7 天使の笑顔と新たな依頼
朝起きてみると、体のあちこちが痛む。昨日剣の訓練でフォルスさんに散々打ち据えられたからなぁ。服を脱いで体を見てみると痣になっている。
だがこのぐらいはどうってことはない。痣ができたくらいで人間は死ぬことはないんだ。おとといのダメージにに比べれば、こんなの怪我のうちに入らない。
朝食をとって早速ギルドに向かう。宿を出たところで前方から見覚えのあるシスターさんが、こちらに向かって歩いた来た。
なんと、アンジェラさんではありませんか! 買い物籠を持っているところを見ると、孤児院の買出しかな? まだこちらに気がついていない彼女に声をかける。
「アンジェラさん、おはようございます!」
急に声をかけられて最初は驚いた顔をしていたが、俺を見てにっこりと微笑んでくれた。
「リョウタさん、おはようございます。これからお出かけですか?」
この笑顔は、マジで天使! 額に入れて永久保存しておきたいね。
「はい、これから依頼を受けにギルドに行こうかと思って。アンジェラさんは、お買い物ですか?」
どうだ! 童貞の俺でもこのくらいの会話は出来るのだ!!
「ええ、朝ごはんの材料が少し足りなくなってしまったので、お野菜を買いに来たんですよ」
なんだこれ! 天使の声に聞き惚れてしまいそうになるぞ。
「そうですか、朝早くから大変ですね」
俺は出来るだけ爽やかな表情をしようと努力するが、昔から変に意識すると表情がエロくなるといわれていた。
「まあリョウタさんったら、おかしな顔をされて。ふふふ」
口元を手で隠して小声で笑っているアンジェラさん。マジ可愛いッス。
「あらいけない。子供達が待っていますので、これで失礼しますね。リョウタさん、今度教会まで遊びに来てください。いつでも美味しいポンのジュースをご馳走いたします」
うおおーーー!! アンジェラさんからの思わぬお誘い!
「はい、近いうちに是非行かせて頂きます」
この答えでいいのかなと思いつつ、アンジェラさんの顔を見るとその表情がぱっと明るくなる。
「本当ですか! 絶対約束ですよ!! いつでもお待ちしていますから、なるべく早いうちにお越しくださいね」
これはもしかして脈があるって事だろうか? 何しろ俺にはそういう経験がゼロなので、どう判断していいか分からない。
「はい、近いうちに必ず顔を出しますよ」
俺は完全に挙動不審になっていることを自覚しつつ、ようやくそれだけ言うことが出来た。
「楽しみにしています。それでは今日は失礼しますね。リョウタさん、お仕事頑張ってくださいね」
そう言ってアンジェラさんはお辞儀をして去っていった。しかし、10メートルほど進んだところでこちらを振り返って手を振ってくれる。俺もそれに釣られて手を振り返した。
あの笑顔は、もはや犯罪レベルで可愛いよなー。ボーっとして彼女を見送る俺、いかんいかん! これから依頼を受けるんだった。こんなニヤけた顔をしていてはいざという時に命にかかわる。
改めて気を引き締めてギルドの入り口をくぐる。そこにはフォルスさんが待ち構えていた。天使の笑顔を見た後だけに、この顔は門前の仁王像以上の迫力があるよ!
「よう! リョウタ、今日は早いな! お前の腕を見込んで受けてもらいたい依頼があるんだが、話しだけでも聞いてみないか?」
リアル仁王様が笑っているよ! いやな予感しかしないが、懐具合が寂しいこともあって話を聞いてみることにした。
「実はな、門を出て3時間のところにある森でオークの目撃例がいくつも報告されている。ひょっとしたら集落が出来ているかもしれないので、その調査依頼だ」
オークって確か豚が二本足で歩いているようなやつだよな。
「俺まだFランクなんですけど、いいんですか?」
依頼の難易度がよく分からないし、俺みたいな初心者でも出来るのか聞いてみないと。
「本来ならDランクの冒険者に受注させる依頼なんだが、あいにく適当なやつが出払っていてな。お前ならFランクでも剣の腕は立つし、魔法も使えるんだろう」
ずいぶん俺のことを見込んでくれているな。でも報酬の金貨2枚というのは魅力的だし、ここはひとつ受けてみるか。
「分かりました、やってみましょう」
そういって依頼を受けた俺は、今森の中を歩いている。道を見失わないように木に目印をつけながら、注意深く歩くこと40分・・・・・・いた!! オークが二頭で歩いている。
討伐依頼ならば後ろから切りかかってもいいのだが、調査なのでやつらに気づかれないように後をつける。
30メートルくらい後ろからつけていくと、次々に仲間と合流して今は13頭の群れになっている。
このぐらいの数までならば、魔法で何とか片付けられると判断して、さらに尾行をしていくと急に後ろからオークの叫び声が上がった。
(しまった、見つかったか! 前方の群れに気を取られて、後ろの警戒が疎かになっていた)
叫び声を聞きつけた前方の群れが引き返してきて俺を包囲しようとするが、そのときには俺は魔法の発動を終えていた。
「さあ、喰らってみろ!」
指先から噴出している青い炎が一頭のオークの額に向かって飛んでいく。狙い通りに額に穴を開けてその内部を焼き尽くしていった。
なんか凄く威力が上がっている気がするぞ! 一瞬で倒してしまった。
俺は次々にオークに向かって青い炎を放っていく。
前方のオークの群れに魔法を放っているとき、後方から二頭のオークが棍棒を振り上げて襲い掛かってきた。足音が聞こえていたため、そちらも警戒していた俺はすぐに剣を引き抜く。
ザッシュ!!
棍棒による攻撃を右にかわした俺は、がら空きになった首を一気に刈りとった。血飛沫を上げて倒れるオーク。続く一頭も袈裟切りで仕留める。
やはり昨日のフォルスさんとの訓練が生きているなー。体の裁き方がまったく違うよ。
あっ、そうか!剣術のスキルを手に入れたことも大きいんだな。
後方から接近した二頭はこれで始末した。あとは前方の群れだと思って振り返ると、やつらはすでに逃走を図っている。
どうやら俺の魔法の威力に恐れを抱いて立ち向かう気力を失ったのだろう。
やつらの後をつけて行けば集落の位置もすぐに分かりそうだが、まずは倒したオークの回収をしよう。どうせ足跡や藪を掻き分けた跡が残っているだろうからな。
俺は倒れているオークの頭にマジックバッグの開口部を当てていく。すると、オークは吸い込まれるようにその中に消えていった。ここで倒した7体をすっかり収納してから、水を一口飲んで改めてやつらの痕跡を追う。
これだけ下草を踏みつけた跡があると追跡も楽だな。歩くこと30分、ついに集落を発見した!
木の陰に身を潜めて、俺はさてどうしようと思案するのであった。