな。体格もフォルスさんを遥かに上回っているし。
冷静に攻略法を組み立てる、とにかくまともにぶつかっては勝負にならない。
よし、これでいこう!
俺はやつと同じペースで歩き出した。
相対距離は30メートル、一歩ずつその距離は縮まっていく。心臓が早鐘のように鳴り続けるが、表情には出さないように無理やりニヤリと笑って挑発した。
(まだだ、あと10歩)
やつがいつ飛び掛ってくるかわからない恐怖に耐えて、距離を縮めていく。
(今だ!!)
両手で持っていた剣から左手を離して火炎弾を発射、狙いは体の正面の一番面積が大きいところ。
俺の指から射出された青い炎は狙い通りに飛んでいった。
しかし、やつは自分目掛けて飛んだ来た火炎弾を剣で斬りやがった。キングの前で斬られた青い炎が広がり一瞬その視界を妨げる。
そこに二発目が襲い掛かた。一発目は対応されることを見越して囮にしておいたのだ。
不十分な視界の中でも気配を察知したやつは咄嗟に身を捻って避けようとするが、回避は間に合わず左肩に命中してその肉を焦がす。
「ブモーーーー!!」
今度は悲鳴に近い咆哮だ、豚は豚らしく『ブヒーと鳴いとけ!』と心の中で突っ込んでやった。どうやら攻撃が通じたことで余裕が出てきた。
左手か使えなくなったので、大剣を右手一本で振りかぶって俺に切りかかるが、遅い! それにいくら怪力でも剣を引き戻すのが遅れる。
少し距離をとって火炎弾を打つフェイントを入れると、やつはピクリと反応して体を低くして避けようとする。このとき右手に持っている剣が僅かに下がることを俺は見逃さなかった。
あの体勢から攻撃するとしたら、切り上げか斬り払いしかない。俺は覚悟を決めて自分から踏み込んだ。
前に出ながら一発だけ火炎弾を放つ。予想通りにやつは体を沈めてこれを避けた。後は横から飛んで来る大剣に備えて柄をしっかりと握り締めて、さらに前進をする。
(来た!!)
左から俺の体を薙ぐように振るわれたやつの剣を渾身の力で下から撥ね上げる。片手持ちの分僅かに俺の剣の勢いが上回って、やつの剣を大きく撥ね上げた。
すぐに剣を引き戻してすれ違いざまに、左膝の少し上に剣を叩き込む。止めを刺す目的ではない、やつの動きを止める目的だ。
それほど深く入らなかったので大きく切れたわけではないが、それでもやつは足を引き摺って満足に動けなくなった。
あとは左に左にと回り込みながら、嫌がらせのような攻撃を繰り返していく。やつの意識を体の左側に集中させておいてから、俺は剣道をやっていた時最も得意としていた攻撃をお見舞いする。
左に踏み込むと見せてその踏み込みをワンテンポ遅らせて、大剣が通り過ぎるのを待つ。
そして渾身の一撃。
「小手ーーーー!!」
俺の剣がやつの剣を持つ手首を見事に切り落とした。
ついに丸腰になったやつの腹に剣を突き込む。
そして・・・
「これで止めだーー!!」
信じられないという表情のオークキングを見上げる位置にいる俺は、そのまま左手の人差し指をやつの喉元に向けて、残りの魔力を全てつぎ込んだ火炎弾を放った。
火炎弾は喉から後頭部を突き抜けていき、やつは声も上げないで後ろに倒れた。
「やったーー! ついに倒したぞ!!」
俺はその場にへたり込む。もうこれ以上戦えない。雑魚が一匹出てきただけでも命が危うい。
そんな極限まで追い込まれたオークキングとの一戦だった。