17 レイド前日
昨日モルテナの街に『レイド』が宣言された。
郊外に出ていて冒険者達から、魔物の数が異常に増えているという報告が次々にもたらされたためだ。
街の人達は避難出来る人は荷物をまとめて、馬車で我先に町を脱出している。
街に残る人達は家屋を補強したり、ギルドや騎士団の号令の元で土嚢を積んだりして防御を固める。
城壁の上にはありったけの矢が運び込まれて、弓兵達が配置の確認をしていた。
城壁の手前には土塁が構築されて、まずはここで魔物の波を食い止める作戦だ。俺はこの土塁、つまり最前線で戦うことになっている。
これはチク・・・ではなくて、ギルドマスターからのたっての要請だ。違う言い方をすれば、フォルスさんの有無を言わせない強制でもある。
とにかく街を挙げて出来るだけの備えはしている。あとはみんなの頑張り次第だ。
見張りをしている者の報告では、あさっての午前中に魔物の第一波がやってくるだろうということなので、今日は教会へ出向くことにした。
アンジェラさんや子供達は避難をしないで全員残っているそうなので、さぞかし不安だろうと思い顔を出すことにした。
教会は多くの人達でごった返している。ここは避難所になっており、お年寄りや小さな子供の姿が目立つ。
この人達の命が俺達にかかっているのかと思うと、変な緊張感に包まれてしまうな。日本にいた時はもちろん平和だったから、自分が戦いの最前線に行くなんて事考えもしなかった。
自衛隊の皆さん、どうもありがとうございました。
とは言っても、自分で希望してこの世界にやってきたわけだから、二度目の人生をここで終わらせるわけにはいかない。まだ童貞だし・・・・・・
孤児院に入ると、早速子供達の熱い歓迎を受けた。彼らも現在の状況がわかっているが『お兄ちゃんが必ずやっつけてくれるよ!』と俺に対して絶大な信頼を寄せてくれる。
うーん・・・・・・信頼が重い。
でもこの子達の笑顔を守るために戦うんだからな、もうすでに覚悟は決まったいるんだ!
彼らを安心させるように『全部やっつけるから任せておけ!』と胸を張った。ちょっとやせ我慢が入っているけど、俺が不安な顔をするわけにいかない。
あまり長居をするわけにもいかないので帰ろうとしたときに、廊下でアンジェラさんに出会った。
「リョウタさん、やはり行かれるのですか?」
はい、最前線送りですよ! でも心配するからそんな事は言えない。
「いってきます、必ず無事に帰ってきますから待っていてください」
しまった! これって死亡フラグだったか? でも言ってしまったものは仕方ない。
「必ずご無事でお戻りください。お待ち申し上げています。もしよかったらこれをお持ちください」
そう言ってアンジェラさんは、右手に巻いてあった祈り紐を解いて俺の右手に巻く。
「ありがとうございます。アンジェラさんのおかげで、勇気が出てきました」
そうお礼を言って俺は教会を後にした。これ以上彼女の顔を見ていると何時までもここに居たくなってしまうから、振り返りもしないで外に出た。
それにアンジェラさん今にも泣き出しそうな顔だったし・・・・・・最後に涙をこらえて『ご武運を』って小さな声で言ってくれたが、俺はその言葉には何も答えなかった。
翌朝。
早朝から俺は魔物が押し寄せてくる南門の前に待機している。チク・・・じゃなくてギルドマスターとフォルスさんがここで陣頭指揮を執っていて、冒険者が200人と騎士団が500人で守備を固める。
城壁の前には三重に土塁が築かれていて、その間隔は約50メートル。
もし、前線の土塁が破られたら後退して手前の土塁を新たな防御陣地にして少しでも魔物に消耗を強いる作戦だ。
もちろん、城壁が最終防御ラインになる。ここを破られれば街は終わる。
俺は土塁の手前で自分の装備を確認している。マジックバッグからフラガラッハとビームセイバーを取り出して腰に差す。
今回は一切の出し惜しみはしないつもりだ。いざとなったらあれも使う。
それからギルドから支給された、マジックポーションが10本。これ飲んだことがないから、どのくらい効き目があるかわからないけど、ありがたくいただいておこう。
そのほか携行食や水筒などはマジックバッグに入れておく。
一通り装備の確認が終わったら、土塁の上に登って遠くを眺めてみる。まだ魔物が押し寄せてくるような気配はないが、鳥たちがいつもとは違う声で鳴いているのがちょっと不気味だ。
天気はいい、それほど暑くもないのでこんなことがなければピクニックにでも行きたいような陽気だ。
フォルスさんによる事前の説明では、最初のうちは動きの早い小型の魔物が来て、それから徐々に大型の討伐ランクが高い魔物がやってくるそうだ。
はじめのうちは剣や弓で倒して、魔力を温存しておけという指示だった。
ただし最も注意をしなければいけないのは空を飛んでくるやつらで、これは優先的に打ち落としていけという事だった。
日がだいぶ高くなった頃、地平線の彼方からついにやってきた黒い波。まだ距離が有るのではっきりはわからないが、何千ではきかない数の魔物達がついにこのモルテナの街に押し寄せてきたのだった。
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現在同時連載中の【異世界にいったら、能力を1000分の1にされました ~『破王』蹂躙の章~』(n2600dj)】もぜひ読んでみてください。




