2 いきなりの戦いと魔剣『フラガラッハ』
死にそうな目に遭ったが、何とか魔法は覚えた。これで戦う目途はついたぞ。
この他に覚えたい魔法はまだある。雷とか電気を扱えるような魔法なんか、かっこいいよな! レールガンとかすごい威力がありそうだし・・・・・・でも俺そういうやつの仕組みとかぜんぜん解らないわ。
これは今後の課題にしておこう。
そうだ、リュックの中身を確認してみよう。いいものが入っていると嬉しいけどな。それにしても随分年季が入ったリュックだよな、開け閉めの時はいちいち紐で縛るんかい。
ちょっと面倒だな、えーと、ここの紐を解いてっと・・・
中を覗いてみるが、何にも無い。いや、何も無いというよりはリュックの中が真っ暗で何も見えないと言った方が正しい。
何だよ期待したのになあ・・・かなり残念な気持ちでリュックを閉めようとした時に俺は思い出した。そうだよこの前読んだ小説で、何でもしまえる便利な鞄の話があったよな。マジックバッグだっけ?
目を閉じてリュックの中身を教えてくださいと念じてみると突然頭の中に目録のようなものが表示される。 えーとなになに、食料2日分、水筒、地図、金貨2枚と銀貨5枚、着替え(下着を含む)、寝袋、タオル、おやつ300円分、って遠足かい!
いかんいかん、突っ込んだら負けだ! それにしてもなかなかの品揃えじゃないか。必要最低限のものは入っているぞ。頭に浮かんだ目録から必要なものを選べば出て来るようだ。
ただ水筒はさっき溺れ掛けた悪夢を連想するなあ。一応水は自分で出せるけど、何かの時のために水を入れておくか。
こうして俺は中身を取り出すことに成功した。きちんとお願いすればマジックバッグ様は応えてくれる、なかなかいいやつだった。
折角用意してくれたんだから、地図でも見てみてみるか。今まで見てきた地図とは違って、手書きっぽい地図だ。縮尺とかも当てにならないけど、取り合えずこの地図にある町の方向に歩いてみよう。
2時間ほど歩いたところで一休みする。丁度いい感じの大きな石の上に腰掛けて、マジックバッグから食料を取り出す。
でもこの石はなんだろうな? 雑誌で見たストーンサークルみたいに大きな石の周囲を、小さな石で囲ってあるな。まあ、気にしてもしょうがないか。
固いパンと干し肉といういかにも旅の携行食だが、この際贅沢は言っていられない。水で流し込むように飲み込んで昼食を済ます。
街まであとどのくらいかかるのだろう? 今日中に着くといいな。
そんなことを呑気に考えていたとき、後ろに気配を感じて振り返ってみると、そこには背中からコウモリの様な翼を生やして、頭から角が伸びている異形の存在が立っていた。
「我の結界にうかうかと足を踏み込んだ愚かな存在め! せっかくだから我の糧にしてやる。ありがたく思え!」
そう言ってニヤリと笑みを浮かべている。
まずい、どうやらここは入ってはいけない場所のようだった。目の前に立っているのは、ひょっとして悪魔か魔族か?・・・どっちにしろヤバイ存在には変わりがない。
「この魔剣『フラガラッハ』の錆にしてくれよう。おとなしくその首を差し出せ!」
差し出せって言われて、『はいそうですか』なんて言える訳ないだろう! 俺は覚悟を決めて迎え撃つことにした。
剣はまだ覚束ないから、ここは魔法を使うことにしよう。接近されていない今のうちがいい。俺は右手の人差し指を突き出し魔法を発動する。
「火よ、いでよ!」
あれ? 出ないぞ! その代りに胸の辺りに違和感が発生する。これはもしや・・・・・・
ゲボッゲボッ・・・プーン
口から発生した激臭は俺の鼻腔とその異形の存在を直撃した。草原を仲良く転げまわる二人。
堪らん、さっきよりも臭いがきつくなっている気がするぞ。涙をボロボロ流しながら、俺は何とか立ち上がる。この臭いに慣れる事は恐らく一生無理な気がする。
ようやく涙が止まって悪魔みたいなやつをを見ると既に息絶えているようで、体がボロボロと崩れて最後には砂のようになった。
うーん、屁で殺されるなんて一番碌でもない死に方のような気がする。取り合えず合掌。
でもいったいこいつは何者だったんだ?
偉そうな話し方をしていたから、もしかして魔王か・・・・・・ないない、屁で倒された魔王なんているわけないよ!
それにしてもおかしい、火を出すつもりだったのに、何で屁が出たんだろう? 確かに『火よ、いでよ』と言った筈だ。
ここで俺はあることに思い至った。昔から 滑舌が悪いと言われていたんだっけ。
『ひ』と『へ』は確かに似ている。これからは明瞭な発音を心掛けないと、ひどい目に遭いそうだ。
確かやつは『魔剣フラガラッハ』って言っていたよな。手に取ってみると自分の剣よりもズシリとした手応えがある。こいつは貰っておこう。
なんか変なやつに襲われたけど、無事でよかった。早くここを離れよう!
ただこのときの俺は、この魔剣が元でとんでもないことに巻き込まれるその後の自分の運命を知らなかった。
それからしばらく歩くと、街道らしきところに出た。街道とは言っても、人が歩いて踏み固めただけのデコボコ道だ。雨でも降ろうものなら、ドロドロ道になることだろう。
それでも人がいる形跡があるのは、心強い。何人か旅をする人にも出会って街の位置を聞くこともできた。どうやら日のあるうちに到着できそうだ。
日が傾き始めるころにようやく街が見えてきた。ここまで延々草原と林しかなかったから、街が見えたときには感動した。
街の入り口に到着すると、そこそこの人数の人たちが列を作って待っている。並んでいる間に近くの人に聞いた話では、ここはモルテナの街だそうだ。そこそこの人口があるみたいで、必要な物は何でも揃うらしい。
列は進み、俺の順番がきた。門番の兵士が言うには、身分証明書がないと銀貨が2枚必要だそうだ。よかったよ、マジックバッグ様にお金が入っていて。
銀貨を支払い街に入る。結構賑わっているし、商店もたくさんある。門番に聞いたお薦めの宿は、門から100メートルほどの所にあって、すぐに見つけることが出来た。
今日はここでグッスリ休んで、明日からに備えよう。